植物生理学I 第5回講義

いろいろな葉

第5回の講義では、斑入りの葉や紅葉といった少し変わった葉を取り上げて、葉の色と光合成の関係を考えてみました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:若葉はなぜ目にまぶしいか、という疑問に対して、ツバキ、モミジ、トウガラシの例が挙げらられた。そこから、葉の寿命が短くなるにつれ、通常の葉と若葉の色の差がなくなる傾向が推測された。これに対する1つの考えとして、実はすべての葉で、本来の葉に比べて色が明るい時期があるのではないかと考えた。問題は、若葉が明るい色である期間の長短なのではないか。一般的に、寿命の短い生き物は、成長速度も速い。例えば、80年生きるヒトと数年で命を終えるネズミでは、生体になるまでの期間に当然差がある。若葉の色の変化は、この成長速度の差が、器官レベルで起きていることなのではないか。葉の寿命は短くて数か月、長くても数年といったところであろう。数年で死ぬ常緑樹の若葉が数週間~数か月もすれば、通常の色になるなら、数か月で死ぬ葉が明るい色をしているのは、長くて数週間といったところだろう。葉が大きくなり、人の目につく頃には、成長が完了し、色が通常のものに近くなっているのではないか。机上の考えでしかないわけだが、これを確かめるには、簡単な話で、葉が出始めてから死ぬまでの期間に片っ端からクロロフィル濃度を測れば良い。できれば葉が多い植物を用いて、非破壊的な測定がよい。切り刻んでしまっては、寿命については、この位の期間生きる「はず」だった、という議論しかできない。また、目に見えて明るいということは、吸収している波長にも違いがあるはずだ。これについても調べる必要がある。

A:きちんと考えていてよいと思います。でも、これなら、葉を次々出すような植物で、ごく小さな葉から大きな葉まで一度に見られる植物を見れば一発でわかるのでは?実験というほどでなくとも、ちょっと周りを見回せばヒントが得られると思います。


Q:若葉の色について、光阻害の観点から考察したいと思う。まず、若葉が紅色をしているのはアントシアニンによるもので、強光を防いでいることを他の授業で習った。なぜ強光を防ぐ必要があるのかということまでは教わらなかったが、恐らく若葉は光阻害の防御機構が未発達であるからではないだろうか。そこでクロロフィルが光合成に必要とする青色光と赤色光をアントシアニンが反射し、強光を防いでいると考えられる。薄緑色の若葉について、講義では貴重な葉緑体を食害から守るために、常緑樹などの若葉には葉緑体があまりないということを習ったが、私は単に葉緑体の合成に時間がかかるからだと思っていた。また、クロロフィルの生合成には光が必要であることも要因であると思っていた。しかし、草本植物の若葉が初期から濃い緑色をしていることを考えると、植物種による違いはあるにしても、これらのことは若葉が薄緑色になる理由としては不十分であるとわかった。
 次に、紅色でない若葉にはなぜアントシアニンがないのか考える。アントシアニンが必要でない理由は、①紅色の若葉と違って光阻害の防御機構が発達済みであるためか、②落葉樹などの寿命が短い葉は、一部の葉の光阻害による損傷を防ぐために時間を費やすよりも、光合成することを重視するためという点が挙げられる。アントシアニンが作れない場合においては、③葉緑体またはクロロフィルを作らないことで、光阻害自体が起きないようにしている。全ての若葉において、紅色の若葉と同様に光阻害の防御機構が未発達であるとすれば、濃い緑色の若葉は上記の②、薄緑色の若葉は③が要因となってそれぞれその色をしているのだろう。また、光阻害の防御機構は葉緑体内にあることから、薄緑色の若葉は、葉内に葉緑体がないのではなく、防御機構が発現できるようになるまで葉緑体中にクロロフィルを作らないようにしていると考えることができる。これらの考えが正しいかは、若葉と成長した葉の葉緑体量やクロロフィル量を比較すればわかるはずである。

A:論理的に考えていてよいですね。ただ、例えば「光阻害の防御機構は葉緑体内にある」は何かから自分で考えたことなのでしょうか。それとも、何かで調べた知識なのでしょうか。自分で考えたなら、根拠があったほうが良いでしょうし、調べた知識なら出典を示したほうがよいでしょう。


