植物生理学I 第13回講義

光合成と生命

第13回の講義では、光合成の産物であるデンプンやショ糖と、細胞壁の主成分であるセルロースなどについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:講義中では植物の光合成の効率を高濃度二酸化炭素環境下での短期的な実験と長期的な実験から比較し,短期的には光合成効率が上昇するが,長期的には二酸化炭素濃度は光合成効率に影響しない事が示されていた.これらの結果の原因として,土壌中のK,P,N等のイオンの枯渇が挙げられていたが,同時にこの実験には鉢植効果等の解決すべき問題が指摘されていた.講義中では,それを宏大な土地を利用する事で解決していたが,個人的にはエアプランツなど土壌に根をささない植物を実験生物にしてみてはどうかと思った.恐らく温暖化等の環境問題を視野に入れた実験であれば,講義中に紹介された手法が適していると考えられるが,純粋に二酸化炭素濃度の影響を調べたい場合は,そのような植物が適していると考えられる.また,もしエアプランツを使用した実験で長期的な光合成効率が二酸化炭素濃度に依存しないという結果になった場合は,土壌中のイオン以外の原因が指摘できる事になる.

A:鉢植え効果を回避するためにエアプランツを使う、というのは斬新なアイデアですね。ただ、エアプランツはCAM植物だと思いますから、大気中の二酸化炭素濃度の光合成への影響を調べるには、やや材料が特殊すぎるように思います。


Q:今回の講義では植物の作るいくつかの炭水化物の種類とその活用を学びましたが、自分はその中でも特に、葉の炭水化物量の時間変化が特に興味深かったです。一日の内12:00-13:00においてショ糖含有量、18:00-20:00においてでんぷん含有量のピークが現れるように、時間によって取り込まれた炭素の状態が変化していくということでした。これは、光合成の有無によって生成されたでんぷんやショ糖が別の炭水化物に変化していくためと考えられます。ここで自分は、これらの炭水化物の量が時間によって変化するならば、時間によって味の変化が現れるのか、ということを疑問に思いました。私たちが食べる植物の葉では、例としてキャベツやレタス、ブロッコリーなどが挙げられ、それぞれ時期によって味が異なることは知られていますが、収穫した時間によって味が変化するというのは、あまり聞いたことはありません。そこで自分は、葉における炭水化物の変化は極々微量なもので味としては変化が出ない、或は店頭に並ぶまでに味が変化してしまう、または、元々炭水化物の変化で味に影響は無い、等の理由を考えました。

A:確かにショ糖の含量が変化したら、味が変わってもおかしくはないはずです。面白いアイデアだと思います。ただ、最後、「理由を考えた」だけで終わらずに、何でもよいので、自分なりの論理を使って複数の理由の中から選択して一つの結論に結び付けた方がよいでしょう。


Q:今回の授業で植物のデンプンとショ糖の合成について学んだ。授業で示されたグラフによると、植物に光が当たると、CO2の吸収速度は急激に増加し、それと同時にショ糖の合成量も急激に増加する。その後、直線的に増加していたCO2の吸収速度はだんだんと減少し、それに伴いショ糖の合成量も減少していく。一方で、デンプンの合成量はショ糖の合成量の増加に遅れて増加していく。このようなグラフは植物の生存にとってどのような意味があるのかについて考えてみた。まず、CO2吸収速度とショ糖の合成速度を急激に上昇させることは、光が短時間しか当たらない環境において、少しでも多くのショ糖を短時間に合成できるため、有効であると考えられる。このような環境では、グルコースの合成にエネルギーを使うよりも、ショ糖だけを合成し、速やかに輸送することが重要だと思われる。一方で光が長時間十分に当たる環境では、後半にCO2の吸収速度が落ちたとしても、それまでには多くの量のショ糖が合成でき、デンプンの形で貯蔵することで、ショ糖合成だけよりも多くのエネルギーを蓄えることができるという利点がある。このように、植物のデンプンとショ糖の合成は、天候や日照など一定でない環境に植物が適応していくために必要な仕組だと考えた。

A:光合成産物の時間変化について、講義の中ではメカニズムの点から、どのような仕組みで変化するのかを説明しましたが、このレポートでは、そのような変化にどのような利点があるのかを考察したわけですね。面白い着眼点だと思います。


Q:高CO2環境における植物の光合成量は短期的にみると影響があるが、長期的にみると影響はそこまで大きくないため、CO2の固定量を増加させるには森林面積を増やすしかない。そのほかにCO2固定量を上げる手段はないのだろうか。植物のCO2固定量を増やすことができれば、地球温暖化にも大きな影響を与えることができるはずである。温暖化と植物の生育には大きな相関があることは明らかな事実であるが、これは相互的な影響であり、温暖化と共に植物の生育範囲は変化していくし、植物の生育範囲が変化するとともに温暖化に影響するCO2の吸収量は変化する。つまり端的に考えると、CO2吸収量の多い植物が生育しやすい環境が広く保たれることで温暖化は抑制される。しかし問題なのは温暖化と植物の生育の速度に顕著な差があることである。特に光合成量の多い樹木などは生育に非常に長い時間が必要である。適した場所に育ったはずの樹木が温暖化の影響で適切な環境ではなくなっているために起こるのが砂漠化などの現象なのではないだろうか。本来ならば環境に順応して、前述のとおりCO2吸収量の多い植物が生育しやすい環境が広く保たれることは可能であるはずである。今現在できることは植物のCO2固定量を上げることよりも温暖化の速度を遅めること以外にないと感じる。

