植物生理学I 第12回講義

炭素同化

第12回の講義では、カルビンベンソン回路を中心とする光合成の炭素同化について解説しました。C4とCAMの話は次回に持ち越したのですが、そこを先取りしたレポートもいくつかありました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回、ルビスコの名前の由来について話を聴いた。食い意地の張っている私は高校時代から「ルビスコっておいしそう。ナビスコみたい。」と思っていたが、まさか本当にナビスコと関係あるとは思わなかった。前置きはここまでにして、科学における命名、つまりネーミングセンスは大事なのではないか。ルビスコだって正式名称のままじゃ専門家しか覚えないだろうし、アドレナリンかエピネフリンかと言われたら、発見の経緯もあろうが言いやすい前者を取る。では、ネーミングセンスが残念だとどうなるか。その顕著な例が昔細胞を表したbubbles、utriculi、sacculusといった言葉であろう。やはりcellの言いやすさにはかなわず、一般的な生物学の教科書にはcellしか載らない。cellしか載らないということはcellと名付けたフックしか載らない。それを考えると、エピネフリンはまだ恵まれている方だ。もちろん、研究内容が評価されればよいという考えもあろう。しかし、研究費のことも考えれば今や自分の専門分野の人間だけでなく政府関係者や一般人にも受け入れられなくてはならない。ネーミングセンスは知ろうとするきっかけを与えてくれる。ネーミングは研究内容を評価されるための強力なツールと言える。

A:あまり植物生理のレポートっぽくないですが・・・。名前については、たいてい英語起源なので、英語圏の人にはぱっと意味がわかっても、日本人には覚えづらくて不公平な感じがします。それで、理研の宮脇さんなどは、新しく開発した蛍光レポーターに、Keima(桂馬:励起波長から発光波長が跳ぶので)、Drompa(ドロンパ:忍者みたいに蛍光が消えるので)、Kaeda(楓:緑から赤に色が変わるので)といった名前をつけています。英語圏の人には覚えづらいでしょうね。


Q:今回の講義で、ルビスコという酵素を初めて知った。また、ルビスコの行うカルボキシラーゼ反応効率がそれほど良くないという事も知った。これにはルビスコがもう一つ行っている反応であるオキシゲナーゼ反応が関わっていて、この反応を抑えることができればカルボキシナーゼ反応の効率を向上させることができるだろうと考えた。このために思いついたのはルビスコよりも酸素親和性の高い物質を反応系に導入するという事である。例としては酵素などである。酸素親和性と聞いてまず思いついたのが身近なヘモグロビンであるがこれを導入できるのかという事については疑問が残る、難しそうである。

A:せっかく思いつきは良いのですから「疑問が残る」で片づけるのではなく、どのように工夫したら実現できるか、想像をめぐらしてください。たとえば、マメ科植物の根粒では、レグヘモグロビンというヘモグロビンに似たたんぱく質が酸素濃度の調節に役立っています。


Q:授業では、ルビスコという酵素が触媒であるはずなのに、効率が悪いという特徴があることを学んだ。ルビスコが誕生した際は、ルビスコにとって周囲の環境が良かった。しかし、現在の環境はルビスコの触媒の効率にとっては良くないそうである。では、なぜルビスコは現在まで改良されなかったのであろうか。授業では、ルビスコを改良するのではなく、光呼吸の反応が複雑になることで、現在の環境に適応していると学んだ。その他の理由を考える。ルビスコはタンパク質であるから、遺伝子の情報に基づいて合成されている。ルビスコの遺伝子の情報が変化していないのは、遺伝子のその領域には、生存に不可欠な情報が多くあるのではないだろうか。重要な情報がある部分が変異してしまうと、その生物は、生きていくことができないからである。したがって、ルビスコは改良されることなく、現在に至っているのではないかと考える。

