植物生理学I 第13回講義

マングローブの根の光合成

第13回の講義では、マングローブの根の光合成を調べる3日間のプロジェクトの紹介しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業では、先生が夏の数日間で沖縄においてマングローブを対象に実験をした話を聞いた。マングローブは根に葉緑体が見られることから光合成を行い、そこでできた酸素を利用している(根が水中にあり、酸素利用がしにくいため)のではないかということの証明が最初の目的であった。実験をしていく中で根の光合成量を計測しているのか、根に付着している藻類の光合成量を計測しているのか分からないという事態があった。私がここで思ったのは、マングローブは藻類と共生しているのではないかということである。話の中では結局何の光合成量を計測しているのか分からなかったため、確たる証拠はないが、マングローブの根が水中にあり、酸素利用がしにくい環境であること、藻類は光合成をして酸素を放出すること、それと例えば傷ついた桜の木の幹を観察すると緑色の層が見られるが、桜は陸上植物であるから、これによって酸素供給をしているとは考えづらく、桜の根までは見たことがないが、マングローブの根はこのような桜の幹に見られる緑色層の延長線上のものなのではないか(幹の緑色層の具体的な役割はわかっていないようである(1)が、上述のように酸素供給は考えにくい)といった根拠から、藻類との共生関係は十分に考えられる。これを証明するのはかなり難題であり、この方法が現実的かどうかは微妙だが、木の根の樹皮と藻類の大きな違いは死細胞か生細胞かであると考えられるため、生細胞のみ通るような物質で藻類を殺して(根の内部までその物質が浸透すると問題である)、藻類の光合成をさせなくした上で、根の成長量や光合成量を見てあげると良いと考えられる。
・参考文献:植物生理学会ホームページ「幹は光合成をするか」(https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3038) 2017/07/14閲覧

A:最後の部分、樹皮の外側の部分が死細胞からなるのは確かですが、さすがに死細胞では光合成はできません。光合成をしているのは、内部の生細胞のはずです。


Q:今回はマングローブの根で光合成が行われているのかを検証する実験について授業を行った。根が光合成をおこなっているのか付着している藻類が行っているのか確証が得られなかったため、根が光合成していると断定できなかった。ここで藻類でなく根が光合成をしていることを確かめる方法を考えていこうと思う。参考文献1.では、シロイヌナズナの根を使い葉緑体の分化の促進、抑制について、「光合成器官である地上部を失うと根で葉緑体の分化が進むことが分かり、この制御に植物ホルモンのサイトカイニンとオーキシンが深く関与していることも明らかとなりました。(中略)このとき、根のクロロフィル量が増えるだけでなく、光合成の効率も良くなったことから、地上部を失ったことにより、根が光合成器官へと変化しているのだと考えられます。」と記されていた。これと同じように地上部で光合成が行えないような条件下におき根の光合成活性を調べることで、根の光合成を確認することができるのではないか。
参考文献 1.東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部 教養学部報 第577号 葉がなければ根で光合成? http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/577/open/577-2-2.html

A:参考文献の研究は、地上部の存在が根の光合成(葉緑体の発達)を抑制するという点に面白さがあります。逆に、地上部が存在する条件で根が光合成をする植物の場合は、シロイヌナズナとは全く別の制御が働いている可能性も否定できないでしょう。


Q:自分たちのアイディアを実験に持ってくることは、面白いなと感じた。今回の授業で、沖縄の三種のヒルギ属での根呼吸活性を明らかにする実験を紹介してもらったが、その実験の中で、教授たち自作のビニール紐等を使った幹のようなものが紹介された。また、光阻害を防ぐ為にパラソルを用いるなど自分では考えつかないようなことをしていた。ここで感じたのは、実験はオリジナル要素があるべきなのだということだ。入学以来、実習書に従って真似事みたいに実験していたので、こういった捉え方が失われていたし、そういう考えはむしろ間違いだとも思っていた。本講義を受けて、具体的実験方法もだが、それよりも実験に対する姿勢というものが学べてとても有意義だった。最後に教授から実験目的は毎日考えて、毎日変えていくべきだと言う言葉はこれからも自分の中に残るだろう。

A:今回紹介した研究は、野外での調査研究の色彩が強いので、それだけ自分の創意工夫が求められます。実験室の中での実験の場合は、少し雰囲気が違うと思いますが、何らかの形でオリジナリティーを発揮しないと面白い研究にならないという点では、結局は同じことかもしれません。


