植物生理学I 第7回講義

導管の仕組み

第7回の講義では、植物の水輸送について導管の仕組みと形態を中心に解説しました。また、最後に樹木の形態について触れました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業では、針葉樹や広葉樹など植物種によって蒸散スピードが違うことを学んだ。そこで、普段水に囲まれている水生植物は蒸散をするのか疑問に思った。水生植物は5月10日の授業でやったように、多くの水生植物は気孔を持たず、葉の表面全体で二酸化炭素を取り込んでいる。水に不自由することはないし、周りに水があれば植物体を冷やすために蒸散をする必要もない。だが、蒸散によって無機塩類や養分を根から取り込む役割もあるので、まったく蒸散しないという訳にもいかなそうだ。わたしの予想では、水生植物は葉の表面全体で二酸化炭素を取り込んでいるから、きっと同じように無機塩類や養分も取り込むことができるために蒸散が必要ないのではないかと思った。それを解明するには、水生植物の導管も調べてみて、陸生植物との働きの違いはあるのかを調べれば良いと思った。蒸散スピードが極端に遅ければ、水生植物にはあまり蒸散が必要ないと分かるかもしれない。

A:おそらく、ここでいう「水生植物」は「沈水植物」のことですよね。もしそうだとすると、蒸散しようがないわけですから、最後の「蒸散は必要ない」というのは、「蒸散によって無機塩類や養分を取り込む必要はない」とすべきでしょう。細かことですが、サイエンスのレポートでは論理の対応は非常に重要です。


Q:植物の導管内での水の移動は、蒸散と凝集力によって説明できることを学んだ。すなわち、水はポテンシャルの高いほうから低いほうへと流れるが、土壌のマトリックポテンシャル、導管液の浸透ポテンシャル、導管内の水ポテンシャル、空気の水ポテンシャルの順に低くなるので水が導管内を移動していき、導管の毛細管現象によるマトリックポテンシャルによって水が途切れることはない。ここで、講義でマングローブの導管の水ポテンシャルは-3~-6であることも習った。これは、マングローブの根は水ポテンシャルが約-2.5の海水に浸かっているためである。ここで、海水ではなく淡水に根が浸かっている水生植物での水の運搬がどうなっているか考察したい。まず浮遊植物において、根の周りの純水は水ポテンシャルが0で、葉は空気に触れているので、上述の陸上植物と同じように水を運搬できる。抽水植物や浮葉植物においても、根は土壌中にあるのでマトリックポテンシャルが働くが、葉は空気に触れているので、同様に水が移動する。しかし、根が土壌中にあって葉が水中にある沈水植物のポテンシャルについては、土壌のマトリックポテンシャル、導管液の浸透ポテンシャル、導管の水ポテンシャルの順に低くなっていくが、葉では導管液の浸透ポテンシャルよりも葉の周りにある淡水の水ポテンシャルのほうが高いので、葉から外へ水を排出できない。このことから、沈水植物は根からだけでなく葉からも吸水していると考えられる。これは、水中にある沈水植物は体温が過度に上昇する恐れもなく、気体の形でのガス交換や蒸散を行わないので、気孔がないことにもつながっている。
参考:「樹木が利用できる土壌水分ポテンシャル」、日本植物生理学会、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2991

A:上のレポートとほぼ同様の趣旨ですが、水生植物の種類ごとに考察しているため、より説得力があります。良いと思います。


Q:湿潤な熱帯の広葉樹の蒸散流速が速いことについて、湿度の高い環境では水が豊富なので蒸散を盛んに行えることはわかったが、葉の中の湿度と空気中の湿度の差は小さくなるため、空気が植物から水を引っ張る力は小さくなってしまうのではないかという疑問が生じた。植物が水を自ら押し上げる力よりも空気が引っ張る力の方が大きいはずだ。空気による蒸散について湿度や降水はあまり関係しないのかもしれないと考えた。

