植物生理学I 第2回講義

植物の葉の形

第2回の講義では、植物の形の多様性と共通性について、機能とのかかわりから解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業は葉の形態的な特徴を中心に展開された。葉が平べったい形をしている最大の理由は面積を大きくして光合成に用いる太陽光を効率的に吸収するためである。この事を踏まえて葉の配置について議論する。
 太陽光は基本的に植物の生存に不可欠な要素であるが得られた全てをエネルギーとして利用できる訳では無い。水と二酸化炭素は十分量の存在下で受け取る量を植物自身がある程度コントロール出来るが太陽光の場合はそうではない。過剰な太陽光は活性酸素の増加や植物の体温上昇などによって危険になることもある。つまり植物の葉は「自身が利用できる範囲で」最大限に太陽光を吸収できる配置を取っているはずである。葉を付ける位置という事に関しては森林における木々の特徴、例えば縁に生えている木は日の当たる方向にのみ葉をつける、単独で存在する木は全方向に葉をつける等、などを観察すれば明らかであるので今回は葉の角度に関しても太陽光利用の工夫が行われるのかを確かめる実験系を考えた。
 発芽して本葉を生じたばかりの植物を数体用意し、茎と本葉の角度を測定する。次に本葉に対する入射角が(a)直角、(b)半直角、(c)水平になるような植物育成用の電球を用意する。植物を電球の光のみが当たるような箱に放置して育成を行う。光の強さは十分な量の刻み幅をそれぞれの角度で用意して、一日に12時間連続で照射して照射後に元の角度と現在の差を測定する。得られたデータを元に光の強さにおける傾きの変化量をそれぞれの角度でプロットする。これは一日ごとに行う。もし仮説が正しければ(a)の植物は光が弱い時には変化せず、光が強くなるほどそれを避けるために茎と本葉の角度は小さくなるようなグラフを得て、(b)の植物は一定の強さになると角度が小さくなるという上に凸のグラフを得て、(c)の植物は光が弱い時には角度が大きくなるが一定の強さで小さくなり始めて元の角度に戻るというグラフを得ることが出来るはずである。
桜井英博, 柴岡弘郎, 芦原担.”6 エネルギー代謝Ⅱ光合成”.植物生理学入門.培風館.2001.p.132~137

A:よく考えていると思います。ただ、問題設定である「太陽光利用の工夫」という言葉の意味があいまいですね。考えられた実験系を読んで初めて、環境変動に対する「可塑性」を意味していることがわかります。環境応答を考える上で、新しく葉を出す際の「工夫」と、既に存在する葉を変化させる「工夫」では、同じ工夫でも全くレベルが異なる応答ですから、そこの問題設定は厳密にする必要があるでしょう。


Q:葉の形を表す形容詞、私は「ギザギザ」という言葉が浮かんだ。「ギザギザ」とは、つまり鋸歯を持つ葉を形容しているわけだが、私は以前に古環境を扱う授業で全縁率というものを習って以来、葉にはなぜ鋸歯が存在するのかということに疑問を持っていた。講義に倣って目的と仕組みの二方面からこの問にアプローチしてみたい。まず目的であるが、鋸歯には葉面境界層を薄くし、ガス交換をしやすくする役割があるようだ。おそらく葉の縁に突起があると風が複雑に吹き込み、ガス交換が容易になることで光合成効率が上がるのだろう。つぎに鋸歯のできる仕組みであるが、これはシロイヌナズナを用いた研究によって示されていた。それによると、葉の縁を先端から基部に向かってオーキシンが流れ、ところどころオーキシンが溜まる箇所が出てくるらしい。そこをCUC遺伝子産物(CUC遺伝子群に異常があると鋸歯ができないことが知られている)が固め、さらにその部分の成長が促進されることで鋸歯となるようだ。寒冷地域は一般的に日が短く、さらに冬場には葉を落とす落葉樹が多い。そのため、温暖地域よりも光合成を短期間で効率的に行わなくてはならない。このような厳しい環境下で、CUC遺伝子のような鋸歯を形成する遺伝子が変異によって生じたのだとしたら、これをもつ植物が光合成をより効率的に行えて繁栄するに至ったのかもしれない。したがって古環境の推定において、全縁率が低い(鋸歯を持つ葉が多い)と当時の気温が低かったと言えるのだろう。

