植物生理学I 第10回講義

窒素固定と共生

第10回の講義では、植物の根と微生物の共生関係について、窒素固定と栄養塩の吸収を中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:植物と菌に関する講義が行われた。その中で話されていた菌根菌に関して興味を持った。植物と共生する菌と言えば、キノコが想像できる。しかし、キノコといってもマツタケのように生きているアカマツと共生するタイプもいれば、シイタケなどのように切り倒された木から成長するタイプがいる。今回は、この二種類がなぜこのように分岐したのか考えたい。地球上で動物が繁栄する前には、植物が繁栄していた。その当時は多数の植物が存在しているため、生きている植物と共生して生きていくことが利点であったように考えられる。このことは、現在の植物の多数が菌根菌と共生していることからもともに成長・繁栄してきたことがうかがえる。しかし、植物種が増え地球上で生存競争に負ける植物がたくさん増えてくると、そのような植物の残りの栄養を用いて生きてく種類、つまり、シイタケのようなタイプの菌類が登場してきたのだと考えられる。これは、先に多数の植物が他の菌類と共生をしていることで共生する相手が減ってきたことも挙げられる。上記のことから、キノコのような菌類は生きている植物に寄生する種が先に存在していてその後、死んでしまった植物の栄養を用いるような種が誕生したと考えられる。

A:自分で考えてレポートを書いているという点では合格です。ただ、自分の考え方に沿って文章を書いているだけなので、例えば、自分の考えと矛盾する事実はないだろうか、他にも可能な考え方がないだろうか、といった点についてもう少し目配りが欲しいようにも思います。


Q:今回の講義の中で、イネ科牧草をマメ科のTrifoliumとおおよそ半分の割合で育てた場合牧草地の窒素濃度が最も高くなるという内容があった。これはマメ科植物が窒素固定で得た窒素が何らかの機構でイネ科植物へ移譲していることが読み取れる。そこで今回はマメ科植物がどのようにしてイネ科へ固定窒素を移譲しているかについて考察する。まず、マメ科植物が窒素を移譲したというよりはマメ科植物が枯れた後微生物が分解することで土中に溢れた窒素をイネ科が吸収したことでイネ科植物の窒素濃度が高くなる可能性が考えられるがその場合、おおよそ半分の割合で窒素濃度が最大になる理由の説明がつかない。そのため、マメ科植物の根が何らかのシグナルを出してイネ科植物の窒素吸収の促進に作用している可能性が考えられる。ただし、エネルギーを使ってまでイネ科植物へ窒素固定をした際マメ科植物の利点がないように思えるため、イネ科植物もマメ科植物へ養分を移譲するなどして相互のやり取りをすることでイネ科植物は窒素を得ているのではないかと考える。

A:ある変数があって(この場合にはイネ科植物とマメ科植物の割合ですが)、それが真ん中ぐらいの時に別の変数(全体の窒素含量)が最大値を取るような場合には、たいてい何らかのトレードオフが働いています。トレードオフというのは、言ってみれば最初の変数を大きくしても小さくしても別の変数が小さくなることですから、変数を大きくした場合の変化と小さくした場合の変化に分けて議論すると、結論に持って行きやすくなります。


Q:現在、根粒菌と共生しているのはマメ科植物などの限られた一部の植物だけである。しかし、過去には根粒菌と共生していた植物は他にもあり、それらの共生は独立に何度も失われた。その理由は共生のコストが大きいことであるといわれるが、その点に関してより詳しく考えてみた。まず一つめは、大気中の酸素濃度が上昇し、二酸化炭素濃度が低下した点が考えられる。酸素濃度が上昇すれば植物が根粒内を低酸素に保つのによりエネルギーがかかってしまう。また、二酸化炭素濃度が低下すると光合成の効率が低下し、根粒菌に炭素分を供給する余裕がなくなると考えられる。もう一つには土壌中に窒素分が豊富にある環境が増加したという可能性がある。土壌中の窒素は窒素固定以外に、動物の排泄物や死骸が分解されることにより、供給される。土壌中に窒素分が充分にあれば、わざわざ根粒菌と共生する必要はなくなる。これらの二つについて、一つめの地球の酸素濃度が上昇、二酸化炭素濃度が低下した原因は植物の個体数が増えたことにある。また、二つめの土壌中の窒素分が動物の死骸などで充分供給される原因は、動物の個体数が増えたことであるが、動物の個体に含まれる窒素はもともと餌となる植物由来のものであり、植物が豊富に存在することで動物の個体数も増加する。よって植物の進化のなかで植物が繁栄し個体数が増加すればするほど、根粒菌と共生するメリットが減り、共生が失われっていったのではないかと考えた。

