植物生理学I 第7回講義

基本代謝と呼吸

第7回の講義では、炭水化物、タンパク質、脂質の分解といった基本代謝の概略と、呼吸の反応について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業の中では、3種類の反応を進める1つの酵素がとても印象的でした。反応を進めていく上で、とても効率的だと感じたからです。生体内で働く酵素はたくさんあるのに、なぜこのような形の酵素は少ないのか考えてみました。ひとつには酵素ごとに最適温度や最適pHが異なるためと考えられます。

A:目の付けどころはよいと思うのですが、導入部の途中で切れてしまった感じですね。レポートは数百字程度、としていますが、これは、きちんと論理を展開するためにはそのぐらいの長さが必要だろう、ということで決めています。無理に長くする必要は全くありませんが、全体として論理的にある主張をするようなレポートを書いてください。


Q:コラーゲンを摂取しても体内、皮膚のコラーゲン増加に本当に影響しないのだろうか?今ドラッグストアに行けばドリンクでも粉でもコラーゲンを売りにした商品は各メーカーから多数出ているし、利用している人も多い。私の母もその一人である。資生堂やアサヒなど日本を代表する企業の研究者たちが開発したそれらの美容ドリンクに効果がないとは、代謝・消化のしくみを考えれば当然そのまま吸収されることはないとわかっているが、信じられないのである。上記の二社のコラーゲン入り飲料の紹介ページには「低分子コラーゲンを摂取した時の肌の弾力性の上昇を示すグラフ(アサヒ パーフェクト*コラーゲン)」があり、「飲んだコラーゲンは一度体内で複数のアミノ酸に分解され、新たに作られます(資生堂 ザ・コラーゲン)」と記述されている。ということは、コラーゲンを摂取することに意味があるのではなく、アミノ酸の摂取の絶対量を上げることによってコラーゲンの生成量を、その他の体内でのタンパク質合成量上昇とともに上げることができ、結果的に肌にいい影響を与えることができるのだと考えられる。よって、多少遠回りではあるがコラーゲン入り飲料を摂取することは決して体内のコラーゲン生成に無駄ではないと結論づけられる。

A:「無駄」ではないかもしれませんが、アミノ酸の摂取量の問題だとすると、普通に魚や肉を食べていれば問題ないように思いますが。


Q:今回の講義ではエネルギー代謝について学んだ。その中で、糖とタンパク質はアセチルCoAなどに一度完全に分解されてから再利用されるが、脂肪酸では2割ほどは完全に分解されず途中の段階で再利用されると学んだ。今回はこれについて考察する。まず脂肪酸だけが途中で再利用されることの利点を考える。可能性として脂肪酸の分解にで取り出せるエネルギーが少ないもしくは脂肪酸の合成に必要なエネルギーが多いという2つが考えられる。脂肪酸は糖やタンパク質と違って原子数などの分子の骨格となる部分の構造が多様である。これは直鎖状炭化水素部分が飽和化不飽和化、炭素数がいくつかなどによって多数の脂肪酸があることからもわかるだろう。タンパク質も一見多様性が高く感じるが、その中身は構造の似た約20種のアミノ酸である。それに比べ脂肪酸は炭素数の大きく違うものも含め20種以上の種類がある。これらを同じように分解、合成するのに糖やタンパク質と同じようなエネルギー効率で行うことは難しいだろう。また、糖とタンパク質に特異的な一度分解する利点が多いという可能性もある。考えられる利点としては、糖もタンパク質も単糖やアミノ酸が重合したものであるため間の結合さえ切ることができれば単糖あるいは多種のアミノ酸が得られることなどがあげられる。特にタンパク質ではアミノ酸は約20種類あり、再利用するにしても配列が同じである物のほうが少ないため一度アミノ酸の単位まで分解するのは効率的であるといえるだろう。これに対して脂肪酸は鎖状炭化水素を持つ1価のカルボン酸であり、グリセリンと結合している場合でも1分子から3分子分しか作れないことからも矛盾は少ないように感じる。

A:これはよく考えていますね。脂肪の一部が完全に分解されない理由について、自分の持っている情報から考察をしていて評価できます。


Q:今回の授業は代謝について行われ、解糖やクエン酸回路についてでした。正直な話、重要かつ避けては通れないのかもしれないが今回の内容は高校の時に学んだもののみだったので、授業のまとめ以外でレポートとして書ける事、考えられる事が思いつきません。なので、今回の内容は他の人の代表として発表されるレポートを見ることを楽しみに待ち、今回の授業がなぜ必要だったかについて考えようと思います。まず、今回の講義は主に高校の時に生物をとってないものに対して、またこの内容は入試以来頭から抜けているものに対してだと思います。しかし、全員が高校の時に生物を履修していたら、今回の内容に加えてさらに濃い講義があったのではないかと思う。これは他の講義でもよく思う感想で、共通科目でかなりの基本から始まったり、他には自分の知らない知識が常識のように扱われたりということがままあります。これらの状況を改善するために科目選択というものを無くすべきではないでしょうか。全ての高校生が一般授業としてある程度の知識を持った上で大学に入るべきだと思いました。

