植物生理学I 第6回講義

植物の茎

第6回の講義では、植物の茎の形態について、機能とのかかわりから解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業では、植物の茎が持つ役割について学習したが、その中の一つに貯蔵器官としての役割が存在するものもあることを知った。ではなぜ貯蔵器官として発達させた植物が存在するのか、その理由を考察する。まず茎はほとんどの植物において葉を高い位置につける役割の器官であるが、その結果、葉と根やほかの器官をつなぐ役割を持ち、水分や栄養の通導の役割が存在するようになった。よって茎は水分や栄養分の運搬において必ず通過しなければいけない部位となったことで、その部位に栄養分を貯蔵できるようにすることで栄養分の貯蔵、および必要な時の栄養分の搬出、運搬の効率を高める目的があると考えられる。しかし、これのみの条件であれば茎でなくとも貯蔵が可能、根に至っては必ず水分、栄養分が通過する部位という条件にも合致しているので、いささか根拠が足りない。そこで茎の役割である葉を高い位置につけることを考えると、茎はある程度頑丈でなくては支えられない。サトウキビを例にするとわかりやすいが、茎が固く、砂糖の生成には機械のプレスで絞り出す方法をとる。そのくらい頑丈であれば人間が葉で皮をむくことも難しく、コツがいるほどである。つまり噛むことにも労力を使わなければならないため、いかに栄養分があろうとも動物は茎を食べる利益が薄いことが言える。よって、茎に栄養をためる1つのメリットは、茎は頑丈にできる分捕食の危険性を下げることができ、栄養分の貯蔵と保護の両立が容易であることであると考えられる。しかし、これではジャガイモのような地下茎には通用しない。見つかりにくい地下で栄養分を保護していると考えられるが、サツマイモのような根が変化した種類もあるため地下茎である意義が感じられない。そこで考えられることが役割の違いである。まず茎には葉を支える役目があるが、根には水分、無機栄養を吸収するという役目がある。この役目においてどちらが補てんが聞くかといえば茎である。なぜなら茎の場合は一部を貯蔵に回しても葉を高い位置に置くには茎をのばせばよく、それができないにしろ多少茎の割合を割いたところで生命の危機に直結するようなものではない。しかし根においては貯蔵に割合を割くとその分栄養等の吸収量が低下すると考えられる。よって地下茎にして栄養を蓄えることで、栄養の保護と栄養等の吸収を両立するメリットが生まれるため、地下茎を選択したと考えられる。

A:途中までは面白いな、と思って読んでいたのですが、最後の部分の論理がわかりませんでした。「茎の場合は一部を貯蔵に回しても葉を高い位置に置くには茎をのばせばよく」としながら、「根においては貯蔵に割合を割くとその分栄養等の吸収量が低下する」となる理由がわかりません。「根も伸ばせばよく」なりませんかね?


Q:今回の授業では茎について学んだ。茎の構造により特に三通りのメリットがあり、それらを組み合わせて植物の形態が決まっていることが分かった。しかし、すべてのメリットを取り入れていない構造の茎をもつ植物が世の中には存在している。それらがなぜメリットを全て取らずに自然界で生き抜いているかについて考えた。力学的安定を求めていない植物は風が強くない地域で育つものだと考えた。しかし、繁殖効率や、受光効率は植物が生きるため、子孫を残すために重要であり、なぜ除くことができるかが気になった。受光効率に重きを置かない構造はシンプルな構造で余分な栄養を使わないような仕組みとなっていると考えた。実際に授業のスライドでも葉が多くない、単純な構造であることが分かる。一方繁殖効率を重視していない構造のものがいかに子孫を残しているのかについては、繁殖効率を重視した構造の植物とで種子となったものがどれだけ生育しているかを調べると良いと考えた。自然界で生き抜いているということは、繁殖効率が悪い以上生き抜く力が他の植物と比べ強くなければならない。恐らく実験結果は他の植物と比べ圧倒的に生き残る割合が高いことが予想されるが、それはどのような要素によるのかを考えた。生き抜く力を強くするには、より効率よく栄養分を作り出し、厳しい環境下となっても大丈夫な丈夫な構造が必要だと考えた。つまり、繁殖効率が悪いものは他の力学的安定性や受光効率で補う、など今回の例だけでなく全ての構造が欠けている要素を補っているのではないかと考えられる。

