植物生理学I 第3回講義

植物の葉の構

第3回の講義では、最初にバイオミメティクスの話をしてから、気孔を中心に主に葉の表皮系について講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:今回の授業では植物と水の関係を葉の組織を中心に学んでいった。蒸散や水孔によって体内にある水分を調整していた。そこから発展させて葉の撥水機能であるロータス効果について議論する。ロータス効果とはハス科などの葉に見られる効果で葉の表面上の凹凸構造が葉について、液体を液滴化して撥水するといったものだ。ここから私は撥水効果が見られる植物は水草であるという仮説を立てる。まず撥水効果は葉の表面を洗浄するという効果がある。これによって植物は呼吸や蒸散に必要な気孔を守ることができる。ハスは体のつくり上、茎が地下にあるため気孔からの酸素が必須となる。だから、気孔を守るためにロータス効果を手に入れたと考える。ロータス効果が代表されるハス科の植物は河川に生息する水草であり私の仮説を裏付ける。もう一つロータス効果を代表する植物としてサトイモが挙げられる。しかし、サトイモは私の経験上畑に埋まっていて水草ではない。ここで仮説を改め、撥水効果は地下茎を持つ植物にあると考えられる。しかし、同じ地下茎を食用とするジャガイモの葉撥水効果を持たない。それはジャガイモがナス科の植物であるからだ。ジャガイモの原産地はアンデス山脈で乾燥した地域である。そして、サトイモの原産地は熱帯地方のアジアであり、多湿な地域である。最後に再び仮説を改めると、撥水効果は地下茎を持ち水が豊富にある地域の植物に見られると言える。

A:事実を取り入れながら仮説を修正していく流れは非常に良いと思います。強いて言うと最後の「水が豊富にある」という部分がやや抽象的ですね。途中の論理の流れを考えに入れれば、より具体的に、例えば「地下茎が水に浸かっている」といった方向に結論を持っていくことも不自然ではないように思います。


Q:今日の授業で気孔は微生物の侵入経路だという話を聞いて月曜日の動物形態学・実験の授業でオオカナダモを観察したことを思い出した。そのとき観察したオオカナダモの細胞内に微生物のようなウニョウニョと動くものを発見した。微生物のようなものを発見したのは葉の裏側の細胞を観察しているときだったため葉の裏の気孔から侵入したと想像できる。では気孔から微生物を物理的に侵入させないようにするにはどうすれば良いのだろうか。そこで2つの方法を考えついた。1つ目は気孔付近に毛(トライコーム)を多く存在させることだ。そうすることによってトライコームが微生物の動きを制限し、細胞内への侵入を防ぐことができると考える。孔辺細胞に細かいトライコームを存在させることができれば微生物の侵入はほとんど防ぐことができるだろう。2つ目は逆に葉の表面を微生物や昆虫など全てが付着することができないくらいツルツルにすることだ。葉の表面に付着することができなければ侵入することは絶対に不可能である。このような方法を植物で実現できると細胞内に侵入する微生物は大幅に減少すると考えられる。

A:面白いと思います。このような場合には、大きさのスケールを充分に考慮する必要があります。毛は人間にとってはふわふわな毛であっても生物にとっては小さな生物の動きを制限するものになるという考え方は良いのですが、生物学で「微生物」といった場合には、かなり大きさが限定されます。小さな昆虫などの動きは制限されると思いますが、微生物の場合はどうでしょうか。同様に、「ツルツル」という物性も、スケールに依存したものであるように思います。


Q:今回授業で孔辺細胞は光や二酸化炭素を感知して、気孔の開閉の調節を行うということを学んだ。そこで、この感知する能力を応用できるものがないかということを考える。一定の光量を感知した時に光合成をするために気孔が開くとすると、植物が活発に光合成をし始める最低の光量がわかるから、最低限の光量で持続的に光合成をさせて酸素を供給する機構を作ることが出来るのではないかと考える。それにより最低限のコストで光合成をさせ続けることができ、その絶対量を増やしていけば地球温暖化の抑制に寄与することも出来るのではないかと考えられる。

A:面白そうな話題なのですが、あまり深く考えていませんね。例えば最低限の光量で光合成をするメリットはどのような場合に生じるでしょうか。また、この場合の「コスト」というのは何でしょうか。科学的なレポートを書く場合は、ふわっとした雰囲気で文章を続けるのではなく、具体的な例に基づいてきちんとした論理を展開するようにしてください。