Q:今回の講義の中で最も驚いたのはたったの4日間でこれだけの結果が得られたということである。実験方法を考え、結果について議論し改善して再び実験を行い再び議論する、という研究者の日常を凝縮して垣間見た感じがして、実際の1日のスケジュールが気になった。やはり夜遅くまで議論し、朝早くから実験していたのでしょうか。今回私はマングローブの話に関連して、マングローブの種子の形態に注目し、メカニズムと目的について考察する。数年前、琉球大学の馬場繁幸先生が主催する西表ツアーに参加し、メヒルギの植林を行った。その際に細長い種子を泥に突き刺すように植林し、半径1m以上離して植えるように習った。その細長い形態から、成熟して落ちてそのまま泥に刺さるような散布方法だと思っていたが、野生では刺さらずに海水に浮いて漂って干潮時に着地する個体が多いと聞いて、確かに漂った方が種子はより遠くに運ばれるメリットがあるなと思った。ではなぜ細長い形態をとっているのだろうか。目的としては、発芽後すぐに海水に浸らない部分を得るためだと考えた。海水の塩を逃がすためと、土壌のO2不足を空気中で確保するためだといえる。では次に構造的に考えてみる。上記した目的を達成するためには細長い種子がそのまま茎の働きを持って立ち上がる必要がある。多くの植物の種子は胚軸と子葉が胚乳に包まれて、発芽するときには固い種皮の中から子葉が出て、いらなくなった種皮や胚乳はなくなるという流れだが、メヒルギの種子は種皮等を捨てることなくそのまま茎として使用し、やがて幹へと形態を変えていくのではないかと考える。したがって、柔らかすぎず固すぎず、植物の茎と同じようなしなりを持っているといえる。これを明らかにするためにはメヒルギの種子の断面を観察する必要がある。もし、胚乳が種子の中心を通るようにあったとしたら、発芽後は中空になり強度が弱くなる。だが、やがて幹として栄養や水分を運ぶための構造を作らなければならないため、中空になるのは好都合かもしれない。実際に断面を観察してもっと確信的な考察をしたい。

A:このような考察の場合、まずは、果実の部分が種子に付随していないかどうかも確認する必要があるかもしれませんね。果実は部分的には親個体ですから、そこが構造的に重要だった場合には、その部分を変えることが困難であることを考慮に入れる必要があるでしょう。


Q:呼吸根の光合成が昼に検出できないという結果が得られたが、その点について考えてみた。昼に光合成を行わないということは、昼にはCO2の取り込み量が少ないのではないかと思った。そこで、思い浮かんだのはCAM植物だ。CAM植物は夜間にCO2を取り込んで保存し、昼間はそのCO2を使うため、取り込んだCO2全体量は他の植物を小さくなり、その結果光合成量も少なくなる。しかし、CAM植物は昼間に気孔を閉じることで、水分の損失が防げるというメリットがある。呼吸根にも、CAM植物と似たような仕組みがあるために、昼に光合成を行っていないのではないかと思う。呼吸根の場合、呼吸根の地上部分からCO2の取り込みを行っていると考えられるが、昼間ではその際に何か生育に不都合なこと(おそらくマングローブは熱帯地域にあるので、高温や乾燥に関わることであると思うが)があるのだと思う。

A:これは面白いところに目をつけましたね。CAM植物の中には、根の周りの塩分に応答してCAM化するものがあります。ただ、実際の実験においては、光合成を測定するためにガス交換ではなく、クロロフィル蛍光を用いていますので、例えCAM植物であったとしても光合成活性を検出することはできたはずです。


Q:今回の講義の内容から、マングローブ樹種の呼吸根では光合成が行われている可能性があることが分かった。この呼吸根における光合成について、なぜ常に気中にあることからCO2吸収がより容易であると考えられる幹ではなく、水に浸かる可能性の高い呼吸根で光合成を行うのかについて考えた。私はこれについて、呼吸根では文字通り呼吸が行われていることから、この呼吸で発生したCO2と、根の働きにより吸収した海水中の純水を利用して光合成を行うのではないかと考えた。このように考えると、水に浸かりやすいため幹に比べてより水を得やすい呼吸根で光合成を行うことは、筋が通っているように思われる。また文献1より、地面高が低く水に浸かりやすいヒルギダマシなどの呼吸根における光合成活性は、地面高が高く水に浸かりにくいオヒルギなどの呼吸根における光合成活性より高いことは、上記の仮説を裏付けていると言えるのではないか。
文献1:海水で生育するマングローブ植物の生態と現状,北宅 善昭,大阪府立大学大学院生命環境科学研究科教授,2017/07/15,15:08アクセス(URL:www.saltscience.or.jp/symposium/3-kitaya.pdf)

