植物生理学I 第14回講義

葉以外の光合成

第14回の講義では、果実や種皮といった植物の葉以外の光合成の能力と特殊性について、実際の実験データをもとに解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今週の授業ではスイカの果実やソラマメの豆が光合成を行なっているということを学んだ。私はこれらの葉でない器官が光合成を行うことと種子の繁殖方法について考えてみた。スイカは果実の外側で光合成を行なっており、ソラマメはさやと豆の両方で光合成を行なっているということを学んだ。これらの内部にはそれぞれの種子が入っているのだが、スイカは種子の周りのみ光合成を行うがソラマメは種子となる豆自身も光合成を行う。また、ソラマメには種子を守る為にさやがあると考えられるがスイカにはない。つまり、それぞれの最も内側で光合成を行う器官がスイカでは果実外側、ソラマメでは豆に当たる。しかし、スイカの果実外側では葉と比較してもかなり光合成を行なっているが、豆ではさやや葉に比べ光合成をほとんど行なっていない。したがって、スイカは果実外側で光合成をすることにより果実を効率よく完熟させており、豆は光合成をほとんど行わず、さやが光合成をして豆に栄養を蓄える二段階で豆に栄養を蓄えている。これはスイカは果実を動物などに食べてもらい内部の種子を運んでもらうことで種子を拡散する為であると考え、一方でソラマメはさやで食べづらくしたりわかりにくくすることで動物などから種子を守り、時期になると自ら種子を拡散させ繁栄を行うためではないかと考えた。

A:考えているのはわかりますが、結局、ソラマメの種子が光合成をする必要はなさそうに思えますね。最初の部分を読むと、そのあたりの理由が説明されるのかと期待してしまいます。


Q:今回の授業では、葉以外での光合成がテーマとなっており、その中で果実の光合成についても話があった。特に果実の内部ではLHCIが解離しており、また、酸素発生系に異常があり、葉の光合成との差異が出ていると学んだ。この点について、果実内部でこのような事実が見られる生態的意義について考察しようと思う。そもそも果実というのは動物に食され、糞を通しての、自分の種子の散布を目的としている。このためには、果実は動物が食すのに魅力的である必要がある。これは、我々人間が果実に求める場合と同様に、甘さや水々しさといったものが要求されると考えられる。「甘さ」という観点から見ると、果実は葉からスクロースなどを輸送されて、それが液胞内に蓄積され、成長とともに甘くなるようである。スクロースを液胞内に送るには能動輸送が必要であり、そのエネルギーはH+-ATPaseによるプロトン勾配に依存している(1)。このことから果実では呼吸によるエネルギー供給が必要であり、従って酸素供給が重要であることがわかる。しかし、上述のように果実内部では酸素発生系に以上があるため、光合成系による酸素供給はこのことに役に立っていないと考えられる。そう考えると上述のような果実内部の特殊な光合成系は「水々しさ」に役立っているのではないだろうか。つまり、酸素発生が異常であるということは、水の分解がされにくくなっているということであるから、これによってより多くの水分を蓄えているのではないかということである。LHCIの解離は、電子伝達効率を悪くすることによって水の分解を抑えていると解釈できる。おそらくこれに対して、水分も別の場所から送られるのでは?という疑問がわくだろうが、これに関しての可能性として、何かしらの理由で他の器官から果実への水分の供給効率がよくないためということが考えられる。これを確認するためには、果実で酸素発生系に異常がある機構を調べ、それが起きないような遺伝子組換え体を作り、果実の水分量を調べて少なければ、この説が支持される。しかし機構を調べるのは現実的ではないため、実際には植物にやる水の量を厳密に調整し、水をやる量が異なる植物の果実間での水分量を調べ、水を少なくあげた植物の果実でも果実の水分量が比較的多ければ、この説を支持できると考えられる。
・参考文献 1.金山喜則,山木昭平. (1993). 「果実が甘くなるしくみ」 化学と生物, 31(9), 578-586.