A:タンパク質のコード領域に、そのタンパク質の情報以外の情報が載っている例はなくはありませんが、それだけだったら、まず遺伝子重複をして、次のそのうち片方はルビスコとしての機能を改善し、もう一つはタンパク質の情報以外の情報のために維持しておけばよいことですよね。もう少し、いろいろ思いを巡らせてみてください。


Q:「電車は急に止まれません」私は電車でGO!をプレイしていて幾度となくこのセリフを自動音声のお姉さんに言われて悔しい思いをしている。さて、講義の中でいわゆる明反応と暗反応について、暗反応の関連酵素が暗所では実は失活することを扱ったが、これは中高で習う明条件から暗転した際にしばらく炭酸固定が続くという暗反応の実験と矛盾するように思えた。暗転して同時に両反応系の阻害が起きた際にいわゆる暗反応が後に停止する理由や意義はいかなるものなのであろうか。いわゆる明反応である光化学系では光エネルギーを利用して酸化還元反応を起こすため暗転でその反応はすぐに止まるが、いわゆる暗反応である炭素同化を停止させるのは光自体ではなくそれにより起きる化学反応であるので、しばらく酵素の活性が残るのではないだろうか。また、炭素同化は光化学系で光エネルギーを得た後に起こる点では、そちらのほうが後にしばらく続くことは理に適い、基質が十分量であれば逆反応が起きにくいことも考えると暗所で酵素が失活する理由とも相反しないと考えられる。

A:講義の中で説明したと思いますが、電子伝達による還元が酵素を活性化する一方、不活性化は酸素による自動酸化によります。つまり、酵素が酸素によって徐々に酸化されていく過程で活性が低下するので、暗くなったらぱっと切れるわけではないのです。


Q:今回の講義ではルビスコの働きや、かつて高校で学んだ明反応や暗反応が実はその通りに光の有無で反応が起きている訳ではないということを学んだ。その理由としては、暗反応であるカルビン・ベンソン回路回路は実際には暗所で働かないことや、明反応である光化学系に続いて起こる電子伝達反応は光ではなく温度によって速度が変わることなどであった。ここで、陰性植物と陽性植物においていわゆる光を必要とする反応系と光を必要としない反応系の反応速度はどのようになっているのかということを考えてみた。陰性植物は陽性植物よりも光合成速度が小さい。したがって、光を必要とする反応は陽性植物の方が速度が速いと考えられる。これは、陰性植物は陽性植物ほど光がなくても成長できるからである。一方、光を必要としない反応は陰性植物と陽性植物では、変わらないかもしくは陰性植物の方が速度が速いと考えた。なぜなら、光合成速度は確かに陽性植物の方が大きいが、それは光を必要とする反応速度の違いであって、日陰でも生育できる陰性植物であれば光を必要としない反応速度自体は陽性植物とあまり変わらないのではないかと推測したからである。

A:基本的なことですが、光を必要とする反応と、二酸化炭素を固定する反応は、それぞれ単独に働くことはできません。光化学反応が供給するATPとNADPHがなければカルビン・ベンソン回路が動かないのはもちろん、カルビン・ベンソン回路が動かなければATPやNADPHが過剰になって、結果として光化学反応が進まなくなってしまいます。つまり、2つのバランスが取れていないと困るわけです。その点を頭に置いて考えると、光が強いときにはそれとバランスをとるために、炭素同化系をたくさん持っていた方がよい、ということが予想されます。