A:問題設定は非常に面白いと思いますが、そのあとの考察がちょっとお粗末ですね。せっかく面白い問題点を見つけたのですから、論理的にそれを考察したいところです。


Q:今回の授業において、ミカンの果実において維管束が確認できるという話題が出た。さらに導管における水分の輸送方法は、蒸散による負圧と水の凝集力が関係しており、圧力の差で水分を引き上げていると学習した。また、ミカンの果実は若いころは緑色をしているが「植物の細胞、組織で緑色にみえるところには必ず葉緑体があり」(1)、「葉緑体をもつ細胞が何層にもなっている場合は、葉以外の組織でも気孔をもって」(1)いることからミカンの果実にも気孔が存在し、葉と同様に気孔からの蒸散により果実内に水分を送っているといえる。しかし、「アカシア、キョウチクトウ、ニワウルシの果皮の場合、気孔密度は葉の1/4から1/10程度と報告されている」(2)という事例があるが、これがミカンのような果実にも当てはまるとするならば、葉に比べて蒸散量が減少し、同時に蒸散により生じる負圧も減少することで水分の輸送速度が低下すると考えられる。だが水分の輸送速度が低下するということは長い間果実内に水分を留まらせておけるというようにもとらえることが可能であるので、果実の乾燥対策にも一役買っており、果実を長期間存在させることができると考えることができる。また同時に長く留まるということは根から送られてきた水分や無機栄養分が果実内に保持されるということであるので、より栄養分や水分を豊富にさせ、動物に食べられやすくすることで種子の運搬の効率を上昇させる効果があると考えられる。つまり、ミカンの果実の気孔の少なさによる水分輸送能力の低さは、ミカンの子孫拡散戦略において重要な働きをしていると考えられる。
参考文献
1、“植物Q&A 果実の光合成”、一般社団法人日本植物生理学会、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1149 (2016年5月31日参照)
2、園池公毅、“果実の光合成”、「光合成研究」第64号、第22巻 第2号、p70-76 (2012年08月)、http://photosyn.jp/journal/sections/kaiho64-2.pdf(2016年5月31日参照)

A:これは、蒸散の少なさの利点という新しい観点を導入していて面白いと思います。このような見方に基づいたレポートはたぶん初めてだと思います。人が考えないことを考えられる能力はサイエンスの世界では貴重です。


Q:植物によっては導管がらせん状になっているものが存在する。らせん構造をとる利点として、ばねのような伸縮性が得られ外力に強くなることが考えられる。一方でらせん状の導管で目的の部位まで水を運ぶ際、直線状のものよりも長い距離を運ばないといけないため効率が下がるという欠点も考えられる。そのため、細く長い茎を持つたんぽぽのように外力により形が変形しやすい植物がらせん構造をとり、樹木のような頑丈で外力による影響を受けにくいものが円柱構造をとることが考えられる。では、バナナの場合はどうだろう。講義中にバナナの実がらせん状の導管を持っていることが紹介されていたが、バナナは頑丈な幹を持っている。そのため、バナナは頑丈な幹の部分では直線状の導管により効率的に水を吸い上げ、脆弱な実の部分ではらせん構造をとることで外力から導管を守っているのではないかと考えられる。

A:これは全くの誤解です。螺旋状になっているのは導管そのものではなく、導管の壁の裏打ち構造です。講義の中で掃除機のホースとの比較の話もしましたよね。掃除機のホースだって、ほこりが螺旋状に運ばれていくわけではありませんよ。


Q:今回の授業では植物の維管束について学んだ。「どうかん」について考察しようと思い、色々調べていくと導管と道管の2通りの漢字があり、統一がなかった。なのでどっちの漢字がふさわしいのか考察しようと思う。授業で学んだように、「どうかん」の役割は水や養分を吸い、各器官に輸送することである。この際輸送の動力となるのは圧力であり、主に水ポテンシャルという形で表されている。このことから「どうかん」が主導で導いているというよりも、水ポテンシャルが導いたものの通り道となっていると考えるほうが自然である。従って「どうかん」は道管と表記するべきだと思う。