A:確かに学生のレベルが一様である方が教える方にとっても非常に楽なものです。ただ、既に学んだことについてはレポートを書けないというのは残念ですね。ある知識がその分野の中で自己完結するという考え方は、数学ではもしかしたらあり得るのかもしれませんが、一般の科学ではありえないでしょう。持っている知識と、別の現象、あるいは別の知識を組み合わせたときに何が起こるかを論理的に考えることができない、という状況を想像する方が難しいように思いました。


Q:コラーゲンもタンパク質でありタンパク質はすべてアミノ酸に分解されてから用いられるため、世の女性が美容にいいと信じてコラーゲンを摂取してもそのコラーゲンが直接肌に取り込まれるわけではない。という主張を聞き、講義の本題からは少し外れた内容になってしまうが、ではなぜ世の女性はそれを信じてやたらとコラーゲンを摂取したがるのか気になった。まったく効能がないのならばそれこそ摂取の無駄であり、コラーゲンを売りにしている商品もことごとく嘘くさいものになってしまう。まずコラーゲンは皮膚の真皮などに多く含まれているため、コラーゲンがなくなることで皮膚のハリや弾力が失われてしまう。ではコラーゲンの減少を防ぐにはどうすればよいのか。コラーゲンは他のタンパク質とは異なりヒドロキシプリンが多く含まれていることがわかっている。つまりこのヒドロキシプリンの多く含まれているタンパク質を摂取し代謝能力を上げることができれば常に新しいヒドロキシプリンが供給され、コラーゲンが新生されると考えられる。ヒドロキシプリンの多く含まれるタンパク質=コラーゲンであるから、コラーゲンを摂取することが結果としてコラーゲンの生成に繋がり皮膚のハリや弾力にプラスに作用すると推察することができる。コラーゲン摂取の他にもその結合を促すビタミンCの摂取や代謝をよくするための運動などを同時並行で行う必要はあるがコラーゲンを得るにはコラーゲンそのものを摂取するという理屈は間違っていないと感じた。

A:同様のレポートはもう一通ありました。考え方は悪くないと思いますが、基本的な事実を見落としています。生物を学んでいるのであれば、コドン表を習っていると思います。この中にヒドロキシプロリンというのはありませんよね。ということは、翻訳過程においてコラーゲンが合成される時に使われるのはプロリンであって、タンパク質ができた後に、そのプロリンを修飾してヒドロキシプロリンにしているはずです。コラーゲンにヒドロキシプロリンが含まれているのは事実ですが、コラーゲンの材料はヒドロキシプロリンではなくてプロリンなのです。そしてプロリンは必須アミノ酸ではありませんから、コラーゲンを合成するためにプロリンを特にたくさん摂取しなくても、他のアミノ酸から作ることができます。


Q:今回の講義では体内でエネルギーをやり取りするATP等の合成経路、代謝反応と燃焼の違い、そしてそれらを行う場におけるプロトン勾配の重要性について学びましたが、その中でも自分が一番興味深かったのは最後のプロトン勾配からの転移がエネルギーを産生していることの証明にルシフェリン-ルシフェラーゼ反応を用いたところです。電位差の計測というと自分は測地装置として機械的なものを想像しますが、こういった一見関係のないような仕組みを用いるというのはどちらの知識も必要な広く深い教養があってこそであると思います。いつか自分もこういった柔軟な発想の転換を行えるような人物になりたいものです。そこで今回自分は、光エネルギーを用いた生物活動を行う生物たちについて調べました。一般的に光る生物といえば、ホタルのほかにもヤコウタケなどの菌類、チョウチアンコウなどの魚類、そして近年、その発光の仕組みが解明されたオワンクラゲを代表とする海棲無脊椎動物などがあり、かなり広範囲の種にみられますが、比較的海棲動物がその割合を占めています。これは、地上に比べ海中のほうが1日における日光量が少ない、あるいはまったくないものが多いからであると考えられます。そして、この題目を調べていくうえで非常に興味深いものがありました。それは、植物には発光する種は1つも存在しない、ということです。これはおそらく、捕食をしないほとんどの植物にとって発光は捕食者を遠ざけるよりはむしろ近づかせることになり、かえって危険である、またホタルのように交尾を能動的に行うことが少なく、光エネルギーによるエネルギー消費はあまり効率の良いものではないからであると推測されます。しかし、近年人工的に植物を光らせようという研究が存在します。アメリカの“Glowing Plant”というプロジェクトでは、遺伝子組み換えによる発光植物を人工的に作り出し、電気消費量を減らすとともに人々に生物学のポテンシャルを知ってもらう、という趣旨の元行われているもので、$40による発光植物の種と引き換えの出資が行われていますが、国外からは参加できず、また締切が2013年6月7日午後2時までだそうです。黄金ガジュマルの様に、この植物も人間の手により保護されれば大量の繁殖が可能であるだろうし、光る生垣を持つ家が現れるかもしれません。しかし、そうなったときの欠点として、周りの動植物の概日リズムの乱れ等が考えられ、また覆いをしたとしてもエネルギーの無駄な消費となり、自分はあまり賛成しがたいものであると感じました。
参考資料:“Glowing Plant“ OMRI AMIRAV-DRORY,ANTONY EVANS, http://glowingplant.com/

