植物生理学I 第15回講義

植物の光環境応答

第15回の講義では、植物における光環境応答の重要性と、光環境を感知するための光受容体について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業は主に光エネルギーと光合成に関してであった。その中で、植物を暗いところで発芽させ育てると、光の良く当たる場所に体を伸ばすためもやしになるというお話があった。また、シクラメンを部屋の中で(太陽光の1/200の光量しか当たらない場所で)育てると、同じく光の良く当たる場所を求めて葉柄や茎を細長く伸ばし、葉の面積・数を減らすということも学んだ。しかし、そこで一つ疑問が沸いた。もやしのように全く光が当たらなければ死活問題であるから納得できるのだが、シクラメンに関しては多少は光が供給されているのである。葉柄を伸ばしたところで光が確実に供給されるとは限らないため、闇雲に葉柄を伸ばすのは自らの体を衝撃などのリスクにさらすうえに、今の光量から産生可能なエネルギーで増やした体積分の体のエネルギーも維持しないとならないため得策ではないと考えた。むしろ、今の光量で最低限生存できるように体を小さく短く保ち、葉だけは広げて光合成効率を可能な限り上げる努力をするべきではないか。しかし、そうしない理由は二つ考えられる。一つは、上記の例でシクラメンが置かれた環境は完全に人工の環境であることだ。つまり、自然界において太陽光が当たらない状態というのは大きな木や岩などの障害物の陰に隠れた時くらいで、スライドの写真にあったシクラメンほど葉柄を伸ばせば一日のうち数時間でもまず太陽光を浴びることができるはずである。このため、光量が足りないときは十分に光が当たるようになるまでひたすら葉柄を伸ばすようプログラムされているのだろう。もう一つ、シクラメンは球根植物であるから、種子によって発芽する他の植物に比べて養分を多く貯蓄している。そのため光の供給が少なくても体を成長させることができるのだろう。冒頭のもやしに関しても、あらかじめ種に備えてあった養分を使っている。他の種子植物を光量の少ない環境で生育させてもシクラメンのように葉柄を伸ばすのか調べてみたいと思った。

A:よく考えられたレポートだと思います。光の分布の違い、養分の蓄積の違いのところなど、きちんと考えられています。ただ、一つ注意しなければならないのは、植物が生育できるかどうかは、光合成によるエネルギー獲得と呼吸によるエネルギー消費のバランスによって決まり、前者が後者よりも大きいときに生き延びられるということです。「今の光量で最低限生存できるように体を小さく短く保ち」とありますが、体を小さくしてもバランスが変わらなければ状況は改善しません。それを「葉だけは広げて」という部分で意図しているのかもしれませんが、葉は、植物体の中でも最も作るのにコストのかかる部分ですし、光が弱くてろくに光合成をできない葉を大量に持つという戦略自体にも難しい点があります。光が一定の強さ(=光補償点)を下回るときには、植物の大きさなどを変えて対応することは難しいと考えられます。


Q:今回の授業では植物の光環境応答について学んだ。その中で、フィトクロムにはPfr型とPr型が存在し、植物が吸収しにくい遠赤色光を感知することで、自分の上に植物があるかどうかを判断しているという話があった。話は変わるが、気孔の開閉には二つのメカニズムが存在する。一つはアブシシン酸による閉鎖で、もう一つはフォトトロピンの青色光の吸収による開口である。私は気孔の開閉に二通りあるのが何故なのかがずっと気になっていて、それは例えば通常は閉じていて、何かの刺激で開くという、一つの要因によるメカニズムの方が単純であるからである。このことを、先ほどのフィトクロムの話をヒントに考察しようと思う。植物の持つクロロフィルは青色光、赤色光を吸収するから、上に植物があるような状況下ではフォトトロピンはあまり光を吸収できず、気孔が開口できないことになる。こうなると当然二酸化炭素の吸収も落ちて、成長に必要な光合成ができなくなる。したがって、先ほど述べたように、もし通常が閉じた状態で、フォトトロピンによる青色光の吸収によって気孔が開口するという一通りのメカニズムであったら、上に植物が存在していると成長ができないと考えられる。これを、アブシシン酸による閉鎖システムで調節しているのだと考えられる。つまり、アブシシン酸の分泌がされなければ気孔は閉鎖しないわけであるから、それは青色光の受光が弱くてもアブシシン酸の分泌が少なければある程度開くはずである。したがって、アブシシン酸と青色光の機構は相互的であると考えられ、二通りのメカニズムを持つ理由の一つは、上に植物があっても光合成を可能にするということが考えられる。

