植物生理学I 第10回講義

形成層と植物の進化

第10回の講義では、エンボリズムの話をしたのちに、形成層の意義を中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:通導部の分布が植物種によって異なるという話があった。大きく分けて樹木の中心部まで通導部があるものと、そうでないものの2グループに対分できると考えられるが、何か共通点はあるのだろうか。中心部まで通導部を持っている種には、イチジク属とフタバガキ属が挙げられていたが、これらの属は熱帯地域に分布しているという共通点が見つけられた。熱帯地域は当然ながら暑く雨も多いので、水を早く多く吸収し、光合成を通してエネルギー産生を行っていくことが成長する上で重要である。加えて、寒冷地域と異なってエンボリズムが起こらないので、道管を太くすることや増やしていくことにデメリットがない。また、高温多湿という地域上、熱帯地域は病原菌やウイルスが多く存在すると考えられるので、それらから守るために中心部まで生細胞を多くしておく必要がある。このような理由から、熱帯地域に分布する植物は、中心部まで通導部が存在することが多いと考えた。反対に、中心部まで通導部を持たない属種に、ポプラ属、コナラ属、オリーブ属などが挙げられていたが、これらの種は温帯または冷帯に分布している植物という共通点があった。これは、熱帯地域と比べて病原体が少ない地域であるため、中心部まで生細胞を持って侵入に備えるよりも、死細胞にしてエネルギーを節約する方がプラスにはたらくためだと考えられる。このような理由から、通導部の分布はその種の主な生息範囲によって決められやすく、それぞれの利点に応じて変化させていると考えた。

Q:授業中に出ていたスライドの中で、樹木の種類ごとに通導部分の分布を比較する資料があり、植物種によって中心部の死細胞がどのような割合で分布するかを比較したところ、通常は中心部は死細胞のみで成るものが多く、外側に通導部が存在することが分かる。特にコナラ属やポプラ属ではその傾向が強く全体的にほとんど生きた細胞が存在しないということが分かるが、フタバガキ属やイチジク属では中心部の生きた細胞が他の種よりも多いことが読み取れる。中心部の細胞がどの程度通導部となるか、周囲の環境について考えたところ、最も中心部の通導部分の割合が多いフタバガキは熱帯~亜熱帯に生息し、コナラやポプラは北米やヨーロッパの照葉樹林帯などより気温の低い地域に由来することが分かった。中心部が死細胞になると、非同化器官では強度のみが必要になるため死細胞になることで呼吸に使われるエネルギーが節約できるというメリットがある一方、中心部が露出した時に菌類に侵入されてしまうというデメリットがある。このことから、フタバガキの属する熱帯で、落雷の可能性が高い積乱雲の発生確率が高かったり、その生態系の特徴により侵入される危険性の高い菌類に対応したり、中心部でのエネルギーの節約は、寒冷な気候の場合よりも控えることができる状況にあるため、中心部でも通導部分を大きくし、より多くの水を吸い上げているのではないかと考える。また、この表にある種以外に、通導部分が中心部の通導部分の割合が高くなる要因として、動物の捕食などによって外側が損傷する可能性が高い種の樹木の場合、他の種よりも中心部の通導部分の割合を高くする必要があるのではないかと考えた。

A:2つ、ほぼ同じ論理構成のレポートがありました。ここは、何も思わず素通りする人が多いのですが、きちんと目を配って考えているのは素晴らしいと思います。通導部の分布を菌類の侵入とむずびつけるアイデアも面白いと思います。全体としては似ていますが、それぞれ独自に考えた部分もあり、よいのではないかと思います。


Q:単子葉植物は一度形成層を獲得してから,喪失して形成層を持たずに繁栄した群であることを学んだ。形成層を獲得することで植物の巨大化が可能になるので光合成の効率面において有利になる。光合成の有利につながる形成層を捨てた単子葉植物について考察する。ほとんどの被子植物が形成層を持ち巨大化が可能になり,背を高くしているので光合成を巡った競争が激しくなることが予想される。その中で単子葉植物は,巨大化して光合成を競うのではなく,戦略的に形成層を喪失して小さくたくさん生殖することによる繁殖を選んだと考えられる。他に形成層を持っていない植物としてシダ植物がある。シダ植物も何度か形成層を獲得しているが,巨大化したシダ植物は結果的にほとんどが絶滅している。それに対して小さく背の低く繁殖が早い戦略をとっていると絶滅の危機の影響を受けにくい。小さい分及ばされる損害が少なくなり,また繁殖が早いと一度無になった生態系で環境を即座に占めることもできると考えられる。よって光合成に有利である形成層を喪失した単子葉植物も繁栄していると推察できる。

