植物生理学I 第8回講義

水ポテンシャル

第8回の講義では、植物における水の移動の原動力となる水ポテンシャルを点を中心に講義を進めました。


Q:つる植物は他の植物に巻き付くことによって自身を力学的に支える必要がなく、茎の大部分を導管にすることができるため蒸散流速が非常に速い。これによりつる植物は大量に光合成ができるようになり成長速度が速く茎を長く伸ばすことができることを学んだ。ではつる植物が巻き付くためのビルや建築物が立ち並ぶ東京でなぜそこまで見かけないのかについて考察しようと思う。上記の理由だけで植物の生息域が決まるならばタンポポがつる植物よりも見かけられることはないはずだ。第一に考えたのは、都会は熱帯雨林に比べて地面に光が多く差し込むことでタンポポなどの草本が育ちやすくなり、土壌の栄養の奪い合いがはげしくなって成長が阻害されてしまう可能性だ。しかし、熱帯雨林でも大型の植物が生息しているため土壌の栄養の奪い合いは起きており、結局栄養面では説明がつかないと考えた。次に、東京の湿度は熱帯地方よりも低いので光合成する際に多くの水分が失われることが原因と考えた。植物が光合成する際には気孔を開いて二酸化炭素を取り込むが、その際に気孔から水分が蒸発してしまう。湿度が高ければこの時に失う水分が少ないが日本の場合は熱帯地方よりは低いので失う水分が多いので、光合成に必要な水分の確保が難航してしまうことが原因と考えた。

A:後半は、都会と熱帯の比較になっていますが、熱帯の話が前半に出てこないので、読み手は面食らうことになります。「ビルや建築物が立ち並ぶ東京で」という問題設定の部分を、「熱帯と同様に建築物などの巻き付くためのものがたくさんある東京で」とするだけで、だいぶ文章が読みやすくなると思います。


Q:今回の講義では、導管による輸送が毛細管現象によるものではないことや、導管の内部にリング状の構造があることを学んだ。ここで、私は、リング状の構造が導管のみに存在し、篩管には存在していないことに着目した。講義では、内部が陰圧のほうが構造的に弱いため、導管には必要で篩管には不要という説明があった。この説明はとても分かりやすく、よく理解することができたが、毛細管現象と関連付けて考えることもできるのではないか、とも考えた。僕自身は流体力学には詳しくないが、リング状の構造があり、「ところどころくびれて細くなっている」1)ことで毛細管現象が起こりやすくなっている1)とのことである。講義では、導管が凹凸のない普通の円柱で、しかも蒸留水が流れるという条件で計算した結果から、毛細管現象(マトリックポテンシャル)はほとんど関与していないという解説があった。しかし、実際には導管には凹凸があり、蒸留水より粘性が高い液体が流れるため、毛細管現象(マトリックポテンシャル)もかなり大きな割合を占めているのではないかと考えた。これを実証するための方法を検討したとき、文献2)の方法が参考になると考えた。文献2)では、種子における水の輸送が、毛細管現象によって行われることを証明している。そのために、本物の種子とポリジメチルシロキサン(PDMS)製の人工種子で、水に浸したときの重量の経時変化をモニターする実験と、本物の種子にヨウ素水溶液の浸透の様子をX線CTで観察する実験を行い、最終的に2つの実験結果をシミュレーション結果と比較している。導管の場合、細すぎるため、人工的に模倣する最初の実験は難しそうだが、2つ目のX線CTの実験は行えそうである。すなわち、導管内の水の挙動をX線CTで観察し、それとシミュレーション結果を比較し、導管による水輸送における毛細管現象の寄与を明らかにすることができると考えられる。
参考文献
1) 日本植物生理学会HP みんなの広場 登録番号2288 2019年6月6日閲覧、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2288
2) Jean-Francois Louf et al. Imbibition in pkant seeds. Physical Review E. 2018, Vol.98, No.042403, pp.1-5

A:非常によく考えていてよいと思います。ただ、これだけだと、「シミュレーション結果と比較」すると、なぜ毛細管現象の寄与を明らかにすることができるのかが読み手には伝わりません。説明の仕方に関してそのあたりに改善の余地がありそうです。