A:非常に面白い考え方でよいと思います。非常にもっともらしいか、と言われるとそうでもないかもしれませんが。それでも、生物自体に環境形成能力があるのは確かですし、それが様々な面で重要な役割を果たしていることも間違いないでしょう。


Q:アーバスキュラー菌根菌は植物と相利共生する。植物はストリゴラクトンを分泌して菌根菌の菌糸を増やすと学んだ。リンが足りない時にはそのようにして得ようとすればよい。しかしながら、もしリンが少ない部分と多い部分があると仮定すると、それだけでは生きぬけない。その場合、アーバスキュラー菌根菌が根のどの細胞の位置に寄生するのか、どの方向に菌糸を伸ばすのか、それらが重要になるだろう。植物とアーバスキュラー菌根菌の共生関係の前に植物が、どこで共生するのか伝えるシグナルがあってもよいと考えた。リン肥料などを使い、局所的にリンを多くすることなどで、アーバスキュラー菌根菌の分布などを調査するとその機構の有無が確認できるかもしれないと考えた。

A:面白そうなテーマなのですが、論理的な考え方がしっかりしていないのか、考えはしっかりしているけれど日本語にするときにうまく表現できていないのか、結果としては文章の論理構成がわかりにくくなっています。自分の書いた文章を、最後に一度読み返して遂行する習慣をつけた方がよいかもしれません。


Q:今回の授業にて根粒菌と窒素固定について学んだ。植物は光合成で生産した有機物を根粒菌に渡して、根粒菌は窒素固定で合成したアンモニアを植物に渡している。この相利関係で成り立っている。これについてハンノキを例に挙げて考察する。ハンノキは共生させている落葉樹であるが、根粒菌を共生しているため紅葉も黄葉もせず緑色の葉まま枯れる。このことから根粒菌によって他の植物よりも長い期間葉緑体を保持し、光合成することができると考えられる。紅葉は光エネルギー過剰による葉緑体失活を防ぐためのアントシアニンが原因である。また根粒菌を利用するためにはフラボノイドが必要である。つまりハンノキは紅葉しないことからアントシアニンの合成よりも、フラボノイドの合成が優先されていると推測できる。植物にとって、(少ない葉緑体が生成するエネルギー − アントシアニンのコスト)よりも{葉緑体が生成するエネルギー − (フラボノイドの合成 + 葉緑体の維持)}のほうがエネルギー効率がよいと考えられる。
<参考文献>①多田多恵子. 植物の生態図鑑. 学研, 2010年. 168p、②浅田浩二. 紅葉現象. 植物生理学会. https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=0388&target=number&key=0388, (参照日 2021年6月26日)

A:ユニークな考え方で非常に良いと思うのですが、共生の開始時期は貼るだろうと考えられるのに対して、紅葉は秋ですよね。2つの競争関係を考えるのに、その点を考慮したほうがよいと思いました。


Q:今回の講義で生物時計についての話を聞いた。光も温度も湿度も時間によって変化しないような環境下では開花の時間はだんだんとずれていく、ということを学んだ。私たちヒトは脳の視交叉上核と呼ばれる小さな領域に存在する概日時計で生物時計を認識している。では植物ではどこで生物時計を認識しているのか。植物の成長は光合成を行うことが最も重要である。光合成に必要な環境情報は光と水と二酸化炭素である。この情報の中で時間によって変化するものは光であるだろう。よって私は植物の生物時計は日の光で認知されていると考えた。そのため光を受けとる場所が生態時計を認知する場所であると予想した。植物で光を受け取る場所はフィトクロムで、フィトクロムは花芽形成や発芽の制御をするなどの機能がある。ここで日中の光を認識することで生物時計を整えていると考えられる。雨の日には太陽が出ないことがあるが、生物時計は光も温度も湿度も時間によって変化しないような環境下で育てた場合でも最初は24時間の時間の周期を保つことができるので数日光が当たらなかったとしても次に日光が当たれば24時間周期の生物時計に戻ることができると考える。 よって植物の生物時計において最も重要な要因となっているのは太陽の光であり、その太陽の光を受容しているフィトクロムが生物時計を認識しているのではないかと考えた。 参考文献:https://synodos.jp/science/16334、https://jspp.org/hiroba/essay/nagatani.html

