植物生理学I 第9回講義

植物の根

第9回の講義では、植物における根の構造と機能について形成層の獲得と喪失の進化をからめて講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:植物の根について、具体的にはつる植物の根について考えていく。通常つる植物は別の植物や物体に支えてもらうため、植物自身の体を支える必要がない。そのため、根を太くする必要がないので、細い根でより多くの部分で土壌や空気に触れることができるのではないかと考える。しかしながら、つる植物は単子葉類よりも双子葉類が多い。つまり、つる植物はつる性を持つようになる前は普通の自立した植物で、進化の過程でつる性を得たのではないかと考える。

A:多少物足りなさは感じますが、論理は通っていますね。あとはその論理の展開の仕方を工夫するとよいレポートになると思います。


Q:形成層を獲得したシダ植物は巨大であったが絶滅してしまったということであったが、これは草食動物の出現とともに発達した草原の話と似たようなことが起きたのではないかと考えられる。形成層は肥大成長に関わるが、結局は縦に伸びるにも支えが必要なので肥大成長はある程度必要である。また、巨大なシダ植物が栄えていた時代の動物は今よりかなり大きいものが多く、草食動物も大きかったと考えられるので、その動物に食べられないように大きくなった種があったのではないかと考えられる。逆に、草原のように低い部分で生育するシダ植物もいたと考えると、それが形成層を必要としない、つまり大きく成長する必要のないシダ植物なのではないかと考えられる。結果的に巨大な生物が絶滅したことによってわざわざ大きく発達する必要がなくなり、形成層を発達させないシダ植物が残ったと考えられる。

A:面白い考え方でよいと思うのですが、最後の文で、「巨大な生物が絶滅したことによってわざわざ大きく発達する必要がなくなり」のところがやや気になりました。もちろん、植物にとっては動物に食べられることは大きな淘汰圧になっていたはずですが、一方で、植物同士の光をめぐる競争も重要なはずですよね。そのあたりは、草原の形成自体が草食動物の出現とかかわっていたという話を講義の中でしたのですから、そのあたりをもう少し考えてもよいかと思います。


Q:マングローブは熱帯や亜熱帯の淡水と海水が混ざり合っている汽水域で生育している。普通の植物は、海水が存在するところで生育することはできない。なぜ、マングローブは汽水域に生育しており、汽水域で生育できるのだろうか。汽水域は主に河口部にあたる。河口部は、上流から有機物が流れてきたり、海の有機物が存在したりと、栄養分はとても多いと考えられる。また、海水が存在しているところでは、普通の植物が生育することができないため、競争する必要がなくなるというメリットがあるため、汽水域に生育していると考えられる。また、汽水域で生育するには、塩分を排出する構造が必要であると考えられる。なので、考えられる構造として、根で水分を吸収する際に塩分を吸収しづらい構造になっていると考えられる。また、吸収した塩分を排出する構造として、葉の気孔などから、塩分を排出できるのではないかと考えられる。また、塩分を植物の一部分に溜め込むことができる場所が存在するのではないかと考えられる。

A:悪くはないのですが、最後に二つ「考えられる」ことを並べておしまいになっているのが残念です。そのように考える道筋を何でもよいので説明できると論理的なレポートになります。


Q:今回は根について学びました。栄養塩を濃度の濃淡をつけた時、根はどのように張るのかを実験をしたところ、低濃度の塩の部分に根が多く張り、高濃度の塩の部分に根が少なく張っていることがわかった。一般的には濃度が濃い栄養塩がある部分に根を多く張れば、それだけ効率よく塩を吸収することができるため効率的である。ここから考えられることとして、根はある一定の塩の濃度までしか吸収することができないのではないかということだ。だからこそ、濃度が高いところは根は少なく張り、濃度が薄いところに多く根が張ったのだと考えられる。もう一つ考えられることとして根から一定の塩の吸収を図るためではないかということだ。高濃度の塩の部分に根が少ないということは根自体に濃度を一定に保てる装置のようなものが存在せず、植物がその栄養塩過多になってしまうためにこのような状況になっているのではないかということだ。

