植物生理学I 第12回講義

マングローブの根の光合成

第12回の講義では、マングローブの根の光合成についての短い研究を紹介しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では、マングローブの根の光合成に関する研究とその経過について学びました。マングローブは、昔旅行で行くところが常にカリブ諸島だったのでとても身近に感じていたが、こんなにも特殊な植物だとは知らなかった。小さいころ疑問に思っていたことは、根の形と種子が木についているときから芽が出ている(胎生種子)のはなぜかということだった。根の形については今回の講義で解決した。胎生種子について少し考えてみたいと思う。マングローブがなぜ胎生種子なのかというと、普通の種子を作っても海洋を漂い、発芽力がなくなってしまう、またはもし水の中で沈んで発芽しても酸素が足りず成長できないからである。よってマングローブの種は母樹に種がくっついている時に発芽させ、この芽に栄養がいきわたる仕組みになっている。しかし、本来種子が硬いのは発芽するであろう芽を外的から守るためだ。そう考えると、マングローブの胎生種子は自立するまでにその芽が外敵に襲われることがなく成長することができるのか疑問に思った。発芽したばかりの芽は柔らかく鳥などに食べられてしまいそうだ。しかし思い返してみると、マングローブで鳥を見かけた覚えはなかった。さらに調べてみると、マングローブ林の干潟、干潮時に鳥は1羽もいなかったという観察がされている。干潮時にはカニ等が沢山歩いており、野鳥たちがいるはずなのに。これは潮の満ち引きが激しいこともあり、あまり鳥たちにとってマングローブ林は餌を探したり、マングローブの木にとまるにも適していないと考えられる。よってマングローブには外敵がいない。胎生種子という形態がマングローブにとってとてもうまくできていて驚いた。
参考文献:野鳥の世界、http://maroleopie.blog118.fc2.com/blog-category-16.html、沖縄ビジターズハンドブック、http://mingala.net/ovh/mangrove.html

A:話としては面白いのですが、発芽した芽が柔らかくて食害を受けやすいのは、別に干満には寄らないでしょうから、干潮時に鳥がいなくても満潮時にいればだめなのではないでしょうか。また、植物にとっては鳥よりも虫のほうが食害に関しては問題となるのではないかと思います。そのあたりの論理の流れがやや物足りないかと。


Q:今回の授業はマングローブでの呼吸根の光合成機能を見つける実験についての内容だった。その中で、藻類による光合成なのか、呼吸根による光合成なのかという議論があった。この議論を解決するための実験を考察しようと思う。藻類そのもののみを採取できるのであれば、藻類のみの光合成を測定し、マングローブの測定結果と比較して、光合成量が増加していれば呼吸根の光合成を証明できる。藻類のみを採取できないならば、マングローブの根を切り、内部をくりぬいく。くりぬいた内側は光を通さない素材でコーテングし、内側からの光合成を遮断する。このくりぬいた根と、生きている根の光合成量を測定することで、もし表面に藻類が付いていたとしても、くりぬいた根の光合成測定値を引けば、その差が呼吸根の光合成量となり、呼吸根の光合成が測定できると考えられる。

A:単純なアイデアですが良いのではないでしょうか。くりぬいたりすると、根の光合成のほうはいろいろ問題が起こりそうですが、藻類には問題は生じないでしょうし。


Q:今回の授業ではマングローブを構成するヤエヤマヒルギの根の光合成についてのお話をいただいた。藻類の光合成と根の光合成を分けるため、根のコルク層を破壊したところ、根の光合成機構も破壊されたと考えられる結果となった。また根の表面を洗った場合でも、完全に藻類の光合成を分離したとは言えなかった。藻類の光合成と根の光合成を分離する方法を考える。一つ目は授業で先生が提示していたコルク層の外側半分を取り除く方法である。これにより根の破壊が抑えられ、根の光合成機構が存続できる可能性がある。しかし、光合成機構に直接的な破壊が起こらなくても、根を破壊することには変わりなく、光合成の活動に影響を与える可能性を考慮する必要がある。次はヤエヤマヒルギの根には影響を与えないような薬品の散布等によって、表面の藻類のみを死滅させる方法である。このような薬品を開発できれば根の光合成のみを測定することは十分可能と考えられる。しかし、薬品の使用量にもよるが環境負荷が多かれ少なかれ存在することが問題である。最後は藻類と根の両方の光合成を測定したのちに、藻類のみの光合成を測定し、その差から根の光合成を求める方法である。藻類のみの光合成を測定するためには、両方の光合成を測定後に根のコルク層を剥ぎ取り、コルク層を含めた藻類の光合成を測定すればよい。ただし、藻類とヤエヤマヒルギが共生のような相互関係を持っていた場合、この方法では正しく測定できないと考えられる。逆に言うとこの測定から藻類とヤエヤマヒルギの相互関係の有無を調べることができるかもしれない。いずれの方法も完全とはいかないが実際に試すことで更なる改善点が見えてくるだろう。