Q:今回の講義で、葉の表皮には、表皮を保護や保湿などをするための毛があると教わった。葉の表皮の細胞の外側はクチクラで覆われており、そのクチクラの働きも、表皮の保護や保湿などである。葉の表皮にある毛とクチクラの働きはとても似ている。なので、葉の表皮にある毛には、保護や保湿以外のほかの役割が存在すると考えた。1つは、葉の外部からの物理的な衝撃にたいするクッションのような働きがあると考えた。クチクラは硬いので、外部から何らかの衝撃が来た際に、クチクラで衝撃を受けると、葉に大きな衝撃が伝わる。しかし、毛はクチクラよりも柔らかいため、衝撃を緩和することができる。また、細かい毛があることで、水をはじくことができると考えられる。雨などで葉が水浸しになってしまうことにより、気孔がうまく機能しなくなる可能性がある。しかし、毛が水をはじくことで、気孔が雨などから守られ、機能しなくなる可能性が低くなると考えられる。

A:クッションになっているというアイデアは斬新でよいと思います。ただ、自然界で想定される「物理的な衝撃」がどのようなものであるかをもう少し具体的に仮定しないと、それに対する防御として役立つかどうかを判断できないのではないでしょうか。葉が風でお互いに触れあうような衝撃を仮定するのか、それとも何かが激しくぶつかることを想定するかによって、必要なクッションはだいぶ違うと思いますから。


Q:今回の講義では植物の葉の構造について学んだが、気孔の開閉が行われる理由について疑問に思った。気孔の閉鎖は、1)「孔辺細胞に蓄積されたカルシウムイオンを排出することで引き起こされ」る。そして気孔の開口は、2)「細胞膜のカリウムチャンネルが脱分極に応答して」引き起こされる。このことから気孔の開閉は、孔辺細胞内の葉緑体が光合成をするためにカルシウムイオンを排出する必要があるからだとかんがえられる。
参考文献 1)2) 気孔の働きと開閉のしくみ、https://jspp.org/hiroba/essay/kinoshita.html 2021.4.24

A:これだけだとさすがにレポートとしてはちょっと。もう少し頭を使って表現できませんか。


Q:今回の講義では、植物の水事情について学んだ。例えば、植物は二酸化炭素よりも水の確保を優先すること、水孔によって余った水分の排出を行っていることなどである。ここで、私が疑問に感じたのが、なぜ植物は水分を貯蔵するということをしないのか、ということである。恐らく一部の水を貯めることはしていると思うのだが、それでも植物の生態を考えると、もっと液胞のような特別な場所を確保し貯蔵することは可能であると感じたのである。また、水孔による水の排出も知識としては知っていたのだが、なぜ、一か所で排出せずバラバラに排出するのだろうかと疑問に感じた。ここで、ヒントになったのが、蒸散流という言葉である。これは、気孔による蒸散によって根→葉への水分の流れを作り出すという仕組みのことである。この仕組みを維持するためには、出すものは出し流れを生み出さなくてはならず、このために貯蔵が抑えられているのではないかと考える。さらに、この仮説の有力性を示すものとして、根からの栄養分についても考える必要がある。植物の水分確保の手段は、根からの吸収と気孔からの水蒸気としての獲得が挙げられるが、前者は根からの栄養分が含まれているのに対し、後者は(言い方は悪いが)ただの水である。当然、後者を貯蔵させることは植物にとってオイシクはないだろう。以上のことから、植物は、①蒸散流を維持し、②オイシイ水分を確保するために、わざと水分を排出しているのではないかと考える。さらに、水孔が葉の全体に広がっている点も、栄養分が含まれる水を葉の隅々にまでいきわたらせるためのパイプラインだと考えると納得のいくものである。この仮説を検証するためには、着色や放射線同位体を用いて区別できるようにした水を、2つのルートで取り込ませ、水孔からの排出量やその割合を調べることで、一定の結果が得られるのではないかと考える。

