植物生理学I 第7回講義

葉の斑入りの意義

第7回の講義では、葉が斑入りになる例とその意義を中心に講義を進め、最後に植物以外で光合成をする例として、ウミウシの盗葉緑体などの話をしました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:講義の中で出てきた話の中で、ユキノシタの葉の白い部分の表皮細胞と葉肉細胞の間には空気の層が入っていて、光が反射されてしまうため高いコストを払ってでもその部分に葉緑体を作る理由があまりわかっていないという話があった。審美的な人為選択は合理的な理由だが、野生のユキノシタの個体数が少ないとしても、なぜすぐに淘汰されないのか疑問に思い、別の理由も考えた。ユキノシタの葉の白い部分の存在箇所は、よく見ると維管束に沿うようにして広がっている。発生上都合が良い可能性もあるが、維管束のある部分に沿っているのは重要な点であるのではないかと考えた。維管束は物質の輸送を担う構造であり、植物体全体に影響を及ぼすため葉の中でも特に損傷することを避けたい部位である。空気の層は表皮の層がはがれるようにすることによって維管束や葉緑体の入った葉肉細胞を保護する役割があるのではないかと考えた。ユキノシタは湿った岩場や沢のへりなどに自生する植物であり、動物による被食というよりは水流などによる葉の損傷が多くあるために剥がれやすい構造を作っておくという戦略ができたと考える。また、ユキノシタは葉の裏など全体的に赤紫色を帯びた色をしている。もしもユキノシタのアントシアニンがサングラス効果を目的としているならば、空気の層によって光を適度に遮断し、アントシアニンを合成するコストを節約しているという可能性が考えられる。ただし、日光が弱く当たるはずの葉の裏の方にコストが割かれるアントシアニンが多く合成されるとなるとこの説は矛盾が生じるかもしれない。ここで合成されているアントシアニンは、湿った生息環境などへのストレス応答として合成されており、通常の植物よりも多くのアントシアニンを必要としてしまうため代わりに空気層によるサングラス効果を得ていると考えることもできる。このような点と合わせ、捕食者に対する虫食いの葉やカビが生えた葉などに擬態している、などの条件が合わされば、人為的な選択を経ずに空気層を作るという形質を獲得する可能性もあるのではないかと考えた。

A:よく考えていることがわかってよいと思います。科学的な文章として考えた場合は、もうすこし全体としての論理の流れを意識するとよいかもしれません。個々の文の間ではきちんと論理がつながっている一方で、文章全体として何を結論しようとしているのかがやや読み取りにくい形になっているように思います。もちろん、エッセイとして考えた場合にはこれで十分です。


Q:今回の講義で植物の中には虫食いの葉に擬態して養分の少ない個体であると虫に思わせることで作った葉緑体を虫から守る種がいるということが分かった。あえて葉緑体を作らないことでコストをかけずに済むメリットも挙げられる。自然界で自分自身を他種に強いように見せかける種は多くいるがユキノシタのように弱く見せる種がいるということに非常に興味を覚えた。一見するとメリットの方が大きい斑入りの葉であるが本当にメリットしかなければユキノシタ以外の多くの種の葉で同じようなことが起きるはずである。しかし実際は斑入りの葉を持つ種がこの世に存在する植物の大多数を占めていないことから班入りの葉を持つことでのデメリットもあると考えることが妥当である。先ず上げあれるのは斑入りによる光合成効率の低下である。植物で行われている光合成の多くは自身の葉で行われている。光合成を行う葉に斑を入れると光合成量が抑えられてしまうが葉を食べられてしまっては意味がない。もう一つ考えられるのはそもそも葉を食べる虫の種が少ないというのも考えられる。斑入りは虫に葉を食べられないようにすることがメインであるためそもそもその機会がなければわざわざ葉に斑を入れるメリットがない。「 植物は多くの植食性の動物から食害を受けます。年間の光合成産物のうち、平均で10%以上が植食性動物によって食べられているという報告があります」(つくばサイエンスニュース)この報告がどの種の植物であるかは分からないし種によって差があると思うが、この報告の通りに10%を植食性動物によって食べられてしまうとして植物にとってこの10%という数字があまり大きなダメージではないとも考えることができる。
つくばサイエンスニュース https://www.tsukuba-sci.com/?column02、更新日2020/08/01閲覧日2022/11/18