A:これもきちんと考えていてよいと思います。ただ、「小さく背の低く繁殖が早い戦略をとっていると絶滅の危機の影響を受けにくい」という部分の論理は自明ではないように思いますので、もうすこし補足の説明があった方がよいかもしれません。


Q:今回の授業ではエンボリズムについて学んだ。導管径が大きいと冬季の時に導管液の凍結によって気泡が出現することでエンボリズムが起きやすくなるという。よって、冷温帯では導管径を小さくする種、針葉樹や落葉樹が多いという。しかし、導管径が大きい方がポアズイユの法則より通導性が上昇し、生産性も上昇する。ここで、冷温帯でもエンボリズムが起こらず、通導性が上昇し、生産性も上昇する構造はないか考える。まず、温度が低くなった時だけ導管周辺の組織を膨張させ導管を窄める構造である。温度が低下することで植物ホルモンが反応し、動物のようにNaチャネルのような温度依存性イオンチャネルが開く。すると、イオンが細胞内に入ることで、細胞内の浸透圧が高くなることで水が流入する。周辺の組織が膨張することで導管を窄めることができる。よって、夏は通導性が上昇し、生産性も上昇することができると考えられる。次に、導管を1本ではなく2本にする構造である。2本あれば、通導性が倍になり、生産性も上昇すると考えられる。しかし、1本の導管径は小さいのでエンボリズムが起こりにくいと考えられる。以上が私の考えた冷温帯でもエンボリズムが起こらず、通導性が上昇し、生産性も上昇する構造である。

A:問題を明確に設定し、それに対して2つの答えを用意していて評価できます。ただし、2つ目の答えは、レポートでも触れられているハーゲン・ポアズイユの式を考えると、細い導管を数多く持っても流量を大きくすることはできない、ということを講義の中で解説したと思います。


Q:植物は形成層により幹の横方向への肥大化を可能にしていることを学んだ。形成層の獲得は過去に二回あるとされているが、逆に形成層を喪失した植物もいる。それが単子葉類である。形成層の獲得は植物の高さに対する挑戦であり、形成層を喪失した単子葉類は高さを諦めたといっても過言ではない。しかし、単子葉類に分類される植物で高さのある植物としてタケが思いついた。なぜタケは、形成層を持たないのにも関わらず高さを出すことができるのか。タケの直径は一般に8~20センチ程度であり、高さは10~20メートルにもなる。タケの断面をみると空洞になっていて木質部に維管束が並ぶ。維管束鞘には、「鉄鋼と同程度の剛性を持つ丈夫な繊維がたくさん埋め込まれている(*1)」という。この繊維がタケの強度を増しているのだろう。また、木質部における「繊維の分布は均一ではなく、内側から外側にかけて徐々に大きくなっている(*1)」という記述があった。これは力学的な強度に関係していると考えられ、剛性を持つ繊維質によって特に強風が吹いたときに折れてしまわないように剛性が最も高くなるような繊維配置をしていると考えた。円筒を曲げたときの円筒断面に働く力は内側から外側に向かって大きくなるため、強度も内側から外側に向かって強くする必要があるからだ。また、空洞であると軽く自重により折れることを防ぐことができると考える。空洞のところどころに硬い節をつくり強度を増すことによって低コストで最小材料・最大強度を実現しているといえるだろう。このように、タケは形成層を持たずとも独自の繊維によって強度を増し高さを出すことを可能にしていると考えられる。
*1 北大、竹の軽さと丈夫さの理由を調査-理想的な繊維分布と判明,マイナビニュースhttps://news.mynavi.jp/techplus/article/20170510-a153/ (閲覧:2022.12.17)

A:これは、一般的なレポートとして悪いわけではないのですが、この講義のレポートとしては、自分の論理を展開するというよりは、参照したWEBページの論理に引っ張られている点が残念です。もう少し、独自性のある部分を増やせるとよいでしょう。