A:今回の授業の中では、生物時計は主要なテーマではなく、説明も簡略だったので、やや誤解を招いたかもしれません。レポートの内容は少しずれているように思います。「開花の時間はだんだんずれていく」というのは、時計の振動が減衰していくことを言っているのでしょうか。「生物時計を認識」というのは「生物時計を24時間に合わせる」ということでしょうね。最後、光受容体はフィトクロム以外にもありますから、その点も考えた方がよいでしょう。


Q:今回の講義の中で、生物時計にまつわる話があった。この話に興味を持ったので、生物時計の機構に関して、自分なりに考えていく。生物時計とは、参考文献(1)によると「生物がその体内に持っている時計機能」である。この時計機能はどのような仕組みで、体のどこの部分で司っている物なのだろうか。まず、単純に考えて、司っている部分は脳である。なぜなら体の様々な部分で起こる反応の中心は脳であるからだ。では次に、その機構を考える。時計の機能があるということは、ある一定時間に一定量の変化が起こる、ということだと考えられる。その考えが正しいと仮定し、一つの仮説を提示する。脳において、ある物質の移動する量はほとんど変化することがない。その物質が一定量移動するごとに、ある信号が体全体に発信される。それにより、体内時計が成り立っているのではないだろうか。以上より私は、生物時計は脳のある物質の量が機構として働いている、と考える。
(1)産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門 生物時計研究グループ 花井修次 生物時計とは、https://staff.aist.go.jp/s-hanai/biologicalrhythm.html、閲覧日:2021.6.26

A:うーむ。内容自体は悪いとは言いませんが、生物時計は動物だけでなく、植物にもバクテリアにもあるという授業の内容を受けて、「脳」と言われるとちょっと困ります。いくら何でも植物やバクテリアに脳があると思っているわけではありませんよね。


Q:植物の8割以上が菌と共生しているという話もあったが、それほど窒素固定などの部分で菌の存在が確立されているのであれば生物としてその能力を植物自身が獲得してもおかしくないのではないかと考えられる。植物の歴史は非常に長くそれほどの期間があれば植物がその機能を独自に獲得したり、根粒菌と融合したりしていてもおかしくはないと考えられる。しかし、そのようになっていないということは歴史の中で根粒菌との共生が必要なくなることがあるということになる。また、窒素固定は独立に何度か失われているという話もあったが、これは植物が未だに根粒菌と共生していることから逆に分かる。植物は以前の授業でも同じ機能を何度も失ったり獲得したりしているという話があった。これらのことから植物は環境に対してその度ごとに対応しているので安定した環境では進化もしなくなるのではないかと考えられる。

A:面白い考え方でよいと思います。ただ、最初の問題設定が「植物自体が獲得しない理由」であるわけなので、最後の部分は「環境が安定していなかったから」という結論にすると、守備が一貫します。


Q:講義では、根粒菌について取り挙げられたが、どのような生存戦略をとっているのか、考えてみたいと思う。まず、根粒菌とは細菌の一種で、原核生物にあたり、とても小さい。そして、マメ科の植物と共生し、窒素固定を行っている。この窒素固定は、共生をしているときのみ行う。これらのことから、①根粒菌は、普段は一般的な細菌と同じように生活しているが、共生することで増殖している、ことがうかがえる。共生のタイミングで通常モードから大胆に移行することで、植物体にとってのお得意様化している。さらに、②共生が進行しやすいように、できるだけ小さくなっている、ことが考えられる。根粒菌は、細胞膜の陥入により皮層細胞まで運ばれ、この時に観察される菌糸は、根粒菌の集まりである。陥入(侵入)して以降、次々と分裂して増殖し、その数を増やしているものと考えられる。さらに、小さいと表面積を増やすことができるので、窒素固定の反応が進行しやすく、効率的である。このように、自分の生活や大きさを犠牲にしながらも、上手く共生相手に取り入って、最終目標である自身の増殖を達成する、これが根粒菌の生存戦略であると考えられる。「共生」というと、生活の一部を依存するようなイメージを持つが、根粒菌の場合は、植物体に依存し、利用して増えるということから、どちらかと言うと、ウイルスによる「感染」と言った表現が適切ではないかと考えられる。
根粒菌の感染?根粒形成 | 研究アイデアの見つけ方 (science-edu.net) https://science-edu.net/ns/nodule 閲覧日:2021.6.26
土の生きもの?微生物と植物ブログ?https://tutinoikimono.com/2020/06/14/konryuukintoha/#_-5 閲覧日:2021.6.26