A:複数のシグナル伝達系を持つことによって環境に応答しているという仮説は非常に面白いと思います。ここでは、異なるシグナルが入った時には気孔が開く方が選択されることが仮定されているようですが、実際には、気孔が閉じる方が優先されるのだと思います。植物にとっては、しばらくの間光合成ができなくてもすぐには枯れませんが、しばらくの間水がなくなって干からびてしまったら確実に枯れてしまいますから。内容はよいと思うのですが、話の順序はもう少し整理できるでしょう。話をうまくつなげると「話は変わるが」と言わずにストーリーを展開できると思います。


Q:シクラメンは照明のみで育った場合、光を探して葉柄を長くする。このように暗さを感知して形を変えている。この点に生き物らしさをとても感じた。外的要因に対し、自らの生存をかけて最適な策を打っている。ここで、酸素濃度を下げてシクラメンを育てた場合、どのような形状をとるのか予想してみる。酸素は植物においても呼吸等でさまざまな重要な役割をしている。この酸素濃度が低下した環境で、シクラメンの地上部分の器官の形状はほとんど変化しないと考えられる。これは酸素濃度が数十cm先の地点で高くなっている状態は自然においてあまり考えられないからである。よって、地下部分の器官、つまり根が酸素を求めて伸びる、および枝分かれの数を増やすと予想した。地面には微生物が存在し、その生息場所を避けたり、求めたりして酸素を吸収しようとすると考えられる。形状だけでなく根呼吸速度の変化も期待できると考えられる。

A:これも、面白い点に着目していますが、「酸素」の取り上げ方が唐突です。せめて、「植物の生育を左右する外的要因としてはとしては、光の他に、二酸化炭素や酸素、温度といったものが考えられるが、ここでは酸素を取り上げてみる。」といった一文が入ると、読んだ時の印象がだいぶ良くなります。


Q:今回の講義で植物にとって光は生育のためのエネルギー源である一方ストレス源ともなっていることを知った。同じエネルギーの補給でも人間の食事は多くの場合どちらかというとストレスを軽減する方向に働くのに植物にとって光が最大のストレスとなることは最初は意外だった。しかし植物の光合成と動物の食事の最大の違いは自らの意思で止められるかということである。そこで気になったのは動物が自分の意思で食事を止められなかった場合ストレスになるのかということである。人間の感覚でいえば満腹にも関わらず食事を口に突っ込まれるようなものなのでストレスであることは間違いないが安定して食料を得られるとは限らない野生動物でも同じなのかということが気になった。しかし動物を拘束した時点でストレスがかかるので極力負担の少ない方法を考える必要がある。

A:何というか、あまり科学的なレポートとは言えない気がしますが、発想がユニークだったので、取り上げてみました。人と違うことを考える姿勢は、科学にとって非常に重要です。


Q:今回の授業では、植物の光環境応答について学んだ。授業の中で、「植物は可視光と赤外光の比率によって自身の上部に木や葉が存在するかを認識している」というお話があった。そこで、私は、もし木や葉の下に存在する植物体に降り注ぐ赤外光を赤外光吸収ガラスなどを用いて量を減らしてやると、植物体はどのような挙動をしめすだろうかと考えた。赤外光が減るので可視光と赤外光の比率は、上部に木や葉が存在しないときの値に近づくと考えられる。よって植物体は、自身の上部に木や葉が存在しないと勘違いするのではないかと考えた。ではもし、そのように植物体が勘違いした場合、どのような挙動を示すか。これは普段、上部に木や葉があるときは背丈を伸ばさずに個体の大きさを小さい状態でとどめていることを考えると、上のような勘違いをすると個体の大きさを大きくする動きを示すのではないかと考えた。だが、実際は光合成に必要な波長な光の量は下がっているので、植物体は背丈を伸ばそうとするが栄養不足であり細い貧栄養な植物体になると考えた。

A:もやしのところで話しましたが、赤外光が多くなると背丈自体は伸びます。これは講義で説明したように、早くより光の当たるところに出るための応答として理解できます。したがって、「勘違い」した植物は、もやしとは逆にがっしりした短い形態となるでしょう。また、太陽光や白熱灯とは異なり、蛍光灯はあまり赤外光を含みません。ですから、蛍光灯で植物を育てると、一般的にがっしりした形に育ちます。


