植物生理学I 第13回講義

植物の花

第13回の講義では、植物の花について、花の構造と機能および花芽分化と開花の違いを中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:今回は花の多様化について学んだ。そこで気になった点は植物の進化についてである。植物の進化と年代についてのグラフから約5000万~1億年前の間で被子植物が大きく繁栄したことがわかる。また他の植物種が進出していなかった領域にも進出を可能にしていた。このことについて植物生理学と進化学の方面から考察する。まず、被子植物が繁栄した時代はちょうど白亜紀にあたる。白亜紀には被子植物以外にも恐竜から鳥の進化が行われたことでも知られている。鳥が幅を利かせたことによって、空中を支配していた昆虫に影響がでる。結果として鳥の捕食圧が昆虫の小型化を促進した。(1)これらのことから、被子植物が白亜紀に繁栄した理由は昆虫の小型化との共進化と考えられる。昆虫が小型化して受粉に適するようになったため、植物は昆虫を惹きつけるための花を獲得した。つまり被子植物の繁栄は共進化によるものだといえる。次に被子植物になったことで進出した環境について考える。やはり被子植物と裸子植物で大きな違いは花弁の有無であり、花弁があることで虫媒などの動物による散布に有利になる。対して裸子植物は基本が風媒花である。これらを比較すると裸子植物は風通しが悪いところでは受粉に不利になる。被子植物は虫媒花となることで風通しの悪い環境に出現を可能にしたと考えられる。また風媒花では大量の花粉が受粉に必要であるが、虫媒花は昆虫を選択することで少ない花粉で済む。花粉の量と花や蜜の間でトレードオフが働いていると予想できる。また昆虫の選択性を高めることで他の植物と競合を避けることができる。急激に被子植物が生息環境を広げられた理由は花の多様化と共進化が原因として考えられる。
参考文献:(1) 生方秀紀. “トンボはなぜ生き残れたか? ~環境変動と適応進化~ “. 000048196.pdf (kushiro.lg.jp), (参照日 2021年7月10日)、(2) 多田多恵子. 植物の生態図鑑. 学研, 2010年. 168p

A:面白い考え方で非常に良いと思います。ここで提案されている仮説が実際に起こったかどうかを明らかにするのは難しいかもしれませんが、研究を進めるにあたっては、作業仮説を立てることは非常に重要です。


Q:講義内で、20℃→10℃に気温が低下した際に、チューリップは背軸側の花弁を成長させ、閉じてしまうということを知った。これは、背軸側の成長量を増やすことで対応していることが実験値で示された。講義内では、温度が低くなれば成長量が落ちるはずだから、難しいのでは?とのことだったが、その仕組みについて考えたいと思う。高校生物の知識を使えば、成長量の調節はオーキシンの分布によって決定される。今回に関しては、背軸側にオーキシンが集中していることが考えられる。また、成長量に関しては、温度が低くなることで確かに小さくなっていると思うが、温度によって向・背軸のオーキシン割合を微調整しているのではないかと考える。例えば、20℃の時の成長量が20、10℃の時の成長量が10と仮定した場合、20℃の時には向軸側:背軸側=12:8、10℃の時には向軸側:背軸側=3:7といった感じで、低い温度では、より重点的にオーキシンを配置して(背軸側にあるオーキシンの割合を高くして)、少ない成長量でも、しっかりと閉じられるシステムを構築しているのではないかと考える。これを確かめるには、茎頂から花弁にわたってオーキシンが通る師管の輸送体が温度ごとにどれくらい発現しているのかを他の植物と比較することで、成長量を調整する仕組みを確かめられるのではないかと考える。

A:ここで提案されている仮説は十分に考え得るものであるとは思いますが、そもそも、低温にした時に成長量を上げるというメカニズムの妥当性自体はどうでしょうか。つまり、温度が中間的な時にはどちらもが成長する状態にしていて、温度が高くなると片側の成長を上げ、低くなるともう片側の成長を下げる方が、同じオーキシンを使う場合でも、使いやすくないでしょうか。


Q:今回の講義の中で、チューリップの花の開閉が周囲の気温の影響を受けている、という話があった。春化といった、季節の温度変化に依存した植物の変化は聞いたことがあったが、1日の中での温度変化に依存したものはよく知らないため、ここではその仕組みについて考えていきたい。花の開閉が周囲の気温を探知する仕組みについて、まず、高等生物の温度感知と同様の仕組みであると仮定する。同様の仕組みというのは、体表に温度を感知する構造物が存在し、なんらかのシグナルが発せられて体内に送られる、というものだ。しかし、これまでの知識から、植物の体内には、冷点や温点といった構造は存在しない。よってこの仮説は正しくないといえる。そこで、私は化学物質と温度の関係性について考えた。ある化学物質AとBが存在するとする。このAと Bは、ある温度C℃になると反応を起こす。その反応により生成された物質が植物の体内に巡らされることで、植物の温度変化による変化が起こるのではないだろうか。以上の考察から、私は、植物は化学反応と温度の仕組みから、温度変化に依存した変化を起こしている、と考える。