Q:本講義では斑入りの葉に関して学んだ。斑入りには様々な理由があり、未解明ということを受け、光合成をすることができない斑入りの葉がなぜ存在するのかを自分なりに考えてみた。普段、光合成に関して書物や講義で触れると、植物は光合成をすればするだけ植物にとって利点であるという論調で進んでいく印象を受ける。そのような考えに基づくと、斑入りの葉は光合成量が少なく他の個体や種に比べ、生存に不利という前提の元、議論が始まっていく。しかし、自分は斑入りの葉が光合成に関して有利なのではないかという考えを示す。まず、光合成はすればするほど植物にとって利点であるという考えに関して、自分は疑問に思う。過度な光合成によって過度な量の生成物を植物が得るということは植物の成長に不利なのではないかと自分は考える。ヒトも過度な栄養が供給されると肥満や様々な病気に罹りやすくなるといった不利益を被ることが多くなるというようなイメージである(ここで注意して欲しいのは、過剰な光を避けるために光合成量を減らしてまで葉を傾けたりして光を避けるという現象は本議論では別物であるということである)。斑入りの葉を持つ植物は、現環境下ではすべての葉に光合成色素を持たなくても十分に光合成量を確保でき、それどころか、すべての葉に光合成色素を持つと過度な光合成による過度な量の生成物を得てしまい、栄養的な面やそれに要するエネルギー的な面からも不利になるのではないかと考えた。よって、植物は斑入りの葉を持つことにより、光合成が行える場を減らし、過度な光合成を避け、現環境下に適する光合成量を得ているのでないかと、斑入りの葉が存在する理由の「ひとつ」として自分は考えた。

A:面白い考え方ですが、生物学の一般論を考える上で「ヒト」はかなり例外が多いと思いますので、危険かもしれません。例えば、野生生物において本当に肥満があるかどうか、という検討が必要でしょうね。最後の結論については、斑入りにする代わりに、単に葉の面積を小さくすればよいのでは、という反論に対する答えが必要であるように思いました。


Q:紅葉とは葉の葉緑体が分解されてアントシアンの色が目立つから赤色にみえることを学んだ。その反対で新葉は赤く、年季が入ると濃い緑色に変化する植物がある。カナメモチである。カナメモチは大学からツインズまで歩く途中で民家の生け垣に植えられているものを見ることができる。観察してみると、芽の時点ですでに赤い。植物体の茎頂付近から出ている葉は総じて赤く、少し下側を見ると赤色が少量混じった緑色になっており、さらに根側を見ると完全に緑色である。つまり、カナメモチの生まれたての葉には葉緑体が少なく、時間がたつと葉緑体が増えてきて緑色になっていると考えられる。そこで、常緑樹であるカナメモチ(1)は葉の機械的強度を強くしつつ葉緑体も増やしていくのか、機械的強度を強くしてから葉緑体を増やすのか、どちらのことが言えるのか観察してみた。まず、赤い新葉と赤が混じった緑色葉(中間葉とする)と緑色葉の硬さを指で触って確かめると、新葉はひらひらしていて薄く柔らかいのに対して緑色葉は硬く厚みがあった。中間葉はその中間の硬さであり若干の柔らかさが残っていた。次に、色をより詳しく観察すると新葉は葉脈が橙色で葉は鮮やかな赤であり、緑色葉は葉脈が白で葉は緑色であった。中間葉をみると葉のふちに赤みが残っており、葉柄から緑色が濃くなっている様子が観察できた。ただ、急速に緑色化が進むためか葉全体としてみると緑色の量が赤色よりも明らかに勝っていた。葉のふちの赤い部分の幅は葉柄に近い部分でも葉の先端部分でもほとんど変わらなかった。主脈に沿って赤みが残っている葉も観察した。中間葉ごとに多少の差は見られたが、葉のふちに赤みが残っていることは観察した全ての中間葉にいえることで、新葉、中間葉、緑色葉はそれぞれ別の茎から4枚ずつ観察した。観察の結果から言える事は、カナメモチは機械的強度を強くしつつ葉緑体も増やしていることである。しかし、一定の強度(硬さ)を獲得すると急激に葉緑体数が増えることも予想できる。また、葉緑体は葉柄に近い主脈周辺から葉のふちに向かって広がるように増えていくことも考えられる。予想が正しいのかを調べるためには、顕微鏡で葉の部分ごとの葉緑体の平均数を調べたり、光合成の活性を調べたり、葉の成長をビデオに収めて色の変化がどのように進むのか調べる方法が考えられる。
(1)京都けえ園芸企画舎HP, ヤサシイエンゲイ カナメモチ, http://www.yasashi.info/ka_00041.htm, 2016. 5. 19閲覧