A:もし、鋸歯を持つことが光合成の効率の上昇につながるのであれば、なぜすべての葉が鋸歯を持たないのか、という視点が必要でしょう。気温が高ければ、気温が低いところよりもより多くの光合成をできるかもしれませんが、一方で、その同じ好条件で、他の植物と熾烈な競争をしなくてはなりません。少しでも光合成の効率が低ければ、結局、競争に負けてしまってもおかしくはありません。そして、そのような考え方にこそ、生物の多様性を理解する手掛かりがあるはずです。


Q:第2回の植物生理学では、植物の葉の形態は、葉の本質的な役割(光合成)によって平たいという制約がある、ということを学んだ。しかしながら、針葉樹の特にマツなどの葉は文字通り針状であり、平たいという表現は適さないと考えた。そこでマツの葉が針葉になることのメリットを考え、広葉に比べ葉がまとまっているため蒸散量が少なく、乾燥に強いのではないかと考えた。その証拠として、針葉樹は温帯北部から冷帯を中心に分布し、熱帯などに比べ降水量の少ない地域に分布している点。また、生物史の視点から、針葉樹が繁栄した中生代初期の地球環境は乾燥した気候だったと考えられており、逆に広葉樹が台頭した中生代後期の気候は温暖で湿潤な気候であったと考えられていることがその裏付けではないかと考えた。針葉樹が本当に乾燥に強いかは実際に樹木を用いた実験により証明する必要があるが、仮説の段階では十分に成り立つ。針葉樹の葉は、葉の本質的な機能である光合成の役割以上に、乾燥気候へ対応に重点が置かれたため、扁平ではなく針状の形状をとっていると考えられる。

A:針葉樹の葉の形態に関するレポートはいくつかありましたが、現生環境と古環境についての議論をコンパクトにまとめたこのレポートを1つ紹介しておきます。他に、光の当たり方に原因を求めたレポートもありました。


Q:今回の講義では、植物の葉の形態について「葉は平べったい」という特徴について、「何故平べったいのか」という観点、そして「どのように平べったいのか」という観点から理由を説明していた。今回の講義を通して、私が考察するテーマは「レタスの葉は何故丸いのか」である。レタスは、一番成長した外側の葉が、若い内側の葉を包み込むような形をしている。葉の形は立体的に曲がっていて葉脈によるしわが多く見られる。光合成の効率という観点から見ればこれは非常に非効率であるが、何故、そしてどのようにしてレタスの葉は丸いのかを考察しようと思う。
 まず、何故丸いのかであるがそもそも内側の葉では光合成をする必要がないために丸い形をしているのではないだろうか。レタスの葉を見ると、外側から内側にかけて緑色が薄くなっていくのがわかる。つまり、葉の葉緑素が減っているのではないだろうか。現に、レタスの葉はそのほとんどが水分である(参考:水分の含有量Whole Food Catalog http://wholefoodcatalog.com/nutrient/water/vegetables/) 。外側の葉が得た栄養で十分成長できるため、内側の葉は外に出る必要がなく、古い外側の葉が内側の葉を保護するために丸い形をしていると考えられる。
  次に、どのように丸いのかであるがこれには外葉と内葉の栄養のバランスの差が関係していると考えられる。レタスの結球化(丸くなること)は、外葉が内葉への日光の照射を妨げることで引き起こされる(参考: レタスの結球のメカニズム みんなのひろば 日本植物生理学会https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1517)。外葉は成長していくにつれて若い葉に支えられるように内側に成長し、包み込むようになる。内側の葉は外葉に光合成を阻害され成長しないため、外葉の中で包み込まれた空間の中で成長する。このような過程で、レタスは丸くなると考えられる。

A:自分が設定した課題に対して、複数の観点からきちんと考察を加えていて評価できます。ただ、ここで議論していることだけだと、そもそも、なぜ内側に葉を持つ必要があるのかが不明ですね。内側が空っぽでも、どうせ光合成をしないのであれば良さそうに思えます。もう一つ重要な視点として、レタスが栽培植物であるという事実があります。可能性としては、レタスが丸いのは、人間がそのようなコンパクトにまとまった野菜を選抜してきたからだ、という考え方も否定できないように思います。


