植物生理学I 第14回講義

植物と温度、水

第14回の講義では、植物と水、あるいは植物と温度の関係を、実際の研究例も交えながら解説しました。


Q:今回の授業を聞いて、植物の葉が多様な濡れやすさを持つことに興味を持った。葉が濡れにくいほど光合成活性が低下しにくいのであれば、植物の葉はどれも葉が濡れにくい、撥水性を持った構造を持つはずである。では、葉が濡れることによる植物のメリットは何であろうか。私は葉の表面の、クチクラ層での蒸散が関係しているのではないかと考える。クチクラ蒸散は、植物の表面を覆うクチクラ層から、そこへ内部から到達した水が水蒸気となって空気中に「蒸発」する物理的な現象をいう(参考文献1)。クチクラ層による蒸散は、クチクラ層の発達の程度にもよるが、植物全体の蒸散量の多くて10%程度を占めている(参考文献1)。また、通常植物の葉の表面にはクチクラ層が発達しているが、所々にひびや割れ目、微細な孔があり、親水性の物質はここを通じて細胞内へ運ばれるとのことであった(参考文献2)。植物が生きるうえで、大きな障害になるのが乾燥であることを考えると、葉が濡れやすく、雨水を直接、葉から細胞へ運ぶことができることは、大きな利点になると考えられる。また、植物全体を考えると、葉が濡れやすいことはクチクラ層からの蒸散を抑えることにつながり、光合成活性が低くなったとしても植物体の水分量を保つうえで重要な役割りを果たしていると考えられる。
参考文献
1. 日本植物生理学会 みんなのひろば植物Q&A「蒸散の機構の詳細」 https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2231&target=number&key=2231
2. 日本植物生理学会 みんなのひろば植物Q&A「クチクラ層の不思議」 https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1969&target=number&key=1969

A:ユニークな考え方でよいと思います。葉がクチクラから水を吸収できるということは、同じルートで水が蒸発するということでしょうから、その部分にどのように対処するのか、考える必要があるように思いました。


Q:今回の講義では、植物と水の関係について学んだ。植物において水は無くてはならない存在であるが、一枚に保てる水分量と蒸散により失われる水の量のほうがはるかに多いことが分かった。土壌に豊富に水を蓄えている土地に生育しているならば問題はないが、水分が少ない土地や降雨が少ない気候下で生育している植物はどのように保水を行っているのであろうか。葉の保水だけを考えるならば、一番に考えられるのは葉の厚みを厚くし保水できる体積を増やすことである。各地の土壌水分量と葉の厚さの関係をまとめるとこれを調べることができるのではないかと考える。これの具体的な例としては多肉植物が考えられる。この種は保水を目的として葉を分厚くしたと考えられる。次に考えられるのは、気孔の数を減らすことである。ただし、これは気孔を開閉することで解決できるのであまり大きな差は見られないと考えられる。葉の数を増減させるのは光合成量や葉緑体の生成労力に関わるので本末転倒である。そう考えると、葉の厚みと土壌の水分量は関係があるのではないかと思われる。

A:結論がやや常識的ですが、論理的に考えていてよいと思います。問題設定が「どのように保水を行っているのであろうか」となっていますが、実際に考察しているのは「どのように保水を行うのが合理的だろうか」ですね。実際に調べるわけではなくて、合理性を考察するわけなので、そのあたりの言葉遣いも、それに合わせたほうがよいと思います。


Q:今回の授業では、植物の発熱について扱った。発熱の主な理由としては、昆虫の誘因と、種子が形成可能な環境の維持の2点が挙げられた。後者について、植物の代謝はもちろん氷点下に近いような極端な低温よりも、25℃程度の温暖な気候の方が活発であり、住みやすい環境であると言えるだろう。そこで疑問となるのは、なぜ寒冷地の植物が発熱をしないのかという点である。これは、発熱という手法に欠点があるからだと考えられる。ある程度の気温までは、気温の上昇とともに植物の代謝は活発になり、光合成や呼吸量も増加する[1]。しかし、寒冷地では植物体内の温度を上げても十分な日光を得られないために、代謝が活発になると呼吸量ばかりが増えてしまい、成長できないと考えられる。従って、寒冷地の植物はいわば冬眠のような手段で代謝を抑え、冬を越しているのだと考えられる。ザゼンソウやスイレンの発熱に見られるように、植物の発熱はある短い期間において虫の誘因や種子の形成など、短期的な目的に対しては有効であるが、越冬という観点においては適さないのだと考えられる。
[1] 吉里勝利, スクエア最新図説生物. p.53, 2016, 第一学習社