Q:今週は講義内で、植物の高さと導管の太さの合計との関係を示す図としてパイプモデルが紹介された。この図では下のほうほど導管の量が多くなることを管の数で示しており、外側の筒は下側の枝となって上に行くと内側の筒しか残らないといった図であった。しかし、この図について実際の木本ではどうなっているか考えると、木本は上へ、幹は外へと成長するため外側と上側の導管が対応するべきなのが、授業内のパイプモデルでは外側の管と下の枝が対応するため、幹の太さについては説明可能だが導管のつながりについては説明が不十分になってしまうと考えた。これより、この点についても説明できる図を考えると、内側のパイプが下の枝として外へ伸びていき、外側のパイプは一番上の枝になる図が考えられると考えた。またこれと関連して、あまり先細りの木が好まれない林業で育てるような木で枝打ちを行うのは、内側のパイプをあまり充実させないようにして幹の下のほうをあまり太らせないようにし、上下の太さの差を減らすためと説明できるのではないかと考えた。

A:なるほど、面白い考え方ですね。樹木の幹が太るのは、形成層における細胞分裂によっていて、その際に、形成層の内側に木部、外側に篩部が作られます。その意味では、確かに新しい木部は、古い木部の外側である形成層寄りに作られることになりますから、ここで考えられているようなイメージにも一理ありますね。ただし、篩部は逆に新しいものが古いものの内側に作られることになります。


Q:第8回の講義で植物の蒸散流速を扱った。そこでは、針葉樹林や硬葉樹林の蒸散流速の最大値が0.5-1.5 m/hであるのに対し、草本やつる植物では10-50 m/h、150 m/hと30倍から100倍速い。それは、つる植物の場合では自分の体を自分で支える必要がないため、体を支える基本組織系にコストを割いたのではなく、維管束系にコストを割いたからだと学んだ。しかし、平均流速で考えると、30倍から100倍の話で済むが、草本と針葉樹林や硬葉樹林などの樹木のサイズの差を考えると、草本の中の水は樹木に比べて莫大な量の水が循環していると考える。なぜこのように草本では多くの水が体内を循環するのかを考えた。それは、草本が樹木よりも短期間で成長するため、樹木に比べて光合成量が多いからという考えである。樹木は地上に出ている茎が太り続け、長い間存続する植物であるのに対し草本は地上に出ているシュートが短期間で枯れてしまう生育方式である。したがって草本のほうが短期間で成体のような状態に成長するため光合成を盛んに行うため蒸散量を増やしているのだと考える。

A:基本的な考え方は良いと思います。ただ、木本であっても、光合成は高い方がよいのではないでしょうか。木本でも草本でも光合成を高くしたいのに、草本でだけ光合成が高いのであれば、それは結果であって、むしろ蒸散の差がその原因なのかもしれません。その場合、蒸散の差の原因は、光合成以外に何か別にあることになりますね。


Q:今回の講義では、道管の壁の裏打ち構造がらせん状になっていることを学んだ。これは、掃除機のホースと類似しているということであったが、今回のレポートでは、らせんの間隔について注目して考えたい。地面に対するらせんの角度を「傾き」と定義すると、間隔が狭いほど傾きは小さく、間隔が広いほど傾きは大きいということになる。このらせん状の構造は柔軟性を高めるためにあるのであれば、間隔が狭いほうが柔軟性は低く、間隔が広いほうが柔軟性が高いことが想像できる。そこで、この間隔は何に依存するかについて、二つの仮説を立てた。一つめは、植物によって異なるという説である。というのも、強風や外力に耐えるのに必要な柔軟性は植物によって様々であると考えるためである。二つめは、一つの植物の中でも道管の位置によって異なるという説である。これは、茎が形成されていくにあたって引っ張られる力が加わり、ばねのように伸びた結果、間隔が広くなるのではないかと考えたためである。一つ目の仮説がWhyであるとすれば、二つ目の仮説はHowに近い理論であるため、これらの二つの仮説は相反するものではなく、共存しうる。そのため、仮説を検証するためには、実際に十分な数のサンプルを収集し、それらの様々な部分の道管を顕微鏡で観察してみることが必要であると言える。

A:よく考えていてよいと思います。ただ、講義の中で写真で示したと思いますが、らせん状のばねのようなセルロース繊維の外に、リング状のものもありますので、伸び縮みのためにらせん状になっている、という解釈にはやや無理があるように思います。


Q:今回の授業で印象に残っているのは、普通に気圧と水圧から考えると水は10mまでしか吸い上げられないが、実際には蒸散、根圧などの工夫によって100m近い大きな木も水を吸い上げているという話です。今回考察したいのは寒い地域で生育している針葉樹についてです。針葉樹の多くは10mを大きく超える高さをしていますが、生息地の寒い地域の空気中にはそれほど水分がないため、水分を保つために気孔が閉じ、蒸散はあまり行われないと考えられます。これでは、針葉樹は水をあまり吸い上げることができません。ここで針葉樹が非常に大きい理由について疑問に思いました。蒸散による水の吸い上げが行われにくいのなら小さい方が有利だと考えたからです。実際、寒い地域同様蒸散が行われにくい砂漠のオアシスに生えている木は針葉樹ほど大きくありません。では2つの場所の代表的な違いは何かというと、気温と緯度の差による光量です。このうちこの原因は光量にあると考えました。光の不足しがちな高緯度地域なので水分を犠牲にしてでも光を求めて上へと成長したと考えられます。