A:途中で論理の軸が少し変化しているように思えますが、一番主張したい点は、植物が環境に応答する速度を超えて環境が変化したら破綻する、という点でしょうか。だとすると、出だしからその点を意識して書きだすと論点がはっきりすると思います。


Q:授業では、高二酸化炭素濃度下で短期的に光合成速度が高くなる一方、長期的には窒素やリンなどの栄養塩の不足から、光合成速度の上昇は難しいという考えが紹介されました。しかし本当に長期的には光合成速度は上昇しないのでしょうか。たとえば赤道付近の熱帯雨林であれば、栄養塩が光合成速度を制限することは大いにあり得ると思います。なぜなら熱帯雨林は植物の成長がはやく、それゆえ土壌に蓄積されているリターが他の地域に比べて少ないからです。しかし温帯、または冷帯の森林ではどうでしょうか。熱帯雨林に比べてリターが多く存在し、それゆえに栄養塩が多く土壌に存在している中ではそれらが制限要因とはなりにくいのではないでしょうか。これに加えて、二酸化炭素濃度が上昇すれば温室効果によって気温が上昇します。するといままで落葉広葉樹林が生育していた地域に、常緑広葉樹林が生育し始め、冬の間も光合成が可能になることで、土地面積あたりの光合成速度の平均値が上昇する可能性があります。つまり私が言いたいことは、授業で紹介されたような実験(タワーから二酸化炭素を大量に放出してある土地の変化を見る)ではそれが大規模であっても、結局は局所的な結果しか得られないのではないかということです。地球規模で光合成速度や空気中の成分の変化を見る場合、植生の変化や土壌の成分、そして気候変化などを考慮しなければならないのではないか、と感じました。

A:これは確かにその通りでしょうね。しかも、上のレポートで議論されているように、変動の速度がどの程度かによっても、結果は異なるでしょうから、さらに厄介です。どこかで、いわば「近似」を使って我慢しなければいけないのでしょう。


Q:植物、動物ともに呼吸基質としてグルコースが用いられる。講義では植物は糖の輸送はスクロースの状態で行い、スクロースが飽和した場合デンプンにして一時貯蔵すると学んだ。呼吸基質としてグルコールを用いるのだからグルコースのまま輸送する方が効率が良いのではないかと考えた。ヒトの場合は血液でグルコースを輸送する。ヒトと植物の二つで糖の輸送を比較して植物がスクロースを輸送に用いる理由を考察する。まず考えたのは糖の利用され方である。ヒトの場合は脳で血液中グルコースのおよそ1/2を消費している。脳の存在は植物と異なる点であり、脳で大量にグルコースが消費され、グルコース消費が早くなる場合があり、ヒトではグルコースを輸送に用いるのではないかと考えた。植物の場合は必要とされる等の量に変化が生じにくいため安定した状態であるスクロースにして輸送を行うのではないかと考えた。つまり、ヒトでは思考、運動により糖の消費の程度に幅があるため、基質であるグルコースのまま輸送を行い多量に糖が必要となる場合に対応できるようにしていて、植物の場合は安定した糖の供給を行うために反応性がグルコースより低いスクロースの状態で輸送を行うと考えられる。

A:講義の中では、グルコースよりスクロースの方が反応性が低いので、スクロースを転流の際に使うという説明をしましたが、では動物の場合はなぜグルコースを使うのかという点に着目したわけですね。きちんと考えていてよいと思います。


Q:今回の講義ではグルコースやセルロース、代謝、転流などついて学んだ。その中でも今回はセルロースとその代謝について考察したい。セルロースは植物の細胞壁などに使われている物質でありセルラーゼと呼ばれる酵素で分解される。カイコウオオソコエビと呼ばれる深海性のヨコエビは室温でセルロースをグルコースに分解できる酵素を持っているとのことである。しかもこの酵素は他のセルラーゼとは異なり単一でグルコースまで分解できるという。さらに、実験では紙などの加工されたセルロースもグルコースに転換することが確認されている。カイコウオオソコエビはセルロースなどの栄養源が乏しい海底において僅かのセルロースも無駄にしないようにこのような酵素を持ったものと思われる。これだけ高性能なセルラーゼがカイコウオオソコエビしか保有していないのだろう。また、セルラーゼを哺乳類で保有する種は見つかっていない。これは何故なのだろうか。大きな理由としてはセルロースが豊富な陸上では必要がないためカイコウオオソコエビのようなセルラーゼは進化しなかったのだと考えられる。この場合カイコウオオソコエビの持つセルラーゼは陸上の複数のセルラーゼを組み合わせた分解よりも豊富なセルロースがある条件下では何らかの欠点があるのだろう。例としては酵素が単一であるがゆえに反応速度が遅い、セルラーゼ自体のコストが高いなどである。特に後者の理由は哺乳類がセルラーゼを所有していないことの理由にもなりうる。セルラーゼのコストが高いならばわざわざ自身で作らずにセルラーゼを所有する菌を体内に共生させることに十分な利点がでる。