A:面白い考え方です。現在、中学・高校の教科書では道管に統一されています。面白いのは生物教育用語集(東京大学出版会)で、植物のものは道管、動物の消化液などを分泌する管を導管としています。消化液の分泌管も、ただの通り道ですからこのレポートの趣旨からすると道管とすべきなのかもしれません。昔は導管の使用例のほうが多かったので、僕などは導管を使っています。


Q:今回の授業を聞いて、導管が水をいかに上に吸い上げているのかということはよくわかったが、吸い上げる過程で導管を流れる水の中に含まれる養分はどうしているのだろうと思った。導管のまわりの細胞に吸い取られてしまうのか、それともうまく吸い取られないようになっているのか。そもそも、導管が地面から吸い上げる養分はどこに運びたいのだろう。いま思い浮かぶ地面から吸い上げられる養分というと窒素を含んだイオンしかないが、それは茎よりは葉緑体などが大事である葉で利用すべきものだと思う。(師管や導管以外の)茎部分の方が細胞液内に溶けている物質の数が多く、浸透圧の関係で茎にはあまり渡らないのか、それとも、師管の細胞の仕組みがうまく作られており、師管から外へ物質が移動しにくいようになっているのか。仕組みの簡単さとしては前者の方が簡単だが、茎の細胞にそんなに多くの糖やイオンなどが溶けているとは、私自身の感覚ではあまり考えられない。とすると後者もなくはない話だ。また、茎にいくら養分を渡したくないとはいってもまったく渡さないわけにもいかない。師管から供給される養分についても考えだすと止まらず、今のところ結論が出ていない。

A:イオンの吸収に関する一番簡単な仮説は、必要とされるところでは使われて濃度が低くなっているので、拡散でその方向に移動する、というものでしょう。ただし、生体膜の主成分は資質ですから、本来イオンの透過性は高くありません。イオンの透過には、そのイオンに特有のチャネル(輸送タンパク質)の関与が必要になります。なお、篩管のメカニズムについては、光合成のメカニズムとともに植物生理学IIで開設する予定です。


Q:本講義で導管を水が流れる仕組みについて学び、導管中の水の移動は毛細管現象だけでは説明できず、根圧や負圧があることを知った。土壌に根をはり生育している植物は根圧によってある程度水の上昇を行っていると考えられるが、根を切り落とされた切り花には根圧は存在せず、切り口から直接水を吸い上げなくてはならない。したがって、切り花においては人間が手を加えて水の輸送を補助しなくてはならないと言える。そのため、切り花の基本的なケアとして「水切り」が行われている。これは、水中で茎を斜めに切断することで、導管の切断面大きくし、水圧によって導管内に水を上げるという手法だ。導管中の水の移動の仕組みを考えると、この水切りをうまく行うポイントが見つけられると思う。まず、切断面から導管に空気が入ることを防ぐために、切断直後に水から出さない方が良いと思われる。空気が入ってしまっては水の凝集力による輸送が行えずに途切れてしまうことが考えられるからだ。また、容器には大量の水を深く張った方が良いと思われる。こうすることでより大きな水圧がかかるからだ。

A:よく考えていると思います。ただ、容器に深く水を張っても、圧力がかかるのは水面以下の部分ですよね。水面より上の部分については、水の深さとは関係ないと思います。


Q:今回の講義では、主に導管を水が流れる仕組みや、そのための茎や根のはたらきを学んだ。では、茎において導管が篩管よりも内側にあるのはなぜか。これは、茎の成長に関係があると考えた。調べてみると、導管が含む木部の細胞は成熟すると死細胞になるようだ。講義においても、導管になった細胞の周りの細胞は導管になりやすいと習った。これらのことから、茎が太くなっていく過程において導管が内側にあった方が効率がよいのだろうと考えた。