A:このようにメリットとデメリットを両面から考えることは重要です。ただし、食痕の擬態の話とユキノシタの話は別の話ですので。


Q:今回の授業では「ユキノシタ Saxifraga stolonifera」という植物を取り挙げた。この植物の葉は葉脈に沿って白色模様が見られ、白色であるのに葉緑体があることを知った。葉緑体にはコストがあるのにも関わらずあまり使われていないというのは植物にとって大きなデメリットとなる。なぜ白い部分にも葉緑体が存在し続けているのか、現在も理由が分かっていないというお話だったが、この謎を自分なりに考えてみた。以下ではユキノシタの生育環境から考察していく。ユキノシタは中国、日本、韓国に分布する常緑性多年草であり、半日蔭のやや湿り気のある土壌を好み、耐寒性が高く、病害虫の発生はほとんどない(参考1)。半日蔭という特徴から、この植物は他の植物と比較して、葉に対する日光照射量が少なくなるため、光合成を効率的に行うことが出来ない。必然的に、葉には出来るだけ多くの葉緑体が必要だ。しかし、白い部分には葉緑体が存在するのにそれが使われていない。この事実から私は「光合成が出来ないことよりも、更にリスクとなる要因があるため敢えて白くしているのではないか」と考える。そこで注目したのが「病害虫の発生がほとんどない」という特徴である。その点から私は2つの説を唱えたい。
 ひとつ目は「空気層による葉内部へのカビの浸食予防」の点である。病害虫の発生には、一般的に病原体、温度・湿度が影響し、特に害虫の発生は温度が大きく関係している(参考2)。病原体の中でもカビは、多湿環境で容易に発生する。ユキノシタはやや湿った土を好むとあった。それは湿度が高くなりやすい環境であると言い換えることが出来る。しかしこの植物はカビによるリスクは少ない。これは表皮と葉肉の間に存在する空気層が関係しているのではないかと考える。この空気層で光が全反射することで私たちの目には白く見える。空気層が存在することでカビに必要な水分が一度遮断され、葉の内部へのカビの浸食を防ぐ効果があるのかもしれないと考察する。この説を調べるには、人工的に多湿環境を作り、そこにユキノシタと比較対象としてシロイヌナズナなどの他植物を置き、カビの発生および浸食具合を観察する実験を行うと分かるのではないかと考える。
 ふたつ目は、「紫外線反射による害虫予防」の点である。昆虫は紫外線を目で見るでき、研究の結果では330~370 nmの紫外領域の波長が最も誘引性が高いことが明らかとなっている(参考3)。そして害虫は葉に吸収された紫外線を認識して誘引される。しかし、紫外線は白色においては反射される性質を持つ(参考4)。したがって、ユキノシタの葉が白いのは害虫をおびき寄せる紫外線を反射させ、寄せ付けない効果があるのではないかと考察する。この説を調べるためには、ユキノシタとシロイヌナズナなどの他植物を用意し、ブラックライトなどを用いて紫外線をそれぞれの葉に照射させ、害虫の誘引状況を観察する実験を行うと分かるのではないかと考える。
参考文献
1) ガーデニング図鑑, “ユキノシタ”, 参照日:2022/11/16, https://shiny-garden.com/post-22829/ .
2) 株式会社 サカタのタネ, “【第1回】病害虫ってなんだろう?”, 園芸通信,更新日:2021/12/21, 参照日:2022/11/16, https://sakata-tsushin.com/yomimono/rensai/standard/howto_mochida_chemicals/20211221_008405.html .
3) 本多 健一郎・霜田 政美 他著, “光を利用した害虫防除のための手引き”, 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター, 2014年7月, pp.12.
4) Techno Synergy, “構造色とは:1. 物質固有の色”, 参照日:2022/11/17, http://www.techno-synergy.co.jp/opt_lectures/about_SColor01.html .

A:これもよく考えていることはわかります。一方で、白い部分にカビや害虫からの防御機能があるとしても、光合成をするためには緑色の部分が必要になりますから、植物体全体としては白い部分を余計に持つメリットがないように思いました。そのあたりの説明が必要かもしれません。