A:講義で紹介した研究は、あくまでシミュレーションですから、人間が繁殖効率なり力学的安定性なりを定義しているわけです。花をどの程度高い位置にたくさんつけられるか、として繁殖効率を定義した場合には、背の高い植物が選択されるでしょうけれども、もし、ばね仕掛けで種を遠くまで飛ばす植物がいた場合、そのシミュレーションでは評価されないでしょう。そのあたりも考慮する必要がありますね。


Q:今回の授業では茎について学びました。茎には細長いものが多く、その役割については通導を担うこと(導管、篩管)、葉や花の配置を決定すること(タンポポのロゼット)、貯蔵器官であること(ジャガイモ、サトウキビ)、光合成をすることが挙げられました。そこで私は、授業で学んだ草本の茎と、似たような役割を持つと考えられる樹木の幹や枝について比較することにしました。まず形状は茎と、幹や枝では大きく異なります。茎が細長かったのに対し、幹はどっしりとしています。これは幹の方が茎よりも圧倒的に重い重量を支えているからだと考えます。また、樹木は草本よりも長い間生きるため頑丈な幹を作っていると考えられます。次に役割についてです。通導や葉、花の位置を決定するという役割については茎も幹や枝も共通していると言えます。しかし、樹木の幹や枝は光合成をしないということは茎とは大きく異なると言えます。私が知る中では、クロロフィルを幹や枝に持つ樹木はありません。その理由をしては2つ挙げられます。まずは樹木の表面を覆うほどクロロフィルを作るのは、逆に大変だということです。クロロフィルを作ることにもエネルギーを使うので、そのコストをかけてまでそんなに大量のクロロフィルを作らないのだろうと考えます。次に特に広葉樹の場合、幹や枝は葉の影に入ってしまいます。せっかくクロロフィルを作っても光が当たらなければ意味が無いので、幹や枝にはクロロフィルが存在しないとも考えられます。このように比較してみると、茎と幹や枝でメインの役割は一致していますが、その形状や付随的な役割には違いがあることがわかりました。

A:問題設定が明確でよいと思います。ただ、結論は非常に素直ですね。人間的には「素直」というのは褒め言葉ですが、研究においては、人が考え付かないようなことを思いつくひねくれた人間のほうが良い場合もあります・・・。


Q:今回の授業では植物の茎の構造について学んだ。茎の断面が丸いのが一般的で、この構造は曲げには弱いが、しなやかで折れにくい。一方で角ばった断面は曲げにくいが、折れやすい。ここで疑問に思ったのは、丸い構造のほうが明らかに優秀ではないか、ということである。曲がりにくいことを優先して、折れてしまうのでは、植物として致命的なダメージに成ると考えられる。シソなどが角ばった断面の茎をもつものとして挙げられるが、特別な生育環境にあるわけではない。このことから、植物にとって茎の断面の形は曲げの強弱にそこまで影響してないのではないか、という考えが生まれた。理論上は耐久性に差があるはずだが、植物の茎は総じて細く、その形の差なんて微々たるものである。もし直径が10cmとかあれば耐久差が出たかもしれない。また、全方向に曲がりやすいことは、ある意味全方向にに折れやすいともとれる。角ばった断面では、角の頂点が折れやすく、面は折れにくい。これによって、補強や修復する箇所があらかじめわかりやすい。そのため対応がしやすいとも考えられる。以上のことから角ばった形も丸い断面に負けずと劣らない利点があると考えられる。

A:それぞれのケースについて利点と欠点を挙げたわけですが、差は微々たるもので変わらないので多様性が生まれる、ということなのか、それとも、利点や欠点が異なるため、得意とする環境が異なるため多様性が生まれるということなのか、結論がはっきりと読み取れませんでした。