A:考え方は良いと思います。ただ、やはりこの短さだと、論理展開という観点からは不満が残ります。


Q:第7回の授業では植物の維管束について学んだ。導管では螺旋状の裏打ち構造が見られる。これは導管が形成される過程で、細胞壁が部分的に裏打ちされ肥厚し、細胞自体が死んでしまうためこのような構造になる。このように導管が螺旋状の裏打ち構造を取る理由を考察する。螺旋構造の肥厚部はリグニンを含む細胞壁であり、導管の強度を上昇させているということは考えるに易い。しかし、強度を上げるだけであるならば螺旋構造を取らずとも、導管の壁面全体を肥厚化させ物理的強度を増すのでもよいのではないか。そうでない理由を私は次のように考える。第一に導管に柔軟性を持たせるためである。授業中に導管の螺旋構造が掃除機のホースに似ているという話題があったが、まさに掃除機のホースのように柔軟に曲がるように設計されているのではないか。導管は根から水を運ぶ、植物の生命線である。この導管が茎のしなりなどで壊れないように螺旋状の裏打ち構造を取っているのではないか。また、植物が成長するに従い導管も太くなるだろう。この導管の肥大化に対しても螺旋構造を取っているほうが都合がよいのではないか。導管のすべてを細胞壁で固定すると導管を太くすることが難しいが、螺旋状であれば螺旋の伸縮性が有利に働くのではないか。このような物理的な柔軟性の理由のほかに、単純に肥厚部を節約しているとも考えられる。導管の全体を細胞壁で覆うのではなく、螺旋で覆うことにより、その分の材料を他の部位の成長に回しているのではないか。このように導管が螺旋状の裏打ち構造をとる理由は複数考えられる。このような複数の要因が関係しあい、最適化された結果が植物の導管の螺旋構造である。遺伝子組み換えにより、肥厚部の発現の抑制や逆に導管全体を肥厚部に覆わせるようにすると螺旋状をとる理由がさらによくわかるだろう。

A:よく考えていてよいと思います。ただ、講義で話したように導管は死細胞ですから、「植物が成長するに従い導管も太くなる」わけではありません。


Q:今回学んだ、導管の仕組みに関わるハーゲン・ポアズイユの法則は、「粘性のある液体が円管の中を通るとき、その通導液量は、①管の両端の圧力勾配に比例し、②管の長さに反比例し、③液体の粘性係数に反比例し、④管の半径の4乗に比例する」というものである。今日のお昼に行ったカフェで細いストローが2本あるドリンクに出くわしたので、その通導液量について考える。カフェで大事なものは、もちろん出される品のおいしさ、テイストであるが、そこにいる時間も重要である。いくら美味しいアイスコーヒーが出てきても、すぐになくなったのでは、カフェでゆったりとくつろぐことはできない。今回出てきたストローの直径は普通のストローの直径のおよそ2分の1であった。(目視での確認である。)ハーゲン・ポアズイユの法則によれば、液量は半径の4乗に比例するのだから、普通のストローのときと加えて、同じ労力であれば飲む量は16分の1倍、2本存在するから同時に咥えれば8分の1倍である。つまり、直径が2分の1であれば、同じ力であれば飲み干すのに8倍の時間がかかるわけだから、客としては長く店にいられることとなり、店としてはその分お客さんが気を良くして追加でケーキなんかを頼んでくれる可能性が高くなって良いのであろう。もちろん、単純に8倍になるとは考え難い。時間が8倍というのは、30分が4時間になるという膨大な値である。そこで、液体はアイスコーヒー、ストローの長さは同じであると考えて、 圧力の勾配を考える。この場合、圧力ポテンシャルは人間のアイスコーヒーを飲みたいという欲望である。

A:僕の好みのツボをよく押さえたレポートです。日常のよしなしごとを科学的に考えるのは大好きで、僕も日本光合成学会のホームページに連載したコラム「陽だまり」に「髪の盛衰」などを書いています。


