植物生理学I 第7回講義

植物の茎

第7回の講義では、主に植物の茎を取り上げてその存在意義と、茎の形態との関係を中心に講義を進めました。


Q:第7回の講義では茎の断面が丸くない植物もあることを学んだ。例えば、トレニアという植物の茎の断面は四角い形であり、カヤツリグサという植物の茎の断面は三角形である。茎の形が円形であるメリットとしてはどこから吹くかわからない風にどの角度からも対応し、圧力変化に安定であることなどが挙げられ、角をもった茎の断面の形のメリットとしては、茎が曲げられても、耐える強さが円形よりも強いということが講義で挙げられた。私が疑問に思ったのは、そのような四角、または三角の断面である茎をもった植物は、茎とつながる根もそのような断面であるのかということだ。私は根は茎とは別に、円形の形をとっていると仮定する。地中では、風のような力に耐える必要もないことや、四角く見える茎は四隅に角を作っていることを考えるとコストがかかる可能性があること、外側からの土からの圧力や水圧の存在が考えられる。このような理由から、トレニアやカヤツリグサなどの茎が円形でない植物も、根は円形であると考える。

A:これは、問題設定が明確で、それに対して論理的に回答を与えていますから、レポートとして必要な要素は備えています。問題設定自体も、他にこれと同じ問題を考えていた人はいなかったので、独自性もあります。あとは、もう少し、論理の進め方自体に独自性があるとよいですね。


Q:ある植物にジベレリンの生合成を阻害するウニコナゾールを投与すると茎を短くし、葉1枚当たりの光合成活性が上昇するという話を伺った。この現象を何かに利用できないか考えた結果、「美味いお茶」作りに応用できるのではないかと考えた。茶は肥料要求性が高く、成分としては窒素、リン酸、カリウムを特に要する。ただ、過剰な肥料は茶の根に障害を与えて吸収率を下げるため塩梅が難しく、現在でも最適な肥料条件の模索がなされている。(1)更に、そもそもの肥料散布料が多く、全てが茶に吸収される訳ではないため、土壌に蓄積して起こる地質汚染や周辺地下水の汚染が問題となっている。そこで、ウニコナゾールの投与で茎を短縮して葉の枚数を減らすと、茶葉の収穫量は落ちるが葉一枚に行き渡る窒素、リン酸、カリウムが多くなり、特に窒素は葉緑体の骨格形成に寄与するため、光合成活性が通常よりも高くなり、光合成産物量増加によってヒトが感じる旨味の強い茶葉が出るのではないだろうか。この際に、茶畑に散布する窒素、リン酸、カリウムを主成分とした肥料の量は同じ旨味を通常の茶葉で出すよりも少なくて済むと考えられ、先述の問題解決にも繋がると推察される。
《参考文献》お茶ができるまで 肥料について. 伊藤園. http://www.ocha.tv/how_tea_is_made/cultivation/fertilizer/ (2019年6月1日閲覧)

A:これはアイデアが面白いですね。背丈が小さくなりますから、収量は減るでしょうけれども、付加価値をつけることができれば、それを十分に補えるかもしれません。ただ、ジベレリンの生合成阻害剤を加えました、と宣伝しても、消費者の受け止めはあまり良くないような気がしますから、どのように売り出すのかが重要なポイントになりそうです。


Q:中空な茎をもつ植物として、ハルジオンやタンポポが挙げられる。この2つの共通点としては、ロゼットを形成することである。ここで、ロゼットを形成することと茎が中空であることには何か関係があるのではないかと思った。ロゼットを形成している植物は、葉を地面付近に集中させているため、茎には葉を支えるという目的は他の植物よりも少ないと考えられる。そのため、ロゼットを形成する植物の茎の強度は、花を支える分だけあれば十分と言うことができる。茎の強度は大きいに越したことはないが、ロゼットを形成する植物は光の競争に弱い分、なるべく消費するエネルギーを少なくするために茎を中空にしているのではないだろうか。すべての植物の茎の断面を調べたわけではないため、ロゼットを形成するすべての植物の茎が中空とは限らないが、このようにロゼットと中空の茎には少なからず関係があるのではないだろうか。これからは、道端でロゼットを形成する植物を見かけたら茎の断面を見てみようと思う。