Q:茎の断面は円形のイメージが強いが、四角形や三角形のものも存在する。このことは、昨年度の植物形態学実験でエンドウを観察したときに実感できた。しかし、木本の植物で幹の断面が角張っているものというのはなかなか思いつかない。とくに大型の木本の幹はすべて円柱形であるように感じる。調べてみたところ、ニシキギ属の若い枝は断面が四角形であるようだが幹は円柱形のようだ[1]。では、なぜ木本の幹は円柱形なのであろうか。まず、幹が円柱形である利点は、風に対する抵抗を少なくできる、枝を外周に均等に配置できるなどがあげられる。一方、シソなどの草本の植物が茎を角張らせるのは、曲げに対する強度を大きくするためであると考えられている。つまり角ばらせるのは強度を大きくするためで、逆に言えば強度があれば角張らせる必要がない。したがって、もともと強度のある木本は、幹を角張らせて強度をあげることよりも、円柱形であることのメリットを享受する方が良いと言える。また、木本の幹は草本の茎と異なり、長期間肥大成長を続ける。もし幹の断面が四角形だとしたら、成長していくにつれて幹の四隅で細胞が密になってしまうので、四角形を維持するためには角と面の部分で成長速度を調整しなくてはならなくなる。一方、草本では肥大成長はさほど盛んではないので、このような問題は生じない。このような理由で木本の幹は円柱形であるのだろう。
[1] http://elekitel.jp/elekitel/nature/2013/nt_131_nskg.htm

A:しっかり考察していてよいと思います。問題設定も明確で、それに対して十分に考えて回答を与えています。


Q:今回の授業を受けて、植物は環境に左右されやすいなと思いました。なぜならば、植物は交配する相手を選ばないからです。動物は、例えば人間なら目が大きくて背が高い方がかっこいい、クジャクならば飾り羽の目玉の数が多いほど美しい、カブトムシならば角が大きい方が強いという風に、ある程度異性に好まれる方が決まっており、それにしたがって交尾の可否が決められ、子孫に形質が受け継がれていきます。しかし、植物には考える脳が無いので、花粉が柱頭にたどり着けさえすれば、後はくっついて花粉管が伸びて精細胞が卵細胞に受け入れられ、受精完了です。そこに、どういった遺伝子をより求めているという意思はなく、その後の子孫がまたDNAを遺していけるかは生き残れる環境にあるか否かに左右されます。この考えだと、その環境の中で最適な形にたどり着いたら、植物はもう形態を変化させない、ということになります。動物は「どういう形質がどうなっている方が良い」という本能があるので、それにしたがってどんどんそれが極端な方に変化していくと考えられます。この授業を受けていると、動物との比較で考えてしまう自分がいて不思議な気持ちになります。

A:面白く読みました。エッセイとして読む分にはよいのですが、科学的なレポートとしては、やはり問題設定と回答がほしいところです。文章から、きちんと考える力があることは読み取れますから、もう少し論理構成に重点をおいて書いてみてください。


Q:授業でホッキョククマの体毛の中に住む藻類の話が出たとき、私はその構造について思い返した。中学生ぐらいの頃、某放送局の某自然番組で、ホッキョクグマの特集が行われていた。内容は、授業で先生がお話しした通り、ホッキョククマの体毛は空洞になっている、というものだった。もっと言えば、体毛は白色ではなく透明で、散乱光のために白く見える、らしい。いい機会だったので、インターネットで軽く調べてみたが、どうやら記憶に間違いは無かったようだ(1)。この空洞の体毛は断熱剤の役割も果たす(1)。このことを考えてみれば、藻類は実に良い住処を見つけたといえる。まず、体毛の小さな穴を通れる外敵はとても少ない。そして、体毛の断熱効果から、生息環境の急激な温度変化が少ないと考えられる。そして、透明な体毛なので、光合成に必要な光は確保できる。水面や水中をプカプカ浮いているより、よっぽど良い物件だ。もっとも、藻類からすれば、たまたま迷い込んだ狭苦しいトンネルから抜け出せないだけなのかもしれないが。
・参考文献1.「TOMORROW is LIVED - ホッキョクグマの生態」. http://tomorrow-is-lived.net/wildlife/ursidae/polar-bear.html ,2016年5月29日閲覧