Q:今回の講義で扱ったハーゲンボアズイユの式から、ジャックと豆の木にはどれほどの流体量があるのかを計算してみる(参考:http://ebw.eng-book.com/heishin/HagenPoiseuilleLaw_poiseuille_calculation.do?category=poiseuille)。今回、水の粘度係数ηは20℃で1.004(参考:http://www.mterm-pro.com/machine-yougo/fluid-dynamics/water-air-bussei.html)、木の高さは1万メートル(参考:http://wwws.warnerbros.co.jp/jackthegiantslayer/)、管の半径は160cm(ジャックと天空の巨人公式サイトより、成人男性が両手を広げて木の半分を抱えられる程度であることから)とする。また、圧力勾配はてっぺんのP1=101325Pa(1気圧)、P2=20265Pa(上空1万メートルは0.2気圧ほど、参考:https://www.jal.co.jp/entertainment/knowledge/agora12.html)、とする。これを元に計算すると2.069*10[m^3/s]=2.899[m/l]なので、蒸散速度から考えるとジャックと豆の木は針葉樹、硬葉樹、落葉広葉樹のどれかであると考えられる。

A:これも僕が大好きなタイプのレポートですが、前提にやや疑問が。半径の計算からすると、幹自体が管であると考えているのですよね。幹がほとんどがらんどうだとすると物理的な強度が足りないのでは?あと、計算過程が示されていませんが、重力による圧ポテンシャルが無視されている気がしますが・・・。


Q:今回の授業で、植物の道管は茎が傷つくことによって部分的に断たれた場合でもバイパスを形成して修復する機構があることを学んだ。植物の茎が傷害を受けた際、まず分裂の盛んな茎頂などで生合成され道管付近のオーキシン運搬細胞を通じて下部に輸送されるオーキシンが傷口の上部で蓄積され、傷口の上部ではオーキシン濃度が高く、下部ではオーキシン濃度が低いという状態が生まれる。これにより傷口の上部ではANAC071という転写因子の発現レベルが上がり、下部では通常オーキシンによって発現抑制されているRAP2.6Lという転写因子の発現レベルが上がる。この二つの遺伝子は、障害を受けることで産生される傷害応答性ホルモンのエチレンおよびジャスモン酸によってそれぞれ発現が増強され、傷口での新しい細胞の発生などに関わる遺伝子の発現調節を行うことで、傷口が修復されることが分かっている(1)。傷口が修復される際に、どのようにしてバイパスを形成し、途切れた道管を接合するのだろうか。オーキシンとサイトカイニンを含む培地で葉肉細胞を培養すると環状要素前駆細胞に分化することが知られている(2)ことから、傷口上部で蓄積したオーキシン、オーキシンとは逆向きに極性輸送されるために下部で蓄積したサイトカイニンが道管修復を誘導している可能性は極めて高いといえる。加えて、ザイロジェンという糖タンパク質が植物体の伸長方向に隣接する葉肉細胞を環状組織に分化させることは知られている(2)。しかし、これだけでは二本の管が伸長して接合することは説明できない。そこで次のような仮説を立てた。
[仮説]:ザイロジェンによる隣接する細胞の管状化は植物の伸長方向に伸長できない場合、茎の中心方向に変化する。
 茎が傷害を受けた場合、植物の伸長方向に道管バイパスを再形成することが不可能な場合がしばしばある。植物の茎では同心円上に維管束が並ぶ場合が多いことから、バイパスが円周方向に伸長した場合他の道管と衝突、結合して正しいバイパスが形成されない可能性が高くなる。一方、中心方向に道管バイパスが伸長すれば、高い確率で上下から伸長するバイパスが接合できることから、この仮説は理にかなっていると考えられる。仮説を実証する方法としては、植物の茎にカミソリの刃で直径の1/3ほど切れ込みを入れ、修復される過程の様々な段階で茎の切片(縦断面)を作製し、顕微鏡観察するという方法が挙げられる。また、茎にごく細い穴を深くあけるようにして道管1本を切断し、中心方向へも伸長できないような条件を作った時に正常にバイパスが形成されるかを確認することで、仮説と異なり切断された道管がシグナルを出しながら伸長し、互いのシグナルを受容しあって接合できるように伸長している可能性を確認することもできると考えられる。
参考文献
(1) 佐藤忍, 朝比奈雅志. [研究成果発表] 傷ついた植物の茎が治るのに必要な遺伝子を発見. 2013/9/13、https://www.tsukuba.ac.jp/public/press/110913.pdf. (参照2016/6/4)
(2) 澤進一郎, 福田裕穂. 植物の維管束形成・茎頂分裂組織の構築に関与するペプチドホルモン. 蛋白質 核酸 酵素. Vol.52. No.1. 2007.