A:面白い考察だと思います。ただ、ここで「光る」とされているものには、全く異なる2つのタイプがあることに注意する必要があります。一つは化学発光で、もう一つは蛍光です。ホタルは化学発光で、ATPのエネルギーを光に変えますから、真っ暗な中で光ることができます。一方、オワンクラゲは蛍光で、光があたると別の波長の光を出す、というタイプです。つまり、前者はエネルギーを消費して暗闇でも光ることができ、後者はエネルギーを消費しない代わりに光があたっていないと光らない、ということになります。さて、Glowing Plantはどちらでしょうね。


Q:前回の講義では,ヒトにおけるエネルギー代謝の概論を学んだ訳だが,これまで受けて来た説明の中で一番わかりやすく感銘を受けた.そこで,今回は少し趣旨を変えて,どのようにすれば,複雑な代謝系をわかりやすく教える事ができるか,高校生に教える事を想定して考えてみた.まず,講義全体の流れを再度確認する.導入部では代謝に関する定義について復習して後,展開部の前半で,糖・タンパク質・脂質の代謝経路の説明を簡単に行い,そこから,各経路の関連および一部詳細を学んだ.そして展開部の後半では,糖の代謝を例に各経路に共通しているクエン酸回路を学び,まとめとして,なぜ複雑な回路が必要なのか,活性化エネルギーとプロトンの移動の観点から考察を行った.全体に共通して言える事が,必ずこれから説明する事を簡単に説明してから,機構を示し,最後に全体を取りまとめる考えを提示している点だ.例えば今回の場合,まず最初に代謝系とは何かということを一言で話し,具体的にはどの様な物であったかイメージし,思い出させるために3種類の栄養物質の代謝経路の説明を端的に行っている.そして,これらの経路のメカニズムを端的に示し,牛肉を食べてもウシにならない理由など一部例を挙げている.ここで注目すべき点が,情報量の提示を段階的に行っているという点と,それぞれから共通項を見いだし,理解しやすくしている点である.つまり,代謝という物を総括して一言でまとめてから,今度は同じ事をより詳しく教えるという事を繰り返し,徐々に生徒の知識の輪を広げている.そして現象の説明をする際は,いきなり詳細に入り各論的に行うのではなく,3種類の栄養素の分解では,糖・タンパク質・脂質共に高分子構造を細かい分子に分解してからクエン酸回路に送り込むなど,全体の概念を先に教える事で,生徒は詳細はわからなくても,全体像を見失う事は無くなっている.よって,なぜ自分がわかりやすいと感じたかは,通常の授業で行われているように代謝系を各論的に教えるのではなく,概論に概論を重ね,全体像を広げた上で始めて各論に入る形による物だと言える.従って,高校生を対象に複雑な代謝系を教える場合は,この代謝系の全体像をいかに生徒に記憶させるかという事が重要であり,それが生徒の理解および集中力の維持につながると考えられる.また,高校生の授業では通常これらの事を数回に分けて教える.つまり,生徒の全体への概念を維持させるには繰り返し,本質を教える必要があり,代謝系の全体像を説明する洗練された"一言"が必要になると考えられ,その考案が今後の課題だと言える.

A:これは教育学部っぽいレポートですね。長すぎるかとも思ったのですが、珍しいので載せることにしました。中高の先生になるためには、教え方の教育を受けるわけですが、大学の先生になるためにはそれが必須ではありません。昔は、大学生ともなったら自分で努力すべきだ、といって済ましていられたのですが、だんだん時代は変わりつつあります。