A:素晴らしい。自分の目で確かめるというのは、研究者の鑑ですね。文句なし。


Q:今回の講義で、紫キャベツは外側の葉のみクロロフィルがあり、光合成をしているのではないか、という話がありました。この話を聞いて、そういえば、と思った植物にハボタンがあります。ハボタンもキャベツと同じアブラナ科の植物で、葉の色は白、ピンク、黄色、紫など様々です。これらの色は、どのようにして作られたのかを今回の講義をもとに少し考えてみました。白色:斑入りの葉と同様に、葉緑体を欠損させて作っている。葉緑体生成因子の欠損した遺伝的変異株を用いるか、ウイルス感染させて葉緑体を抜いて作出する方法が考えられる。黄色:葉内の色素カロテノイドによるものと推測。黄葉と同様に、低温、強光下にさらして活性酸素が増大し、クロロフィルが分解(酸化ストレス防御系の欠損および落葉と同様再生産の自主的抑制によるものか)されることでできると考えた。ピンク、紫:色素アントシアニン類によるもの。紅葉のように、クロロフィル再生産停止と同時に葉に蓄積したブドウ糖が、強紫外線下でアントシアニンに変わる。これらの色は分子により様々な色合いや濃さがあるため、交雑によってもできたと考えられる。この方法により、遺伝子組み換えなどを使えば青いバラならぬ青い葉ボタンも作ることができる(実際に存在している)。(緑:ほとんどのハボタンは外部のみ緑色である。主にこの部分で光合成していると言える。背の高い起源種は下層(のちの外部の葉)にあまり光が当たらなかったため、活性酸素が発生せず、変色しなかった名残であろうか。)現在観賞用として定着しているハボタンも、色素の形成の面から見てみると、もともとは自然条件の変異が生み出したものであると考えられます。また温度、光量の調節、交配、遺伝子組み換えなどの現在通用している技術を使えば、さらにかなりのバリエーションのハボタンを作ることができるでしょう。

A:色についてよく考えていると思います。ただ、斑入りのところで考えたように、遺伝子の変異によって特定の部分だけの色を変えようとすると案外大変です。理論的には組織特異的なプロモーターを用いることなどによってそれを実現することはできるはずですが、実際には難しいように思います。そのあたりも、本当は考えないといけませんね。


