植物生理学I 第13回講義

C4光合成とCAM光合成

第13回の講義では、C4植物とCAM植物の光合成について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:胡蝶蘭は樹上性であるため根が乾燥しやすいと聞いた。生息地は熱帯雨林でそれならば、高温乾燥状態に適したC4植物になぜ進化しなかったのか考えた。これは熱帯雨林の二酸化炭素量に原因があると思われる。まず、二酸化炭素について述べる。確かに、熱帯雨林は森林も多いから酸素も多い。しかし、生息している生物が多種多様であり、土壌生物の活動も活発も盛んなため二酸化炭素量も他の気候区分に比べると圧倒的に多い。C4植物では取り込んだ二酸化炭素を濃縮するが、熱帯雨林では二酸化炭素量が多いので濃縮する必要はなかったのであろう。C4植物の回路は能動的なのでエネルギーを消費する。したがって、二酸化炭素を濃縮する必要がないので、濃縮にエネルギーを使うことを避けたと考えられる。結局はエネルギーのコストが関わってくるといえるだろう。

A:森林が全体として二酸化炭素をどの程度吸収しているのか、という点は地球環境の把握にもかかわる重大な問題で、議論があるところではありますが、もし二酸化炭素を大量に放出していたら、生物の現存量は減る一方になります。それはさすがにないのでは。別の考えとして、森林内は光が強くありませんから、このレポートで述べられているエネルギーの入手量が限られる、ということがあるかもしれません。


Q:今回の講義ではC4植物の反応機構は3種類あるという事を学んだ。そこでなぜこの3種なのかという事について考察する。まず、考え付いたのはもともと他の反応機構も存在したが、進化の過程で反応効率などの点でこの三種類に劣り淘汰されたという事である。つまり、長い進化の間にこの3種類の反応機構を形成しやすい遺伝子(遺伝情報)が残り、今に至るという事である。別の可能性としては淘汰ではなく、元からこの3種の反応機構しか構成することができなかった、ということも考えられる。C3植物がルビスコという反応効率の良くない酵素を用いているのもこの理由からであり、この可能性も十分にありそうである。

A:面白い点に着目していると思います。ただ、両論併記になってしまうとインパクトがないので、何か自分なりの理屈をつけてどちらかに議論を収束させた方がレポートとしては良いでしょう。


Q:今回の講義ではC3、C4、CAM植物について学んだ。ここで気になったことがC4植物とCAM植物の光合成の回路が似ていることである。C4植物は2種類の細胞が回路を分担している。CAM植物では時間的に回路が分担している。どちらの植物も乾燥している厳しい環境に生息をしている。なかでもCAM植物は砂漠のような非常に乾燥した環境でも生息することができる。このことからC4植物の次にCAM植物が生まれたと考えられる。

A:一般論としては、きちんと論理が通っているのですが、講義ではC4植物が何度も独立に「発明された」ことを紹介したはずです。その点を考慮した場合に、どのような論理が成り立つか、という点についての考察が必要でしょう。


Q:今回の授業ではC4植物、CAM植物などについて学び、さらにはクロロビウムやアイスプラント、Eleocharis viviparaのような特殊な炭素同化の仕組みをもつ生物などの例も知ることができた。この中でも特にクロロビウムは呼吸におけるクエン酸回路、解糖系を真逆に回して炭素同化している。この事実を考えれば解糖系は試験管の中でも起こせる比較的簡単な反応だが、クエン酸回路のような複数の物質が関わる反応も逆に用いることができるほど柔軟な反応から成り立っていると考えられる。

A:これも目の付けどころは良いのですが、結論の中の「柔軟な反応」というのが具体性に欠けますね。もう少し感覚的でない、具体的な議論が求められます。


Q:今回の講義では、C4植物では維管束のまわりに維管束鞘細胞ができ、葉肉細胞と維管束鞘細胞の2つを用い光合成をしていて二酸化炭素を濃縮できる。気温の高いところで生育するサトウキビやトウモロコシなどがC4植物である。また、単子葉類にも双子葉類にもC4植物はあり、C4植物はいろいろなところから分岐しており、C3とC4植物の垣根は低いということも習った。C3植物では維管束鞘細胞があまり発達しておらず、C.4植物では葉緑体のある維管束鞘細胞を持つということとC3植物の光合成は1つの細胞内で行われるが葉肉細胞と維管束鞘細胞の2つを用い光合成をしていることからC4植物への進化は維管束鞘細胞の進化によるものではないか。では、維管束鞘細胞をもっているがC4回路ではなくC3植物と同じ様式で光合成をしている植物はいるのか気になった。維管束鞘細胞はC4植物では葉緑体を持つが、C3植物で維管束鞘細胞を持つものもいるが、これでは普通葉緑体を持たない。基本的に維管束鞘細胞の働きは養分の貯蔵や移送、あるいは機械組織として植物体の支持であるはずである。以上のようなことから考えてみると、C3植物における維管束鞘細胞とC4植物でできる維管束鞘細胞の起源は違うのではないかと私は思った。おそらくC3植物による維管束鞘細胞は植物体の支持、養分の貯蔵、移送が主な役割で、C4植物の維管束鞘細胞は植物体の支持、養分の貯蔵、移送といったことが目的ではなく光合成をおこなうためにできたもので葉緑体を持った細胞から分化して出来上がったものではないかと考えられるのではないか。