A:これも上のレポートと同じです。二つの可能性を提示していますし、それはそれらしいものですが、その「それらしさ」を論理的に示していないので、回答を思いついた、というところで終わってしまっているのが残念です。


Q:今回の講義で、根毛が根の表面積を増やしており、それによって根が養分を効率よく吸収できていることを学んだ。そこで私はもし根毛がなかったら、同じ養分量を得るにはどのくらい根を生やさなければいけないのかについて考察することにした。ここで、根毛の直径を10 μm、根毛の長さを1 mm、根の直径を1 mm、根の長さを50 cmとする。まず、根毛がある時の表面積を考える。根毛があるときは根の表面積すべてに根毛が生えていて、養分の吸収は根毛からしかなされないと仮定する。根を円柱であると仮定し、根毛が根の側面積にしか生えていないとすると、根毛の生えている面積は0.1 cm×π×50 cm=15.7 cm2と表される。根毛の直径が10 μmであるので、根毛の1本あたりの面積は(10-3 /2)×(10-3 /2)×π=7.85×10-7cm2である。よって根に生えている根毛の本数は15.7 cm2÷7.85×10-7 cm2=2.0×107本と計算できる。根毛の長さを1 mmとしているので、根毛があるときの表面積は、根毛を円柱とみて側面積だけを考えると2.0×107×0.001×π×0.1=6.28×103 cm2と計算できる。また、根毛がない時は先に計算したように15.7 cm2である。よって根毛がある時とない時では6.28×103÷15.7 =400倍も表面積が変わることが分かった。よって根毛が無ければ、根はもともとある本数の400倍の根を生やさなければいけないと考察できる。
参考文献:啓林館 水の吸収と移動 根の働きと菌根菌 2009、http://keirinkan.com/kori/kori_biology/kori_biology_1_kaitei/contents/bi-1/4-bu/4-1-1.htm (閲覧日 2021/6/10)

A:きちんと計算して確かめている点は評価できます。根の表面がすべて根毛でおおわれているという前提は、やや現実的でないかもしれませんが。


Q:植物の根の役割は水・イオンの吸収、栄養分の貯蔵、植物体の固定と主に3つに分けられる。このうちどれが最も本質的な根の機能なのだろうか。栄養分の貯蔵に関して考えると、イモ類が有名であるが、サツマイモは根であるのに対しジャガイモは地下茎である。また、栄養分を同化デンプンとしてため込むがイモを作らない種類の植物も多い。このことから考えると、根に栄養分を貯めるのは例えば食べられにくい等の利点があるからで、その条件を満たせば茎でも色素体でもよいと考えられる。よって栄養分の貯蔵は除外してよいだろう。吸収と固定について考える。コケ植物は維管束を持たないが植物体を支えるための仮根は持つ。シダ植物・種子植物は維管束付きの根を持つ。もし根の本質が固定にあるならば、根内部の維管束の構造は茎と同じでもよいはずである。しかし実際は違い、吸収のために維管束は中心に、皮層に囲まれて存在している。よって、結論としてはもともと支持のために仮根が発達したが、徐々に吸収に役割がシフトしていき、それに伴って維管束も生じていったのだと考えられる。

A:考え方は悪くないと思います。ただ、結論がやや当たり前といえば当たり前ですね。


Q:単子葉植物は形成層を持たないことについて、もともと形成層を持たなかった単子葉植物が形成層を獲得していき双子葉植物が生まれたと今まで思っていた。しかし実際にはその逆で、すでに形成層を持った植物から形成層が失くなって単子葉植物が生まれたと知った。形成層を持っていれば、茎を太くすることができ、より高く成長できる。植物にとっては高く成長した方が日光を多く浴びることができて有利だと思われる。それなのに単子葉植物が形成層を失くしたメリットを考えた。形成層がないということは茎が細くしなやかな植物になる。そのため縦に大きくなるには直立できないが、逆に風や水流などの横方向からの力には茎が折れずに耐えられると考えられる。実際に、単子葉植物の中で、代表的なイネ科の雑草などは、風の強い高原や、増水した時には水流を受ける河原などに多く見られる。このように、単子葉植物はその場所で日光を多く獲得するよりも、生息範囲を広げることで生き残ろうとし、そのことに形成層は不要だったと考えられる。

