植物生理学I 第8回講義

光合成色素(承前)

第8回の講義では、主に緑色でない葉がどのように機能しているのか、また、葉の構造が光の吸収にどのように役立っているのか、について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では、紫キャベツは内側の紫色の部位では光合成を行っておらず、外側の緑色の葉の部位でのめ光合成を行っている、という点に興味を持った。常識的に考えれば、葉のどの部位でも光合成を行う普通のキャベツの方が生存に明らかに有利であるのにも関わらず、何故紫色のキャベツが種として生き残っているのかということに疑問を抱いた。そこで考えたのは、やはり人為的なところによる理由が大きいということである。食用としてや観賞用としてなど、自然においては淘汰されるべき形質が残っている理由は人間の管理によるものであると結論づけられるだろう。

A:結球の内部における光環境についての考察が全くないのがやや気になりました。暗いところで光合成を行なう意味がない、という点は重要だと思います。


Q:今回の講義で紅葉について触れた。紅葉は葉に含まれるクロロフィルの分解だけが行われ再生産が抑制されることと、赤い色の酵素であるアントシアンが合成されることで起こる。人工的に紅葉を起こすことはできるのだろうか。アントシアニンは葉緑体失活を防ぐために合成されると一般的に考えられている。よって、葉緑体失活状態をつくればよい。まず、温度を下げることで光合成活性を低下させる。こうすることによって、同様の日射量でも温度を下げる前の状態と比較して、光が多く当たることになる。これがストレスとなり葉緑体の働きを下げることができると考えられる。実際に、紅葉が自然に起こる秋は気温が低い状態である。これに加えて、日射量を増やすことで葉緑体失活を促すことができる可能性がある。私が紅葉をみに行ったときに太陽光がより当たると考えられる外側の葉のほうが内側よりも赤みがかっていた。つまり、光エネルギーの量を過剰にすることによってアントシアンの合成を促進すると推測できる。これらより、人工的に紅葉を引き起こさせるには、低温にして日射量を増やせばよいと考えられる。

A:紅葉させる条件を考える、という考察は面白いと思います。また結論も妥当です。常識的な結論になってしまうのがやや物足りないですが。


Q:古く中国の思想において、宇宙のあらゆるものは相反する陰と陽という気が調和することで自然の秩序を保っているとされた。さて、講義では柵状組織や海綿状組織といった葉の断面の構造とその反射特性が光路を長くし効率的な光合成をもたらしていることを学んだ。一方で植物に陰葉と陽葉がありより強光を効率的に吸収する陽葉の方が柵状組織の列が多いことは有名である。これについて考察を加えたい。ここで、海綿状組織は気体の通道としての役割、柵状組織は葉を支える役割という、それぞれ光合成以外の役割があり双方必要ではあるが、光路を長くし効率的な光合成をもたらすのは海綿状組織であるのに、陽葉において列が増加するのはなぜ柵状組織のほうなのだろうかという単純な疑問を感じた。そこで柵状組織について調べてみると「光合成を最も盛んに行うところ」とのことであり、これであれば柵状組織が多くなるのは妥当であるが、なぜ柵状組織が最も光合成を盛んに行えるのだろうか。その答えとして海綿状組織の細胞間隙の多さに注目するとする。海綿状組織は乱反射により光路を変えることで効率的な光合成をもたらすが細胞間隙が最大で半分近くを占めており、光エネルギーの取り込みは効率的であっても体積あたりに行える最大の光合成量が小さくなるのではないだろうか。一方、細胞が密に並んでいる柵状組織は十分な強光にさらされた場合は効率が悪くとも最大の光合成量が大きくなるのではないだろうか。また、双方が存在するとき、海綿状組織で反射した光が柵状組織を斜めに通過すれば長い光路を確保できるだろう。このことは陽葉の方が陰葉よりも光飽和点が高いという結果論的な特徴とも合致すると考える。