Q:今回の授業でアカカタバミが出たが、アカカタバミの色は葉緑体とアントシアニンが存在していることによるものだと習った。また近縁種にカタバミという緑色をした、似ている植物が存在するが、この2種の間で色についての違いが生まれた原因を考える。まず植物におけるアントシアニンの役割は「植物が紫外線などの有害な光によるダメージから自らの体を守る」(1)ことであり、アントシアニンで紫外線を反射して身を守っている。しかし、アカカタバミの生育地は「畑・道端・ 芝地・ 荒地」(2)、カタバミは「道端・芝地・空き地」(3)であり、場所の差はあるが光量を考えるとそこまで大きな差が生じる環境ではなく、アントシアニンが紫外線を防ぐ目的のみで存在しているとは考えにくい。そこでアントシアニンが持つ「体にダメージを及ぼす活性酸素を抑制してくれる抗酸化作用」(4)に注目する。植物は環境が悪いと活性酸素が発生し、自身にダメージを負う。通常の植物にも活性酸素消去系があり活性酸素を消せるが、アントシアニンを所持していることによりさらに効率的に活性酸素を処理できるようになると考えられる。つまり、アントシアニンを所持することで環境が悪い場所でも生育が比較的容易になると考えられる。再びアカカタバミとカタバミの生育地を見るとアカカタバミは荒地に生育できるが、カタバミはできないことがわかる。また荒地は植物にとってストレスになるものが比較的多い環境であると考えられるので、生育地の差はアントシアニンの有無によるものであると考えられる。このことからアントシアニンを持つことで生育できる環境の種類が増えると考えられる。生育環境が増えることは自分の子孫を残せる可能性が上がることにもつながるため、アカカタバミはカタバミと比べると環境適応面で優位に立っていると考えられる。これらのことから、アカカタバミとカタバミにおいて色の違いが生じたのはアカカタバミが環境適応で優位に立とうとした結果、アントシアニンを持ちストレスに耐えられるようにしたためであると考えられる。
1.株式会社わかさ生活、“アントシアニン”、わかさの秘密(2016年5月17日参照) http://www.wakasanohimitsu.jp/seibun/anthocyanin/、2.株式会社SDS Biotech、“アカカタバミ”、Vegrass.com(2016年5月17日参照)http://vegrass.com/zukan1/a/03.html、3.株式会社SDS Biotech、“カタバミ”、Vegrass.com(2016年5月17日参照)http://vegrass.com/zukan1/ka/09.html、4.株式会社わかさ生活、“ブルーベリー 活性酸素を抑える”、わかさの秘密(2016年5月17日参照) http://www.wakasanohimitsu.jp/seibun/blueberry/kasseisanso.html

A:生育地の記載で、「荒地」と「空き地」を本当に区別しているのか、という点に若干の疑問を感じました。ただし、それを前提とした考え方は面白いと思いました。最後の結論は「片方が優位」というものですが、そうすると、もう片方が駆逐されてもよいように思います。アントシアニンを持っていることのデメリットも考慮する必要があるでしょう。


Q:今回の授業では植物の葉の「ふ」について学習した。私はその中でユキノシタに興味を持った。ユキノシタの葉の「ふ」は他の植物のものと異なり、表皮とさく状組織の間の空気の層が光で反射して白く見えている。つまりユキノシタの「ふ」には葉緑体があるが、そこまで光が届いていないということである。葉緑体は植物にとって貴重な財産であるのになぜ有効活用しないのか、その理由を考える。私が考えた仮説は、「ふ」の部分にある葉緑体はもしものときのためのストックではないかということである。植物にとって葉緑体は欠くことのできない重要な財産である。葉緑体がはたらかなくなれば、光合成をすることができなくなり生育することができない。したがって何らかの要因(虫害など)ではたらいていた葉緑体が破壊されたときに、「ふ」の部分にある元々ははたらいていなかった葉緑体が光合成を始めるのではないかと考えた。ただしこのとき空気の層は何らかの機構で除去されると考えられる。この仮説を確かめるためには、次のような実験が考えられる。①順調に生育しているユキノシタを光が十分に当たる環境で育てる。②成長した葉の「ふ」の部分を残し、緑色の部分を切り取る。③残された「ふ」の部分が緑色に変化し、光合成を始めるかどうか時間をおいて観察する。この実験を行い、「ふ」の部分でも光合成が起きれば仮説は正しかったことになる。

A:考え方としては面白いと思います。ただ、葉緑体が「貴重」「重要」という際の言葉の意味をもう少し厳密に考えたほうが良いかもしれません。作るためにコストがかかる、という意味だったら、むしろ葉緑体が破壊されたときに新しく葉緑体を作るほうがよさそうです。バックアップが必要なのは、「機能が止まったら新しく作るまで待てない」という緊急性がある場合です。光合成ができないと生育できないのは確かですが、緊急性がどの程度あるのか、という考察が必要でしょうね。


Q:今回の講義で扱われた日光から新芽を守るために赤く色づいている植物について、それらの植物は何を感じ取って赤から緑へと色素変化を行うのかを考察する。TWinsの隣の団地にはカナメモチ(Photinia glabra)のレットロビンという品種が街路樹として植えられている。この植物は園芸植物として人気があり、「4月下旬から5月にかけて赤い新芽が見られるが、夏ごろには緑に色が変わってしまう。しかし9~10月に刈り込みを行うとまた赤い新芽が出て、それは早春まで見られる」との記載が複数の園芸愛好家のHPに見られた。ところで植物の中には花芽形成が暗期の長さと明期の長さが重要な要因となっている種もある。これと同じ原理でカナメモチの新芽は暗期の長さが一定時間以下になるとアントシアニンが分解されて緑色になる、もしくは一定以上の明期が緑色には必要であるという仮説を立てた。この仮説を証明するためには、明期と暗期を設定した環境下でカナメモチを育てれば立証する事ができる。
参考 "生け垣 ベニカナメモチ(レッドロビン)の剪定・育て方・病気"、http://育て方.jp/cat10/post_9.html(アクセス日時2016,5,22)