A:よく考えていることがわかり、内容も素晴らしいと思います。根から吸収する水の中の無機栄養の重要性に目を付けたところも評価できます。一つだけ、水の「気孔からの水蒸気としての獲得」はあり得ません。気孔の内側の細胞間隙の湿度はほぼ常に100%なのに対して、葉の外の湿度は最高でも100%ですから、水は常に中から外へと移動することになります。


Q:飛行機と葉の形が近いというお話から、自然における色合いや構造を真似することで、より強く、より美しいモノを作ることができると考える。理由は2つある。1つ目は芸術における美しいグラデーションは自然の風景の色合いを転用したものが多いからである。2つ目は蜂の巣に使われている六角形の構造である。例えば、1つ目に関しては「Adobe」を筆頭とした自然の風景から色を抽出するソフトが続々と作られている。また、風景の色合いは、デザインにおいて美しいと感じる条件を満たしていることが多い。このことからも分かる通り、自然における色と人間が美しいと感じる色は相関が強いと言える。2つ目に関しては今まさにレポートを書くために使用しているスマホのケース、「iFace」に使用されている。iFaceをよく観察してみると、多数の六角形の素材を組み合わせて作られていることが分かる。六角形を数学的に考えると、平面充填ができること。面積あたりの周の長さが、他の単純な図形に比べて小さいこと。衝撃に強い三角形の構造を持っていること。などが挙げられる。つまり、数学的にみても理にかなっているのである。以上のことから、長い年月をかけて進化した自然の形や色を分析することで、理にかなったモノを見つける時間を圧倒的に短縮できると考える。

A:面白い文章で楽しく読めましたが、科学的なレポートとして評価する場合には、論理の厳密性という点でもう少し改善できるように思いました。1つ目に関して言えば、挙げられた例は確かに自然と人間の感覚が近いことを示していますが、完全に人工的なマンハッタンの摩天楼を美しいと感じる場合もあるでしょう。また、自然界には「気持ち悪い」とされるものもたくさんあります。都合がよい例だけを取り出して論理を進めることは比較的簡単で、普通の文章としてはそれで全く問題ないのですが、科学レポートとしては、別の考え方に基づく反論をも想定した形で論理を進めることが望まれます。


Q:今回の授業で植物の裏側に気孔があるメリットとして微生物の侵入を防ぐことができることと雨水を防ぐことができることが挙げられており、そのためほとんどの植物は葉の裏側に多く気孔をもつと学習したが逆に水中生物以外で表側に気孔をつけることがメリットになる植物はないのだろうか。例えば、タンポポは葉がロゼット状になっている。この構造を持つと葉は地面にほど近くなる。よって地面にいる微生物は葉の表側よりも裏側から侵入しやすいといえるだろう。したがって微生物侵入という観点のみだとタンポポは葉の表側に気孔を持つ方がよいと考えられる。しかし、雨水は葉の表側に降り注いでしまう。雨水は気孔の働きを阻害してしまうため微生物の侵入のしやすさを考慮しても葉の裏側に気孔をつけたほうがメリットは大きいと進化の過程でみなされたと考えられる。逆に雨が降らなければこの問題は発生しない。よって、雨が降らない地域では葉の表側に気孔をつけたほうが良い植物が存在すると考えられる。

A:面白い考え方だと思いますし、最後の結論も、実際にそのようなことがあるのかどうか、調べたくなります。一つだけロゼット葉について補足すると、実は地面は二酸化炭素の発生源なのです。土壌中には呼吸する小動物や微生物がいて、さらに植物の根も呼吸をします。一方で光合成生物はほとんどいないので、呼吸による二酸化炭素の放出の方が光合成による発生より大きくなります。なので、ロゼット葉の下側は、いわば二酸化炭素が濃縮されていて、気孔を持つには非常に良い場所なのです。