A:上のレポートとやや似ていますが、阻害剤の利用についても述べていて、いろいろ考えていることがわかります。


Q:今回の講義ではマングローブの根による光合成に関する実験のことを聴かせて頂きました。光合成が、実際にマングローブの根に含まれる葉緑体によるものなのか、はたまた根の表面に付着する藻類によるものなのかを結論付けることが出来なかったということをお話になられておりましたが、このような追加実験をすれば問題解決につながるのではないかと、自分なりに推測しました。表面のコルク層に関する件ですが、コルク層を剥がしたり、ブラシで表面を擦ったりするという対策があったと思います。ただ、コルク層を剥がした場合は沖縄の強光条件のために葉緑体が光阻害を受ける、という可能性があり、一方ブラシで擦った場合だと藻類が濡れて活性が上がったためにFoが上昇したという可能性が示唆されていました。そこで、根のコルク層を剥がすだけでなく、ヒルギの幹の比較的上層部のコルク層を剥がして根に巻きつける、という方法を考えました。幹の上層部だと、下層部に比べて水に浸からないため、藻類の付着が少ないと思われ、また、材質的にも根のコルク層と変わらなければ、コルク層を剥がされてむき出しになった根に対して強光を阻害するには充分なのではないかと考えました。完全にコルク層の材質を一致させるには(根と幹ではコルク層の厚さなどに違いがあるかも知れないから)、一度根から剥がしたコルク層を、除苔専用剤などの薬剤をかけて藻類を駆除し、よく薬剤を洗い落とした後に再度むき出しの根に巻き付けてやれば良いのではないかと考えました。ただ、この処理を行っている間に、強光により光阻害を受けたり根が傷ついたりする恐れがあるので、処理中の間は根の露出部を外界から保護した方が良さそうです。

A:コルク層を一度除去して藻類のない部分のコルク層と取り換える、というアイデアは奇抜ですね。実際には、かなり困難が伴うように思いますが、面白いと思います。


Q:屋外で実験することの難しさを実感しました。去年、生態学実習に行きましたが、その時も日ごろ実験室の自分の手の届く範囲で行っている実験とは全く異なるものを体験し、データの処理もかなり大変だったことを思い出します。このような屋外での実験において、実験室で行う実験と同じように正確なデータを得るためにはどうすればよいのか考えました。まず一つは、実験する規模と同じだけデータの量も多くとることです。これは直感ですが、対象が大きくなると一つのデータの持つ意味が小さくなるように感じるからです。(例えば、ゾウの5日間の血液データとマウスの5日間の血液データの持つ意味は、その一生の長さを考えると大きく異なると思います。)もう一つ考えたのは、対象を小さくすることです。今回の話だと、小さいヒルギで実験するということです。加齢による影響がない場合は、この方法で多少データの正確性が得られると思いました。

A:確かにヒルギの芽生えを使うという手はあるでしょうね。ただ、自然界でうまく芽生えを見つけて観察するのは、それはそれで難しそうです。結局、栽培実験にもっていかないと難しいのかもしれません。


Q:マングローブの実を見て考えたことがある。細長い実は、落下した際に地面に突き刺さるという機能を持つという話であった。確かに、あの形状ならそれもありうるだろう。干潮時の緩くなった地面に、木の枝の高さから垂直に落ちれば、突き刺さることはまず間違いない。しかし、動物に食べられ移動するというような戦略をとらない限り、親株の真下に落ちるという事は、日光の受容という面から見れば適応的とは言い難い。私があの細長い形状を見て、まず連想したのは「ヘラブナ浮き」である。ヘラブナ浮きとは、その名の通りヘラブナ釣りで使用する浮きで、棒状の形をしている。繊細な引きに合わせる必要がある、小さな動きを竿へ伝える必要のあるヘラブナ釣りならではの浮きである。マングローブの実は片端がヘタのようになっていて、恐らくは重くなっている。潮が満ちた状況では、落下した実はヘラブナ浮きのように片端を海中に沈め、海面を漂い、遠くへ流されるのではないだろうか。ここで、注意しなければいけないのは、あまり遠くに(沖合)流されすぎてもいけないということである。上下に長い形状は、浮きとしての役割だけでなく、ものに引っかかりやすく、かつ不安定である。丁度ヘラブナ浮きが小さな動きでもふらふらと動くように、海面に浮きながらも、水の流れをまともに受けないのではないだろうか。あの細長い実を水に浮かべてみれば、何か分かるかもしれない。