A:考え方は面白いと思います。ただ、「光の競争に弱い」結果として、他の植物がたくさん生えている場所には生えられない一方、裸地に生えていれば、別に光合成によって生産するエネルギーが少ないわけではないでしょう。むしろ、茎をどの程度の時間維持しなければならないのか、という点がポイントなのではないかと思います。


Q:植物の形態に見られるトレードオフで、要素の数が最大化するにつれて要素ごとの適応度の増分は減るという話の時の、受験科目で1教科を極めるか3教科まんべんなくできるようにするかというような例えはこの話にぴったりで分かりやすく印象に残った。この話を聞いて、植物はいろいろな要素についてトレードオフの関係が成り立つと思った。例えば花については、種子を増やしすぎてしまうと花粉や花弁への資源配分が減ってしまうということであり、これらにもトレードオフの関係が当てはまると考えられる。自分が気になったのは、葉や花のサイズと数はそれぞれどのくらいであるのが植物にとって最適なのかということである。葉、花どちらについても、サイズ・数と適応度の関係をグラフにしたとしたら、数については右上がりの直線になり、サイズについては対数のようなグラフになり、それらがが接する点が適応度が一番高い条件になると考える。

A:科学的な文章としては悪くないのですが、レポートとしてみると少し気になります。前半はトレードオフを取り上げる理由の説明で、後半が実際の論理展開ですが、一番重要なところは、「と考える」とだけあって、どのようなロジックでそのように考えるのかの説明がありません。前半をもっと簡略化して、後半を丁寧に説明するようにするとよいでしょう。


Q:今回の授業において、カタクリやフクジュソウといった植物は木々が密集する林にて、非常に短い茎で生活しているが、これは木々の葉が落ちて、林床まで光が届く2月から3月までの間に葉を出して光合成を行い、根に栄養を貯めておくことで純粋な高さの競争で負けているにもかかわらず生き残れるという話があった。この話を受けた時、私は光条件が悪い林床に生息し、なおかつ茎の長さも非常に短いという特徴を持ちながら、夏にも葉をつけたままであるドクダミにはこの生存戦略から外れていると考えた。そこで、ドクダミの生存戦略について考察する。木々の葉が生い茂る夏でも葉を出しているということは、ドクダミは夏も光合成を行なっていることとなる。光に対する競争の相手が木本である以上、茎をいくら伸ばしても優位に立つことは難しいため、ドクダミは光環境を改善するのではなく、置かれている光環境での光合成の効率を上げることや、食害や病気に対する耐性を向上させて光合成産物の損失を防ぎ、生存に必要なエネルギー量を最小限にとどめることで対応していると考える。具体的に、前者には陰生植物に見られる薄い葉が挙げられる。これは、弱光条件では葉を透過するほどの光の強さはないため、より少ないエネルギー量で作ることのできる薄い葉でも光を漏らさず受けることができるというものである。後者には、ドクダミ特有の臭いが挙げられる。この臭いの成分はデカノイルアセトアルデヒドと呼ばれる物質であり、漢方において、「利尿、抗菌などの作用」(1)を持つことから、葉の防御機構としてのはたらきを担っていると考える。
(1)武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園「ドクダミ」閲覧日:2019-5-31 URL:https://www.takeda.co.jp/kyoto/area/plantno62.html

A:きちんと論理が展開されていてよいと思います。ただ、実際のドクダミはそれほど葉が薄いように見えないのがちょっと気になります。割合とぼてっとした葉のように思いますが…。


Q:茎の第一の役割は葉や花を高い位置に配置することであると授業内では述べられたが、では地下茎はどうだろうか。多くの植物は地上に茎を伸ばすのに対し、わざわざ茎を地下に伸ばすことにはそれなりの意味があるのではないかと思うので、地下茎のメリットについて考えたい。 授業内で紹介された「植物の形態を決める要因のシュミレーション」を参考にすると、茎の伸ばし方が決定される要因は繁殖効率、受光効率、力学的安定性である。地下茎はこの中でも力学的安定性が非常に高いことが特徴として挙げられる。受光効率という観点では特出して不利になりそうであるが、地下茎を持つ植物はそもそも光を必要としないものがある。例えばギンリョウソウは腐生植物であるため光がなくても生きていくための養分を補うことができる。そのため光合成を行うための葉を高く配置する地上部の茎が必要ではない、あるいは地下茎と地上茎を併せ持つと考えられる。繁殖効率については、地下茎を持つ植物は栄養生殖で増えるものが多いため、上記のシュミレーションに当てはまらないと考えられる。こうしたことから、地下茎は力学的安定性をもたらすという利点を持ち、その植物にとって必要のない無駄な機能を省いた茎の在り方ではないかと結論付けられた。