A:これも独自の視点があってよいと思います。「生活様式」については、おそらくすべての共生関係に適用できる話なので、ある意味で当たり前ですが、「大きさ」についての議論はユニークです。最後の感染の話は、生存戦略とは直接関係がないので、入れるとしたら早めに触れておいて、最後はしっかりと生活様式の話で締めた方が論旨はすっきりします。


Q:今回の講義でシアノバクテリアでは栄養細胞10個あたりにヘテロシスト1個が表れるということを学んだ。私はなぜ栄養細胞10個に対してヘテロシスト1個という比率で細胞が並んでいるのか疑問に思ったので考察した。栄養細胞では光合成をおこなう。光合成の反応式は6CO2+12H2O→C6H12O6+6H2O+6O2である。この反応式を見ると6分子の二酸化炭素に対して1分子の有機物が生成していることが分かる。つまり6molの二酸化炭素で有機物が1mol生成する。一方ヘテロシストでは窒素固定を行う。窒素固定の反応式はN2+3H2→2NH3である。この反応式を見ると1分子の窒素に対して2分子のアンモニアが生成していることが分かる。つまり6molの窒素でアンモニアが12mol生成する。よって同じ量の二酸化炭素と窒素が与えられているとき、窒素固定の方が光合成よりも12倍の速度で生成物が生成されると考えられる。このことから、生成物の量に差が生じないように光合成を行う栄養細胞は窒素固定を行うヘテロシストよりも約12倍の細胞数を持っているのではないかと考えた。

A:このような定量的な考え方は貴重です。ただ、ここまで考えるのであれば、例えばタンパク質に使われる窒素と炭素の量比について考える必要がありそうに思います。また、空気の組成を知っていれば、「同じ量の二酸化炭素と窒素が与えられている」という前提は、かなり不自然であるように思います。


Q:授業では窒素固定が取り上げられていた。(1)によると、「化学肥料のアンモニアは1000気圧という超高圧、500℃という高温のもとで窒素と水素の化学反応で工業的に作られますが、莫大なエネルギーを費やします。根粒菌はこの反応を常温常圧でいとも簡単にやってしまう」と述べられている。ここで、(2)によると、根粒菌においてニトロゲナーゼが触媒する反応式は「N2+8H++16ATP→2NH3+H2+16ADP+16Pi」となっている。よって根粒菌ではATPが働いており、このATPが1000気圧、500℃と同じ役割を果たしていると言える。(3)によると「ATP 1分子から約12kcalのエネルギーが得られます。」と述べられていることから、(4)のエネルギー換算表を参考にして計算していく。1K=8.61734×10^-5eV、1cal= 2.61273×10^19eVであるので、ここでは計算しやすいために1K=8.6*10^-5、1cal=2.6*10^19とする。そうすると、500℃は約0.2eVで、12×16kcalは約499×10^19eVである。以上のことより、16ATP→16ADPになるときのエネルギーは500℃のエネルギーと比べて約192×10^19倍も大きいということがわかった。よって工業的に作られる際には、高温度だけでは高エネルギーリン酸結合のエネルギーと同様のエネルギーを得ることができず、圧力との相互作用がかなり重要であるということがわかった。温度と圧力の関係で思い出されるのは物質の状態図で、物質の状態図において高温高圧を満たすものは超臨界状態になる。超臨界状態では物質の運動量がとても大きくなり、どんなに高圧にしても液体にはならず物質はどんどんと高密度になる。この超臨界状態はとても特殊な状態だが、この状態のエネルギーと16ATP→16ADPになるときに放出されるエネルギーが等しいということが今回の計算からわかり、高エネルギーリン酸結合の大きさを感じることができた。
参考文献:(1)秋田県立大学 「根粒菌(こんりゅうきん)ってすごい!!」生物資源科学部 生物環境科学科 助教 佐藤孝https://www.akita-pu.ac.jp/oshirase/oshirase2007/505、(2)東進ブックス 「生物合格 77講完全版」田部 眞哉、(3) 栄養と生化学 エネルギーの消費と獲得、http://zen.shinshu-u.ac.jp/modules/0098000003/main/0098000003.pdf、(4)USHIO エネルギー換算表https://www.ushio.co.jp/jp/technology/glossary/material/attached_material_10.html