A:まず、「幹ではなく」とありますが、講義の中で紹介したように、幹でも光合成はしていました。あと、水につかると酸素は得られにくくなるわけですよね。そのあたりが、論理的にどうもしっくりきませんでした。


Q:今回の講義では、研究の目的は流動的であり実験結果によって変化するものであると学んだ。実際に先生がおこなったヤエヤマヒルギによる実験をもとに具体的な実験目的の変化と実験方法の推移を見た。タコノキを用いた予備実験では呼吸根の光合成活性が検出できたが、ヤエヤマヒルギの光合成活性については光合成活性についての結論を導けなかった。根に付着した藻類の影響や日射、時刻、潮などの影響を小さくすることが実験の精度を高める案として挙げられていた。タコノキとヤエヤマヒルギの違いを考えると、最も大きな違いは自生地の塩濃度だろう。根の塩分吸収と光合成する仕組みとが何らかの形で繋がっているという仮説が立てられる。水分の蒸発により海水の塩分濃度が高くなる夏には、塩分吸収の抑制システムが間に合わなくなるため光合成活性が低くなるのではないだろうか。これを検証するには、同じ場所において通年で活性の測定をおこなわなくてはならない。また、藻類の影響についてだが、一つの植物での検証が難しいなら他の植物と対比した検証が有効ではないだろうか。タコノキの表面に藻類を生やし、どの程度測定値が変わるかを検証する方法が挙げられる。うまく活性を測れなくなった場合、ヤエヤマヒルギの測定においても藻類が測定の邪魔をしていることが明らかになる。その時になって、藻類を落とす方法を考えれば良いと思う。

A:通年の実験はやってみる価値がありそうですね。やはり3日で一つの研究が終了するという目的自体に無理があったことは否めません。表面に藻類を生やす話の方は、その程度によっていくらでも結果が変わると思いますので、どの程度の情報が得られるか、よくわからないと思います。


Q:今回の講義を受けてまず感じたのは生体を用いる実験における環境の重要さである。特に野外において気温、日照、風速、湿度など生命活動に関わる環境はさまざまに変化しすべてにおいて全く同じ環境の日など存在しないであろう。そんな中において生物の生命活動もしくは行動の原因となる因子を発見するのは困難である。そこで解決策をいくつか考えてみた。まず1つは実験室で環境をコントロールしたうえで実験を行うというものである。確かにこの方法だと環境条件は均一に出来るのだが今回の講義で出てきたマングローブのような大型の植物などだと設備が大型になってしまうため環境のコントロールが難しくなり費用も膨大になる。他の方法としては実験対象となる個体を野外において隔離して測定を行うというものである。こちらは実験体のサイズに関わらず行える利点があるが完全に隔離してしまった場合潮の満ち引きなど人為的に操作しにくい要因について考慮するのが難しくなったり他個体との相互作用など実験結果が変化してしまう可能性がある。他にもいくつか改善策は考えたがいずれも完璧なものはなく実験条件を複合的に変化させて対応していくしかないという結論に至った。

A:結局は、環境要因を適切に管理することができない以上、測定を長期にわたって行なって、環境要因と実験結果との関係を明らかにしていくしかないのでしょう。


Q:今回の講義では、沖縄に自生するマングローブの呼吸根による光合成活性を調査にあたって、藻類の光合成ではないという証拠が欲しいとのことだった。そこで考えたのが、根の表面に藻類が存在していると仮定して、藻類を食餌とし盗葉緑体を行う生物に食べさせ、その生物の光合成活性を測定するという方法である。藻類による光合成と盗葉緑体生物が行う光合成活性を近似できるとすれば、最初にマングローブの呼吸根全体の光合成活性を測定し、盗葉緑体生物が行う光合成活性との差を取ることにより、藻類によらない真のマングローブの呼吸根の光合成活性を調べることができるのではないだろうか。