A:一つ一つ考えていてよいと思うのですが、「地下茎を持つ植物は栄養生殖で増えるものが多い」とさらっと書いてあることが案外重要なのではないかと思います。最初から力学的安定性に焦点を絞る代わりに、地下茎を持つ植物の特徴からいろいろな可能性を考えていった方がよかったのではないでしょうか。


Q:今回の講義で繁殖効率・受講効率・力学的安定性を得ようとするとバラエティーに富んだ木が生まれることを学んだ。生息環境がその植物の形態に影響を与えることは以前の講義で学んだがそれ以外に、上記の3つの要因バランスを変化させるものはないのかと考えた結果一年草と多年草という植物にたどりついた。 これ2つの違いは一年草は一年間の間に種を植え、成長し、種が取れるまでの工程があり、多年草は葉などは枯れてしまうものの茎や根は生存しているので翌年もそのまま成長できる植物である。すなわち植物における生涯の時間である。一年草は一年間というタイムリミットがある中で成長して子孫を残す必要があるので、多少のリスクを背負ってでも多年草よりよい条件に出る必要があると考えられる。ここで一年草の例としてヒマワリ、多年草の例としてユリやチューリップなどが挙げられ、2つを比べたときに、植物の背丈、すなわち茎の長さがヒマワリのほうが長い。もちろん茎を長くして背丈を高くすれば他の植物に比べてより日光を得ることができるというメリットがあるが、デメリットとして力学的強度の低下もある。そう考えたとき短い期間で他の植物に勝るためには上記のようなハイリスクハイリターン中で生きる必要があると考えられる。したがってこうした植物の生涯時間も、生存環境以外に植物自身に対して影響を与えるものの一つではないかと考えられる。
【参考文献】「一年草と多年草の違いとそれぞれの代表的な草花」 2019年5月31日閲覧、https://afun7.com/archives/14003.html

A:ここで「例として」あげたヒマワリがそもそも典型的な例なのか、という疑問が生じます。一年草の例ならば、そこらを見回せばいくらでもあるでしょうから、その中でヒマワリを選んで、ヒマワリの茎の長さが長いので、とする論理展開は、やや強引な気がします。


Q:今回の授業では、茎の長さが長くなるほど葉/地上部(バイオマス)が小さくなっている図について気になる点があった。それは、茎が一定の長さのところまでは図の直線はゆるやかであったが、ある長さからは傾きが急になりより右下がりになっていることだ。この理由について考えてみると、3つの理由が思いついた。1つ目は、植物がある一定の高さを超えると日光を浴びる際に邪魔になるもの(他の個体や他の種の植物など)がなくなるためそれ以上茎を長くするメリットが少なくなること、2つ目は、植物の背が高くなりすぎると植物を食べる生き物に見つかりやすくなって生存率が減少してしまうこと、3つ目は、背が高くなりすぎると茎によって支えることが困難になり安定して成長することができないことである。しかし、3つ目の理由については茎の太さを太くすることによって対策ができると思ったため、主な理由としては1つ目と2つ目の理由があると考えられる。

A:図の理解にやや誤解があるかもしれません。最初の理由として「茎が高くなると、それ以上高くするメリットが少なくなる」とありますが、それは、それ以上の茎の高さをもつ植物が少なくなる理由にはなっても、そのような高い茎をもつ植物の葉の割合がぐっと低くなる理由にはならないでしょう。そして、3つ目の理由の「茎の太さを太くする」というのは、まさに「葉以外の地上部のバイオマスを大きくする」ことになりますから、これこそがグラフの傾きの変化の説明になっています。