A:これも面白いのですが、問題設定がはっきりしないので、面白いな、と読んで終わりになってしまいます。もう少し、レポートに「論理」を入れてみてください。


Q:今回の授業で高密度・低密度における茎の長さに関するグラフについて学習したが、植物が高密度に生育している環境に存在するつる植物はこれに当てはまるのだろうかと感じた。つる植物はほかの植物の幹や茎にまとわりつき、地表よりも高い位置で光合成できるため、横軸を茎の長さ、縦軸を葉のバイオマス当たりの光合成量の植物が高密度で存在しているときのグラフに当てはまらないのではと考えた。つる性植物が高密度下で同じ高さにいたと仮定したとき、茎の長さの大小にかかわらず葉の量当たりの光合成生産量にあまり変化が生じることがないのではなかろうか。そのため横軸を茎の長さ、縦軸を光合成生産量としたとき、つる植物は植物が高密度時のグラフではなく、低密度時のグラフに近い形になるのではないだろうか。

A:確かにつる植物の場合、力学的な支持をほかの植物などに頼ることができるので、ほかのものと一緒に議論はできないでしょうね。良いところに注目したと思います。


Q:今回の授業で植物によっては茎の役割の1つに養分の貯蔵というものがあった。しかしサツマイモのように根に養分を貯蔵するものやタマネギのように葉に養分を貯蔵するものもある。なぜ植物によって養分の貯蔵場所が違うのかについて考えていきたい。まず養分を蓄えるにあたって養分の製造場所である葉に近いところのほうが運搬する距離が短くて効率的である。葉に養分を蓄えるものにタマネギ、ユリ、チューリップなどがある。これらはすべて単子葉植物である。これらの植物は葉が茎ではなく根のほうについており、その葉は古いものが新しいものを包み込むようなつき方をしている。よってその葉が重なっているところに養分を蓄えれば運搬の必要がなく最も効率的である。一方根に蓄えるものにはサツマイモ、ヤマノイモ、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ダリアなどがある。ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ダリアも葉が直接根についていている。しかし葉に蓄えるものと違ってこれらは双子葉植物である。よって葉が層状になっておらず養分を蓄えにくい形態である。よって葉に近い根に養分を蓄えるようになったのではないだろうか。またサツマイモやヤマノイモの茎は蔓状で細くしなやかでなければならないため養分を蓄えるために肥大させるには不適切である。そして葉も肥大化すると上が重くなってしまい茎が折れる心配がある。そのため葉から遠いが根しか貯蔵場所がないのだと考えられる。茎に養分を貯蔵する植物にはジャガイモ、サトイモ、ハス、ススキがある。これらは葉を高い位置に配置するために丈夫な太い茎がある。そのため葉にためてしまうと上が重くなって茎に負担がかかるため不適切である。よってその次に葉に近い茎に蓄えたのだと考えられる。

A:これは、栄養を、葉にためる場合、茎にためる場合、根にためる場合で、実例を挙げることによってそれぞれの戦略を考察していて、良いレポートだと思います。このように、実例によって意味を考える姿勢は大切だと思います。


