植物生理学I 第11回講義

植物の受精とABCモデル

第11回の講義では、植物の受精を花粉管ガイダンスと自家不和合性を中心に説明したのち、植物の花器官の形成理解のベースとなるABCモデルについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業の中で、オオバコのエコタイプの話がとても印象に残った。生育地が異なるオオバコを同じ条件で育てても、枯れる時期が異なったままであるということだが、これについて考察したい。そもそもなぜこのような枯れる時期が異なるのかということについてだが、これは生育地の日照時間・温度の差によると考えられる。日照時間が長く、温度が高い南の地域ほど、枯れる時期は遅くしても問題がなく、逆に日照時間が短く、温度が低い北の地域ほどエネルギー効率の点から早く枯れる必要があるといえる。しかし、これらを同条件で育てても変化がそのままであることから、環境要因は関係がないように思える。環境要因が関係ないとすると、遺伝的要因が関与してくると考えられる。最終的に、まずその地域毎で、環境要因により、遺伝子の自然選択的が起こり、南では枯れる時期の遅いオオバコが、北では早いオオバコが選択されたからではないかと考えた。これを示すために、遺伝子の発現機構によって結果は異なるだろうが、南のオオバコと北のオオバコを交雑した結果の子の枯れる時期を見てみたいと思った(優性・劣勢・不完全優性等が考えられるが不完全優性だと私は考える)。

A:「環境要因は関係がない」という部分は、もう少しきちんと考える必要があるでしょう。環境要因が同じであるのは確かですが、その場合、同じ環境要因に対して別の応答を示しているわけですからそのメカニズムについての考察が必要なのではないかと思います。


Q:自家不和合性について、自家不和合性は新しい遺伝子型を作る最も合理的な方法で、実際生物多様性に大きく貢献していること理解している。しかし、寒冷地帯や乾燥地帯などの極限環境では周囲に同じ種が存在しにくく自家不和合性によるデメリットがあるのではないかと思った。例えば、大腸菌は大量に増殖し、一定の割合で塩基配列に変異が生じることを利用した生存戦略であると耳にしたことがあるが、これと似たようなことが植物でも可能であると考えられる。もちろん短時間に大量に増殖できるわけではなく、新たな遺伝子型を獲得する可能性は低いが、自家生殖した方が種の存続としては有利である。これを考慮すると、自家不和合性をもつよりも確実に花粉を離れた場所に運搬できるような方法(花粉の形や花の色や匂い、形態など)を取る方が極限環境などでは有利であると考えられる。

A:自家不和合性はすべての植物で見られるわけではありません。自家受精と他家受精の例として有名なのは、セイヨウタンポポと在来のタンポポでしょう。ここで展開されている論理によれば、極限環境では、むしろ単に自家不和合性を捨てるのがよいように思えます。あと、原核生物の場合は、遺伝子の水平伝播も、遺伝的多様性の維持に一役買っているようです。


Q:今回の授業では、オオバコのエコタイプについての言及があったので、それについて考察しようと思う。オオバコは北海道、宮城、静岡、沖縄のものを東北大学の圃場で育てると、12月の時点で北海道のものは枯れ、宮城・静岡のものは若干が残っているもののほとんどが枯れ、沖縄のものは緑の葉を残しているという画像を見た。この原因として、おそらく多くの人が考える点として、単純な温度があるだろうが、今回は温度変化について考えてみたいと思う。各地の1ヶ月ごとの温度変化は次のようであり(1)、これから考えると、オオバコは通常、温度がマイナスに転じたとき枯れると仮定すると、各地のオオバコはどの程度の温度変化が枯れるのに最適かが決まっており、それが北海道では1ヶ月あたりに-4.2度、仙台では-3.5度、静岡では-2.9度、那覇では-1.1度の温度変化である。また、これと、画像の枯れ具合から考えると、この最適の温度変化から変化量が小さくなると、枯れる時期が早くなり、大きくなると遅くなるという反応が起こっているものと考えられる。枯れるというのは主にエチレン合成が関わっているはずであるから、まず各地のオオバコには枯れるのに最適な温度変化がそれぞれ決まっており、それから温度変化が小さくなるとエチレン合成が進み、大きくなるとエチレン合成が抑制されるもしくは促進されないようなメカニズムが存在すると考えられる。上述の考察が正しければ、温度変化を管理したような場所でそれぞれの地域のオオバコを育ててあげ、エチレン合成を見てあげるような実験系を組めば、実証可能である。
地域  札幌  仙台  静岡  那覇

