植物生理学I 第9回講義

植物の根

第9回の講義では、前回の続きとして、道管の形成と細胞壁について説明したのち、植物の根について、形態の多様性や、機能的側面を中心に講義を進めました。


Q:今回の講義では根について学習した。根の役割には水やイオンの吸収、貯蔵器官、植物体の支持などの役割がある。また、植物の根には主根と側根にわかれる植物と、ひげ根をもつ植物とに分けることができる。そこでそれぞれの根の強みについて考えてみた。まず、主根と側根に分かれる根では植物体をより頑丈に支持できることが考えられる。そのため、植物体が大きく育つものではより有利に働くと考えられる。ひげ根を持つ植物では根をより広範囲に伸ばすことができるので、周囲の栄養が潤沢である際により多くの栄養分を取り入れいることができるので、有利に働くと考えた。これらをまとめると、主根側根タイプの根を持つ植物は周囲の植物が生息している環境では背丈をより高くしても植物体の支持が行えるので、光の獲得という面で生存に有利である。それに対して、ひげ根タイプの植物では周囲に植物が生息していない場合により多くの栄養を土壌中から取り入れることができるので、栄養面では生存に有利である。このように周囲の環境によって植物の根はより生存に有利になるように発達しているのではないかと考えた。

A:きちんと考えていてよいと思います。ただ、内容的には、これとほぼ同じロジックのレポートが他にも2つほどありました。できたら、自分ならではと言える論理構成のレポートをお願いします。


Q:講義の中で、クローナル植物について紹介された。クローナル植物におけるジェネートとは遺伝的に均一な植物体全体を指す言葉であり、個体になり得る部分や地上部のことをラメートと呼ぶ。今回はクローナル植物のような繁殖方法をとるメリットやデメリットについて考察していく。クローナル植物の生存戦略における最大のメリットは、地中で個体同士が繋がっていることである。ジェネートは地中で繋がっているので、種子植物よりも確実に繁殖することができるのではないかと考えた。また、栄養が豊富に存在している時には、新たな個体を種子植物よりも短期間で増殖させることができ、種の占有面積を増やすことに長けているのではないかと考えた。地表における占有面積を大きくすることで、その地域を独占し、その地域で繁栄しやすくなると考える。しかし、デメリットとして、ジェネートは遺伝的に均一な情報からなるために、環境の変化には適応しづらい種なのではないかと考えた。調べてみると、クローナル植物にはアシやササなどがあり、これらの植物が生息する地域では急激な環境の変化が起こりにくいのではないかと考える(アシは湿地、ササは林床に生息している)。このことを踏まえると、クローナル植物はある一定の地域を独占することができ(競合する種がいなく)、急激な環境の変化が発生しづらい場所において優位に繁栄することができるのではないかと考える。

A:きちんと考えているのですが、同じような展開のレポートが他にもありました。ただ、その中では、いろいろと複数の視点から考察をしていて、十分に評価できます。


Q:今回の講義内容の中で、オヒルギやラクウショウで見られる気根が特に印象に残った。ただ、オヒルギは日本では亜熱帯域に属する南方の一部の離島にのみ生息、ラクウショウは北アメリカ原産であり、日本本土に古くから土着している気根を形成する樹種は思い当たらない。この理由を考察する。日本本土で、気根を形成する樹種の生育環境と近い環境、つまり水辺に生息する木にはヤナギ、ハンノキなどがある。これらは主に河川敷で見かけられる。河川敷のこれらの樹種は冠水もしばしば起こる環境にも拘らず、気根を形成せず、草本ではない為イネ、ヨシ等のように通気組織も発達させない。その為、特に冠水頻度が高い場所では酸素の取り込みに適しておらず根張りが浅い傾向がある(1)。 このように一見環境不適合にも拘らず生息する理由として、河川を利用した生息域拡大の容易さが考えられる。日本は島国であり、河川は大陸の河川に比べ短く且つ急勾配であり、大雨による増水で上・中流に生えている木が流される事が度々ある。ただ、これにより中・下流域の河川敷に流木が漂着し、その非壊死の流木から芽吹いて結果的に生息域を拡大できるという特徴がある。そのため、日本本土のヤナギやハンノキは気根を形成して酸素を取り込みつつ強固な根張りで定着するよりも、浅い根張りで流された方が種の繁栄を考えれば効率的であると考えられる。このように日本本土に古くから土着している気根を形成する木が見られないのは、日本本土の地質学的、河川学的特徴によるという事が示唆された。
《参考文献》(1) 桜井善雄. 水辺の自然環境 一特に植生のはたらきとその保全について. 人と自然 Humans and Nature, No. 3, P.14, March 1994

A:面白い考え方ですね。独自性があってよいと思います。ただ、ヤナギの流木が芽吹いて生育範囲を拡大するというのは、実際にどの程度役立つのでしょうね。そのような例がありそうではあると思う一方、それが、繁殖効率の増大に実際に役立つほど量的に寄与している可能性はあまり高くないと思うのですが。


Q:水草がどのような根を持つのかについて考えたい。陸上の植物では、水分や各種イオンの吸収を根が担っているが、水草では葉や茎からも水に溶解している養分を取り込む事ができる。そのため水草の根は植物の固定に特化していると考えられる。この観点から考えると、根全体の表面積が広いが、根が細いひげ根は適していないと考えられる。一方で、表面積は狭いが根が太く、植物の固定力が強い主根はより水草に適していると考えられる。また、陸上植物と水中植物の大きな違いとして水中には浮力が存在することである。浮力によって植物は全方向から休むことなく外力を受ける状態に置かれる。この環境への順応としては、植物はコケ植物のような吸着根のような構造を持っているのではないかと予想できる。