A:目の付け所は非常に良いと思います。ただ、真ん中あたりの「ところで」が残念です。園芸愛好家のHPの記載から論理的に考えて明暗周期の重要性を仮説として立てることができれば、全体の論理がピシッと通ります。そこを「ところで」にしてしまうと、単なる並列的な記述になってしまいます。


Q:今回の講義では葉の色は葉緑体によって決定されることを学んだ。あえて虫に食われたような擬態をしたり、光阻害によって黄色くなるガジュマルの話を聞いた。特に印象に残ったのは若葉の色の話である。常緑樹の若葉は薄い緑色、草の若葉はもとからある葉と同じ色であった。これは、葉の生え変わりのスパンの差から生じる現象だと学んだ。それ以外にも原因があると思ったので考察する。常緑樹の葉は草よりも高い位置にあり、もとからある葉よりも空に近い位置に若葉が生える。このことから光を浴びやすい条件下にあると考えられる。しかし、若葉なのでまだ葉は弱く、柔らかい。そのため初めから葉緑体を豊富に含んで光を多く吸収しようとすると光を過剰に吸収しすぎて、紫外線などにより葉がダメージを負ってしまうのではないだろうか。葉緑体量を少なくすることは、薄い緑色にすることで白色に近づけ、光をある程度反射し、葉を守る役割もあるとも考えられる。一方草は前にも述べたようにすぐに生え変わるのでひとつひとつの葉を大切にする必要がない。いわば消耗品のようなものなので、葉の保護よりも光吸収の効率性を重視してると考えられる。よってこのような差がうまれたのだろう。

A:自分なりの論理で考えていてよいと思います。ただ、「若葉なのでまだ葉は弱く、柔らかい。そのため・・・光を過剰に吸収しすぎて」という部分の論理が今一つわかりませんでした。柔らかいかどうかと光の吸収は直接関係しないのでは?


Q:「若葉はなぜ目にまぶしいか」ということについて、若葉は虫害に対する構造(表皮組織など)が未発達であるから、硬くて虫に食べられにくい成熟した葉に葉緑体を多く設置する方が効率が良いということであった。ここで一つ疑問が生じたのだが、葉には自身の表皮組織が虫害を防げるほどに発達したという認識ができるのか否かだ。つまり、葉は表皮組織がしっかりしてきたから葉緑体を増やそうとなるのか、それとも表皮組織が発達するのと葉緑体が増加するのには相互関係がなく、それぞれ時間経過に伴って成熟していくのかということだ。これを調べるには、クチクラ層の発達を阻害した成熟葉を用いて、その葉に含まれる葉緑体量と若葉の葉緑体量を比較すると良いだろう。クチクラの発達阻害に関しては、クチクラ形成を促進する遺伝子MYB106、MYB16が発見されているようなので[1]、これらをノックアウトするなどして可能になるだろう。もし、クチクラ形成が不十分だと葉緑体が増加せず、葉緑体量が若葉とさほど変わらないのであれば、表皮組織の発達と葉緑体の増加には相互関係があると言えるだろう。調べていないのでわからないが、私は相互関係があるのではないかと思う。クチクラ層が未発達であると、強光ストレスとなり葉緑体が増加しないと思われるからである。したがって、葉は虫害に対する表皮組織の発達を認識して葉緑体を増加させているというよりも、クチクラ形成に伴う光強度の減少に応じて、葉緑体を増加させていると考えられる。つまり、強光を防げる表皮組織の発達した葉には葉緑体が多く、さらに表皮組織が発達しているので葉が硬くなる。その結果として虫に食べられにくい硬い葉に葉緑体が多く存在するようになっていると思われる。
[1]「産総研 植物の表面を覆うクチクラ形成に重要な制御遺伝子を発見」、http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2013/pr20130524/pr20130524.html