Q:今回の講義で紹介のあった単子葉植物における形成層の喪失はなぜ起こったのかに関して考察する。前述したように、ひいては講義内において紹介のあったように形成層を持つ植物は樹木のように巨大化していると言う特質を持っている。一方で、形成層を持ちなお草本でいる植物もあるが、形成層を持っていない植物(シダ植物、単子葉植物)は総じて草本である。形成層と言う器官は、細胞分裂をする器官であり、幹の肥大化に関与している。つまり、植物が巨大化する際には、言い換えれば高い丈でいるためには植物体を支える幹を太くする必要がある。そのために形成層の獲得が起きたと言えるが、なぜ形成層の喪失が起きたのかに関しては、高い樹木が優占する中で、新たなニッチに入り込もうとした際に、優占している高い樹木と同じように競争するよりも、林床における光がさす環境に低い丈を伸ばし、光合成する方を選択した際に当然植物体を支える幹(茎)を太くする必要がないため、そのような器官を喪失した種群が生じたと考えるのが妥当である。この際、講義資料にあった系統樹に関して、単子葉植物とモクレン・コショウの祖先と真正双子葉植物が分岐しており、単子葉植物とモクレン・コショウの祖先からそれぞれが分岐しているが、この際三者(単子葉植物、モクレン・コショウ、真正双子葉植物)のうち単子葉植物のみ形成層を保持していない。よって、シダ植物と被子・裸子植物の共通祖先が分岐した後、被子・裸子植物で草本にニッチを獲得していった種のうち(これは前述した三者のうちの一部に限った話ではない。)で、より後に分化した種においてこのような喪失が起きたと言える。

A:よく考えていると思います。ただし、周囲を見回したときに、単子葉植物がどのような場所に多いか考えたときに、必ずしも林床には多くないように思います。ササ類はまあ見られますが。そのあたり、もう一つ別の要因を考えてもよいのかもしれません。


Q:今回の講義では形成層について紹介されたので、その形成層について考える。一般的に双子葉植物は形成層をもち、単子葉植物は形成層をもたない。しかし、双子葉植物の一部が単子葉植物に進化したので、進化の過程で形成層ができたのではないと考えられる。よってここでは、なぜ双子葉植物は形成層をもち、単子葉植物は形成層をもたないのかについて考察する。原始双子葉植物が誕生した頃植物は光合成をたくさんするために他の植物よりも背丈を高くして、多くの日光を浴びようと競争し合っていたと考えられる。ここで背丈を高くするためには茎を太くする必要があり、そのためには形成層を発達させる必要がある。よってこのようにして双子葉植物は形成層を発達させたと考えられる。しかし、背丈を高くするためには長い時間とコストがかかるというマイナス点もある。ここで、双子葉植物の一部に背丈競争を放棄して、崖崩れや山火事などの後にできる更地にすぐに進出できるように機動性を重視したものが現れたと考えられ、これが単子葉植物の始まりであると考えられる。崖崩れや山火事などの後にできる更地では他の背丈の高い植物が生えていないので、多くの日光を得るために背丈を高くする必要がなく、そのため茎を太くする形成層も必要がなくなる。よって、このようにして単子葉植物は形成層を喪失させたと考えられる。

A:単子葉植物の出現を環境の撹乱と結び付ける考え方は面白いと思います。きちんとした論理構成になっていて評価できます。


Q:今回の授業では、形成層による植物の茎の成長などについて学んだ。その中でも私が疑問に思ったことは、なぜ単子葉類が形成層を失ってシダ植物への先祖返り的な進化をしたのかということである。その理由について考察をしたいと思う。まず、形成層を失った進化が起きたということは、少なくとも単子葉類が生息する環境においては形成層を持つことによる何かしらのデメリットがあり、逆に形成層がないことにも何かしらのメリットがあると考えることができる。今回はイネ目について考察する。イネ目の植物は大型の木本が侵入していない、またはできないような環境で草原を形成する植物の一大グループとなっている。例としてはサバンナなどが挙げられる。このような環境では乾季と雨季が交互にやってきて、乾季の時期はその間も生命を維持しなければならない木本にとっては厳しい環境となる。また、サバンナなどでは自然発火による火災が起きることもあり、寿命が長い木本だとそれも生き延びねばならない。しかし、1年草の多いイネ目の植物では乾季には枯れてしまい、環境ストレスに対して非常に強い種子としてやり過ごせば、次の年も子孫を残すことができ、このような攪乱の強い環境ではこのような特徴を持つイネ目の植物が有利となる。このように攪乱に強くなる上で、あえて世代交代のサイクルを短くする進化は起こりえると考えられるが、そうなると幹を太くする必要がなくなる。幹を太くする目的は物理的強度を保つためであり、物理的強度が必要なくらい幹を伸ばす必要がある環境というのはライバルとなる植物と光をめぐる競争をする環境である。そもそもライバルも生息できない厳しい環境であり、自身も1年で世代交代してしまった方が有利という状況なら幹を太くする形成層は不用となり、形成層という器官の維持にコストがかかるとしたら退化してもおかしくはない。