Q:植物の表皮の細胞は葉緑体を持たないものが多いが、孔辺細胞は葉緑体を持つ。その理由についてはいまだ謎が多いが、九州大学大学院の研究によると、孔辺細胞の葉緑体はその他の光合成細胞とは独自の脂質代謝経路を持ち、CO2による気孔開閉応答に関わっているとのことである[1]。ここで、気孔の開閉応答といえばフォトトロピンによる気孔の開口と、アブシシン酸による気孔の閉口が存在する。フォトトロピンが青色光を受容すると気孔が開き、植物が水ストレスを感知するとアブシシン酸の合成が進み気孔が閉じられる。つまり植物は別々の気孔開閉機構を持ち、それぞれの引き金が違うということである。これはなぜか考えると、光合成には水、CO2、光の3つの要素が必要であり、それらのバランスを取らなければいけないからだろう。たとえば弱光かつCO2濃度が高い天候のことを考える。このとき気孔の開口をフォトトロピンのみに頼っている場合、光を受容しないため気孔は開かない。しかしCO2濃度は高いため、多少光が弱くても光合成したほうがよい。この時に孔辺細胞の葉緑体がCO2濃度を感知することで、効率のよい光合成をしていると考えられる。
・参考文献 [1]九州大学ホームページ なぜ気孔には葉緑体があるのか?植物科学の長年の謎に迫る、https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/273 (2021/4/24閲覧)

A:悪くはないのですが、問題設定は、ちょうど中ほどの「これはなぜか考えると」の直前の文ですよね。ここにCO2の話が入っていないので、九大の研究の紹介が生きません。環境要因が3つあるのでややごたごたしたのかもしれませんが、もう少し説明を整理するとよいレポートになると思います。


Q:ハスは、葉が空気に触れており、気孔がある。一方で、同じような植物のスイレンは葉の下が水に浸かっているため、葉の裏には気孔がないと聞いた。そこで、そもそも葉も全てが水中にある水草は、どのように呼吸しているのだろうかと疑問に感じた。調べてみたところ、どうやら「水生植物は気孔の数を減らし、空気が行き渡るように細胞間隙を発達させ、通気組織と呼ばれるものを持つ」ようになったようだ。では、スイレン等の水生植物は、もともと被子植物の仲間であるのにも関わらず、なぜ生活の場を水中移したのか考えた。陸上に存在する利点と水中に存在する利点に着目した。陸上では、光と空気に恵まれている。しかし、水や温度の変化に対しては水中の方が有利である。それに体をささえるしくみも陸上ほど必要ないのではないか。だから水中に移動したと考える
1生態学講座3巻 水界植物群落の物質生産[水生植物]、共立出版p 5

A:前半は調べて答えを見つけただけなので評価の対象になりません。「では」以下の後半は、自分で考えているようですが、これだけだと単に「自分はこう思う」というだけなので、もう少し論理の展開が欲しいところです。また、有利だから水中に移動したのだとしたら、多くの植物が地上に残った事実を説明できませんよね。


Q:今回の講義で気になったのはスイレンの気孔が葉の表側にあるという事実についてである。一般的に地上に生息する植物の気孔が葉の裏面にあることを学んだ。講義中では雨水やほこり、微生物の侵入可能性などが挙げられていたが、ほかにも日光が当たる表面では水分が蒸発して失われやすいことや孔があることによる光合成効率の低下などが考えられる。葉の表側に気孔があることのデメリットがいくつか挙げられる中でなぜスイレンはこのような形態をとっているのか考察する。葉の表以外でスイレンが空気と接する部分はないため気孔を他の部分に作るという選択肢は考えにくい。そのため気孔を作らないとしたら完全に水中で生活する水草のように水中で酸素や二酸化炭素、水のやり取りをする必要がある。水中では気体の拡散速度が空気中にくらべてとても小さくなる。葉の表面に気孔を置くデメリットよりも気孔を使って空気中から二酸化炭素を取り入れたときのエネルギー効率の高さが大きかったということが考えられる。もともとスイレンが地上生活をしていた名残であると考えるのはどうであろうか。地上ですでに気孔を獲得していた場合気孔は生命維持にかなり重要な役割を負っているため失われにくく、生息環境が水中へと変遷し、世代交代が進む過程で気孔が徐々に葉の表側に移動していった可能性も挙げられる。

A:よく考えているのはわかります。一方で、問題設定と全体の結論が必ずしもマッチしていないように感じます。例えば、最後の進化的な考察は、問題設定に対する直接の回答にはなっていませんよね。普通の文章としては全く問題ないのですが、科学的なレポートしては、論理の展開をもう少し一直線にした方がよいと思います。