Q:「植物の葉はなぜ相似形を保ったまま大きくなることができるか。」多くの植物の葉の二次元的形状は1cmに満たない若葉から成葉までほぼ相似形であり、同種の植物の葉は再現性高くほとんど同じ形になる。さらに、植物の葉は有限成長であることからも、葉の細胞が分裂、分化を繰り返して成長する間に、複雑な調節が行われていると考えられる。植物の葉は初期の葉原基では全細胞が細胞分裂を起こすが、成長が進むと葉の基部でのみ分裂が起こり、そこから先端、外周に向かうにつれて細胞は分化し数百倍~数千倍ほどに成長することが知られている(1)。この分裂?分化バランスが絶妙に保たれるためにほぼ相似形が維持されたまま葉が成長できると考えられる。バランス調節機構の仮説として、分化中の細胞内における遺伝子や転写調節タンパク質のフィードバックなどの関係性、葉脈細胞と周囲の細胞の栄養分などを介した相互作用の関与、周囲の細胞から受ける物理的な圧力とそれを感知し分化の過程で自らの形態を変えていく機構の関与が挙げられるが、これらの仮説を検証するためにはまず分裂や分化が起こる葉上位置の時間変化を把握し、どのような分裂・分化様式のもとで相似形が維持されるかという点を把握する必要があると考えられる。今回は細胞の位置による分裂、分化の時間変化を定量的に計測するための実験デザインを試みた。
 実験系として、葉の細胞を生きたままの状態で容易に顕微観察できるオオカナダモを利用する。若葉の段階から葉を緩やかに固定し、成長する過程を顕微観察し続け、コンピュータのソフトなどを利用して成長と分裂を繰り返す細胞の成長(一細胞のサイズ)・分裂様式(方向、頻度)をリアルタイムでモニタリングし続ける。細胞サイズ・形態の時間変化から、細胞にかかる物理的な力を間接的に見ることができ、また分裂細胞と分化細胞の境界を見極めることができれば、2種類の細胞について成長の様々な過程で発現する遺伝子の解析とその差異の把握も容易になると考えられる。
参考URL: (1)立教大学理学部生命理学科植物分子発生学研究室ホームページ「葉の発生について」http://www2.rikkyo.ac.jp/web/horiguchi/plant24/gaiyo.html(参照:2016/04/23)

A:考え方は素晴らしいと思います。ただ、実験系の解析方法は、やや具体性に欠けますね。定量的に把握するまではよいとしても、そこからどのように「意味」を抽出するかが、むしろ勝負どころであるように思います。


Q:なぜ植物は「葉の形」をしているのか?考え方としては2通りある。1つはどのような仕組みでそのような形になるのか?、もう1つは何の目的でその形なのか?(その形であることによって何のメリットがあるのか)。前者のメカニズムの視点では遺伝子の変異で葉の形は変化するといえる。葉の長さを調節する遺伝子と葉の横幅を調節する遺伝子が存在し、それぞれ独立に働いている。遺伝子が変化すると1つ1つの細胞の形が変わる(細胞の横幅が小さくなる)。これによって葉の形も、横幅が小さくなる。しかし、細胞の数は逆に増えている。これは、発生学的に異常がある場合それを補償するメカニズムが働き、どうにか変化を抑えようとするからである。後者の目的を視点とすると、平面的な形は様々(多様性)で、個々の植物が置かれた様々な環境に応じて形が変化している。また、たいていの葉は平たい(共通性)。これは何か本質的な機能によって形が制限(規定)されているからである。
→葉の機能は光合成
→光合成には光(太陽)が必要
→平たいと光を受けやすく、また光を受ける面積を最大にできる
例としては葉の葉柄があげられる。葉の維持が葉柄の機能であり、光合成は本質的な機能ではない。葉柄によって、それぞれの葉は重ならないように成長できる。葉柄が緑なのは、光合成をすることではなく葉同士の重なりを避けて、光が当たるように配置するため。

A:初回のレポートなので、レポートの書き方についてコメントしておきます。この講義のレポートで評価の対象となるのは「書き手独自の考え方」です。このレポートは、講義を聞いてのメモのようですが、講義の最初に言った通り、僕の講義の内容自体をリピートするレポートは評価の対象になりません。


Q:葉の形についての考察:葉の形を比較してみると、平面的には様々な種類があるが、基本的には薄い形をしている。これは、葉が光合成器官であることに起因している。同じ体積のとき、薄い形の方が日の当たる面積が大きくなる。葉が厚いと日の当たる面積が小さくなってしまい、光合成量が落ちてしまう。そのため、葉は基本的に薄い形をしているのだと考えられる。ここまでは授業でやった内容なので、葉の平面的な形について考察してみたいと思う。よく見かけるのが、ひし形の角を丸くした形である。これは主脈の両側に三角形を配した形である。三角形は他の多角形に比べて外力に強いという特徴がある。そのため、ひし形に近い形をしているのだと考えられる。手のような形をした葉もあるが、これは扇型だと端の方が上からの力に弱くなってしまうからだと考えられる。主脈が放射線に伸びているため、葉の端の方では主脈同士の間隔が広がってしまう。そのため、主脈と主脈の間を切り欠くことで、ウィークポイントをなくそうとしているのではないかと考えられる。