A:植物生理学IIの方の講義でやる予定ですが、実は、植物が消費する水の中で、光合成の水分解によるものの割合は、きわめてわずかなのです。また、水の分解を抑えて、かつ、エネルギー供給はそのまま、というのは難しそうですね。


Q:今期の小泉研の実習で、タケノコの呼吸速度の測定を行った。実習ではタケノコを外皮とその内側(可食部)に分け、それぞれをチャンバーに入れて呼吸速度を測り、試料1gあたりの呼吸速度を算出した。すると、呼吸速度は内側>外皮の順番となった。そこでこの結果をもとにして、タケノコの部位ごとによる光合成を測定比較するとどのような結果が得られるのか疑問に思った。今回の講義から、果実の内部と外部では光合成機能に違いが見られることが分かった。タケノコの内側を果実の内部、外皮を果実の表面に相当すると仮定すると、タケノコの外皮のほうが光合成能は高いと考えられる。呼吸速度の違いを照らし合わせると、外皮は外界からの二酸化炭素の取り込みによる光合成をする役割と、内部から排出された二酸化炭素再固定する役割を担っているのではないかと考えられる。

A:単純な論旨ですが、他で学習した内容とあわせて考察していてよいと思います。


Q:今回の講義の中で採り上げられていたソラマメについて、この植物では種皮だけでなく、種皮の中に存在する子葉も緑色であることから、この子葉にもクロロフィルが存在すると考えられる。これに対し、同じ双子葉植物マメ科であるダイズにおいては、種皮・子葉ともに黄褐色であることから、どちらにもクロロフィルが存在しないと考えられる。この違いが生じる理由について、主に以下の2点が考えられた。
①ソラマメとダイズではともに、種子形成の段階でクロロフィルの分解が起こるが、ソラマメの果実の採取時期がダイズのそれより早いため、クロロフィルが残った状態で観察されること。
②ダイズの子葉ではクロロフィルの分解が生じるが、ソラマメの子葉ではそれが生じないこと。
 まず①について、ダイズの果実が早い時期に収穫された状態である枝豆では、その種皮・子葉がともに緑色である。また文献1より、植物の種子形成の初期においては葉緑体が形成され、後期においてそれが分解されることが分かっている。このことから、どちらの植物の種子においてもクロロフィルが形成されるが、採取される時期に違いがあるため、ソラマメの種皮・子葉ではクロロフィルが存在し、ダイズでは存在しないように見えるのではないか(これを裏付けるためには、発芽できる状態のソラマメとダイズの種子について、そのクロロフィル量・光合成活性を比較する必要がある)。
 次に②について、それぞれの植物の芽生え様式に関して調べてみたところ、ソラマメは地下子葉性(芽生えにおいて、子葉が種皮を被ったまま地中に留まる)であるのに対し、ダイズは地上子葉性(芽生えにおいて、子葉が地上に現れた後、展開して光合成を行う)であることが分かった(参考:文献2)。また文献1より、クロロフィルの分解に関わるNYC1遺伝子を破壊した緑色種子について、発芽した時の子葉は白色となることから、種子に存在するクロロフィルは、子葉におけるクロロフィル合成を阻害すると考えられる。これらのことから、地上子葉性であり、発芽後の子葉において光合成を行う必要のないソラマメにおいては、種子の状態で効率よくエネルギーを蓄えるため、種子全体でクロロフィルを合成し、光合成を行うのに対し(講義の中で述べられていた通り、ソラマメの種皮が超弱光に適応していることは、これを裏付けているように思われる)、地上子葉性であるダイズでは、発芽後の子葉においてクロロフィルを合成し、光合成を行う必要があるため、早い段階で子葉に存在するクロロフィルを分解するのではないか。
文献1:古い種子の白い双葉,植物Q&A,田中歩(北海道大学低温科学研究所),2017/07/23,11:42アクセス,URL:https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3488、文献2:2.種子と芽生え,福原のページ,福原達人(福岡教育大学教育学部),2017/07/23,11:44アクセス,URL:https://ww1.fukuoka-edu.ac.jp/~fukuhara/keitai/2-1.html

A:これは、非常によく考えていてよいと思います。複数の、全く異なる観点の情報を統一的に考えている点が高く評価できます。


Q:今回の講義では、果実の光合成についてのお話だった。果実の内部にも光合成能が見られることを、アボカドを例に学んだ。アボカドの果実は、外皮が黒く硬いが内部は緑がかったクリーム色をしている。緑色の果実といって他に思いつくものは、キウイフルーツだ。その色から、キウイフルーツの果実の内部も光合成能を持っていると考えられる。しかし、キウイフルーツの外皮は茶色い毛で覆われており、その内部の光合成能が何に用いられているのかは不明である。これを検証するには、黄色系のキウイフルーツを用いるのが有効だろう。緑色系と黄色系のキウイフルーツを比較した実験では、緑色の方が、クロロフィル含量が優位に上回っていることが報告されている(参考1)。そこで、両者の果実を用いて内部の光合成活性を測り、両者の構成要素や成分の違いから光合成能の役割を予測できると考えられる。また、黄色いキウイフルーツは毛が果皮に生えた毛が短いものや生えていないものが多い。そこで、果実の外からも光合成活性を測定し、内側の活性との差を比較することで、光合成活性に毛が及ぼす影響を見ることもできる。
参考1:稲垣麻奈美、内田七恵、西山一郎「緑色系、黄色系キウイフルーツならびにベビーキウイ果実におけるクロロフィル、ルテインおよびβ-カロテン濃度の比較」2005年、日本家政学会