Q:今回の講義内で夏野菜であるキュウリは低温下で光を照射することで傷害を受けることを知った。その原因には低温によって化学反応速度は低下したにもかかわらず、吸収する光エネルギー量は変化しないために余剰エネルギーが大きくなり、傷害を受けるとのことであった。しかし、北国にも植物は存在することから低温環境で生育する植物にはこれに対する防御機構を持っていると考え、どのような防御機構か考察することにした。まず、傷害を受けないためには余剰エネルギーを減少させる必要がある。その方法としては低温環境でも高い化学反応速度を維持することが挙げられる。しかし、これは理想論であって、分子同士の衝突と活性エネルギーを超えることを考慮すると低温下でこれらを実現することは非常に難しい。そこで考え付いたのは早いスパンでの葉の入れ替えである。傷害を受けてしまうことをあえて許容し、その代わり傷害を受けて使い物にならなくなったら新しい葉に交換するわけである。この仮説を実証するには低温環境に生育する植物の葉の入れ替わりの頻度を実際に測定する必要があるが、代表的な寒冷地での植物である針葉樹は葉1枚が小さく、コストも少ないように考えられ、今回考えた早いスパンでの葉の入れ替えにも適していそうである。一般的には針葉樹の葉は雪が積もらないように針のような形状をしていると言われているが、葉の入れ替えのためにコストを抑えることも目的の1つではないだろうか。

A:これは面白い考え方ですね。一般的に、常に低温にさらされているのであれば、植物はそれに合わせて化学反応に必要な酵素の量を増やすか、光を吸収する色素の量を減らすか、によってバランスを保ちます。ただ、このような応答をすると、もし、低温が一過的で温度が元に戻ると、再びバランスが崩れてしまいます。そうであれば、低温の時だけ障害を受けることを前提として入れ替えをするというのは十分考えられますね。低温では具体的な例を知りませんが、強光での阻害については、阻害を受ける光化学系2のタンパク質の一つを積極的に入れ替えて対応している例が実際にあります。


Q:今回の講義で、低温下において暖かい地域の植物への影響に光の有無も関わっていることが興味深く感じた。また、冷蔵庫に入れておくとなぜ野菜や果物が腐りにくくなるのかについても、当たり前だと思って深く考えたことがなかったので興味深かった。これらを踏まえて、暖かい地域に生息し、一般的に常温で保存するのが良いとされるバナナは本当はどのように保存するのが良いか考えてみることにする。まず条件として、一般家庭における低温下での保存は冷蔵庫の中、すなわち低温の暗所、常温下での保存はキッチンなどの部屋の中、これに関しては明所と暗所のどちらでもよいとする。次に売り物として手に入るバナナの状態であるが、これは完全に熟していない緑色のものと、熟している黄色いものが挙げられる。緑色のバナナは、過去の講義での葉以外の光合成を考慮すると、クロロフィルを含み光合成を行っていると考えられる。よって、熟して食べごろの黄色い状態にするためには、光合成を行える常温の明所で保存するのが適切であると考えられる。バナナはキュウリと同様に低温障害を受け、キュウリは低温障害を受けた後に常温に戻しても光合成能力は回復しない(1)ことから、まだ光合成を行うであろう緑色のうちは冷蔵庫の中での保存は適してないといえよう。次に熟した後の黄色のバナナについてであるが、これは常温で保存しておくと傷むのが速く、購入後はできるだけ時間を空けずに食べなくてはならない。他の食材の場合は傷むのを防ぐために冷蔵庫に入れるのだが、バナナを冷蔵庫に入れると余計に黒ずんでしまう。これも低温障害によるものだと推測できるが、低温障害も何らかの化学反応によって起こるのであれば、その化学反応の進行を遅らせるほどの低温下であれば保存に適しているのではないだろうか。ただ、一般家庭用の冷蔵庫がこれほどの低温状態に設定できればの話ではあるが。保存場所の明暗に関しては、黄色いバナナの場合は緑色の部分がないことから光合成能は低下していると推測されるため、ストレスとなり得る光の当たらない暗所での保存が適していると考えられる。以上のことから、バナナの保存は、緑色の場合は常温の明所、黄色の場合は、常温の暗所での保存が適していると考えられる。低温下でうまく保存をするには、バナナが低温条件で起こす化学反応とその活性を調べればよいと考えられる。
参考1:『光阻害−植物生態学講座』http://hostgk3.biology.tohoku.ac.jp/hikosaka/photoinhibition.html (2017/07/24)

A:全体として面白くまとめていますね。しかも、何でもないような話でありながら、きちんと調べた知識も利用していて評価できます。最後の「化学反応の進行を遅らせるほどの低温」のイメージがつかめませんでした。基本的に水溶液系での化学反応の進行速度は、凍結すれば大きく低下しますから、マイナス10℃程度にすれば十分に遅くなるでしょう。それならば、家庭用の冷凍庫で十分です。一方、凍結すれば、水の結晶成長による組織の破壊などが起こりますから、化学反応とは別の問題が生じることを考慮する必要があるでしょう。