A:これは、着目点は良いと思いますし、考えていることもわかります。ただ、全体の論理構成が一つのレポートとしてまとまっていない感じがしますので、そのあたりの工夫があるとさらに良いでしょう。


Q:根と聞いて最初に思い出すのは、カンボジアに行ったときに見た「タ・プローム」という遺跡だ。この遺跡はガジュマルの気根に侵食されており、遺跡のその部分は崩壊されていた。ガジュマルは、その実が鳥によって食べられ、種が排出されることで植えられる。たまたま遺跡の上に種が落ちて、それが巨大な木にまで成長したわけだが、なぜ根が遺跡の下の地面にたどり着くまでに、それらが枯れなかったのかという疑問を抱いた。これは、気根の部分でも樹木が成長できるだけの水を空気中から吸収することができるからではないかと考えた。そう考えると、ガジュマルの気根の機能には、植物体を支えることやより光を獲得しやすいようにすることだけでなく、空気中の水分を吸収するという役割も含まれていることが推測できる。

A:これも着想は良いのですが、疑問の後は文2つで終わっています。最低限のロジックにはなっているとは言え、なぜそのように考えたのか、という説得力などの点からすると、やや薄っぺらい印象を与えてしまいます。もう一息ですね。


Q:根は水を吸収する器官であるが、常に根が水に浸っていると根は呼吸ができなくなってしまう。ではイネなどの水を張った場所で生育する植物はどうなのかという問いに対して、低酸素ストレス下では根に通気組織が形成されるということが紹介された。これについて調べてみると、通気組織の形成は本来細胞があった場所でプログラム細胞死が発生していることによるものであると述べられていた(*1)。細胞がなくなることは、植物体を支持する力の低下や物質の運搬効率の減少といったデメリットがあると考えられる。こうしたデメリットの減少を図る意味合いもあって、畑を耕したり田んぼの代掻きを行ったりして土に空気を含ませることは農業において重要であるのではないかと考えた。
*1 名古屋大学生命農学研究科植物遺伝育種学研究室HP, https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~ikusyu/contents_nakazono.html (2019/6/15)

A:これも、調べて面白い題材は見つけているのですが、その後、デメリットを考えて、農業への影響を考えるのは、それぞれ1文で終わってしまっています。やはり、厚みみは欠ける印象を与えます。


Q:今回の授業で割れる樹皮について、幹が成長する際に樹皮は成長しないため、増加する円周に対して縦方向に割れることで成長を続けられるという話があった。このような樹皮の成長への対策として、縦方向への割れ以外にも樹皮が剥がれ落ちるというものが紹介されていた。しかしなぜ樹皮が縦方向に割れることを選択した種と樹皮を完全に剥がれ落ちるようにした種に分かれたのだろうか。私は他の動物からの食害への応答の違いであると考える。樹皮を剥がれ落ちる種は、表面の凹凸を最小限にすることで対応していると考える。このような種として、早稲田でも街路樹として見かけられるサルスベリが挙げられるが、この木は極めて幹の凹凸が少ない。これは樹皮が剥がれ落ちることで実現されており、このメリットとして、サルスベリの果実を種ごと齧ってしまうリスなどの哺乳類に登られにくくなり、果実を丸呑みする鳥に選択的に果実を食べさせ、糞として広い範囲の繁殖が狙える点が挙げられる。対して樹皮が縦方向に割れる種は幹を厚い樹皮が覆い続けるため、樹液を餌とする昆虫や甲虫に対するガードとしてはたらくと考える。このように、種子を重視するか幹を重視するかの選択によって、樹皮の成長に伴う対応が異なると考える。

A:このような論理展開で書かれたレポートは初めてだったように思います。よく考えていて評価できます。レポートとしてはこれで十分なのですが、ここまで書かれると、サルスベリの果実がどのようなものであるかの記述が欲しくなりますね。


Q:今回の授業では厚角細胞と厚壁細胞について興味を持った。厚壁細胞は細胞壁全体が肥厚していてリグニン化が進み、成熟すると原形質を失う。厚角細胞は細胞同士が接着する部分の細胞壁が厚くなっている。柔軟性と可塑性を兼ね備えている。ここで私は、厚角細胞から厚壁細胞に変化することはあるのか、ということに疑問を持った。厚壁細胞は、厚角細胞よりも固いので植物体の支持に働いているので厚角細胞よりも外側に存在している。例えば植物が茎を太くしようとするときは、厚壁細胞を増やす必要があると考えられる。その時には維管束の周りに存在している厚角細胞が厚壁細胞に変化することはあると考えられる。細胞壁の肥厚が進行すると考えられる。厚角細胞はリグニン化が起きておらず、柔軟性も保たれているので、器官を支持しながらも柔軟性が必要なときには、厚角細胞が必要になると考えられる。そのため、厚角細胞がすべて厚壁細胞になることはなく、器官ごとにちょうどよい割合に調節されていると考えられる。
[参考文献]植物生理学会ホームページ.みんなのひろば植物Q&A.登録番号2216.(参照日2019-6-15) https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2216

A:着目した観点も面白いですし、よく考えていることもわかります。ただ、文章全体としての方向性がやや見えにくいですね。問題設定は、二種の細胞間の変化があるのか、という点で、それに対する答えも記述されているのですが、その前後の文の流れが必ずしも明確ではないように思いました。