A:格調高い出だしで、その内容があとの論旨で利用されるのかと期待したら、あまり関係なく終わるのですね。ちょっと残念。調べてみた、というときは出典を明記するようにしてください。「光合成を最も盛んに行うところ」というのは複数の意味に取れます。例えば柵状組織は葉の表側にあって光が強い位置を占めていますから、たとえ柵状組織と海綿状組織の光合成の能力に全く差がなくても、表の柵状組織は光合成を盛んに行うことになります。そのあたり、きちんと調べる必要があります。


Q:今回の授業で、もみじのような植物は紅葉したときに、葉で光合成を行うことができないと学んだ。紅葉の赤い色素が光合成色素でないのなら、栄養分を得ることができない。植物が一斉に紅葉する理由について考える。紅葉する植物の共通点として、紅葉した後に落葉する、秋過ぎに紅葉がはじまることがあげられる。前者では、紅葉は落葉の準備であると考えられる。常緑樹は葉を一斉に落葉させず、長い期間をかけて葉を交換している。常緑樹の葉が落葉するとき、葉の色が変色するものがある。例えばツバキは落葉する前の葉は黄色に変わる。このことから、紅葉は落葉の前におこることであることが推測される。後者は、秋以降の時期の環境と関係していると考えられる。秋以降は、乾燥が進み、光の強さも弱くなり、低温になる。このような環境下で光合成を行うことは、植物が生命活動を行うのに自身に対して悪影響を及ぼす。光合成を行うことに使われるエネルギーの方が、光合成によって得られるエネルギーの方よりも多くなってしまうと考えられる。この二つのことから、紅葉は厳しい環境の前に葉を落とすための前準備であろう。

A:実は、常緑樹のマンリョウ(万両)は、6月ごろに紅葉して落葉します。面白い説ですが、必ずしも「厳しい環境の前」とは限らないかもしれません。


Q:今回の講義では植物の葉の構造について学んだ。柵状組織が光ファイバーのような構造になっていて、光路長を長くすることで効率の良い光合成を可能にしているらしいが、それなら葉の両面を柵状組織にしている植物が見当たらないのはなぜだろうか。単純に葉の裏側には日光が当たらないからという理由かもしれないが、それなら葉をなるべく地面に対して垂直になるように生やせば済む話である。だが考えてみると、葉の裏側が海綿状組織であることの意義に気が付いた。光合成には日光の他に二酸化炭素も必要であり、加えて植物も生物である以上呼吸を行わなければならない。そのために植物の葉に備わっているのが気孔だが、葉の両面が柵状組織でぎちぎちに埋まっているとしたら、気孔を置く場所が無くなってしまう。それに、海綿状組織には柵状組織を通り抜けた光をその構造で乱反射させて、光路長をより増幅させる働きもある。物理的な面からも見てみると、葉の表面を柵状組織とクチクラ層で頑丈に、裏面を海綿状組織で比較的柔らかくすることで、外圧で折れ曲がったりすることが無いようにしていると考えられる(『折れず、曲がらず、良く切れる』と表現される日本刀も似たような発想で作られている)。植物の葉を構成する組織はつくづく合理的であると考えさせられる。

A:例えば、イネ科の植物の多くは、地面に垂直に近く葉を立てています。このような場合は、柵状組織と海綿状組織の区別がわかりづらいことが知られていますから、案外「単純に葉の裏側には日光が当たらないから」という理由もばかにできないかもしれません。


Q:今回の授業では紅葉と光合成のクロロフィルが分解されアントシアニンが合成されることで葉の色が赤~紫色になることを学習した。ムラサキキャベツの葉はこのアントシアニンという色素を持っているため紫色に見える。しかし、クロロフィルが完全にないわけではなくアントシアニンとクロロフィルが混合した状態となっており光合成は行われている。ムラサキキャベツは一般的な緑色のキャベツよりクロロフィルが少ないと予想されるが単純に考えるとこれは光合成量が少なくなり生存に不利になるのではないだろうか。紫色である利点として考えられることの一つにアントシアニンには紫外線を防ぐということが挙げられる。動物にとって紫外線が有害であるように植物にとっても過剰な紫外線は有害となりうる。紫外線が種子の中のDNAが一部破壊され、死んだり変異を起こしたりする可能性があるためである。しかし紫外線だけが問題であるならムラサキキャベツが栽培される地域は日本よりも紫外線の強い地域にみられはずではないだろうか。日本という同じ環境下で紫外線対策をする種としない種が存在するというのは不思議である。このことからアントシアニンには紫外線以外にもほかの利点が想像される。
参考文献 http://www.wakasanohimitsu.jp/seibun/anthocyanin/ 2014/6/8閲覧 