A:きちんと考えていてよいと思います。特に、直接講義では触れなかった代謝と温度の関係を考察している点が評価できます。


Q:今回の講義では温室植物について触れられた。それに関連して、ボンボリトウヒレンとワタゲトウヒレンについて考察していく。ボンボリトウヒレンは講義で取り上げられたセイタカダイオウ同様に、花序が白い葉で包まれた構造をしているのに対し、ワタゲトウヒレンは花序が綿毛に包まれた構造をしている。両者ともヒマラヤの高山気候地域に分布し、花序を紫外線から守る、花序のある空間を周りより高い温度に保ち、虫を集めて受粉を行わせるなどの同様の機能が推測されている[文献1]。両者は近縁種であり、同様の地域に分布し、同様の目的のための進化したらしいにも関わらず、このような2種類の形態をとるのはなぜであろうか。この要因として考えられるのは、受粉のために呼び寄せる媒介虫の種類が両者で異なるのではないかということである。例えば素早く飛び回る虫であった場合、花序の周りの空間が広くなるボンボリトウヒレンに好んで集まり、飛ばない虫であった場合空間的な広さはないが足場の多くなるワタゲトウヒレンを好むのではないであろうか。媒介虫の種類が異なるため両者は同様の目的の進化にも関わらず異なる形態に進化し、共に繁栄していると考えられる。
参考文献1:セーター植物・温室植物に見る極限の適応 大森雄治 大場秀章

A:虫の足場というのが面白いですね。ユニークな見方でよいと思います。


Q:セイタカダイオウは興味深い。半透明の苞葉によって温室を作り、高山地域特有の低温と強い紫外線から花や芽を保護する機能をもつと考えられている。外部と隔てた空間を作って植物体を保護するという戦略は合理的な手段のように思われるが、セイタカダイオウやボンボリトウヒレンのような温室植物はネパール東部とチベット南東部の湿潤地域に限られて生息している(文献1)。これはなぜだろうか。高山地域の環境の特徴には紫外線の強さがあり、これが低地との大きな違いだと考えられる。温室を作ることで紫外線を遮ることができるが、温室内の温度が上がりすぎてしまうという危険性も含んでいる。苞葉に覆われた花序の温度は外気温と比べて摂氏一〇度またはそれ以上高いため(文献1)、低地でも外気温との関係性が維持されると仮定した場合、低地で温室を作ると内部温度は非常に高温になる可能性がある。授業ではセイタカダイオウの花粉が低温障害を起こすことが取り上げられていたが、高温も障害を引き起こす。トマトの高温障害に関する研究では「花粉母細胞が減数分裂期の頃に、2日間、40℃の高温にそれぞれ3時間さらされると、その後の花粉形成が不全となり、正常な花粉ができなくなる」と報告がある(文献2)。よって常に低温な高山地域だからこそ温室という戦略が使えるという考え方ができる。だが、そうなると環境の似た他の高山地域に同様の性質をもつ植物が生息していてもよさそうである。しかし、4000m以上の環境に生息するという点から考えて、世界に同じような環境があまり存在しない可能性がある。多くの山脈が大陸同士の衝突によってできたことがわかっているが、衝突する前の環境や進化の過程は場所によってそれぞれであり、ヒマラヤ地域において偶然環境が適していたために温室植物が自然淘汰を乗り越えたのではないだろうか。
文献1:セーター植物・温室植物にみる極限の適応 大森雄治 横須賀市自然・人文博物館 大場秀章 東京大学総合研究博物館 2018.7.27参照、 http://umdb.um.u-tokyo.ac.jp/DKankoub/Publish_db/1997Expedition/05/050800.html
文献2:植物Q&A みんなのひろば 花粉の量 東北大学 東谷篤志 https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2305

A:しっかり考えていますね。ただ、最後の大陸同士の衝突は、少し話を広げすぎかな、と思わなくはありませんでした。ユーラシア大陸以外の例を議論できるのなら良いのですが。


