植物生理学I 第7回講義

導管の仕組み

第7回の講義では、植物が根から水を吸い上げる原動力について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業では植物体を支えるために全体の9割が死細胞となっていることを学んだ。光獲得競争のためなら低い樹高に枝を横に大きく広がらせれば、風の影響が少なく植物全体の死細胞の割合も減るのではないかと考えた。ここで草原に少数で生育しているような樹木と針葉樹林などで木々が密集している状態の樹木を比較した。草原の樹木は低木で全体的に丸く広がっている木や太い幹に傘のように横に広がった枝がついいていることが多い、一方で針葉樹林では比較的細く、樹高の高い木が密集して生えているという特徴がある。ここで生じる疑問は針葉樹林の木がなぜ横に大きく広がらないのかということである。これに対して次のような要素が関与していると考えられる。つまり、樹木一本を見てみるならば最も発芽の早かった個体が横に枝を大きく伸ばせば、周囲の樹木の生育を阻害することができ、光獲得にとって最も有利な状態を作ることができる。だが、種の繁栄と個体数を増やすという観点では、横に枝を伸ばした時に同種の植物の生育まで阻害してしまうやり方は成立しえない。よって、針葉樹林などの木々が密集した状態では植物は光を獲得するための戦略と種を繁栄させる戦略の両立を図り、細く高く密集した群生になると考えられる。

A:考え方は面白いと思うのですが、「種を繁栄させる戦略」というのが、具体的に何を意味しているのかがやや分かりづらいと思います。進化の淘汰圧は、あくまで個体にかかるので、種を保存するために個体が不利益をこうむる性質が進化により獲得されると考えるのは難しいでしょう。


Q:授業では水のポテンシャルの勾配について学んだ。水のポテンシャルは地上でまっすぐに樹木が育った場合、空気が-50メガパスカルに対し、100mの高さの木では-1メガパスカルであり、マイナスが大きい方に水が移動する。わたしはマングローブのような河口で育つ植物のポテンシャルを考えてみた。まず、海水は水に比べて浸透圧が高いので植物の体内にある水分子は植物から外に流れる方向に移動する。つまり植物内と海水では海水の方がポテンシャルのマイナスの具合が大きいので地上と同様に海水でも植物は上に向かって水が移動するとわかる。海側に育つマングローブと河側に育つマングローブでは海水では浸透圧の違いによりマングローブが吸い上げる力が弱くなるので同じマングローブでもその体内の時間あたりにおける流量が異なることになる。従って、流量の少なくなる海側のマングローブでは河側のマングローブよりも発育が遅くなり光合成量も少なくなるのではないかとわたしは考えた。また河側のマングローブが海側に移動させられた場合、毛細管を細くすることで圧力の違いに対応せざるをえないために葉の育成に使われるエネルギーが減るのではないかと考えられる。いずれにせよ海水では圧倒的に植物にとっては不利な環境であることは明らかであるが実際にマングローブの様に海水で発育する樹木は存在している。実際に淡水と海水でマングローブをそれそれ育成して違いを観察することで圧力以上に優位になる要因も見えてくるのではないかと思う。

A:いろいろ考えていてよいと思うのですが、できたらレポートにまとめる段階では、論点を一つに絞って、その論点の主張のために全体の論理が流れるようにした方がよいでしょう。


Q:今回の授業では導管と水の移動の仕組みについて学んだ。導管のらせん状について習ったが、引力に対する強度を上げるためなら純粋にらせんを形成している物質と同じ硬い管であった方が仕組みが単純で進化の過程で発生しやすいと思う。ではなぜらせんになっているのか。これは授業中に出たように掃除機のホースから考えられる。掃除機のホースはらせん状だが先に延長してつける部分はただのプラスチックの筒である。つまり掃除機のホースのらせんの本当の働きは吸引力に対する強化ではなく純粋に曲がりやすさだと考えられる。同様に植物の導管でも茎や幹や枝が風の影響などでしなったときに、中の導管も一緒にしなることができるようにらせん状になっていると考えられる。

A:掃除機のホースの曲がりやすさに注目したレポートは、他にもありましたが、このレポートは、掃除機のプラスチックの筒の部分に注目することによって論理を補強している点がよいと思います。