8- 9  -4.2  -3.5  -2.9  -1.1
9-10  -6.3  -5.5  -5.2  -2.4
10-11  -6.9  -6.0  -6.0  -3.1
11-12  -5.0  -4.3  -4.9  -3.6
 もう一つ、今回の授業では、「本来の土地ではどのように育っているのか」がわからなかったので、例えば沖縄のオオバコが、沖縄で12月になっても枯れないという事実があるのなら、そもそも枯れる時期は先天的に決まっており、環境要因の影響を受けないと考えることもできる。
・参考文献 1.気温と雨量の統計ホームページ「各地の気温と降水量のグラフ」(https://weather.time-j.net/Climate) 2017/07/02閲覧

A:温度の代わりに温度変化を考えてみた、というのはよいと思うのですが、何か理由が欲しいですね。単に、他にこんなのも思いつきました、というのではなく、単純に温度をモニターするよりも、温度変化をモニターすると、これこれの点で植物にとって有利になるはずだから、といった理由付けがあると、ぐっと価値のあるレポートになります。あと、このレポートでも「先天的に決まっており、環境要因の影響を受けない」という部分が気になります。先天的であって、環境要因の影響でもないとすると、時間経過によって枯れるぐらいしか思いつきませんが、時間を測るには、何らかの環境測定が必要だと思いますから、環境要因の影響を受けないというわけにはいかないように思います。


Q:今回はABCモデルについては学習したが、A、B、Cの全ての遺伝子が欠損した場合はどうなるのか、疑問に思った。その場合、花器官の代わりに何か別のもの形成されるのか、もしくは花器官の位置に何も形成されないかの2通りあると考えられる。どちらにせよ、花がないと種子が生じず、仲間を増やすことはできないだろう。もし、前者であった場合、代わりについたものがどのような形状になっているか、またどんなものが形成されたかなどの結果が得られる。そこで、もし、代わりに付いたものが花の並び方をしていれば、花序の決定が花の形成の決定よりも後に行われていると考えることができるかもしれない。また、通常生じないような器官ができれば、A、B、C以外の遺伝子が存在し、花器官とは言えない中途半端な何かができたという可能性があるかもしれない。

A:ドイツの文豪ゲーテは優秀な科学者でもあり、花器官は葉が変化したものであることを指摘していて、これは現代でも正しいと考えられています。講義の中でも、第二回の講義で、花器官とシュートの類似性について触れたと思います。でも、あっさりと紹介しただけだったので、もっと、そのあたりを強調すべきだったかもしれませんね。


Q:今回の授業でABCモデルにおける変異の話を触れた。特に、そのうち全てが花びらになる、つまりがく、心皮及び雄蕊や雌蕊の代わりに花弁が生えてくる条件は何でしょうかとの話が最も興味深かった。私は考えたパターンがC遺伝子が全くなければ、それとお互いに発現を抑制しあっているA遺伝子が元々C遺伝子に支配されている領域まで広がる結果、B遺伝子と発現され、花弁のみの花が生えてくるのではないでしょうか。しかし、Cクラス変異体(C遺伝子の機能が欠損した株)が外側にがく、中心に花弁といった構造を取っている。原因として考えられるのは遺伝子Bが全領域にわたって分布していないため、どうしてもA遺伝子が独立に発現される場所が外側にあるからだと考えられる。では、一体自然界に存在する花弁のみが生えている花がどういう風に遺伝子発現を行っているのでしょうか。ここで、私が考えているのは我々ががくを花弁に間違えているのでしょうか。そうなると、遺伝子Bや遺伝子Cが全く発現しない花の場合では、花弁と非常に似ているがくを我々が花弁として認識していることで説明できると考えられる。これを証明するために自然界にある全てが花弁である花の遺伝子発現を調べ、全ての領域においてA遺伝子のみが発現されていれば、我々が普段、がくを花弁に間違えたと言えると考えられる。そうすると、B遺伝子やC遺伝子をノックアウトすれば、見掛けでは、全てが花弁である花を作ることができると考えられる。

A:問題提起としては面白いのですが、論理展開がやや直接的ではありませんね。Aクラス遺伝子が全体に広がった状態で、Bクラス遺伝子も全体に広がれば、全てが花弁になることは明らかなわけですから、まずは、その可能性をきちんと指摘したうえで、Bクラス遺伝子が外側の部分に広がらないというABCモデルの前提を崩せない場合に話を持って行った方が、論理展開がわかりやすくなると思います。