Q:今回の講義では、若葉が目にまぶしい理由として、クチクラが発達していない柔らかい若葉は生き物に食べられることが多いため、コストのかかる葉緑体をたくさん持っているはリスクがあるからだということを学んだ。しかし、それであればクチクラが完全に発達するまでは葉緑体を一切持たない方がよりリスクがないように思われる。また、葉緑体を持たないことによって葉が緑色でなくなれば、葉の緑色を視覚的に探して葉を食べる生き物から食べられるリスクも減る。しかし、リスクを冒してでも若葉の時点で葉緑体が少量存在しているのはなぜだろうか。私は若葉の生えた場所が効率的に光合成をすることが出来る場所であるか判断するためではないかと考える。若葉に光がほとんど当たらず光合成があまりできない場合は、成長するより落葉した方がコストを抑えることが出来る。逆に若葉に多くの光があたり光合成が盛んに行われる場合は若葉が成長し葉緑体を増やしていく。このように若葉に存在する葉緑体は光合成量を調べるために使われ、多くの若葉を出すことによってより効率よく光合成が行われる場所の葉だけを選択的に残していくことが出来るのではないだろうか。

A:これは面白い点に着目しましたね。確かに、中途半端に葉緑体を持つことの意義ははっきりしませんし、葉緑体を光環境センサーとして使うというアイデアも、素晴らしいと思います。


Q:本講義において、植物のFtsHプロテアーゼに変異が入ると、葉が斑入りで形成されることを学んだ。このとき、斑の模様は葉によって異なるが、それはどのように決定されるのか。ここでは、斑が葉縁に沿って存在する覆輪 および 葉全体に散在する砂子斑について考察する。覆輪および砂子斑は斑が存在することで、光合成可能な葉面積は小さくなるが、それを除けば他の葉と同様に機能すると考えられる。しかし、斑が葉縁 または 葉全体に存在するかで、光を受けられる領域に差が生じる。覆輪は斑が葉縁に入っており、葉緑体が中央にしか存在しないため、葉が重なるように成長すると、光合成量が減少していくことが示唆される。一方で、砂子斑は斑が葉全体に入ることで、葉緑体も葉全体に存在するため、葉が重なるように成長しても、覆輪と比べると、光合成量は減少しにくい。つまり、覆輪は他種と光を争いにくい環境 あるいは そもそも光が受け取りづらい環境に生息し、砂子斑は他種と光を争いやすい環境 あるいは 光が受け取りやすい環境に生息すると考えられる。したがって、斑入りの植物が他種との光環境を争う中で、どのように競争戦略を立てるかによって、斑の模様を形成するのではないかと推察した。
 さらなる要因として、斑入りの植物が落葉するかどうかが挙げられる。植物が落葉する仮定すると、蛋白質が豊富な葉緑体は落葉前に回収されるはずである。このとき、植物の葉縁に斑が存在していれば、植物は葉緑体を効率的に回収することができる。これを検証するためには、斑入りの植物を覆輪とそれ以外に分け、落葉種か否かの統計を取り、これらの有意差を示さなければならない。それらを踏まえると、斑の模様は人為的な選択を除けば、植生 および 競争戦略の中で決定されるのではないかと推察した。
【参考文献】”斑入りの葉の種類と特徴”,園芸用語,2019年3月31日,https://beginners.garden/2019/03/31/%e6%96%91%e5%85%a5%e3%82%8a%e8%91%89%e3%81%ae%e7%a8%ae%e9%a1%9e%e3%81%a8%e7%89%b9%e5%be%b4/,2022年11月18日

A:被陰と転流という異なる側面から2種類の斑入りパターンのメリットとデメリットを論じていてよいと思います。物事を複数の視点から見ることは、科学だけでなく様々な学問分野にとって重要でしょう。