A:面白い点に着目しています。もう少し、「ヘラブナ浮き」の具体的な動きを絡めて議論できるともっと面白くなったでしょう。現状だと、「小さな動きでもふらふらと動くように」などという部分は、どのような動きがどのような機能につながるのかという点で、もう一息具体的なイメージを持つことができませんでした。


Q:先生の行った実験の中で、ヒルギ属の根の光合成活性を測定する際に、根の表面の藻類の光合成活性を測定してしまっているのではないかという問題点が挙げられた。この疑問点を解決する策を考えたのでここで述べたいと思う。まず以前の講義で、根は光合成をせず、葉緑体を持たないということを習った。これは、多くの植物では地上部から根にオーキシンを与えて、根の緑化を防いでいるからである。これを利用して、ヒルギ属の根に何も手を加えていない状態での光合成活性をコントロールとし、その値からオーキシンを根に与えて光合成活性を抑えた状態での光合成活性を引くことで、藻類の光合成活性を測定することができる。さらにこの値を、コントロールから引くことで、根単体での光合成活性を計測することができる。

A:なるほど。これは面白いアイデアだと思います。以前の講義の情報と組み合わせて新規の研究提案になっています。おそらくヒルギの根の緑化がシロイヌナズナと同様にオーキシンによって抑えられるのか、という点から調べる必要があるとは思いますが、十分にチャレンジする価値のある実験だと思います。


Q:今回の授業ではヒルギの呼吸根の光合成に関する実験についてであった。ヒルギの根は昼間光合成をしておらず、夕方になると光合成をするという結果が得られたそうだ。このような結果になった理由として、そもそもヒルギの根ではなく根に付着した藻類の光合成を測定していた、またはしっかりと根の光合成を測定できており、根の光合成の活性が光強度や土壌の水分量などに支配されているためであるという結論になっていた。そこで今回は測定した値はヒルギの根の光合成を表していたとして、では何が根の光合成の日周変化に影響を与えているのか考えていきたい。私は潮の満ち引きに関係していると考える。ヒルギは潮間帯に生息するため酸欠土壌に根を下ろしている。そのため根は周りから酸素を取り込んで呼吸をすることができないため、根を地上部に出すことによって周りに酸素がある状態を作るとともに光合成もして呼吸分の酸素を生産しようとした。これが呼吸根である。このように見ていくと呼吸根の発達は周りを酸素に囲まれた状態に根を持っていくことが目的であり、光合成は副産物のようにはじめられたものなのではないであろうか。そのように考えると根が空気中に出ているときは光合成をする必要がない。ここでヒルギが光合成をするということは水とともに塩分も吸収してしまうということを示している。吸収した塩分は排除する必要があり、方法は種類によって違うものの葉にためて葉ごと捨てるなど植物にとって不利な作用が起きる。そのため吸い上げる水分も最小限にとどめていきたいのではないであろうか。ゆえに光合成も最小限にとどめるであろう。今回の授業からは根の光合成の効率は葉に比べたらあまりよくないと考えられる。よって根で光合成をおこなう必要がない干潮時は葉でのみ光合成をおこなった方が効率的に最小限の水分量で養分を作れると考えられる。ゆえに干潮時は根では光合成をおこなっていないのではないであろうか。しかし根が水中に浸かってしまう満潮時の根の呼吸は光合成によってできた酸素を使うしか方法がない。そのため満潮が近づくにつれて光合成が行われるようになるのではないであろうか。今回の実験では正午ごろに干潮が、日暮れごろに満潮があった。そのため干潮で根が呼吸をする分の酸素を根が周りから直接吸収できる昼間は光合成をせず、根が水に浸かって光合成によってのみ酸素を得られる満潮時に近づく夕方に光合成を始めたのではないであろうか。このようにヒルギの呼吸根の光合成の日周変動は潮の満ち引きに関係しているのではないだろうか。これを証明するためには今回の測定日と違った時間帯に潮が満ちる日に、同様に昼間と夕方の光合成の活性を測定すればよいと考えられる。

A:いろいろと考えていてよいと思うのですが、やや文章に明快さを欠きますね。ポイントを押さえてもう少し短い文章でまとめることができると、もっとすっきりした文章になると思います。