A:生化学の講義でやったように、生体内の化学(酵素)反応の反応速度は、10℃で2倍になるような温度依存性を持ちます。その場合、低温側の温度変化では化学反応の変化が小さくなりますし、on/offのような変化を引き起こすことも難しいでしょう。そのあたりの生化学的な知識も含めて考えると、もう少し具体的な仮説を提示できるのではないかと思います。


Q:今回の講義では花と虫の共進化が紹介されていたが、特定の虫にのみ花粉を運んでもらうことに対してどのような利点があるのかについて考える。特定の種が減少すると受粉率が下がるように、かなりお互いの存在に依存しておりデメリットも大きいと考えられるため、かなり大きいメリットがいくつかあると考えられる。一つ目として挙げられるのは受粉率が上がるという点だ。多種の花を訪れる虫では花粉が付着したとしてもほかの同種の花に運ばれる確率は低いが、同種の花にのみ訪れる虫なら高確率で同種の他個体と受粉できると考えられる。二つ目として挙げられるのは、花粉を運びやすい虫を選択できる点だ。アリなどの小さな虫は体に花粉を付着することなく蜜だけを奪っていき花にはメリットがないと考えられるため、体が大きく花粉が付着しやすい、もしくは花粉を集めるハチなどの虫のみ選択できれば蜜を無駄にすることなく受粉が行われると考えられる。最後に挙げられるのは少し特殊な場合だが、開花時期や時間が限られていて一定の時期だけ多種多様な花が咲くような場合(例としては、乾燥地帯で短期間だけ雨季になるような場合など)では、受粉が起こるためには短時間で自分と同種の花に虫が訪れる必要があるため、虫が優先して自分と同種の花を選ぶ、つまり特定の虫にのみ花粉を運んでもらうほうが良いと考えられる。

A:「特殊な例」と断られていますが、この最後の部分がやはり一番説得力があります。メリットとデメリットがある以上、環境条件によってどちらが得になるのかが決まることになりますが、それが一番はっきり表れているからでしょう。


Q:今回講義で、花と昆虫の共進化について学んだ。花が昆虫の身体に花粉をつけるために、蜜を奥に奥にと距を変化させ、それに伴い昆虫も変化していくとのことだった。しかし、この共進化が永遠に続くわけではないだろう。では、これはどのタイミングでお互いの進化が止まるのだろうか。なにかの不具合が生じることで進化が止まると考える。不具合として考えられることは、エネルギーの問題と他機能との兼ね合いだと考えた。まず、花も昆虫も距や口吻を伸ばす際にエネルギーを用いる。ほかの発生や成長に用いるエネルギーは保持しなければならないため、利用できるエネルギーには限度があり、それ以上は伸ばせないということだ。また、他の機能の邪魔になる場合も進化が止まる可能性がある。たとえば口吻が飛行する際の邪魔となる場合などがそうである。今回は授業の例から、共進化の制限について考えたが、他の共進化についてもエネルギーの問題や、他機能との関わりにより限度があると考える。

A:いわゆるランナウェイの終着点をきちんと考えていてよいと思います。現実の世界で「無限に」ということはありませんからね。


Q:種子植物では、花芽の形成を境に成長が止まり、子孫を残す事にシフトする。そこで、種子植物でないものはどのようにして葉の成長と子孫を残す時期を調節しているのかを考える。シダ植物で考えると、種子植物の葉とシダ植物の小葉は相同な器官である。しかしながら種子植物の花に相同する器官がない。そこで、種子植物にとって花という器官は子孫を残していく時に重要な役割を果たすものであるという事から考えると、葉の無限成長を止める役割はシダ植物では胞子嚢が果たしているのではないかと考える。