Q:今回の講義でも取り上げられたルビスコについて、やはり、効率の悪い酵素をなぜわざわざ選択しているのかなと考えさせられました。また、分子量544,000の巨大分子であるということからも、大きい動きづらい分子をわざわざ維持するメリットについても興味がわきました。今回ルビスコについて調べる中で古細菌のみに存在するTk-ルビスコというものの存在を知りました。“Tk-ルビスコは、他のルビスコとは立体構造がかなり異なる上、高温環境で高い炭素固定能力を示します。さらに、Tk-ルビスコは、これまで知られていなかった2種類の酵素(AMPホスホリラーゼ、R15Pイソメラーゼ)とともに、古細菌の中で新しい炭素固定経路をつくっていることもわかりました。”(引用:新規炭酸固定系を構成する酵素群の構造機能解析と機能改良/京都大学大学院理学研究科 三木邦夫 http://www.tanpaku.org/pdf/pamphlet2010/pamphlet2010_feb4.pdf)という記事を読み、古細菌由来であるにも関わらず、常温でも高活性で働くという点からも、Tk-ルビスコの活性部位を、真核生物にも応用できたら、植物学のみならず農業の生産効率の向上などの可能性は様々に広がるのではないかなと思い、とても興味深い研究であるなと思いました。

A:このような研究を見たら、まず、ではなぜ、真核生物は、そのような反応中心を持たなかったのだろう、と考える癖をつけてください。反応中心の周りのアミノ酸の置換は進化の過程で数多く起こっていますから、もしそのルビスコがあらゆる面で優れているのであれば、長い進化の過程で、真核生物も同じようなルビスコを作ることができたでしょう。スーパールビスコを作ろうと努力した研究の話をしたはずです。なぜそのような努力が失敗に終わったのか、という点を考えた上でレポートを書いてください。


Q:今回の授業では、植物がルビスコという非効率的な酵素を用いていることを扱った。その理由として、ルビスコができた当時にはこの酵素程度の働きで十分であり、進化は急速な変化に至ることが困難であるため現在も広く植物に存在しているという説明が為された。今回のレポートではルビスコが未だに存在し続けている理由を考察する。私はルビスコがより効率的なものに進化しない理由として、極めて基本的なものであるからであると予想する。すなわち、視覚情報を良く使う動物では水晶体を構成する蛋白質であるクリスタリンは高度に保存されているように、光合成を行う生物ではルビスコには変異が生じないような仕掛けが為されているのではないだろうか。以上のことから、ルビスコの改善自体が光合成能を失うというリスクと隣り合わせであることから、生物はリスクを負ってまで現状の改善には取り組まなかった。そのため、現在に至るまでルビスコという非効率的な酵素が生き残ることができたと推測することができる。

A:生物はポケモンではありません。個体が進化するわけではなく、進化するのは集団です。個体は変異によってリスクを負いますが、その変異の中にわずかでも適応度の高いものがあって集団内に広まれば、それによって集団が進化していくわけです。あらゆる進化の背後には、おびただしい死体が転がっていることを理解すべきです。特定のタンパク質で保存性が高いのは、アミノ酸の置換速度が遅い場合もありますが、多くは、変異が生じたときに死んだり子孫を残すことができないからです。それでも、そのような変異の中に一つでも効率が上がるものがあれば、その変異は選択されて集団内に広まる可能性があるはずです。


Q:本日の講義では、カルビン‐ベンソン回路のお話を伺った。私は、高校では物理を選択していたのでこの内容も名前しか知らなかった。CO2固定のルビスコ酵素の話は興味深かった。効率が非常に悪いために、地球上で最も存在の多い蛋白質であるというのには驚いた。このルビスコの悪い効率を向上させれば農業収入が増すということであったが、昔の環境から、ルビスコが土台では効率の向上は不可能だろうということだった。では、逆に今のン農業の仕組みを変えてみてはどうだろうか。ビニールハウスなどで温度や光の条件を変えて植物を育てているところはあっても、二酸化炭素濃度を高くして育てている話は自分は聞かない。高CO2下では正常の生育が可能だということであったので、ルビスコが誕生した当時の環境に似せてやったうえで農業生産にかかればよいのではないだろうか。ルビスコが生まれたということは、高CO2下での効率は平常時よりかは向上するはずである。このシステムを使って農業生産効率を向上させることができるのではないかと私は考えた。

A:ビニールハウスで二酸化炭素濃度を上げて植物を育てるのは、CO2施肥といって、現在ではよく行われています。