A:これはまた斬新なアイデアですね。同じ考えるならば、このぐらいオリジナリティーのあるアイデアがよいと思います。藻類を薬剤で除去するというレポートもありましたが、副作用を考えると、他の生物に食べさせる方が結果の信頼性は増すかもしれません。


Q:今回の講義ではマングローブの呼吸根の話題であった。マングローブがわざわざ呼吸根という特殊な器官を用意して根でもガス交換を行うのには何かしらの理由があるはずと考え、その理由を考察することにした。もともと土壌中は酸素濃度が低く、水分含有量が増加するほど根の酸素不足は深刻になり、土壌水分量が多すぎると植物は根腐れを起こす。しかしマングローブの生息地では、満潮時には「土壌水分が多すぎる」というレベルではなく、もし通常の根であったら根が冠水してしまう。そのため空気中に露出した特殊な根を持つようになったと考えられる。もう1つ考えられる理由としてはマングローブの耐塩性機構には大量のATPを必要とする可能性があることである。マングローブは海水に浸かるため耐塩性を持つ。ふつう浸透圧によって植物の水分が奪われるはずだが、これに抵抗するということは自然の摂理に逆らうことであり、エネルギーを必要とすると考えられる。そのために根でも積極的な呼吸によるATP合成が必要であると考えられる。以上のように、マングローブの呼吸根の獲得には根腐れの防止と大量のATPの確保という2つの要因があると考えられる。

A:最初の酸素濃度の話だけだとありきたりですが、耐塩性機構に必要なエネルギーの観点は面白いと思います。


Q:今回の講義ではマングローブの根について学習した。ヒルギの根は光合成を行っている可能性があるとのことだったが、葉と根では光合成の特徴に違いがあるのが分かった。調査結果からは根が光合成を行っているとは言い切れないものの、もし仮に根が光合成を行っているのであればどのような条件で根での光合成が起こるのか、調査結果をもとに考察する。調査結果から、葉は午前、午後ともに光合成を行っていた一方で、根の場合は午後のみ光合成を行っていることがわかった。また、根の場合、水際の木では暗順応で光合成活性が見られ、海水をかけたときも同様の結果が得られた。この結果から、ヒルギの根は日差しが弱くなったタイミングで光合成をはじめ、葉の光合成の補助的な役割を果たしていることが考えられる。水が存在する条件で光合成活性が見られたのは、満潮は多くの場合午前と午後で一日に2回起こるため、午後の満潮と日差しの減衰が根の光合成を引き起こす要因となっている可能性があり、そのため暗順応で多少の光合成活性が見られたのかもしれない。過去の講義では、光合成を行う器官は葉でないにしろ、多くの場合緑色をしているということを学習した。しかし、ヒルギの呼吸根はコルク層の内側に緑色の層があり、日が当たる部分は茶色である。ヒルギの葉には光阻害を受けている可能性があった。よって、日差しが強すぎるときは葉の光合成活性が落ちてしまう。しかし、先ほど述べたように根の光合成が葉の光合成の補助的な役割を果たしているのであれば、葉の光合成活性が落ちたときに頼りになるのは根であろう。このことから、緑色の層がコルクに覆われているのは、コルク層を通過するほどの強い光が根の中に入ったとき、葉の光合成が落ちる合図となり、根では光合成が始まるのではないだろうか。しかし、このように考えると、午後の日差しが弱くなったタイミングでは光はコルク層を通過できず、光合成できないという矛盾が生じてしまう。そこで、光の強弱を感知しているのは主に葉であると仮定する。そして光の強さにより葉から根へ信号が送られ根の光合成が始まる。さらに、午後は満潮に合わせて必ず根で光合成を行う。以上が講義で聞いた調査結果をもとに考察した根の光合成のしくみである。この仕組みが正しいかを調べるためには、葉と根の光合成活性に何らかの対応関係が存在しないか、午後の光合成は潮の干満に関係して起こらないかを実験により調査する必要がある。

A:複数の観点から重層的に考えていてよいと思います。この講義のレポートとしては、ここまで長い必要は全くありませんが、ばらばらいろいろなことを記述しているのではなく、一つの論理に沿って議論を展開しているので、冗長な感じは受けませんでした。