Q:今回の授業では論理的な流れに沿って実験を紹介して頂いた。自分はその実験の手法の中に出てきた「コルク層の外側半分を剥ぎ取る」という操作について興味を持った。コルク層というのは死細胞の集まりで、光合成には関係ないものとして扱われがちであるが、自分はもしかしたらコルク層は光合成と密接な関係にあるのではないかと思った。既にコルク層は、外部刺激からの保護・乾燥を防ぐ・温度変化を緩和する等といった役割があることが知られている。まず、温度変化を防ぐという既知の知識からも光合成に対して影響を与えていると思う。しかし、これでは独自の考えを示せていないので、講義中に考えた独自の仮説を以下に示す。それは、「植物のコルク層には、細菌や菌類といった微生物が生息しており、光合成に何らかの影響を与えているのではないか」という仮説である。コルク層というのは死細胞であるので、植物の生理的な機構が働かない場であると考えられ、微生物にとっては自身の快適な環境を作り出すことができる場であると考えられる。そして、その微生物がもしかすると光合成に影響を及ぼしているのではないかと僕は考えた。そこでこの仮説を検証するために行う実験としては、様々な植物種のコルク層に、微生物が生息しているかを調べればよいと思う。ここでは、光合成に影響を与える微生物を見つけ出したいが、光合成以外に影響を与える微生物も見つかってくるかもしれず(むしろピンポイントで光合成に影響を与える微生物が見つかることの方が少ないと思われる。)、その場合は、植物と微生物に関してだけではなく、これまであまり重要視されていなかったコルク層に関しても新たな知見が得られると考えられる。もしコルク層に微生物が存在し、それが光合成に関して影響を及ぼしているとしても、本講義で紹介して頂いた実験結果に対しては無視できるレベルの影響だと思うが、先生が短期間で行った実験のように、僕も短期間で検証できそうな仮説の検証を考えたので、やや本講義の論点とずれているかもしれないが、この考えをレポートの題材として選んだ。

A:アイデアは面白いと思います。ただ、仮説の検証のための実験はやや物足りませんね。微生物が生息しているかを調べるとのことですが、むしろ完全に無菌状態ということはありえないのではないでしょうか。どれだけ微生物がいれば「生息している」といえるのか、など、もう少し実験系を詰める必要があるように思いました。


Q:ヤエヤマヒルギ(マングローブ)は、土の表面より上に根を出すことで酸素を吸収している。それは泥の中の酸素濃度が低く、泥中からは酸素を取り入れることが難しいからである。ところで観葉植物にエアープランツというものがあるが、こちらは全く土を必要とせず、根のみならず植物体全てが土から離れている。ヤエヤマヒルギもエアープランツのように根を全て空気中に出してしまえばよいのではないだろうか。わざわざ半分だけ空気中に出すのは労力の無駄ではないか。エアープランツは乾燥地でみられる植物であり、多くがCAM型光合成をし、空気中や雨から水分を補給する。CAM型光合成は必要とする水分量が少なく、そのため雨や空気中からの補給で十分にまかなえる。しかしながらヤエヤマヒルギの光合成はCAM型ではないため、空気中の水分だけでは不十分である。そのためわざわざ半分を空気中に出してでも、もう半分は充分な水を含んだ泥地にある必要がある。

A:これも、目の付け所は面白いと思います。ただ、現在の論理展開だと、ヒルギはCAMじゃないからしょうがないね、という話で終わっていて、やや面白みに欠けると思います。例えば、CAM型の植物が潮間帯に存在しうるか、といった方向などに議論を展開すると面白いかもしれません。


Q:今回はマングローブなどの根の呼吸について学習した。今年の春沖縄に行った際に海でマングローブを見たのですがその際、マングローブの根が緑ではなく樹の幹のような茶色だったので不思議に思いました。今回はこの理由を自分なりに考え考察します。この理由は光合成の問題であると思います。普通植物は、根が土の中にあり直射日光にさらされることはありまえん。しかしマングローブは根が海上に出ているため直射日光も水面の反射光も受けることになります。よって葉ほど光合成器官がしっかりしていないはずの根には光が強すぎるのではないかと思いました。よって光をなるべく吸収してから透過させるために表面の色を茶色に変えたのではないかと考えました。よってこの茶色の表面の中に葉緑素などが有り光合成をしているのではないかと考えます。

A:これも、ほかに人が考えていないアイデアを思いついていてよいと思います。ただ、「葉ほど光合成器官がしっかりしていないはずの根」とある部分、根の光合成がしっかりしていてはいけない理由は何かあるのでしょうか。そのあたりの説明がほしいですね。