A:やや論理が追いかけにくい感じがしました。非常に高い木では、蒸散を補うために水を吸い上げるのが大変だ、というのはその通りだと思います。しかし、寒い地域の樹木では蒸散があまり起こらないのであれば、背が高くてもそれほど問題なくなるのではないでしょうか。


Q:講義中、導管による水の吸い上げが速いほど、気孔を開くことのできる機会が増え、光合成活性が増大するという話があった。光合成の気体交換と蒸散が表裏一体であるようなイメージは新鮮で、興味が湧いた。夜間に気孔のほとんどを閉じてしまうことからも、蒸散が主に光合成のために行われていることが伺える。ここで生じる疑問が、周囲の空気の湿度が下がると植物は気孔を閉じるという応答を示し、光合成活性を落とすのはなぜかということである。先ほど示した考えでいけば、植物としてはいくら水が蒸発しようと継続して水を吸い上げさえすれば問題ないように思われる。これについて2つの仮説を考えた。一つは、水を吸い上げすぎると、地中の水の枯渇を招いてしまうため、これを防ぐために蒸散で失う水の量を少なくしているのではないかということである。もう一つは、あまりに活発に蒸散を行うと、導管の太さで規定される蒸散流の速度を超えてしまい、圧ポテンシャルの低下により導管内の水が切れてしまうため、これの防止のためではないかということである。

A:これはよく考えられていますし、説明もきちんとしています。強いて言うと、結論があまりにも教科書的なので、やや独創性に欠ける印象を与えるかもしれません。


Q:今回の講義では、道管のらせん構造と掃除機のホースのらせん構造が似ているという話があったので、掃除機のホースの利点・欠点を挙げ、それをもとに道管のらせん構造の意味を考えていきたい。掃除機のホースをらせん構造にするメリットとは強度を保つことと曲がりやすくすることである。逆に、らせんにすることで生じるデメリットは、生産コストの上昇と吸引の抵抗が増すことである。これらのことから、仮に植物が吸水効率を一番に考えているなら、道管の全体を細胞壁で裏打ちすることで強度を上げ、抵抗を減らすために管の表面を平面にするはずである。実際には、そうなっていないことから、植物体では吸水効率を上げるだけでなく、茎の柔軟性を確保すること、また細胞壁のコストを減らすことも重要視されていることが読み取れる。人によるホースの研究開発と同じように「強度・柔軟性・生産コスト・効率」のバランスをとった結果、このようならせん状の管につながったと推測できる。

A:説明が不足していたかもしれませんが、リング状の構造があって、それが陰圧に対して十分に耐えられるのであれば、そのリング状の構造の外側に被膜を張った場合、被膜には引張の力がはたらくことになりますから、それほど頑丈にしなくても強度を保てるのです。ですから、「道管の全体を細胞壁で裏打ちする」必要性は、あまりないと考えられます。


Q:今回の講義で、細管中の液体の通導量は半径の二乗ではなく四乗に比例するというハーゲン・ポアズユイの法則とを学習した。しかし、私はこの内容を見たとき、疑問に思った。「なぜ、直径が大きい方が通導量が多くなるのであろうか。いうなれば、太い道管の1本とその半径1/2の道管16本文が等しいということである。なんとなくであるが、私は半径1/2の道管16本分の方が流量は多くなるのではないかと考えてしまう。この先入観と今回のこの法則の原理について考えてみた。私が半径1/2の道管16本分の方が流量は多いのでは?と思った理由はまず、道管の数が圧倒的に多いこと、また、流速も断面積が小さいほうが速くなるだろうと思ったため、流速は断面積に比例的ではなく指数的なグラフの形で変化すると考えたからである。実際にホースの口を狭めたりすると水の流れは速くなるだろう。しかし、今回のこのハーゲン・ポアユズイの法則は単純ではなく、圧力損失が関与していることが分かった。圧力損失が大きいほど流動抵抗が大きくなることで、流速が小さくなるといい、その圧力損失は円形の直径の二乗に反比例、つまり、直径が大きいほど圧力損失は小さくなり、流速は早くなり、流量も多くなるというわけである。この法則の内容を理解した後、自分の最初の考えをみなおしてみると、道管の数よりもそのことで増加する流動抵抗の方が流量減少に大きく影響していることが分かった。