A:これも考え方はよいと思います。ただ、講義で単子葉植物の出現の理由についての作業仮説を紹介していたわけですから、それを否定するのか、それとも並行して原因となるのかについて一言あった方がよいでしょう。


Q:今回の授業では、根について学んだ。そこで、不定根が生えるのはどのような状態のときかについて考えた。(1)によると、「タバコの組織培養では、培養中のオーキシンに対するサイトカイニンの濃度が低い場合には不定根が分化」すると述べられているので、この記述を元に考察する。まず、サイトカイニンは側芽の分化を促進する役割がある。側芽は下に生えてることが多いので、サイトカイニンは根から生じると考えられる。よって植物においてサイトカイニンの量を減らすためには、根と分離するか、植物の体積を増やす必要がある。次に、オーキシンは茎の頂点から基部へ向かう性質があるので、オーキシンは茎の頂点から生じると考えられる。そして、オーキシン濃度が高くなるようにするには、植物の体積を小さくする必要がある。以上をまとめると、記述(1)の状況にするには根から分離することで体積を小さくするのが最適だと考えられる。よって植物が茎から折れて根がなくなったものに不定根が生えることが妥当だと言える。また、記述(1)はオーキシンが側芽の成長を促進するサイトカイニンの合成を抑制しているという頂芽優勢のしくみと似ている。植物が折れた状態だと、根から水分を吸収できないことが最大の欠点であるため、頂芽優勢で光を確保することをやめ、不定根分化に切り替えていると考えられる。よってこのとき、植物の背丈が成長するのは遅れることが予想される。
参考文献 (1)東進ブックス 「生物合格 77講完全版」田部 眞哉

A:面白い考え方でよいと思います。講義で聞いた話と別の話題を組み合わせて考える能力は貴重です。


Q:今回の授業においてマングローブについて話されていた。日本におけるマングローブの生息域を調べていたところマングローブは津波対策にもなると書いてあり、マングローブは海水でも生息できると知った。そこでマングローブの塩分排除の仕組みについて考察をしていく。植物に過度な塩分は枯れてしまう原因であり、マングローブにおいても変わらないと考えられるが塩分を取り入れても安定する仕組み、もしくは塩分を効率よく排除できる仕組みがあると考えられる。塩分を取り入れても安定する仕組みとしては体内の水分量を多くすることによって塩分を加えても体内の塩分量を安定できるかと考えたが、海水に接していると植物の体内と海水が同じ濃度になろうと働くため、この考えは不適であると考えられる。そのため、考えられる可能性としては塩分を体外に放出する仕組みがある可能性がある。塩分のみを分け、樹皮などから放出することが可能であるならば海水と接していたとしても樹皮から塩分を放出することによって体内の塩分濃度が安定し、生息できるかと考えた。