Q:今回の講義では側芽形成がフラクタルに行われるという話を扱った。またフラクタルな構造は側芽形成に限らず自然界の様々なところで見られるという。今回はその理由について考えてみた。フラクタルな構造とはある図形の一部を切り取るとそれが全体像と相似になるということでありつまり同じ形の構造をサイズを変えて繰り返し作っているということである。このように生物体上の構造物を作っていけば異なる構造物を複数作るより必要な遺伝情報量が少なくなると考えられる。またそれが運動器官など生物自身が能動的に動かせるものであった場合異なる構造が複数あるより単一な構造がサイズのみを変化させて存在した方が運動の伝達系統もシンプルなものになりより高度な行動が行えるようになると考えられる。

A:これは、面白い点に着目していますが、最後の部分など、説明がないので、具体的な理屈がわかりません。別にレポートを長く書く必要はありませんが、「運動の伝達系統もシンプルなものになり」だけではよく意味が分かりませんから、そのあたりをきちんと説明する必要があるでしょう。


Q:今回の授業では、ABCモデルについて学んだ。ABCモデルでは、Aのみでがく、AとBで花弁、BとCでおしべ、Cでめしべが形成される。しかし、この機構は植物が誕生したときすぐに持っていたものではなく、進化の過程で獲得したものだと考えられる。では、この機構を獲得する前はどんな様式を持っていたのかを考えてみる。生殖という観点に注目すると、最低でもめしべとおしべが存在していれば生殖可能である。つまり、花を持つようになった最初の植物はBとC遺伝子のみを持っていたのではないかと考えられる。しかし、初めから2つの遺伝子を持つようになったというのも疑わしい。ここで、B遺伝子はA遺伝子と共存することで花弁を、C遺伝子と共存することでおしべを形成する。またモデルの形からも、AとC遺伝子は単独で発現できるが、B遺伝子のみでは花などを発現することはできないと考えられる。つまり、一番最初に獲得したのはC遺伝子ではないかと予想する。ただ、C遺伝子からできためしべだけでは生殖は行えないので、胞子などの無性生殖を行って生きていたのではないかと考える。

A:面白い考え方ですね。ただ、説明の仕方はもう少しわかりやすくできるように思います。「初めから2つの遺伝子を持つようになったというのも疑わしい」という部分は、もっと単純な(どちらか1つの遺伝子だけを持つ)植物がもとにあったはずだ、ということがおそらく言いたいのですよね。科学的なレポートでは、なるべく行間を読ませることをしないで、直接的な表現を取った方がよいでしょう。


Q:今回の講義では主に花の形成と受粉等について学んだ。そこで私は、自家受粉が主な受粉方法である両性花に着目する。両性花は一つの花に雄蕊と雌蕊があるため、自家受粉となることが多い。これにより遺伝子の多様性においては自家不和合性を持つ花には劣ると考えられるが、ほぼ確実に受粉し、子孫を残すことができるという点においては優位であると考えられる。したがって、生息場所において先駆者となる植物は両性花であることが求められる。しかし、なぜ両性花は花弁を形成するのであろうか。虫や鳥を惹きつけるとされる花弁を形成する意義は、それらの生物に花粉を媒介してもらうこと以外にもあるのではないかと考え、実験系を考える。まず仮説として、花弁の存在により自家受粉効率が上昇すると考える。これを確かめるために花のABCモデルに基づき、花弁欠失変異体を形成し、野生型と変異型の自家受粉確率を調べる。これにより有意差が認められない場合は、両性花も他個体との交配を視野に入れていると考えられ、花弁が付いている方が受粉しやすいという有意差が認められる場合は、さらに実験を行う。その実験とは、その有意差を生み出している要因を探るためである。この要因は主に環境要因であると考えられるため、室内において様々な環境下で野生型と変異体の受粉個体率を算出することで、両性花における花弁の受粉の際の役割を知ることができると考えられる。

A:両性花と自家受粉と自家不和合性の関係が少し単純化されすぎのようです。両性花でも自家受粉をしないものはありますし、そもそも自家受粉をしないのであれば、自家不和合性を持つ必要性がありません。そのあたり、前提にはやや問題がありますが、考え方の道筋は面白くてよいと思います。