A:目の付け所は良いと思います。ただ、もう少し深く、論理的に展開できるといいですね。現状では、アイデアを一つ出しておしまいという感じです。


Q:一般的な植物の花で適用できるABCモデルとスイレンの花の構造の連続性が紹介された。両者の花の間には,遺伝子レベルでどのような違いがあるのだろうか。簡単のために,ABCモデルにおいて拮抗し合うAとCの遺伝子について考える。Aの領域とCの領域は重なることはなく,両者は拮抗している。これはたとえば以下のような遺伝子のはたらきがあると考えられる。花の発生段階において,遺伝子A,Cが発現する前に,遺伝子A,Cの発現をそれぞれ促進するタンパク質a,cをコードする遺伝子a,cがそれぞれ花の最も外側,内側で発現する。次いで生成するタンパク質a,cは昆虫の発生胚でよく知られるビコイドタンパク質,ナノスタンパク質と同様の濃度勾配を形成する。ここで,濃度勾配がa>cとなった葉(のちにがく・花弁となる)において遺伝子Aのみ,濃度勾配がc>aとなった葉(のちに雄蕊・雌蕊となる)において遺伝子Cのみが発現する。遺伝子A,Cはそれぞれがく,雌蕊を形成するためのさまざまな遺伝子の発現を促進する。一方,スイレンの花ではどのような遺伝子発現が見られるか。先に述べた同様の遺伝子a,cが存在すると仮定したとき,各々の葉で遺伝子A,Cの発現はなく,遺伝子a,cが直接それぞれがくや雄蕊の形成に必要な遺伝子の発現を促進すると考えれば,遺伝子a,cの濃度勾配によって連続的な形質が見られそうである。以上のことから,ABCモデルを適用できる一般的な植物の花とスイレンの花の遺伝子レベルでの違いは,上の例における遺伝子A,Cのような,それぞれの形質をつくるために必要な遺伝子群をまとめて促進するような遺伝子が存在するかどうかということであると考えられる。花発生のカスケードにおいて,いわば「まとめ役」のような遺伝子発現が1段階加わることによって,がく・花弁などの器官の発現領域を明瞭に分けることができると考えられる。これを示すには,ABCモデルが正しいことの証明だけでなく,スイレンの花において,「まとめ役」の遺伝子が存在しないことを確認する必要がある。

A:いわゆるデータ処理における二値化の問題ですね。よく考えていてよいと思います。あとは、ここで扱われたhowではなく、whyについて考えてみるのも面白いと思います。


Q:ユリにはがくがなくこのような植物の形態を花被片という。このような花ができる理由はABCモデルの原理を利用して、がくに発現する部分を花弁として発現させているということを学んだ。ABCモデルはがく、花弁、雄しべ、雌しべの4種類の器官への分化は3種類の遺伝子により調節されているというものである。この3種類の遺伝子が欠失したり、入れ替わったりすることで組み合わせが変わり器官の形が変化する。このことから全ての遺伝子がなかった場合、花芽分裂組織には器官が発現せずに茎に分裂組織があるだけの構造になると考えられる。これらの器官が発生しなかった場合受粉することができないためこれ以上その植物種が増えていくことは不可能である。よって最低でも雄しべと雌しべを発現するCとBの遺伝子が必要である。逆にA遺伝子がなくても生物は次世代に引き継ぐことができる。A遺伝子から花弁とがくが必要な理由としては虫媒体で受粉を行う場合に虫が引きつけられやすい色にすることによって受粉しやすくすることが挙げられる。しかし虫は匂いによっても引きつけられるため受粉することだけを目的とした場合、最低でもB遺伝子とC遺伝子があれば雄しべと雌しべを発現させることができるため雄しべと雌しべのみを発現させることがエネルギー的に最も最適であると考えた。
参考文献:http://www.chem.nara-wu.ac.jp/~fujii/rest/abc.html

A:全体としてきちんと考えていてよいと思います。少し考え方が一般的過ぎるかもしれませんが、栄養成長から生殖成長への切換えが最初に述べられているのがアクセントになっています。


Q:今回の講義を聞いて植物の花の色について興味を持った。ネットで調べてみると「ランタナ」という植物は花が咲くと色が変化する特徴をもつ。文献1によるとカロテノイド系の黄色色素が分解しアントシアニン系の赤~紫色素が蓄積しているのではないかと考えられているが、変化時期はまだはっきり分かってないという。そのためランタナの花色の変化時期について考察していく。変化時期として主に考えられるのは主に時間経過による色素の変化ものと受粉の有無によるものである。もし受粉の有無によるものであるとすると、受粉後花弁を維持し色を変えることに何らかの生態的利点があることが考えられる。ランタナの写真をみると、小花を多数集合させ球状に花を咲かせている。受粉の有無を花色の変化で示すことによって送粉者を未受粉の小花へ誘導する効果があるのではないかと考える。ランタナは常緑低木で葉が常に生い茂り、1つ1つの花が小さいため花弁を落とさず鮮やかな色で集合することによって花全体を大きくし送粉者を呼び寄せやすくしているのではないかと考えた。
文献1:ランタナの花の色変化について、一般法人植物生理学会、2012/07/21掲載、2021/07/09閲覧、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2692

A:これも、よく考えられている一方で、結論自体はややありがちなものになっているかもしれません。そのような場合、どちらの色が送粉者を引き付けているのか、という具体的な議論を最後に持ってくると、一般的な抽象論に終わらずに済みます。