A:よく考えていると思います。ただ、「日本」は同じ環境、というのはやや大雑把な気がしますし、栽培作物の形質については、人為的な選抜の効果も考えるべきでしょう。


Q:今回の授業では葉の光の吸収についてと、紅葉や斑入りの葉は光合成を行うのかということを学びました。中でもムラサキキャベツの結球は光合成を行わないという話に興味が湧いた。そこで、なぜムラサキキャベツと普通のキャベツの結球になぜ光合成の違いが生まれたのか考えてみる。そもそもなぜキャベツは結球するのか?文献によると「結球野菜の多くは原産地が地中海沿岸です。地中海沿岸では夏の間は雨が少なく乾燥します(夏乾帯)。長い乾燥期に入るときに、葉からの水分蒸発を防ぐためにとった自衛手段だったのではないかと考えられています。さらに、子孫を残すために大切な花の芽を強力な紫外線から護っていたのかも知れません」ということである。それ加えて、ムラサキキャベツの葉にはアントシアニンが含まれていることで、紫外線からより強固に身を守っていると考えられる。ムラサキキャベツの葉が光合成を行わない理由は、アントシアニンの吸光スペクトルがクロロフィルの吸光スペクトルと重なるため、光合成の効率が下がり、次第にクロロフィルの機能が退化していったのではないかと考えられる。つまり光合成によるエネルギーの取得よりも紫外線防御の方が重要だったためであると考えられる。一方、普通のキャベツは結球でも光合成を行うので、ムラサキキャベツよりも多くのエネルギーを得ることが出来ると考えられる。結論として、これらの種の違いは太陽光の強さの違いによって生まれ、キャベツは太陽光の比較的弱い乾燥した土地、ムラサキキャベツは太陽光が強い乾燥した土地で育ったことで生まれたと考えられる。
参考文献:小原芳郎,「生き物こぼれ話(その44)」,http://home.e02.itscom.net/songenkt/ikimono/ikimono-44.html, (参照2014-06-08)

A:栽培作物の場合、人為的な選抜の影響を考える必要があると思いますが、論理としては面白くてよいと思います。


Q:今回の講義では完全に紅葉した葉は光合成を行っていないという話を扱った。しかし、通常、紅葉した葉はもはや落葉を待つばかりである。ゆえに、無駄なエネルギーを使って葉を紅葉させることは、植物からすればマイナスでしかないように思われる。では、なぜ植物は紅葉をするのだろうか。以下にその仮説を述べる。紅葉した葉は赤色になった後に、落葉して地面を覆う。赤色の葉は赤色光を反射してしまうため、落葉した葉の下にある他の植物から赤色光を遮ることができる。すなわち、光合成に最もよく用いられる波長の光を他の植物に与えないようにすることができるのだ。このようにして、他の植物の生存率を下げることが目的のひとつであると考えられる。また、もうひとつの仮説として、落葉した葉が葉挿しの要領で一個体として成長して、自らの競争相手へと成長することを避けているということも考えられる。もし、葉緑体を持ったまま大量の葉が落葉したならば、その中の極一部が植物体として成長することも考えられる。その植物体は自らの近くで成長するため、将来的に競争相手となる可能性がある。そのようなことを避けるため、葉から光合成能を奪った後に落葉させているのではないだろうか。今回は2つの仮説を挙げたが、どちらの仮説も“競争相手の排除”という面では共通である。これらの仮説が正しいにせよ誤っているにせよ、紅葉には何らかの利益があることは明白である。

A:他の植物との競争を避けるため、というアイデアは初めて見ました。独自性が合ってよいと思います。