Q:今回の講義の中で、植物の活気的な構造や仕組みを人の技術に応用する「バイオミメティクス」の話があった。そこで、自分が考える植物の活気的な仕組みの応用法を提示したいと考える。その仕組みとは、植物間コミュニケーションである。参考文献(1)によると、「植物の根が生長に必要な栄養分を土壌から吸収するとともに、化学物質を分泌して」おり、これらの化学物質が起こす変化が「周囲の他の植物にも影響を与える可能性が高い」とある。物質の分泌によって他個体との環境調節をしているのである。この「ある物質の吸収と同時に分泌を行い、その状態から環境調節を行う」という機構を、電車の車内混雑防止に応用できるのではないかと考えた。ある駅で乗客が乗り込むと同時に、一車両の規定人数を超えた場合、超過人数を乗客に提示し、他車両に移動させるシステムだ。移動させることにより電車全体の人数配分調節を行うことができ、無駄な車内混雑を避けることができる。以上より私は、植物間コミュニケーションの機構を応用し、電車の車内混雑を緩和するシステムを提示する。
参考文献 (1)AFP BB News 科学者が植物間の「コミュニケーション」方法を解明https://www.afpbb.com/articles/-/3273896?act=all&pid=3273896003、閲覧日:2021.4.24

A:アイデアは良いと思います。ただ、厳しいことを言うと、ポンとアイデアを出しただけで、論理の展開はあまり感じられません。混雑防止システムは物質を使う以外の方法でも可能でしょうから、そのような例を一つ上げて、それに対して物質を使う方法の優位性を論じるようにすれば、より科学的なレポートになります。


Q:今回の講義では生物の構造や機能を人間の技術に応用する「バイオミメティクス」が紹介されていたが、自分は身近な生物を用いた新たなバイオミメティクスの例について考察してく。今回自分が取りあげたのはヤモリで、特に手足の構造に注目する。ヤモリと言えば壁や天井などにくっついている姿がイメージできるが、ヤモリがくっついている仕組みを人の技術に応用できないかと考えたのだ。まず、ヤモリが壁にくっつく仕組みについて調べると、、ヤモリは“乾燥接着”という複雑なシステムを使っていることが分かった。これはファンデルワールス力を使ったものであり、「ヤモリの足指には非常に多くの微小な剛毛が生えており、さらに剛毛は枝分かれして無数の小さなヘラ状構造の接着点になっており、これで接着面積を最大化し、体重の負荷を分散させ、自身と接着面との間に働くファンデルワールス力で体を支える」(*1)というものだ。つまり、先端にヘラ状構造を持った非常に多くの剛毛があれば壁などに接着することができると考えられる。ここで、ヤモリの接着方法の利点を考えていく。1つは、接着面が粗面でも問題ないということだ。吸盤などは通常滑らかな平面にしか接着できないが、この構造を利用すれば凹凸のある壁などにも接着することができる。これを使い、人が災害現場などで救助の際にビルなどの垂直の壁を上がる際の補助具として使えるのではないかと考えたが、ヤモリの壁との接着面積と支えることのできる重さが比例すると考えると、ヤモリの壁との接着面積を1cm2、体重を3gと仮定するともし体重60㎏の人間が壁にくっつくには2m2もの表面積が必要であり、あまり現実的ではないと考えられる。そこで、もう一つの利点を考えた。それは接着面に傷や跡などを残さないことだ。人間が壁にモノを接着する場合は画鋲やテープなどを使い、この際に傷や跡が残るのが問題だがこれを解決できる。また、ヤモリの接着構造は電源などを必要としない利点もある。よって、ヤモリの構造を応用して、「壁に傷や跡を残さずにある程度軽いものを接着できる」ような接着面に先端にヘラ状構造を持った非常に多くの剛毛がある装置を開発することができるのではないかと考えた。具体的には、ビルの壁などの広告を接着する装置や、家の壁にポスターや時計、カレンダーなどを接着する装置である。先端にヘラ状構造を持った剛毛を作るのに高度な技術が必要なのかもしれないが、それ以外にはコスト的にも問題ないと考えられる。
参考文献(*1)ヤモリ、足裏の吸着と解除のしくみ解明.ナショナルジオグラフィック.https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9585/(参照日:2021/04/20)

A:これは、問題設定から論理の展開から定量的な検討まで、きれいにまとめていますね。感心しました。少し長いですが、論旨が明快なのでそれほど長さを感じさせません。素晴らしいと思います。