A:きちんと学習している、という意味では問題ないのですが、流れとしては調べたら理解できました、という形になっているので、自分で考えた感があまりありません。この講義のレポートとしては、もう少し自分ならではの考えが欲しいところです。


Q:今回の講義は、植物の導管の仕組みと導管の中を通る物質の流速についての内容であり、講義の中で、「植物にとっての導管は動物にとっての血管である。しかし、植物が持つ導管は繊維が横向きであり、動物が持つ血管は繊維が縦向きである。」というお話があった。わたしはこの話について、同じ物質輸送の通り道となるのになぜこのような違いがあるのか疑問を持った。1つ目に思い付いた理由は、管を通る物質の違いである。植物は主に根から吸い上げ吸い上げた水分が導管内を通る。一方で、血管内は血漿という液体以外に白血球や赤血球、血小板など固形物も血管内を通る。そのため、管を構成する繊維が横向きであると詰まりやすくなってしまうため、繊維が縦向きになっているのではないかと考えた。2つ目に思い付いた理由は、液体の流れ方の違いである。植物は水分を根から吸い上げるために、導管には引力が働くので圧がかかっても管がつぶれない強い構造が必要となる。しかし、動物の血管では血液は、心臓から拍動によって血液は押し出されて全身に回るので血管への圧が少ない。そのため、縦繊維に比べて横繊維の方がコストがかかるとしても強い構造の管を選んだのではないかと考えた。しかし、横向きの繊維をもつ導管はやはりコストがかかるようで、植物が生息する環境によって導管内を流れる物質の流速はかなり異なる。つる植物については他の植物に頼って生きることで植物の基本構造にかかるコストを導管にまわしたという風にも考えられる。

A:動物の血管と植物の道管をきちんと比較していてよいと思います。ただ、内容的には講義の中でカバーした部分がだいぶ含まれていますので、もう少し、講義を聞いたうえでのレポートという感じが欲しいところです。


Q:本講義において、道管にはセルロースの繊維から構成される輪が連なっている理由について、掃除機のホースとガス管を例として“吸い出し”による変形と“押し出し”による変形では前者の方が起こりやすいため、強度を高める必要があるからという話があった。私はこの理由は非常に理に適っていると考えるが、目的がこのことのみであるならば道管方向に沿わせるようにセルロース繊維を3本以上配置することでも十分であるように思われる。にも関わらず輪の積み重ねで強度を保っているのは他にも植物に利点があるからだと推察する。この利点について私は、茎が曲がった際に道管内に空間を残せることだと考える。ストローを例として考えると、ストローが蛇腹になっている部分は曲げても内部に空間が保たれるために飲み物が飲めるが、まっすぐの部分は折り曲げると空間が塞がり、飲み物が上がってこなくなる。植物において強風や動物による踏みつけなどで茎が折れた場合、セルロース繊維が道管方向に伸びていたならば道管は塞がってしまい、水の吸い上げが行えずに枯死してしまうが、環状に積み重なっているならばセルロース繊維の輪は蛇腹のようにはたらいて空間を保ち、水の吸い上げを続けることができる。このようにセルロースの輪は陰圧と折れ曲がりの2つに対して有効に働く補強であると考えられる。

A:これは、面白いアイデアですね。僕も考え付きませんでした。樹木の場合、曲げられた場合、耐えるか、折れるかになるでしょうから、もしこのようなことが、起こるとしたら草本でしょうね。草本でもって折曲げたときの通導を調べてみるのは面白いかもしれません。


Q:以前植物の茎の横断面を顕微鏡で観察した際に導管の細胞壁は他の細胞よりも厚いように見えた。これは授業でも述べられた通り水が流れる圧力に耐えるためであると考えられるが、私はこれ以外にも導管壁の肥厚には意味があるのではないかと考えた。茎の役割として葉や花の配置、すなわち植物体の支持がある。導管を含む維管束は茎の中心にまとまっているのではなく散在しており、このことは茎が中空であることが茎を頑丈に保つ方法の一つであるように茎を頑丈にする役割を担っているのではないだろうか。茎の表面に強固な構造物を付加することでも茎は頑丈になる。しかし、水の通導という観点からも導管壁の肥厚は必要であるため、導管壁を厚くすることで植物体の支持にも生かした方が無駄な投資が避けられるという利点があるだろう。

A:たしかに、どちらにも役立っている可能性は考えられると思います。一方で、そのような場合、片方の道管の肥厚が必須である以上、それ以外の利点が本当に役立っているのかどうかを実験的に調べるのは難しいように思います。なにかうまい評価系があると面白いのですが。