A:よく考えていて素晴らしいと思います。ただ、このレポートの独自性は仮説の検証の部分にあって、その部分には植物ホルモンの話は直接関係しません。とすれば、前半の参考文献を挙げての研究の紹介の部分は、(あくまでこの講義のレポートとしては、ですが)必要ありません。


Q:最大化する要素の数が多いほど、形態の多様性が上がるという話があった。確かに、砂漠や森林限界を超えた高山帯といった、極端な環境下では、最大化する要素が少なくなるため、形態の多様性は乏しい。授業で取り上げられたNiklasの植物形態におけるトレードオフの図(1)では、最大化する要素が大きくなると、最終的に山(形態)同士の大きさ(適応度の増分)に違いが無くなっている。しかし、一般的な自然環境下では、2番目の図(山の間で大きさに違いがある)の状態にあると考えられる。ただし、大きな山(適応度が相対的にとても大きい)ものは、急激な環境変化に弱い。例として、共進化の過程で極端な形態をもった種が、相方の種が減るという小さな環境変化で、劇的に減少してしまうことが挙げられる。また、超大型化、肉食化した生物(一部の恐竜、スミロドンなど)が、大きな適応度を持ちながらも、環境変化で絶滅したことも例として考えられる。大きな適応度をもつ形態は、あくまで、「その環境での」適応度が高くなるような極端なものなので、劇的な環境変化が起こると、つぶしが効かず、影響を受けやすい。環境変化のあおりを食らって、似たような機能を持つ形態の種間での競争は激化する。つまり、山同士が近い位置にあると、競争がおき、つぶし合いになる。このようなときは、周りから離れた所に位置する山のほうが適応度が高くなる。往々にして、このような山(形態)の生物は、環境激変の前は、細々と生きている。この形態が適した要素は、ほかの要素に比べてうまみが少ないのだ。先述の共進化の例は、周りがうまみを見出さない要素での話なので、必ずしも、離れ山が良いとは限らない。離れ山が消えるときは、周りへの影響が少なく、人知れず消えていく。長い目で見れば、どの形態の適応度が高くなるかというのは、運次第なのだ。究極の形態などありえないし、そう見える形態は、あくまでその環境に適しているに過ぎない。
・参考文献:1.「植物の形態」.寺島一郎,裳華房,2014年,p.17‐18

A:それぞれの文が論理的につながれていてよいと思います。ただ、どちらかというとエッセイ風で、読んでいて論理の終着点が読めませんし、最後の1文が結論というわけでもないように思います。できたら、最初に問題設定を明確にして、その問題を論理的に考察するスタイルにすると、より、この講義のレポートに適したものになります。


Q:本講義では道管に関して学んだ。そこで私は道管の形状に関して特に興味を持った。講義では特に掃除機のホース状の道管が登場していたが、その他にも道管にはどのような形状があるのか調べてみた。すると、以下に示した参考文献にたどり着き、様々なパターンがあり、それがどのような過程で作り出されるのかということがより詳しく示されていた。ここで私は、多様な維管束の形状が存在するということは、その中で蒸散速度を増加させやすい、または減少させやすい形状が存在するのではないかと考えた。そして、もしも道管の形状を制御することができ、植物一個体の道管全てを、蒸散速度を増加させやすい形状にした場合、植物の成長はどうなるのか。また、逆に、植物一個体の道管全てを、蒸散速度を減少させやすい道管にした場合どうなるのかということに私は疑問に思った。考えられる結果としては、特に道管の形状は植物の成長に影響ないということである。もしも、道管の形状が大きく植物の成長を左右するならば、道管の形状は現在、その1パターンとなるはずであるからである。だが、もしも道管の形状が植物の成長を大きく左右するという結果が得られたならば、1つの考えとして、今現在、植物の維管束の形状の進化は進行中であり、淘汰の最中であると考えられる。
参考文献:生命誌ジャーナル,形を生み出す相互作用, 小田祥久 、(URL : https://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/076/research_1.html#a03)