A:なるほど。これは面白い考え方です。実際にこれが本当かどうかはともかく、与えられた情報に基づいて論理的に考察して結論を導き出していて、高く評価できます。


Q:アイスプラントと聞いて真っ先にアイスワインを思い浮かべたのは私の悪い癖でしょうか。さて、アイスプラントが塩分によってCAM植物化するという話について、私は同様に塩条件で生育し高温地域に自生するマングローブについて非常に気になった。マングローブは気孔がCAM植物のように小さくて低密度であるC3植物であり、水を選択的に透過する根系や塩分を蓄積して水を浸透しやすくするような葉によって、水を効率的に使用できるようにしている(琉球大学農学部学術報告 = The Science Bulletin of the Faculty of Agriculture. University of the Ryukyus(42): 9-22 1995-12-01)。個人的にはマングローブも代謝経路の切り替えが為されるのではないかと予想して調べたので残念ではあったが、CAM植物や塩条件に対したアイスプラントは水が不足したものとしたリンゴ酸代謝がなされるが、マングローブに於いては塩条件であっても水は多量に存在しかつ汽水域であることから塩分濃度が常に高いとも限らないことから、気孔は少なくなって水分のロスは減らしつつも、その水を普通に吸収できるような性質を獲得しているのではないだろうか。
 最後に、これとは別に個人的な疑問を述べて締めさせていただく。一般的なCAM植物はリンゴ酸を蓄積した分しか合成できないので成長が遅く野菜化しにくいとのことであったが、それであれば明暗条件の周期を調節することで「リンゴ酸蓄積の飽和」とカルビン回路のバランスを取ることができ、成長速度を早めることが出来るのではないかと考えた。ところでドラゴンフルーツはサボテンの実なのであるが、これは成長を早めるような工夫がなされているのであろうか、また明暗条件の周期を変化させるという工夫をしたときに結実のために必要な短日長日といった開花条件的にはドラゴンフルーツはどうなのであろうか、ドラゴンフルーツの糖度が一般の果物に比して非常に低いのは光合成型と関係はあるのだろうか。講義はもう1回あればこのことに付いても考察を加えてみたいところであった。

A:アイスワインも乾燥がキーワードではありますね。マングローブの研究は、琉球大学の先生と共同研究の形で少しやっています。沖縄まで行ってマングローブの光合成活性の測定などもやりましたが、野外の測定で一定の結果を得るのは案外大変です。レポートの最後の部分は、いろいろ面白いタネがありそうで、展開される考察を読めないのが残念です。


Q:光合成機能におけるイネのC4植物化について面白い話が聞けた。構造的にはC3植物の光合成機能しか持たないイネだが、葉緑体と葉肉細胞を上手く利用することでC4植物のもつような光合成機能をイネに付加しようとする研究が行われているそうだ。しかし、この研究は葉緑体と葉肉細胞の間における物質輸送が上手くいかず行き詰まっているとのこと。そこでPEPの輸送を助けるトランスポーターとしてはたらく物質を考えてみた。まずモータータンパク質の利用を考えてみたが、この場合イネの本来の構造自体を変化させる必要があり実用的なC4植物化とは言えない。講義中に書かれた光合成経路を見て、イネに大きな変化を加えることなく実用できるトランスポーターを模索したところ赤血球が思いついた。我々が好気呼吸を行う際に用いている赤血球は酸素を運ぶ役割を担い、酸素濃度に応じて物質との結合性を変化させる。赤血球の性質を応用し、二酸化炭素濃度が高い環境下ではPEPを解離し、二酸化炭素濃度が低い環境下では結合するトランスポーターの作成を考えた。もちろん植物体内でそれほどの濃度差を生み出すこと、トランスポーターの循環等難しい点はあるが、OAAの生成を阻害しないトランスポーターの作成が可能であればC4植物化に向けて多少前進できるのではないだろうか。

A:赤血球型のトランスポーターの具体的なイメージがもう一息つかめませんでしたが、このような発想だけでも貴重です。他の人と同じことを考えていては、研究になりませんから。


Q:C3、C4植物を行き来するEleocharis viviparaという植物が講義で登場したが、これはどのようなメカニズムでC3、C4を切り替えるのだろうか。水面下はC3植物細胞で水上はC4植物細胞ということだったが、ということは、成長の過程で体の一部が水中から出た時にその部分の細胞でC4回路が働き始めると考えられる。このC4回路を働かせ始めるメカニズムを考えるにあたって、水中と水上の環境の違いを考える。挙げられる違いは水分量と温度がある。しかし水分量については、炭酸固定回路にH2Oは直接は必要ではないことを考えると、水分量でC3とC4を切り替えているとは考えにくい。温度で切り替えていた場合、一般に水上の方が水中より高温であることを考えると、C4回路に関わる酵素の最適温度が、C3の炭酸固定回路の酵素よりも高温なのではないかと推測できる。これを確かめるには、水槽内で温度(水温)条件だけを変えてEleocharis viviparaを栽培し、光合成量に変化が見られるかを確かめれば良いと考えられる。