Q:今回の授業では、水の吸収の話から導管について主に学んだが、特に導管のアポトーシスについて気になったので、それについて考察しようと思う。導管はまずセルロースを沈着させ、液胞(この中にはDNA分解酵素、RNA分解酵素、タンパク質分解酵素などがある)を破壊することで細胞の中身を無くし、水の通り道を作ると同時に、植物体の支持にも重要な役割を果たしている。しかし、細胞死をさせると例えば病気に対する抵抗力がなくなるなど、デメリットも存在する。自分は、この導管のアポトーシスは進化的に行われたもので、それを必ずしも良しとしない植物も中にはいるのではないかと考えた。つまり、細胞死を行わせないほうが病気への抵抗性が強くなるなどといったことである。そこで、導管のアポトーシスに重要な遺伝子であるVNS遺伝子(1)を、植物体の支持があまり必要ではないと思われる雑草類(シロイヌナズナなど)、その支持が重要であると思われる木本類(ポプラなど)、ある一定の支持は必要であると思われるが、その必要性は定かではない中間の植物(アサガオなど)で発現を調節し、その成長量や病気への抵抗性を見る実験を行うと面白いと思った。自分の予想では雑草類は比較的正常に育ち、支持が重要であると思われる植物になればなるほど、成長が異常になる(また、病気への抵抗性はコントロールの方がない)と考えられるが、もしこの実験で全く正常に成長する植物があったら、病原体に強い抵抗を持つ植物を作り出せ、農業にも役立つのではないかと思った。
・参考文献 1.基礎生物学研究所ホームページ「プレスリリース 自己細胞死を促すシステムの獲得が植物陸上化の鍵を握っていた! ~コケが水を運ぶ細胞や体を支える細胞を作る仕組みを世界で初めて解明~」(http://www.nibb.ac.jp/press/2014/03/21.html) 2017/06/04閲覧

A:目の付け所はよいと思うのですが、病気への抵抗性との関係がきちんと説明されていないので、やや中途半端な印象を受けます。むしろ、細胞死の必要性と病気との抵抗性の間の関係に集中して議論する方向性もあったように思います。


Q:木の幹の一番外側である樹皮(コルク層)は、内側が大きく成長すると細胞が死んでいるためはちきれるようにして割れ、剥がれ落ちると説明があった。しかし、木によって樹皮のはがれ方に大きな違いがある。全体にひびが入っているものや、ひびがなく滑らかなもの、薄く横に剥がれていくもの、まばらに剥がれていくものなど多くの種類がある。そして、ブナの木は樹皮が剥がれることがほとんどないようで、樹皮に地衣類などが付着していることから判断できる。このブナの木はなぜひびが入ることも、剥がれ落ちることもないのかを考えていこうと思う。まず樹皮を木が自ら剥がれ落としているのかというと、そうではなく最初にも書いたように死んだ細胞が集まっているため、成長できずに剥がれ落ちてしまう。ブナの木材を調べたところ、乾燥によって変形やよじれが大きく生じる木材であることが分かった。一方乾燥による変形やよじれが少ない木材としてヒノキがある。ヒノキの樹皮を見てみると縦に亀裂が入り全体が剥がれ落ちている。このことから木の性質上のものであると考えた。乾燥によって変形しやすいほうが亀裂が入りやすそうな気がしてしまうが、変形することによって内側からの広がりに対応できているのではないかと考えた。ヒノキのように変形せず、形を変えない木では曲がったりすることがないためすぐに亀裂が入り樹皮が剥がれ落ちるのではないかと考えた。

A:変わった点に目をつけていてよいと思います。実例が二例だけだとやや説得力に欠けますが、考察は論理的だと思います。


Q:今回の講義で掃除機のホースと導管の構造上の類似点に関する話が出てきた。ここで自分は上述の2つと同じく物質を吸い上げるためのもので円筒状の物体としてストローを思い浮かべたがストローには内側に特に突起物はなく扁平である。今回はその理由について考察していく。まず掃除機のホースと導管のみに共通してストローに当てはまらない特徴について考えたところ1本の重要性の違いに気づいた。つまり導管はそれを持つ植物体にとってはなくてはならない存在であり掃除機においてホースは予備を除けば掃除機において唯一無二であるのに対しストローは基本使い捨てで大量生産が前提となってるのである。大量生産する際コスト面は無視できず一方一点ものを作る際コスト削減して質を落としては元も子もない。つまり1本1本が重要なホースや導管では質を重視してらせん状になっているのに対し1本当たりの相対的な価値の低いストローではコストを重視して簡単に作れる扁平な構造になっていると考えられる。

A:これも目の付け所が良いと思います。ここまで考えたら、ストロー型戦略の植物があるとしたらどのような植物になるか、といった点にまで踏み込むと、より生物のレポートにはなります。ただし、僕の講義のレポートとしてはこれで十分です。