A:最後の部分、高性能のセルラーゼにも何かの欠点があるのだろう、という点にまで考えを及ぼしているところは素晴らしいと思います。なお、自分の言葉で表現しているので著作権法上は問題がないのですが、できたら「カイコウオオソコエビ」についての部分には、参考にした文献を挙げた方がよいでしょう。


Q:授業で成熟した葉ではオーキシンが作られ、若い葉に運ばれて細胞分裂が促進されるということを学んだ。そこで考えたのは、葉がある場合はオーキシンが作れれ、若い葉の成長を促進させるが、一番はじめの葉がない状態のときはどうしているのだろうということだ。これに対し2通りの説明を考えた。1つ目は種子にオーキシンが含まれていて成長を促進するということ。2つ目は成長因子がこれだけではないのだろうということだ。

A:面白い点に着目していてよいと思うのですが、もう少しあやが欲しいですね。2つの選択肢を挙げたのであれば、それに対して自分なりの論理で「こちらだろう」と結論してほしいところです。


Q:今回は授業で光合成産物の量が高くなると、光合成速度が低下することを習った。本レポートではここから考えを発展させた。そもそも、光合成のできる時間帯であるのに、光合成を行わないのは非常に効率が悪いと考えられる。その分、葉緑体が必要ないので、コストの大きい葉緑体を大量に葉に有する必要もないのではないか。しかし、この考えは環境条件が劣悪の時、その最低条件に必要不可欠な光合成産物を得られるように余分に葉緑体を有しているという仮定がたつ。環境条件が劣悪とは、例えば、日射量が少ない(曇りなど)ことなどがある。よって環境条件が悪いときは特に効率が悪いとは言えないことになる。では、環境条件が良いときは本当に効率が悪いのだろうか。ここで、我々学生を例に考えてみる。レポート課題(光合成)をやる時、集中してやるか、だらだら長時間やるかでどちらが効率が良いのだろうか。それはもちろん、集中してやるほうである。レポート課題の後、特にやることがなくても、睡眠時間は確保される。このように考えると、植物も光合成をさっさと必要量終わらせることが効率的なのではないだろうか。植物も’休む’時間が必要と考えられる。この仮説の真偽を調べるために、以下のような実験系を考えた。まず、植物には長時間光合成を行い続けさせるために、植物に影響がでないように、師管に光合成産物(スクロース)を吸い込む装置を取り付ける。このような条件で植物の光合成速度がどのようになるのか(二酸化炭素吸収量の測定)を調べる。また長期的な植物の健康状態がどのようになるのか調べることができる。もし、植物の健康状態に影響が出て、光合成速度が低下するならば、植物にも’休む’ことが重要であり、そのために余分に葉緑体を有しているということができる。

A:光合成のフィードバック制御に関する考察で、面白いと思います。できたら、人間との類推だけではなく、植物にとっての「休み」の意味まで考察できると完璧です。


Q:デンプンについての講義でアミロペクチンが取り上げられたが、α1-6結合を取るアミロペクチンはデンプンではグルコース25残基に1つ存在すると言われている。うるち米で25残基ごとに80%の確率でアミロペクチンのα1-6結合を取る。またもち米は100%でα1-6結合を持つ。さて、このように物質によって異なるアミロペクチンの量であるが、それらが何故異なるのかについて疑問がある。アミロースとは異なる性質に着目すると、水に溶けにくい、分子量が大きいなどが挙げられる。人間が糖を備蓄する場合においてはアミロペクチンを多く持ち、非還元部位末端を増やすことですぐにエネルギー回収が可能というメリットがあるが、うるち米ともち米は運動しない植物のためにすぐに栄養が必要と言う場面がなく、その作用は必要ない。うるち米は陸稲で栽培されることはない。逆にもち米は陸稲栽培だ。そこで苗が発育する際にもち米はアミロペクチンを持った状態がいいのではないかと考えた。陸稲栽培と言うことで雑草などが気になるので根を早く伸ばす必要があるのではないだろうか。他にも生育の速度を少しでも早くすることでメリットがあるかもしれない。そこでまず、生育の違いを測るためにうるち米ともち米をそれぞれ水稲と陸稲で生育の差を比べ、もち米が陸稲でより良く成長することが確認できるかどうか調べる。その後は遺伝子発現などに着目してアミロペクチンの構造の有用性を見ていく。

A:これは、お米のアミロースとアミロペクチンの含有量の違いを栽培環境の違いで説明するというアイデアで、非常に面白いと思います。水稲と陸稲を比較している部分も論理的で素晴らしいと思います。