Q:授業冒頭で扱ったが花の発熱がとても興味深いと感じたので、最終回となる本コメントは花の発熱について考察することとする。まず、私の中で植物の温度変化と聞いて想像したのが芝生だ。人工芝だと熱を吸収しなくて暑いが、天然の芝生だと熱を吸収してくれるので涼しいということを思い出した。このことから植物の葉には熱を吸収する機能があると考えられるのだが、一方で花が発熱する必要はどこにあるのか考えてみる。私が思うに花は植物の中央や上部にあることが多く、熱が上方向に逃げていきやすいことを考えると、葉で吸収した熱を花で放出するのは、熱を効率化よく吸収放出する為だと考えることができる。そうすることで葉が暑さによる阻害や障害を受けずに熱(光)を吸収して光合成を促進しているのではないだろうか。つまり、花が発熱する理由は、葉で吸収した熱を効率化よく環境に逃がして、障害を起きないようにする為ではないだろうか。

A:面白い考え方ですね。このようなレポートは初めてかもしれません。コメントを2つだけ。1.天然の芝生が涼しいのは、おそらく蒸散によって気化熱が奪われるせいです。熱の吸収は同じでも、人工芝では熱の放散が起こらないので、熱いわけです。2.花から熱を放散するためには、葉から熱を運ばなくてはなりませんが、その仕組みはどうしましょう。低温源から高温源に熱を移動させることができないのは、熱力学の基礎です。一方、熱以外の形、例えば有機物に変えて運ぶことは可能かもしれませんが、その場合は、そのまま有機物として貯めておけばすみそうです。


Q:今回講義で一日中雨にあたった植物では光合成効率が減少した。しかし自然界では一日中雨が降る梅雨の時期の植物は生き生きとしており、この矛盾は自然界では起こりえない「雨が降るのに晴れている」という環境を生み出したからだと聞いた。ここでほかにも実験を行う上で自然界では生まれない条件を作り上げているのではないかと考えた。ここで二酸化炭素濃度の減少に絞って葉の表面から取り込みにくくなった以外の観点から考えることにする。まず他の生命体の存在の違いである。自然界では他の植物、動物、菌類など二酸化炭素を放出する生物が数多く存在する。しかし実験系ではそのような自然の状態から隔離して行うので他の生命からの二酸化炭素を摂取することができない。また、「雨」の違いにも着目した。自然界で降る雨は植物の葉に達するまでに空気中の二酸化炭素を吸収し、酸性よりになる。つまり水滴自体に二酸化炭素が含まれている。しかし実験で行う雨は人工的に作り出したものであり、二酸化炭素濃度は低いと考えられる。もちろん植物が水滴に含まれる二酸化炭素を活用しているかは定かではないが実験と自然界では異なる条件といえる。このように自然界と異なる条件がいくつか重なったため、自然界では起こらない結果になったのだと考えた。

A:もし、生物にとっての意味を重視した研究をする場合、このように、自然条件と実験条件の違いを考察することは、極めて重要です。とはいえ、あり得ない実験条件から、全く新しいことが発見される可能性もあるかもしれませんが。


Q:講義の冒頭で、発熱植物についての話があった。植物が発熱することの利点として、温度が一定に保つことで種子をつくりやすくする、昆虫を呼び寄せるためだという説明を受けたが、まだわかっていないそうだ。そこで、発熱植物が存在する理由を考えた。発熱植物に代表されるザゼンソウは、寒い早春に開花するため、発熱し温度調整している。また、寒い中発熱すれば、昆虫を独占できる。私が考えたのは、早春であっても雪が降る可能性があるので、雪に埋もれても熱で雪を溶かすことができるのではないかということである。さらに、雨に濡れても乾かすことができるのではないかと考えた。水分があったり低温であることで雑菌が増えると考えられ、それを防ぐために発熱し水分を飛ばし菌類の増殖を防いでるのではないかと考えた。ザゼンソウを用いて、低温状況下で霧吹きで水分かける、低温状況下で菌類を付けるといった条件で観察し、予想通りに雑菌を防ぐことができたのならば、寒さや雨、さらに雑菌に強い植物や穀物を開発するのに役立つと考えられる。
参考文献:第65回エネルギー・環境技術植物資源 発熱植物に学ぶ温度制御法 積水化学 https://www.sekisui.co.jp/csr/contribution/nextgen/bio_mimetics/1196593_27856.html 2018/7/27

A:乾燥させて菌類の繁殖を防ぐというアイデアは非常にユニークでよいと思いました。複数面白いアイデアを出していますが、できたら、一つに絞って論理展開したほうが科学的レポートしては良いかもしれません。