A:これは面白い点に目を付けましたね。植物が周囲の環境や、自分の体の中の状況をどのように感知しているのか、という点は植物生理学の一つの重要な課題です。レポートとしては、遺伝子の変異体によってそれを調べるという具体的な提案ができている点も強みですね。


Q:植物によっては、緑色の葉に白色の斑が入るものがある。例えばシロイヌナズナでも斑が入る突然変異体が知られている。シロイヌナズナの突然変異体を考えると、斑には次の特徴が挙げられる。①斑は一細胞単位の独立した動態によって生み出されるものではなく、細胞集団の動態により生み出されるものである。②後期葉ほど斑の割合が少なくなる、葉の辺縁ほど白色の割合が高い傾向が見られるなどの特徴があるが、これらの特徴を除くと斑の入り方はランダムであるように見える。斑入り変異を引き起こす原因遺伝子はvar1、var2という遺伝子であることが知られており、これらの遺伝子はそれぞれFtsH2、FtsH5というプロテアーゼをコードしていることが分かっている。この遺伝子が機能しなくなることで、プラスチドから葉緑体への発達が妨げられ、細胞が白色を呈する。一方、葉緑体タンパク質合成に関わるタンパク質であるcpIF2をコードする遺伝子に変異が生じると、斑入り変異体には斑が形成されなくなることが知られている。この二つの事実から、岡山大のグループは葉緑体形成に関わるタンパク質の合成と分解のバランスが保たれる閾値のようなものが存在し、バランスが不釣り合いになった時に斑が形成されるというモデルを提唱している(1)。このモデルに基づくと、細胞分裂が活発な領域において斑入り変異体では閾値近辺でこのバランスにむらがあり、閾値を超えた領域が白色の細胞になるという説明が可能であり、不完全ながら①を説明できる点で比較的妥当性が高いと考えられる。しかし、このモデルだけでは②に挙げた特徴を説明することはできない。そこで次のような仮説を立てる。
仮説:タンパク質合成経路にはタイムラグのある負のフィードバック経路が存在し、このフィードバック経路は細胞分裂活性がある時期にのみはたらく。
 プロテアーゼ欠損型のシロイヌナズナでは強光などによる機能低下したタンパク質が分解されず蓄積されると考えられる。蓄積量が一定量を超えるまでは合成?分解バランスは取れない。しかし合成経路に負のフィードバックが存在していれば、タンパク質の蓄積により、合成量が抑えられ、恒常性からバランスが取れる方向へ向かう。この経路が、細胞分裂活性が高い時期にのみ働くとすれば、次のことがいえる。幼葉時にはタンパク質蓄積量が少なく白色の割合が高いが、成葉となる際に細胞分裂活性が高い葉の中心下部で次第にバランスが取れ、葉緑体形成が正常に行われ、細胞が緑色を呈することになる。しかし、幼葉時に形成された細胞、つまり成葉時には辺縁に位置する細胞では正常な葉緑体形成が始まるまでに分裂活性を失っており、白色のままとなる。これは、②の「白色領域は葉の辺縁に位置する傾向がある」という特徴を説明できている。さらにこのフィードバックは頂端分裂組織においてもはたらくと考えれば、②の「後期葉ほど白色領域の割合が低い」ことも説明できると考えられる。
参考文献:(1)三浦栄子, 加藤裕介, 坂本亘(岡山大学資源生物科学研究所). 植物の葉に起こる斑入り~分子遺伝学的アプローチ~. 光合成研究 18 (1) 2008. p.3-6.

A:独自の考えが盛り込まれていてよいと思います。ただ、前提が多い(フィードバック経路の存在、その経路の特定の時期における発現)ので、直感的にはもう少しシンプルな説明があるのではないか、という気がします。あと、「斑入り変異を引き起こす原因遺伝子はvar1、var2という遺伝子である」はやや誤解を招く表現です。これは一般論ではなく、特定の斑入り変異体の原因遺伝子が」という意味です。「var1、var2という遺伝子に変異が入ると斑入りになる」ならば正しい表現ですが。