Q:今回は葉の色や模様の意義について学んだ。その中で、白い斑入りの葉が虫食いの葉に擬態することで身を守っているという話があった。そこで、元の論文を調べてみたところ、3分の1が斑入りの葉になっていて、それ以外が緑色の葉らしい。捕食されにくいならば、それは有利な形質なので、集団中に広がっていくはずだが、どうもそうではないらしい。では、なぜこの植物の葉はこの斑入りの割合で落ち着いているのだろうか。私は、この現象は斑入りの葉の有利さ具合が関わっているのではないかと考えた。まず、授業でも習ったように斑入りの部分は葉緑体がないことによって、光合成が減ることが関係しているのではないかと考えた。斑入りの葉はそうでない葉に比べて光合成量が減ってしまうのは言うまでもないが、それによって斑入りの葉の有利さがそうではない葉と比べて集団に急速に広がるほど大きいものになっていないという可能性がある。虫に食われなければ、斑入りでない葉の方がエネルギーを多く得られるので、有利になるからだ。次に考えられる可能性としては、擬態は完璧なものではないということだ。論文のデータによると、無地の葉は斑入りの葉に比べて4~12倍ガの幼虫に侵入されやすいようだ。しかし、斑入りの葉は全く侵入されないわけではなく、ある程度は侵入されてしまうらしい。このことから、擬態が絶対的ではないことが示唆され、これも斑入りの葉の有利さを決める要因となると考えられる。
 最後に私が考えたのが、負の頻度依存選択による斑入りの葉の割合の維持である。これは、集団中に多型が維持される仕組みの一つである。先ほども述べたように、斑入りの葉は捕食されにくいという点では有利である。しかし、仮に葉の集団中に斑入りの葉ばかりが集団中に広がってしまうと、捕食者側であるガはそのうち斑入りの葉にも関係なく卵を産み付けるようになると考えられる。これは何も全部の葉が斑入りになることで起きることではなく、斑入りの葉が広がるとそれだけ斑入りの葉の枚数が増えるので、産卵される可能性も必然的に上がり、斑入りの有利さが下がってしまう。さらに、これが起きると斑入りの葉でも関係なく産卵するガが有利になるので、その行動を取るガが斑入りの葉が増えた分だけ集団中に広まることになる。すると、斑入りの葉は数を減らし、それに伴って斑入りの葉にも産卵するガは虫食いの葉にも産卵する確率が上がってしまうので、不利になり、数を減らす。そして、また斑入りの葉が捕食者に食べられにくくなることで増え…というように、葉とガは平衡状態を保っていると考えられる。つまり、斑入りの葉が常に少数派になるような圧力がかかっているということである。これら3つの要因を総合した有利さによって、この斑入りの葉の割合が決まっていると考えられる。
参考文献 Soltau, U ; Dotterl, S ; Liede-Schumann, S , "Leaf variegation in Caladium steudneriifolium (Araceae): a case of mimicry?", Evolutionary Ecology, 2009/07/01, 23巻4号, P503-512

A:よく考えていて素晴らしいと思います。どのような素晴らしい戦略であっても、その実行にある程度のコストがかかる場合には、その戦略が100%普及することはなくて、ある均衡点にたどり着くはずであるという考え方は重要です。


Q:今回の講義で自分が興味を持ったことは、ユキノシタの斑入りについてである。通常斑入りは葉緑体が存在しないことによって起こるが、ユキノシタの斑入りは表皮と柵状組織の間に空気層ができ、その空気層が光を反射することで白くなっている。よって、白い部分にも葉緑体はあるが、葉緑体を作るにはものすごいコストがかかるので、そのコストを払ってまでこの斑入りの部分があるメリットについて考察する。講義内では、「葉を食べる昆虫に対して警告を発する」「卵を産みつけられないように、虫に食べられた葉の擬態をしている」「昔の人が緑と白の葉を珍しいと思い、庭で育てる人が多かったなどの人為的な選択」などの考察があげられたが、自分は斑の部分にある葉緑体はもしものときのためのストックではないかと考えた。植物にとって葉緑体は欠くことのできない細胞小器官で、もし葉緑体がはたらかなくなってしまうと、光合成をすることができなくなり生育することができない。したがって虫害などの何らかの要因ではたらいていた葉緑体が損傷したとき、斑の部分にあるはたらいていなかった葉緑体が新たに光合成を始めるのではないかと考えた。しかしそのためには空気層を何らかの機構で除去しなければならないことや、新しい葉や新しい葉緑体を作るよりも空気層を除去する方がスピード的に早く、コストも小さくなければいけない。この仮説を確かめるためには、次のような実験が考えられる。成長した葉の斑の部分を残し、緑色の部分を切り取る。その後、残された斑の部分が緑色に変化し、光合成を始めて、植物体が生育していくことができるかどうか時間をおいて観察する。この実験を行い、切られた部分の形を残したまま植物が生育していくことができれば仮説は正しかったことになる。