A:面白い考え方だと思います。活性については、酵素の最適温度で説明できるかもしれませんが、C3型とC4型では維管束鞘細胞の形態も変化しますから、活性だけでは説明がつかないでしょう。馴化による大規模な構造変化が起きているはずです。あと、水と温度だけでなく、光と二酸化炭素の関与についても考察する必要があるように思いました。


Q:今回の講義では、クロロビウムの炭素同化にとても感動した。高校のときにがんばって覚えた、解糖系の逆反応をする生き物がいることにとにかく感動した。クロロビウムは緑色硫黄細菌で、基本的には嫌気条件下で硫化水素を酸化することによりエネルギーを得て、そこエネルギーで炭素同化を行っている。その過程がなぜ解糖系の逆反応と同じになるのかにも疑問はあるが、それよりもむしろ、この“固定と解糖を逆反応で行う”という単純な機構を他の生物たちがなぜとらないのかの方が疑問である。ただ、この考え方自体は単純であるが反応経路の中身を考えてみると、単純とは決して言えないものである。おそらくそのことが、この疑問に対する端的な解答なのであろう。

A:他の生物がなぜ使わないのか、その点は僕も不思議に思っています。この方法を使っている生物は、いずれも嫌気的な生物なので、酸素があるとどこかが働かないのかな、と思っていますが、具体的に酸素があると止まるステップがあるのかどうかはわかりません。


Q:C3型光合成とC4型光合成のどちらも行うことができる植物がいることについて授業でふれた。水中に沈んでいるときはC3型、空中に出ているときはC4型の光合成を行うらしいが、空気を取り入れる際の葉の構造は変化するのかどうか気になった。水草には気孔が存在せず、水に触れている部分から水中に溶けている気体を吸収する。陸上植物は気孔から気体を取り入れるが、それ以外の部分は乾燥を防ぐためにクチクラ層でおおわれている。シダ植物には気孔を持たず、地中から根を通して二酸化炭素を取り入れている種があるらしく、この植物もそのような手法をとっているのかもしくは、水中に葉が存在するときも気孔から水中に溶けた気体を吸収している(取り込む面積的に十分なのかはわからないが)とも考えられる。

A:異形葉に気孔に関しては、空気中では気孔が存在していても、水中では気孔密度が激減する例が知られています。「シダ植物が地中から二酸化炭素を取り入れている」という話は初めて聞きます。調べたことを記述する時には、必ず参考文献を挙げてください。


Q:縄文人の骨に残っているコラーゲンを取り出し、炭素や窒素の同位体組成を分析すると、縄文人は同じ遺跡に埋葬された人々はほとんど同じ食生活をしていましたが、地域ごとでは食生活がまったく異なっています。この食生態の多様度は,それぞれの地域生態系への縄文人の適応の結果とみることができます。しかし弥生以降はこの多様性が失われ、多くの地域で植物依存型の食生活の傾向があらわれてきます。寒冷化や乾燥化による自然生態系の変化が大きく,豊かな資源が消えていったのではないかと考えられています。この野生資源の種や量の減少が食生態の変化をうながし,それが栽培,とくに稲作の普及につながったのではないかと考えます。

A:これは、書かれていることが既知の事実なのか、自分が考察したことなのかがあいまいです。科学は過去の研究に基づいてするものなので、既知の成果をベースに考察することはむしろ奨励されるべきものですが、どこまでが既知の事実で、どこからが自分の考えたことなのかは、きちんと分けて記述する必要があります。


Q:今回の講義では、塩ストレスや乾燥ストレスによってC3型光合成からCAM型光合成に移行するアイスプラントについて扱った。私は、これらのストレスの何が光合成型の移行を促しているかという点について気になった。今回のレポートではこの点について論じる。私は、光合成型の移行は植物体内の塩濃度がシグナルとして働いていると考える。もし仮に塩の絶対量が影響を与えているのならば、乾燥ストレスによる光合成型の移行は起こり得ないはずである。塩濃度が原因の場合には、これらの2つのストレスが影響を与える理由が説明できる。塩ストレスについてはそれ自体が塩濃度に直結していることが原因であると考えられ、乾燥ストレスの場合には植物体内の水分量が減少したことによる塩濃度の上昇により、C3型光合成からCAM型光合成への移行が生じると考えられる。加えて、このような光合成型の移行は酵素の変移を意味するため、塩濃度が高いときにCAM型光合成に必要な酵素遺伝子の転写を活性化する、または塩濃度が低いときにCAM型光合成に必要な酵素遺伝子の転写を抑制するといった機構が働いていると考えられる。

A:面白い点について考察していますね。実は、CAM化を引き起こすシグナルは何か、という点については、まさに今うちの研究室で研究がおこなわれています。興味があったら聞きに来てください。