A:このレポートでは、さまざまな葉の形それぞれに[説明]を加えていて、ある程度納得できます。ただ、なぜ、そのようなさまざまな形がそもそもあるのでしょうか。おそらくその部分の考えたかには二通りあって、異なる環境との相互作用で複数の「解」が生まれたか、あるいはどの形でも大きな差がないので複数の解が生じる、のどちらかでしょう。そのあたりにも触れてほしいと思いました。


Q:植物はすべて光合成によってエネルギーを産生して生きているため、光合成ができない状態は死活問題となる。また植物は移動することができないため、過酷な環境で生き抜くには環境に自らを適応させていくしか方法はない。その適応の例の1つは葉の多様性である。葉と一口に言っても葉の大きさ、形、厚さ、葉序など様々な要素が含まれるが、ここでは葉の大きさについて考えていきたい。昨年の植物形態学実験で、近縁種ではあるが渓流沿い植物であるサツキの方が、陸に生えているヤマツツジよりも葉が細く短いということについて統計的に調べた。この渓流沿い植物の葉が細くなる(時として短くなり、全体的に葉が小さくなる)現象を狭葉現象といい、突然洪水などで川の水位が上がって激流にさらされても水の抵抗を小さくしているということであったが、水流というリスクがある渓流沿い植物ではなく、陸生の植物でも葉には様々な大きさがある。陸生の植物は温帯に生える広葉樹と冷帯に生える針葉樹のように、気候に応じて葉の大きさを変えていると考えられるが、乾燥が重要なポイントであると考えられる。むろん葉は光合成をする器官であるから、光合成効率を上げるために葉の表面積を大きくし、より多くの葉緑体に光が当たるようにする必要がある一方、葉では蒸散も行っているため乾燥した気候では葉から過剰に水分が奪われて、光合成に必要な要素の一つである水が少なくなってしまう。つまり、葉は光合成のために大きくなる必要があるが、乾燥を防ぐため小さくしなければならないという相反する二つの条件のバランスによって大きさが決まると考えられる。

A:渓流沿いの植物の話を取り上げたレポートも複数ありました。このレポートでは、2つの環境要因に対する応答のバランスによって多様性を説明しています。このような考え方は、植物の「意味」を考える上で重要でしょう。


Q:今回の授業では植物の器官と組織について学んだ。その中で自分が最も印象深いと思った内容は、植物の大きさは一定に決まっており、そのことから葉の基部で成長を繰り返していくうちに先端の細胞は最終的な葉の大きさを予測して細胞の大きさを固定するという話だ。確かに自分が今まで生きてきた中で、同種類の植物において、突出して大きな葉または小さな葉は見たことがない。このことから、植物が一定の大きさにしか成長できないということには納得したが、果たして実際に葉の先端細胞は予め最終的な葉の大きさがプログラムされているのか?自分はこのような現象は様々なホルモンが関係しているのではないかと考える。植物はヒトと同様にホルモン分泌によって生命の恒常性が維持されている。植物の葉の成長を促すホルモンはサイトカイニンであり、逆に葉の成長を抑制してしまうのはアブジシン酸というホルモンである。人間でも何らかのストレスを感じるとフィードバックの現象が起こるように、植物でもサイトカイニンによりある程度の大きさまで葉は成長し、ある大きさになると細胞壁などがストレスを感知しアブジシン酸放出ホルモンとサイトカイニン抑制ホルモンを分泌し、前者によってアブジシン酸が放出され葉の先端細胞の成長は抑制され、後者によって基部の細胞促進が妨げられるのではないかと考える。このように植物の葉は細胞のプログラムによってではなくフィードバック作用が関与して一定の大きさに保たれているのではないかと考える。

A:このレポートの論理の中で鍵となる概念はやはり「フィードバック作用」でしょう。何かを一定に保つシステムとして、フィードバックは、生物・非生物を問わず広く使われます。それであれば、もう少しその重要性を中心に据えて議論を展開すると、よりインパクトの強いレポートになるように感じました。