A:これも視点は面白いのですが、参考文献に基づいて議論する場合には、その内容を吟味する必要があります。ここで使われているエネルギー換算表は、単位が全く合いませんよね。例えば、波数の単位は「(長さ)-1」ですからエネルギーと(それ自体では)無関係なことがわかりますし、それは温度についても同様です。物理学においては、よくわからなかったら単位を比べてみましょう。この換算表は、あくまで光についてのものであって、光の波長はその光子1個のエネルギーと一定の関係があるということを示しているにすぎません。一般的に長さとエネルギーが相互変換できる、という話ではないのです。


Q:シアノバクテリアについて,ヘテロシストがある一定の割合で分化するための分化パターンの仮説として,ヘテロシストが周囲にヘテロシスト分化を抑制するようなシグナルを放出しているという仮説が紹介された。講義で紹介された画像を改めてよく観察すると,ヘテロシストどうしが集まっているように見える。平均的には10~20個の栄養細胞に対して1個のヘテロシストが分化しているようだが,その分布の位置を見ると,ある場所はヘテロシストが多く,ある場所は栄養細胞が多いという分布になっている。ヘテロシストが嫌気的環境を好み,栄養細胞が好気的環境を好むことを考えると,ヘテロシストが集まってその集まった場所を部分的に嫌気的にすることによって,各細胞内の嫌気的環境を作り出すためのコストを相乗的に減らすことができるというメリットがあるのかもしれない。しかし,この現象は一見すると,講義で紹介された仮説に反するように思われる。ヘテロシストが周囲の細胞のヘテロシストへの分化を抑制しているのであれば,ヘテロシストの近くに別のヘテロシストが存在しないのではないかと考えるかもしれない。しかし,以下のような仕組みを考えると,必ずしも仮説が間違っていないと言える。画像のヘテロシストが集まっている部分を見ると,ヘテロシストはそれぞれ異なるシアノバクテリアの「鎖」の一部である。すなわち,1本の細胞の連なりの中で連続したヘテロシストが集まっているように見えるのではなく,別々の細胞の連なりにある各ヘテロシストが集合している。したがって,一度別々の場所にあった「鎖」で,講義で紹介されたようにヘテロシストが一定の間隔をもって分化し,次いで各「鎖」のヘテロシストが互いに出すシグナルによって集合する,ということが起こっているのではないか。すなわち,ヘテロシストの出すシグナルは,周辺の細胞のヘテロシスト分化を抑制するだけでなく,すでに分化したヘテロシストをおびき寄せる効果を持つのではないか。このことを示すためには,まず分化したヘテロシストが少ない初期の段階ではヘテロシストの集合が見られないこと,ある程度多くのヘテロシストが分化した頃から集合が見られること,さらに各々単離したヘテロシストが一定時間後には集合するということを確認する必要がある。

A:これはよく考えていますし、よく観察もしていて素晴らしいと思います。僕は糸状性のシアノバクテリアの写真を見ていて、鎖の端にヘテロシストがある場合が多いように感じていました。これはもしかしたら、栄養細胞同士の接着よりも、栄養細胞とヘテロシストの接着の方が弱いせいで、ヘテロシストのことろで選択的に鎖が切れるのかもしれません。ただ、ヘテロシスト同士がくっつく傾向が存在するのかどうかについては、僕もよく知りません。