A:キウイフルーツについては、僕も実験を行なったことがありますが、色の違いまでは検証しませんでした。面白い点に着目していると思います。


Q:今回の授業では、葉以外の光合成について学んだ。そこで、授業前半で例に挙がったアボカドの果皮の内側の緑色部分が、ほとんど真っ暗な実の中であるにもかかわらず光合成をしていることについて考察してみる。私は、アボカドの果皮の色は徐々に黒っぽく変化していくのに、果皮の内側の緑部分の色はそのままであることに注目した。まず、アボカドの果皮は実が熟してくるにつれて、クロロフィライドaが消滅し、アントシアニンが合成されるらしい。(参照1)また、アボカドは脂肪酸を多く含んでいる。アントシアニンは抗酸化作用があるらしく、実が熟してくると脂肪酸が増加するため、酸化を防ぐために果皮中のアントシアニンが増加していくのではないかと考えた。つまり、実が熟してくると果皮は光合成から、実の酸化防御へと役割が変わり、実が熟し果皮が変色してもなお内側は緑であることから、果皮の内側緑部分は果皮の代わりに光合成の役割を果たす、あるいはサポート役になっているのではないかと考えた。
参考文献 1、一般社団法人 日本植物生理学会 みんなの広場 植物Q&A アボカドの変色と軟化について、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2857、2017/7/23閲覧

A:これも、面白い点に着目していますね。ただ、内側の部分にも脂肪酸が含まれているとすると、この説は成り立たないのではないでしょうか。そのあたりはどうなのでしょうね。


Q:今回の講義の中でそら豆の鞘と豆についての光合成活性の話題が登場した。光合成器官は葉であるというのは誰もが知っていることだが、その他にも茎や果実など緑色で光合成を多少行っている器官がある。そして、この特徴は草本に多い。木本は光合成器官を完全に分業している一方で、草本は葉以外でも行う。この違いについて考えてみよう。まず、木本は幹や枝がリグニン化しており見た目も全く緑色ではないことから光合成は行っていない。その代わり植物体そのものが草本と比較すると巨大であり、大量の葉を付けていることが分かる。また、植物体が大きい木本は光競争にも有利である。一方、草本は植物体も小さく、付けている葉の数も木本に比べれば貧相である。。以上のように葉による光合成では圧倒的有利な木本に対して、草本は「質より数」の戦略を取っているのだろう。木本に比べれば葉での光合成は大したことないが、その分他の器官でも光合成を行うことで補っていると考えられる。

A:葉以外が緑なのは草本が多いということですが、どんぐりも若いときは緑色ですよね。太い木の樹皮は大抵茶色ですが、若い枝は緑の場合も多いように思います。最初の前提に、もう少し説明が必要であるように感じました。


Q:今回の講義で、スイカの皮は緑と黒の部分の両方で光合成を行なっており、色の違いはクロロフィルの濃度によるもので濃いものほど色が濃くなることを学習した。このことから色が黒いのほうが光合成効率がいいことがわかる。ここで、シマウマは黒地に白の縞があることを思い出した。ではスイカは緑に黒縞なの黒地に緑縞なのかを考えたい。スイカはウリ科であることから他のウリ科の色を確認すればどちらかが後から出来たと考えられる。そこで、ウリ科の植物を思い浮かべるとキュウリやカボチャが思いつく。しかし、キュウリは全体的に緑だがカボチャは黒いイメージがある。このことからほかのウリ科の色から判断するのは難しい。よって、今回の講義から学んだ皮に存在するクロロフィル濃度が黒の方が濃いことから黒の縞が後から出来たと考えられるよう。これは、はじめに全体に黒であるの仮定した場合にわざわざクロロフィル濃度を下げて緑色にするメリットがないためである。しかし、緑色が先で後から黒の縞が出来たと考えるとより効率よく光合成を行うために黒の縞が出来たと考えられるからである。

A:スイカが、緑色地に黒なのか、黒地に緑色なのか、を考えるレポートは初めてです。サイエンスには、このようなユニークな考え方が非常に重要だと思います。