A:もしも、進化の途上にあるとすると、今度は、なぜ導管ができてから(すなわち維管束植物が誕生してから)長い年月が経っているのに、淘汰が進まなかったのか、という疑問に対する答えが必要になるでしょう。


Q:今回の授業では、最初に道管と仮道管についての話があった。被子植物の多くは道管を持つが裸子植物は仮道管しか持たないとのことだった。現状裸子植物が仮道管しか持たないのなら何かそこにはメリットがあるのではないかと思い、仮道管を持つことのメリット、デメリットについて考えてみることにした。まず道管と仮道管の違いについて述べる。仮道管は長く両端のとがった紡錘形をしていて、いくつかの仮道管が壁にあいた孔でつながっており、ジグザグ状に水が移動していくのに対して道管は細胞の上下に孔が開いており、水はまっすぐ通っていくことができるとのことだった。つまり、導管のほうが水を送るには効率が良いように思える。対して、仮道管はジグザグの構造をとるためまっすぐよりは効率が悪くなると考えらえる。しかし、授業の中でも凍ってしまうと道管がつまってしまう、泡が出ると困るとのことだったが仮道管の仕切りがあれば凍りにくさという意味ではより優れているといえると考えた。この仮説を確かめるためには、世界の植物の中で仮道管をもっている植物の分布を調べるのがよいのではないかと考える。もし正しければ、寒冷地ほど仮道管をもつ植物が多いのではないかと考えた。

A:このようにメリット・デメリットを両方考える姿勢は重要です。そこにこそ生物多様性の秘密があるわけですから。


Q:今回の講義の中で、道管と仮道管についての話があったが、道管は主に被子植物にあり、仮道管はすべての維管束植物にあるということで道管は被子植物が進化の過程で獲得した形質であると考えられるが、なぜ仮道管に加えて道管も持つようになったのかということをここで考えていきたいと思う。まず道管は仮道管に比べて管が太く、また上下に穿孔があるということで水や養分を運ぶスピードが速いという特徴を持つが、被子植物がその特徴をもった方が生存に有利だったのは、裸子植物と被子植物を比較してその受精の過程からも分かるように、被子植物の方が生育できる場所をより乾燥した土地にまで広げられるような進化をしているということを考えると分かってくる。水の少ない場所で、地下にある一定量の水が存在した時に植物体内へ吸い上げるスピードが速い種の方が遅い種よりも多くの水を獲得できるということであり、つまり道管という形質を獲得したのは乾燥という外界の環境に適応するためであったと考えられる。

A:これも同じ話題を扱っていて、その論理の流れは非常に良いのですが、惜しむらくは、では湿潤な環境では導管を持っていることがかえってデメリットになるか、という点に触れられていません。デメリットがなければ、被子植物が裸子植物を駆逐しておしまいになってしまいます。


Q:今回の授業の蒸散流速は大本植物より草本植物で大きく、またツタ植物は大きいという話を興味深く思った。植物の形態の分類ごとに流速に違いがあるのなら、中心柱の種類によっても流速に違いはあるのだろうかと疑問に思った。中学で扱う単子葉の中心柱と双子葉の中心柱にしぼって考えてみる。単子葉植物は草本しか見られないのが特徴である。つまり流速の大きい草本植物には単子葉植物も双子葉植物もある。大本植物は双子葉植物であるが、その中の針葉樹と広葉樹でも大きく分かれる。流速は導管の径に左右されるが導管の径は維管束の配置にあまり影響を受けないと思われる。結論は維管束の進化は流速よりも強度に律速して行われ、中心柱の違いより環境の違いに影響を受けるだろう。個人的な維管束がないコケに関してはどうだろうかと興味を持った。