A:単子葉のメリットを論じたレポートはたくさんありましたが、単子葉の生育する環境を具体的に考えて論じているという意味では、このレポートが一番しっかりしていました。撹乱の概念や、一年草の利点をきちんと考慮に入れていて、素晴らしいと思います。


Q:本講義を受けて、単子葉類は形成層を喪失しており、樹木ほど大きく成長しないことを学んだ。しかし、単子葉類は絶滅せず、広範囲に分布していることから、形成層を喪失することにも、何らかの利点があると推測される。ここでは、タケとツユクサに着目して、考察していく。タケは比較的温暖で、湿潤な地域に、広く分布しており、成長速度が速いことで知られている。これはタケの成長点が先端だけでなく、節にも存在することが要因である。双子葉類のように、形成層を獲得することで、幹は太くなり、葉も上方に形成することができるため、外部からの刺激を防ぎ易くなる。しかし、それらを形成するために、一定のコストがかかることから、単子葉類よりも、成長速度が遅くなることが推測される。つまり、タケは形成層を喪失し、新たに節の成長点を獲得することで、成長速度という優位性を得たと考えられる。一方で、ツユクサは東南アジアに広く分布しており、繁殖力が非常に強く、再生能力が高いことで知られている。(文献2)ツユクサもタケと同様に、温暖な地域に分布するため、他の植物との生存競争が激しいことが推測される。これを勝ち抜くために、ツユクサは形成層の代替として、再生能力という優位性を得たと考えられる。したがって、いずれの植物においても、競争戦略の中で、形成層を喪失し、新たな優位性を獲得していると推察した。
【参考文献】1)"驚くべき竹の成長速度のヒミツ 1日でどれくらい伸びるのか",生活110番,2021年4月30日,https://www.seikatsu110.jp/library/garden/gd_felling/16607/,2022年12月16日、2)”ツユクサは除草剤で駆除できる! 効果的な使い方と予防方法を解説”,生活110番,2021年4月30日,https://www.seikatsu110.jp/library/garden/gd_mowing/160208/,2022年12月16日

A:これもよく考えていてよいと思います。さらにもう一歩求めるとすれば、普遍性でしょうか。例を2つ挙げて論じていますが、それぞれを独自に議論する限り個別論にとどまります。このテーマで可能かどうかはわかりませんが、2つの例の共通点を論じることができれば、特定の種の話ではなく、普遍的な性質を議論することができます。


Q:今回の授業では、形成層を持つ高木シダについて触れていた。石炭紀には高木シダ植物が繁栄し、大森林を形成していたが、なぜ高木シダ植物は淘汰されてしまったのだろうか。高木であるメリットとして、日光をより浴びやすくなる、構造的な強度がある、光合成器官である葉などを昆虫や哺乳類に食べられにくいといったものがあるが、これらの利点は陸上生物が現れた初期ではシダ植物が繁栄するのに十分な要因であったと考えられるだろう。しかし、時間の経過とともにシダ植物が膨大な量の光合成をおこなうことで、地球の酸素濃度が30%程まで上昇し、陸上の昆虫や哺乳類は巨大化し、飛行能力を獲得した種や、高木の主な構成要素であるリグニンを分解することが出来る生物種が現れたことによって、原始的な高木はそれらの外的ストレスに対処することが出来ず、淘汰されたのではないかと考えられる。また、当時の大陸移動等による環境の変化(寒冷化)も要因に挙げられる。

A:これは、明確に問題を設定して、それに答えようとしているところは評価できます。ただ、その答えの根拠があまり示されていないので、根拠に基づいた仮説というよりは、思いついた予想という雰囲気になっています。ここで求められているのはそれほどしっかりとした根拠ではないので、そのあたり、うまく論理を展開すると、より科学的な雰囲気のレポートに変えることは難しくないように思います。