Q:今回、講義の中で現れた「多様性」という言葉。これについて考えてみたい。テレビの自然のドキュメンタリー番組などでは、よく「〇〇は進化することによって、多様性を手に入れ、生き延びる術を手に入れた」といった、進化と多様性を結びつける文言を見かける。しかし、進化と多様性という言葉は結びつけていいものなのであろうか?今回も花粉の話が出て来たので、花粉と多様性(多様化)という言葉について触れている文献①を参考に話を進めていきたい。この記事では、ハクサイの原種に対して、マルハナバチとハナアブの2種類を用いて送粉を数世代に渡って行った結果、有効な送粉者である前者の進化に対して、あまり有効ではない送粉者の後者においては、自家受粉を行えるようになるといった結果になった。ここで考えたい、進化とはより良い形質を求め変化することであるが、ではこの2つのどちらがより優れた進化なのであろうか?私は決められない。なぜなら、そのどちらもその環境において最適な適応を行なっているからである。そう、「適応」なのである。多様性を手に入れたのは、適応したからなのである。それぞれの環境に併せて最適な適応を行うからこそ多様性というものが生まれる、そう自分は考える。
参考文献①http://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/11716

A:もう少し論理的な文章を書けるようにしましょう。肝心の文献の紹介の中で、「多様性」が全く出てこない以上、全体の論旨の中で文献がどのように役立っているのかが読み手には理解できません。また、そもそもの問題設定自体、「進化と多様性を結びつける」となっていて、「結び付ける」というあいまいな言葉が使われているために、因果関係を議論しているのか、それともほかの何らかの関係性を議論しているのかが、不明です。単に言葉を連ねるのではなく、きちんと論理を構築して、その論理を記述するようにすると、科学的なレポートになります。


Q:花粉管の誘因は花柱を通すと行われる、という話があった。花柱を通ることで何が変化するのか、という話なのだが、花柱内部を突き抜けていく花粉管の性質が変化するわけではなく、花粉管が花柱に触れている部分から何らかの物質が花粉管に供給されているのではないかと考えた。というのも、花柱を通るだけで誘導性質を獲得するとは考えにくく、しかし花柱を通れば確実に機能が発現しているという事実があるため、細胞の変性よりは花柱内で分泌される物質が花粉管内部に取り込まれ、胚珠に含まれる誘導因子と干渉し、花粉管の成長方向を定めているのではないだろうかと考えられる。これを検証するには、同じ種の花粉から出た花粉管の成分を花柱を通ったものとそうでないものにわけて調べればいい。また、ある程度成長した花粉を花柱から切り離すことが可能であれば、花柱を通したものから花柱を取り除き、その後の誘導が為されるかどうかを調べれば花柱内部で分泌された物質が本当に存在するのか、またそれが存在した場合直接干渉しているかどうかがわかると考えられる。

A:花柱からの物質が花粉管ガイダンスに役立っているのではないか、という考え方は斬新でよいと思います。実験としては、花柱に種特異性があるかないかを調べてみるがの、まずは最初である気がします。


Q:アヤメは萼片と花弁の見分けがつかない。これは花被片といい萼片と花弁が融合した構造となっている。今回はどのようにして、そのような特異的な構造になっているかを考察したい。植物の器官形成はカルテットモデルという仕組みに従っている。例えば萼片は遺伝子A、花弁は遺伝子AとB雄蕊は遺伝子BとC雌蕊は遺伝子Cによって作られる。なので私は、アヤメの遺伝子Aに萼片と花弁を融合させる働きがあると考えられる。なぜそう考えたかというと、アヤメのおしべとめしべは、はっきり区別できるからである。つまり、遺伝子BとCは正常で、遺伝子Aに特殊な働きがあると言える。この事を確かめるために実験系を考えた。それは遺伝子BとCをノックアウトし、萼片と花弁がどのように成長するかを観察する方法である。遺伝子Bをノックアウトして萼片に変わった点が見られて、遺伝子Cをノックアウトして花被片が作られれば、自分の仮説が正しいと言える。なぜこのようにするかというと、遺伝子Aをノックアウトしてしまうと、そもそも萼片と花弁が作られないからである。つまり逆に遺伝子BとCをノックアウトした中で、遺伝子Aの働きを見ればいいと考えた。

A:これも面白い点に気がつきましたね。「萼片に変った点」というのがよくわかりませんでしたが、これは萼と萼とが融合している、ということでしょうか。それであれば、そのように書いたほうが良いでしょう。