A:面白いポイントが複数含まれていますが、全体としての論理の流れ、という点からするとやや物足りなさを感じます。ポイントを絞って、1つの点についてしっかりした論理を展開すると、より良いレポートになると思います。


Q:今回は植物の茎と蒸散についての授業であった。そこでわたしは植物の種類と蒸散流速の違いに着目した。太い導管を持つ広葉樹は20-45m/hと大きな値であったのに対し、細い導管をもつ落葉広葉樹は1-4m/hであった。この二つを比べると、一気に吸い上げることができる水が多いためなのか、導管が太いほうが蒸散流速があがるのではないかと考えられる。しかし茎の細いつる植物は150m/hととても大きな値であった。たしかに導管が太いと水に一度に触れられる面積は大きくなるかもしれないが、その分、吸い上げる力が必要になるので、導管が太ければ太いほど蒸散流速が大きくなるとは限らないのではないかと考えた。また細い導管をもつ落葉広葉樹の蒸散流速が小さな値であったのは、落葉樹は葉が枯れてまた新しい葉ができるので、常緑樹に比べて光合成量や蒸散量も小さくなるのではないかと考えた。したがって、同じような気候や環境に生息する常緑樹と落葉樹とで蒸散量を比較したら、常緑樹のほうが蒸散量は大きくなると考えられる。では、茎が細く蒸散量が小さそうに思えるつる植物はなぜ蒸散量が大きいのか。つる植物はたしかに茎は細く弱いかもしれないが、他の植物などにまきついて体を支えている。また茎が細く導管も細いと考えられるので、吸い上げるときにかかる体への負担は小さいのではないかと考えられる。したがってつる植物はまきつくことで体を維持し、体への負荷も少ないので蒸散流速が大きな値となるのではないかと考えた。また以前単子葉類と双子葉類の茎の断面を顕微鏡で観察した際、単子葉類と双子葉類で維管束の太さが違ったので、単子葉類と双子葉類でも蒸散流速には違いが出てくるのではないかと考えられる。

A:どうも、茎の太さと導管の太さを同一視しているようですが、それは違いますよ。講義でハーゲン・ポワズイユの法則を紹介したのは聞き逃しましたか?導管の合計断面積が同じでも、1本あたりの太さが太ければ流量は上がるのです。


Q:今回の授業で茎の中の道管について学び、その中に顕微鏡下では道管の中で螺旋状に細胞が並んでいる画像があった。先生がおっしゃっていた通り水道のような仕組みになっているなと思ったのが率直な感想である。しかし、いくら最適な水の流動形態を道管がとっているにしろ様々な圧ポテンシャルなどの要因がなければうまく水を道管を通して移動させられないと考える。そしてそこには少なからずエネルギーが必要となってくることもあるのではないかと考える。植物体が高ければ高いほど上の方へ水を引き上げるのは大変ではないだろうか。背丈が低い植物の少しの移動距離の方がエネルギーがかからないような気がする。しかし、背丈の大きい植物は太陽により近い位置で活発な光合成を行うためエネルギーを背丈が低い植物より得ていると考える。そのため道管にかかる負担と自己が光合成で得る利益との兼ね合いによって現状の植物の大きさが進化により選択されたのではないだろうかと考えた。

A:まず、螺旋状に並んでいるのは細胞ではなく、セルロースの繊維です。また、太陽光は地上ではほぼ平行光線ですからより太陽に近づいたからと言ってたくさん光合成ができるわけではありません。ほかの植物に邪魔をされないという意味だとしたら、言い方を変えるべきでしょう。ただ、背の高い植物では、水輸送が成長を律速する可能性がある、というのは本当です。