A:葉を部分的に切り取るという最後の実験系はやや乱暴な気がしますが、葉緑体がストックとして働くというアイデアは面白いと思います。


Q:今回の講義でプロテアーゼは光合成反応において中心にあるB1タンパク質を分解する、つまり光合成を壊す。また、FtsHプロテアーゼに変異が入ると葉緑体が分解してしまう。しかし、葉全体でプロテアーゼの変異が起こると斑入りになるという話があった。斑入りになるということは、葉緑体が欠損した部分としていない部分があるということであり、FtsHプロテアーゼの変異が必ず葉緑体の分解を引き起こすわけではないことになる。では、なぜ葉の細胞全てでFtsHプロテアーゼの変異が引き起こされているのにも関わらず、斑入りになってしまうのだろうか。私は葉緑体の分解を抑制する遺伝子が葉に含まれていると考える。また、その遺伝子はある一定量の葉緑体を保持しようとする機能を持つと考える。葉緑体を失うということは生命活動の危機につながることであるため、外部的要因(ウイルスなど)による葉緑体の分解を制限する遺伝子があってもおかしくない。しかし、前回の講義で、ある植物は葉緑体を分解して、再利用するという話があった。つまり、完全に葉緑体の分解を制限してしまうといざ葉緑体を分解し、落葉させ、再利用する際の弊害になりかねない。よって、生命活動の維持に必要な葉緑体量を保持しつつ、自主的に葉緑体を分解する際に弊害になりにくいような機能を持つのではないだろうか。しかし、これを証明するためにはこの遺伝子を見つけた上で、同じようにFtsHプロテアーゼに変異を入れた状態を作る。その状態の植物の分解抑制に働くと思われる遺伝子に変異を入れたときに、葉全体で葉緑体の分解が起これば、その遺伝子が葉緑体の分解の抑制に働くことが証明できると考えられる。

A:考え方は面白くてよいと思います。ただ、「葉緑体の分解を抑制する遺伝子」があったとしても、その遺伝子が葉全体で発現しているのであれば、なぜ一部だけが斑入りになっているのかはやはりわからないように思います。そのあたりの論理をもう少し補足する必要があると感じました。


Q:授業で扱われたスライドに「若葉はなぜ目にまぶしいか?」という内容のものがあった。授業ではこの問いの大きな答えとして「若葉には葉緑体が少なくクロロフィルが少ないため」という説明ができることがわかった。しかし、「目に眩しい」というイメージと「緑が薄い」というイメージは若干異なるように感じる。そして、若葉には緑が薄い要素とは別に目に眩しい要素が存在するのではないかと考えた。目に眩しいと聞いて最初に思い浮かぶのは光の反射のようなものである。ここで最初に思い浮かぶ要素は葉の表面のクチクラ層である。若葉が目に眩しい理由がクチクラ層によるものだと仮定した時、それはどのようなメカニズムなのかを考察した。まず、クチクラ層が厚い場合が一つ目の可能性として挙げられる。しかし成長過程の前段階である若葉の方がクチクラ層が厚いとすると、葉は成長につれてクチクラ層を薄くしていくことになる。これは可能性としては考えにくい。次に考えたのは、葉の成長過程においてクチクラ層の形成は葉肉細胞の発達よりも早いという可能性である。経験則として若い葉は成長しきっている葉よりも薄い気がする。若葉の葉身の断面図の厚みが古い葉と異なるということは十分に考えられるのではないだろうか。その場合、もともと1層しかなく厚みも少ないクチクラ層の厚みには大きな変化がなく、葉肉細胞が未発達であることで、2つ目の可能性が若葉が目に眩しい説明として妥当なものになりそうである。ここで、この可能性が正しいか考察するために一旦授業に立ちかえる。若葉が目に眩しいのはクロロフィルが少ないためであり、クロロフィルが少ないのは葉が柔らかく食害に逢いやすいためであった。つまり古い葉から若葉にクロロフィルを送るのは、「新しい部屋に鍵がかかることを確認した後」ということになる。クチクラ層には表面のコーティングの意味があり「部屋の鍵」として働く要素がある。したがって若葉ではクチクラ層が発達したのちに葉緑体が増え、その後葉肉細胞が発達すると言える。また前期の生物学基礎実験で行った陰葉と陽葉での差に代表されるように、光合成が多い葉の方が厚くなることがわかっている。二酸化炭素を取り込むため葉緑体は細胞間隙に接しないといけないので、葉緑体が増えた時葉の厚みも大きくなると言える。

A:複数の可能性を考えたうえで、それぞれについてその妥当性をきちんと評価していて素晴らしいと思います。また、講義での「若葉には葉緑体が少なくクロロフィルが少ないため」という説明をうのみにしない姿勢も評価できます。