Q:今回の講義では導管の水を運ぶ仕組みや形状などについて学んだ。その中で、特に導管を形成している細胞は死んでいるということに疑問を抱いた。なぜ、細胞が死ぬ必要があるのか。講義のなかでは、例えば樹林を形成している組織のうち呼吸をしているのはわずか8%であると学んだ。ここから、すべてのの細胞が生きている場合、多くの栄養を作ることができるが一方で、それらの細胞を維持しるのに莫大なエネルギーが必要となる。そのため、必要な栄養を作りだせる分だけ呼吸をさせることで、エネルギー消費を抑えることができると考えた。また、次に、ではなぜ師管ではなく導管の細胞が死ぬのかという疑問が生じた。これは、維管束は調べると様々な形状のものがあると分かったが、一般的には、外側から、師管、形成層、導管の順に並んでいる。そして形成層から連続的に外側に師部、内側に木部が作られていく。それによって茎は肥大成長をする。この過程で外側に死細胞があるとその細胞はそれ以上成長できないため、肥大成長の妨げになると考えられる。そのため、導管は内側にあり、肥大成長の際に邪魔にならないようにしていると考えられる。

A:これは、茎に関しては正しいのですが、根の場合は篩部と木部の位置が逆転します。その点を考慮に入れると、結論も変わってくるのではないでしょうか。


Q:講義の中で、導管内の水ポテンシャルは通常の植物が-2から-3メガパスカルなのに対し、マングローブの水ポテンシャルは-3から-6メガパスカルであると習った。これはマングローブの生育する海水の浸透ポテンシャルが-2.5メガパスカルなので、それよりも低い圧ポテンシャルでなければならないという理由がある。ここで、マングローブが地上に進出すればよりたくさんの水を地面から吸収することができるのではないかと考えた。陸上に生育する植物は水ポテンシャルをあげればそれだけ多くの水を地中より得ることができるような気もする。しかし現実的には、それだけ勢いよく水分を吸収してしまうと、土壌中の水分が一気に減るため、長い目で見るとあまり水分の吸収効率はよくないのではないか。つまり、陸上植物は陸上で適した水ポテンシャルで生育し、マングローブは塩水条件に適した水ポテンシャルで生育しているこということである。

A:なんとなく予定調和的な結論で、やや面白みに欠けるような気がします。ぜいたくを言えば、もう少し常識の殻を破るようなレポートをこの講義では期待します。


Q:細胞の自殺によって導管が作られる、という話について、植物が大きくなるにつれて内側の細胞はどんどん死んでいくのに対し、導管はどうなるのかと考えた。データにもあった通り、ほとんどの植物は中心の方に導管をもっていない。では植物が若いころの導管はどうなったのかという疑問が浮かぶ。既に死んでいる細胞であるという前提が間違っていないのであれば成長したところで導管自身は変質しないはずだ。つまり、成長に対して正比例した導管の数が示されるはずであり、データのように外側に重点的に配置されているのはおかしいのではないだろうか。そう考えると、導管が成長途中で何か別のものに置き換わる可能性と、導管自体は変質せずに役割が変化する可能性の2つの可能性に行きついた。まずもし成長途中で置き換わるとすればセルロースだが、死んだ細胞である導管が自ら変質するとは考えにくいので何か別の要因が外部から侵入するか、導管内を通って根から変質させる物質が供給されると考えるのが自然だと考えられる。しかし、外部からの要因は植物種全体に作用していることを考えると考えにくく、根から変質させる物質が出ている可能性がないわけではない程度のことしか言えず、そして生きた植物の中央部分を測定する方法を私は知らない。
 もう一つの導管自体は変質せず役割が変質するというのは、成長につれて中央付近の導管に水を供給せず、中空の管として存在するだけになったと考えるもので、根からある程度の高さに中空ではあるものの、何本もの管が通っていると考えると、棒が中央に刺さっているような形で真っすぐ成長する手助けや、力学的支えにもなっているのではないかと考えた。

A:最初の可能性を「知らない」で終えて、もう一つの可能性を「考えた」で終えてしまうと、結論が出ないので、やはり、最初の可能性は自分なりの論理で否定して、もう一つの香のせいが正しい、という形をとった方が良いでしょうね。レポートにも、やはり自分なりの主張が欲しいところです。