A:きちんと考えていてよいと思います。マングローブの話は、今後の講義の中で紹介する予定です。


Q:根毛は表面積を増やすことができる構造として紹介された。表面積を増やすことで吸収を促進していると一般的に考えられている。たしかに吸収促進という側面もあると考えられるが,ではなぜ根毛は根の先端だけに密に存在するのか。講義によれば,根毛は寿命が短く,“1本”の根(枝分かれを除く)を見たときには先端部だけ根毛が見られるとのことであったが,効率の良い吸収を主な機能とするのであれば,寿命の長い根毛をつくり,ある程度長い期間で根毛として機能するようにしたほうが,1個体の根の表面積をより大きくできるはずである。しかし,現実にはそうではないため,根毛が先端だけに密生することに何らかの意味があると考えられる。その意味を根毛の機能から考えてみたい。ただし,簡単のため主根と側根の構造をもつ真正双子葉植物に限って考える。根の先端部は,植物にとって伸ばし始めて間もない「目新しい」場所と言える。さらに根の先端部のうち,とくに最先端の部分には根端分裂組織があり,根を伸ばす役割がある。これらのことから,根の先端部は今いる場所が水や栄養塩類の吸収という観点ではどのような場所なのかということを感知し,根をこれからどの方向にどれだけ伸ばすか,あるいは根の枝分かれを行うかということを判断する場となっている可能性が高い。このとき,根毛はその場所の水や栄養塩類の量を検知するセンサーの役割を果たしているのではないか。根毛が吸収促進よりもこのセンサーの機能を主とする構造であると仮定すると,それが根の先端部だけに根毛を密生させている理由と言える。これを示すためには,まず根毛が水や栄養塩類の量のセンサーとしてはたらくことを示すべく,根毛を生やす群と生やさない群を用意し,講義で紹介された水・栄養塩類濃度を人工的に層別に濃くしたり薄くしたりした土壌で育て,生育に差が出るかどうかを調べるとよい。根毛がセンサーとしてはたらくのであれば,根毛を生やさない群の植物は人工的な濃度層別に対して根の生やし方がそれほど変化していない結果が得られるはずである。これが示されたら,次いで,根毛において表面積を増やす機能よりもセンサーの機能が主であることを示すべく,根毛を根の先端だけでなく根全面に生やす個体を用意し,コントロールとの生育を比較するとよい。センサーの機能が主であれば,根全面に生やした個体の生育はコントロールとそれほど変化がないという結果が得られるはずである。

A:これは、根毛の成長について講義で紹介したメカニズムと全く異なるメカニズムを仮定して議論していて高く評価できます。人と同じことを考えるのではなく、自分なりの論理を展開できることは、思考を伴う仕事に必ず必要になるでしょう。


Q:今回の講義では幹から気根が出た植物が紹介されたが、自分はなぜ幹から気根を出しているのか疑問に思った。講義では熱帯地域で空気中の水分が多いため気根で水分を取り込むためだという考え方を学んだが、それ以外にもメリットが何かあるのではないかと考える。ここで、気根を突出し伸ばす際のエネルギーに注目すると、土の中から気根を突出させる際は、一度土に埋まった根を重力に逆らって土を押しのける必要があり多くのエネルギーが必要だと考えられるが、幹から気根を出せば気根を伸ばす際も重力に逆らうことはないため、土の中から気根を突出させるよりも必要なエネルギーが少ないと考えられ、これがメリットの一つであると考えられる。ただ、幹から気根を出すということは植物の地上部の重量や体積が増えることにつながり、植物体を支えるためにより根を広く張るためのエネルギーを消費することにつながるとも考えられる。つまり、幹や根に負担がかかりデメリットとなるとも考えられる。しかし、幹から気根を出す植物の一つであるインドゴムの木の写真を見ると、大量の気根が幹から出ており、一部は地面まで伸びていることがわかった。これより考えられることとしては、幹から出た気根は、地面にたどり着くと支柱根としての役割を持つようになるのではないかということだ。気根が支柱根になれば根や幹にかかる負担を軽減することができるため、大量の気根を持っても重量というデメリットをカバーできると考えられる。さらに、熱帯地域によく起こると考えられる台風からも支柱根が大量にあることで植物体を守ることができると考えられる。よって、幹から気根を出す理由としては、気根を突出し伸ばす際に必要なエネルギーが少なくて済むということに加え、気根が最終的に支柱根としての役割を持つようになるからだと考えられる。

A:これも、独創的な面白い考え方ではあると思います。ただ、着地点は、一般的な結論に落ち着いてしまっているので、むしろ前半をもっと膨らませた方がより独創的になったように思います。