Q:今回の講義で紹介のあった盗葉緑体を行うコノハミドリガイに関して、なぜ自ら食餌行動を取り、栄養を得ることが可能であるにも関わらず、盗葉緑体を行い、葉緑体を一定期間自らの体の中に維持するのかに関して考察する。講義内で述べられていたように、盗葉緑体を行うことで、光合成によって合成された糖を自らの栄養源にすることが可能である。同じように植物を食べる生物は水陸両方に様々いるが、このような盗葉緑体を行う生物は少ない。この理由として考えられるのは、やはり盗葉緑体を行い、一定期間葉緑体を分解せず体内において残留させ、葉緑体内で合成したエネルギーを自らのものにすると言う機構にかかるコストが高いことが考えられる。また、盗葉緑体を行い、葉緑体に自らの体内で光合成を行わせるためには体を透明にして光を透過させる必要がある。この際、前述したように植物食の生物は多いのに対し、盗葉緑体を行う生物は少なく、さらに、ウミウシの仲間は体が光を透過しやすい透明、半透明である種が多いにも関わらずこのような盗葉緑体を行う種はごく限られている。この際、本種が盗葉緑体を行う理由としては、他の海藻食、つまりは同じ餌資源を用いる種同士との競争の際にメリットが得られるからである可能性が示唆される。盗葉緑体を行わない場合には、継続して餌を食べ、栄養を得る必要がある一方で、盗葉緑体を行う場合、餌資源を得ることが困難であった際においても(同じ餌資源を用いる他生物との競合に負けても)一定期間、絶食をして生存可能である。そのため、前述したウミウシ元来の形質である透明、半透明な光を透過する特質がこのような同じ餌資源を用いる他生物との競争の際に、盗葉緑体と言う性質の進化に有利に働き、このような性質を持つ生物生じ、結果として現在も残っている可能性が考えられる。

A:きちんと考えていることがうかがわれてよいと思います。体が透明であるという点に関しては、それを実現することがどの程度難しいのか、という視点も必要かもしれませんね。空気中の生物は、さすがに細胞との屈折率の違いがありますから体を透明にするのは難しいかもしれませんが、水中の生物の場合、案外簡単なのかもしれません。


Q:今回の講義の終盤で、コノハミドリガイというウミウシが行う、食べた餌から自身の体内に葉緑体を取り込み光合成をさせるという盗葉緑体現象のお話を聞いた。調べてみると盗葉緑体現象を行っている生物種はいくつか見つかっているとのことだが、多くの動物種はこのような盗葉緑体現象を行わない。ではなぜ一部の生物のみが盗葉緑体現象を行うのだろうか。盗葉緑体現象によって葉緑体に光合成をさせて栄養が得られるのであれば、生命活動において有利とは言えなくても不利に働くことはないと考えられるためもっと多くの生物に見られて良い現象であると思われるがそうでもない。ではなぜ特定の生物のみが盗葉緑体現象を行うのか。それには生物の住む環境・個体が関係していると考えた。盗葉緑体現象を行う生物に見られる特徴として・緑色の体色・小さい・水生の3点が挙げられる。この中で最も重要なのは小さいことと水生生物であると思う。ウミウシに関しては、その外見を海洋実習で実際に観察した時に思ったのがヒダが多いということである。これは人間にある柔毛が良い例でウミウシの構造は単位面積あたりの表面積が大きくなるような形をしていると言え、単位面積あたりの表面積が大きいほど効率よく葉緑体を活用することができ、ひだ状であることから光も体の奥まで浸透できる。体積が大きい大きな生物だと大きさを維持することにコストがかかるため体積が小さい生物の方が少ない葉緑体でも利益が大きくなると考えられる。また水生生物に等葉緑体現象が多くみられる推測として、陸上と水中における環境の安定さの違いが考えられる。本講義の第5回で水中の方が環境としては安定であると教わったことがヒントであるが水中のメリットは陸上よりも温度の変化が少なく、水が豊富で、浮力が働くことである。葉緑体が産生する栄養はきっと微々たるものであるかもしれないが水中であるかぎり消費する運動エネルギーは少なくてすむと考えられる。ウミウシのようにゆっくり移動する生物なら尚更消費エネルギーは少なくすむため盗葉緑体で1日のエネルギーを賄えるのなら十分有益であると考えた。無駄に動いて捕食者に狙われるよりはこちらの方が良いと思われる。逆に陸上生物は安定して光と空気が得られるものの浮力がない分、大きければ大きいほど消費エネルギーは多くなると考えられ、利益はマイナスになってしまうかもしれない。以上のことから、盗葉緑体現象を行う生物は自らを取り巻く環境と自身の個体条件からより効率的に安全に暮らせるように行なっていると考えられる。逆に等葉緑体現象を行わない葉緑体を食べる生物はそれだけでは補えないほどのエネルギーを消費したり、環境が備わっておらず非効率ということから行わないのではないかと考えられる。

A:これもよく考えていて素晴らしいと思います。特に、機能を考える場合、大きさという要因は見落としがちなのですが、そこに目配りをしている点は高く評価できます。