Q:茎の形態は繁殖効率を優先すると、枝の先端で細かく分かれ、受光効率を優先すると高い位置に一直線に伸びてから、横へ枝分かれし、力学的安定性を優先すると枝は適度な位置で斜め上に向かって次々に枝分かれする。以下の3つの要因が重なり合って茎の形態が決定されている。この3つの要因は環境によってそれぞれその重みづけが異なると考えられる。例えば、浮力によって力学的安定性が必要ない水草のシャジクモなどは茎の節から放射状に枝が何本も出ている。節に繁殖点を絞ることで効率よく枝が伸ばせるようになっている。また、シャジクモは葉を持たずに枝で光合成を行い、受光効率が良いとは言えず、陸上性の植物よりも密に枝を伸ばすことで十分な光を吸収すると考えられる。光が弱く、気温が低い亜寒帯に主に生育するスギはある程度の高さまで一直線に生育し、ある高さからは、幹から真横に枝が伸びていっていく受光効率と繁殖効率を優先し力学的安定性を犠牲にした形態をしている。また、スギ林は密に生えることで地表が暗く、スギのみが優先的に生育する環境になっている。

A:これも、上のレポートと同様に実例から考えていてよいと思います。ただ、最後のスギ林は、人間が植えているわけなので、「密に生える」というよりは「密に植えている」だけではないでしょうか。


Q:植物は他の個体や種よりも効率的にエネルギーを得られるように様々な形態へと進化を成し遂げたと学んだ。形態の進化は基本的には「単純→複雑」という流れであると考えられる。例えば、講義のスライドにあった形態のシミュレーションでも、単純な形態を基本とし、そこから様々な形態を持つ植物が出現していた。これがここで言う「単純→複雑」という流れである。しかし、自分は一見、単純な形態であるが、実は「単純→複雑→単純」という流れで進化を成し遂げた種があるのではないかと思った。 例えば、最初は単純な形態であり、様々な生存競争の中、他個体や他種よりも効率的なエネルギーの得られる複雑な形態へと進化を遂げていった。しかし、進化後、他個体や他種によってその効率的なエネルギーを得られる場が侵食され、さらに形態を進化させていった。その進化した形態が、複雑というよりも単純な形態であったという考えである。もしかすると現段階ではそのような流れで進化したという考えを見落としている種があるのではないかと自分は考えた。このような考えを取り入れ、もしも「単純→複雑→単純」という流れで進化を成し遂げた種を見つけることができれば新たな知見が得られるのではないかと思う。

A:これは、アイデアは良いと思います。しかし、アイデアだけで終わってしまっていて、それをサポートする、あるいは発展させる事実などが一切ないのが残念です。一つでも実際の例を挙げることができると、説得力がすごく増すと思います。


Q:今回の授業ではタンポポの茎の短さと、それなのになぜあんなにも高い位置に花があるのかという点について、タンポポの生存戦略の面から考察した。今回私はここでも茎について考えようと思う。茎ときいてタケが思い浮かんだが、タケの茎は非常に硬く、中は中空となっている。またタケノコからの成長速度がとても速いときいたことがある。調べてみると、タケは互いが地下茎でつながっており、周囲の大きい個体から栄養をもらうことができ、さらに、ほかの植物と違い節ごとに分裂組織をもつためであるため圧倒的なスピードで成長できるとのことだった。つまり、ほかの植物が成長できないような大きい個体の陰になる部分でもすばやく成長できるということであり、また地下茎を通じて仲間と栄養を補助しあうことである程度のグループ全体として大きく成長していくことができると考える。以上のことからタケはすばやく成長することで大きくなり光を獲得するという点ではほかの多くの植物が個人戦で戦うなかでいわば団体戦で戦っているので非常に有利であるといえると考える。ただし、仮に何らかの病気に一個体が感染した場合、ほかの個体に伝染していくリスクは他の植物よりもはるかに高いと考えられ、そういった面でのデメリット、さらに逆に言えば団体戦だからこそ自分が大きくなったらほかの個体に栄養を供給していく立場になるため自分ですべてのエネルギーを使えるわけではないという問題を抱えていると考える。ただいま述べた二つは前半は限定的なものであり、後半はいったん大きくなってさえしまえばそれ以前ほど大きなエネルギーは必要ないのではないかと考えられ、タケの生存戦略は全体として非常に効率的なのではないかと考えた。

A:これは、よく考えていますし、説得力もあるのですが、最初に問題設定を明確にしていないので、最後の部分があまり結論という感じになりません。科学的な文章においては、最初に問題を定義し、最後にそれに回答を与える形式にしたほうが、人に自分の論理をわかってもらいやすくなります。