Q:今回の講義において、死んだ細胞に物理的補強を任せる植物の機構について、さらにその死んだ細胞が外的刺激により崩れることで樹洞が発生するということについて学んだ。樹洞が発生すると植物体が大きく削られるため植物にとっては大きな損失となることは明らかであるが、樹洞の形成により植物側に少ないながらも何らかのメリットが生じることはないのだろうかと考えた。樹洞といっても木の中心に完全な空間が生じているものだけではなく、中が木屑でフレーク状になっているもの、さらに進んで土くれが堆積しているものなどその形態は様々に存在する。そしてフレークや土が詰まっている樹洞の中には非常に多くの生物が生息している。ミミズやワラジムシ、甲虫の幼虫などの土壌生物はもちろん、冬にはオサムシ類が越冬したりする場合もある。被食生物が多くいればそれだけ捕食生物も多く樹洞を訪れると考えられる。とすれば、種子で子孫を残す植物の場合「種子を遠くに運ぶ生物が多く訪れるようになる」というメリットが出来るのではないかと考えられる。とはいえ生物が多く訪れるようになればそれだけさらなる外的刺激が加わる可能性が高まるともとらえられるため、上に述べたメリットが物理的補強の話抜きにしてメリットと呼べるかどうかは疑問である。

A:これも、目の付け所はよいのですが、自分の主張を自分で否定した形になっているので、そこをもう一工夫したいですね。


Q:今回の講義は導管の仕組みについてがテーマであった。その中で「導管になった細胞の周りの細胞は導管になりやすい」という話があった。これについて疑問に思ったことがあるので、それについて考えていこうと思う。まず、細胞が別の細胞に影響を及ぼすということは何らかの物質を用いた化学的な伝達であると考えられる。講義内で導管を形成する遺伝子としてVND7が挙げられていたので、おそらく伝達を担う物質はこの遺伝子の発現調節因子、あるいはこの遺伝子そのものであると考えられる。ここで疑問に思ったのは、導管は原形質を失った死細胞であるから導管として完成した後に上記のような物質を合成するのは不可能である。そうなると、導管の形成過程で隣の細胞へと伝達を担う物質が渡るのだろう。そこで考え付いたのが失った原形質そのものを伝達を担う物質として利用するのではないかという仮説である。ある細胞が導管化するために原形質を細胞外へと流出させる。この原形質を隣の細胞へと流し込めば、前の細胞でVND7が転写・翻訳されて発現した導管化を引き起こすタンパク質が含まれているため再び導管化が起こっていく。このように導管化を引き起こす物質を再利用する形で導管を広げていくのではないかと考えた。

A:細胞死自体が周囲の細胞へのシグナルになるという考え方は非常に面白いと思います。言われてみればありそうな話である一方、これまでのレポートでこのような考え方をしていた人はいなかったと思います。独自性があって評価できます。


Q:私の家はガーデニングをしている。しかし8月ごろになるとこまめに水やりをしても、植物が枯れてしまうことがある。この現象は空気中の湿度に関係するのではないかと考えた。そこで今回はなぜ8月ごろに植物が枯れやすいのか、植物の蒸散に注目し考察したいと思います。 今回の授業で蒸散は「空気の水ポテンシャルは負に大きいため植物の水が空気に流れ蒸散する。」と習った。この水ポテンシャルは「水を保持する力」なので、「飽和水蒸気量ーその時の水蒸気量(湿度)」が高いほど、水ポテンシャルが高いと考えた。実際に気象庁のデータによると「1月の平均気温は約5.2℃で湿度は約52%、一方8月の平均気温は約26.4℃で湿度は約73%」(1)である。このデータを飽和水蒸気圧と水蒸気量の計算のサイト(2)で計算して1月と8月の飽和水蒸気量を出すと
1月 飽和水蒸気量6.9g/m3 飽和水蒸気量−その時の水蒸気量(湿度)6.9g/m3*48/100=約3.3g/m3
8月 飽和水蒸気量24.94g/m3 飽和水蒸気量−その時の水蒸気量(湿度)24.94g/m3*27/100=約6.7g/m3
より自分の仮説において8月の方が1月よりも水ポテンシャルが高いと言え、8月は植物の蒸散が盛んで植物は多くの水が必要という事実を証明できた。
参考文献 1.気象庁 過去の気象データ検索 http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/upper/index.php?year=&month=&day=&hour=&view=&point=47646、2.飽和水蒸気圧と水蒸気量の計算 http://es.ris.ac.jp/~nakagawa/met_cal/satu_vapor.html

A:自分なりの考えで論理を進めていてよいと思います。「飽和水蒸気量−その時の水蒸気量」のことを「飽差」といいいます。