Q:中空茎について:植物の環境に対する適応において、中空構造が挙げられた。葦をはじめ様々な植物が中空構造の茎を持つが、中実構造と比べて利点は何か、またなぜその利点を取ったかを考えたい。円柱形の物体を考えた時、外力への抵抗力を断面二次モーメントで比較する。直径R中実構造の断面二次モーメント(πR^4/64)と直径R、内径rの中空構造の断面二次モーメント(π(R^4-r^4)/64)を比較すると、その強度比はR^4:R^4-r^4なのに対し重量比(同じ材質と仮定し重量比=体積比=断面積比とする)はR^2:R^2-r^2である。実際に数字を入れると(仮定R=5 r=2)強度比は625:609、重量比は25:21。中実→中空にした時重量は16%削減されるのに対し強度の減少幅は2.6%に留まっている。つまり、中空構造は軽量化に対して強度が落ちにくい、コストパフォーマンスが良い構造であると言える。植物にとっては自らの身体を支える事へ回すエネルギーが削減できるため、より光合成や成長、繁殖の効率を高めることができるため有意義であると考えられる。しかしながら絶対的な強度で言えば勿論中実の方に軍配が上がるのは明らかだ。この中空構造を取る植物は単子葉類が多い。その理由は繁殖力ではないかと考えた。単子葉類は横より縦に伸びる性質があり、集団で密に繁殖することをあらかじめ想定している植物だ。単子葉類にとって大切なのは早い成長であり、例え一個体が枯死しても周囲には同種の植物が生い茂っている、かつ一個体が持つ種子数が多いため頑丈さや寿命の長さは二の次にしている。そのため、少ない細胞でより高く、早く伸長できる中空構造を取っているのではないかと考えた。

Q:今回の授業で、植物の茎について断面積が等しい円筒構造と円柱構造を比較すると、円筒構造のほうが曲がりにくいということが取り上げられた。確かに同じ力が加わった時には円筒構造のほうが曲がりにくいことは想像に難くないが、断面積を等しく保ちながら円柱を円筒に変形させると、外径が大きくなり、風を受ける面積が大きくなると考えられる。受ける力の大きさの変化を考えても、なお円筒構造のほうが曲がりにくいといえるか、検証した。柱構造の曲がりにくさを表す概念として断面二次モーメントIというものがあり、円筒の外直径をD、内直径をdとすると、I = (D^4 ? d^4)*π/64と表される。断面積をSとおくと((D/2)^2 ? (d/2)^2) = S/πとなり、d^4 = (D^2 ? (4S/π))^2 = D^4 ? (8S/π)D^2 ? (4S/π)^2と変形できる。ゆえにI = (8S/π)D^2 ? (4S/π)^2となる。ここでSは定数である。これに対し、風から受ける力をfとおくとfは風があたる面積に比例すると考えられ、これは径の1乗で大きくなると考えられる。よって、この仮定が正しければI/fは径の1乗で大きくなることが分かり、確かに円筒構造のほうが曲がりにくいことが分かる。ただし、この計算は植物の微細な構造を考慮しておらず、ミクロに見ても一様な材質であると考えており、計算も非常に大まかに近似した値である。曲がりにくさだけを考えれば円筒構造のほうが有利であるが、植物がしなることで力を分散させるという先生の指摘も妥当であり、それゆえ環境に応じた植物の独自の生存戦略が多様であるために、円柱構造を持つ植物と円筒構造を持つ植物の両方が存在していると考えられる。

A:失礼ながら2つまとめて。このように、定量的に考えられる能力を持つ人は、特に生物学の分野では貴重です。生物学においては、どうしても定性的な議論だけで終わってしまう場合も多いので、時々、意識して定量性を考察することも重要になります。すべてのことが定量的に議論できるわけではありませんが、そのような考え方を頭においておくことは、将来役に立つでしょう。