植物生理学I 第12回講義

C4型とCAM型の光合成

第12回の講義では、サトウキビやトウモロコシに見られるC4型の光合成と、サボテンなどにみられるCAM型の光合成について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:クロロビウムの炭素同化から見る進化.本講義では,二酸化炭素の固定様式について学んだ.その中で,クロロビウムの嫌気呼吸は,基本的にクエン酸回路の逆回転であるという,興味深い事実を知った.原始地球の大気は,二酸化炭素濃度が非常に高く,酸素が乏しかった事が知られている.従って,嫌気呼吸を行う生物は好気呼吸を行う生物よりも先に誕生したと考えられている.つまり,クロロビウムの嫌気呼吸のサイクルがクエン酸回路に類似している事は,この仮説の一つの根拠となり得ると考えた.また以前講義中に,従属栄養と独立栄養の出現の順番について考えたが,この代謝の進化をたどる事も,生命の起源を知る一つのヒントとなり得るのではと考えた.

A:面白い点なので、もう少し具体的に議論できるとよいですね。「一つの根拠」「一つのヒント」といってしまうと、曖昧なままに終わってしまいます。類似しているから○○は××であると考える、といった積極的な議論が欲しいところです。


Q:今回講義で行った、環境によるC3植物とC4植物の存在比や、イネのC4化、CAM植物等の話題の中で、自分にとって一番興味深かったのは炭素原子の同位体比による縄文人の食生活の推測です。炭素原子の半減期から古代の遺跡等の年代を推測する方法は高校化学、あるいは高校数学の等比数列などで学ぶほど有名ですが、同様に炭素原子を用いてC3植物とC4植物の13Cの使用率や食物連鎖ピラミッドの各階における濃縮率の違いから食生活を推測できるというのは今回初めて知った方法で、とても新鮮に感じました。しかし同時に、貝塚や動物の骨など直接的な証拠による食生活の推測の方法も知っていたため、そのような既存の方法でも十分ではないかと感じました。そこで今回自分は、この方法によって古代人の食生活を知ることは、先ほど述べた貝塚など直接的な証拠と違ってどのような結果をもたらすかについて考察しました。 まず考えられる利点として、貝や骨等カルシウム化合物のような経年変化のしにくいものでなくとも推察できる、ということです。イノシシやシカなどの大型哺乳類、あるいはその他の食事の際骨まで食べない食物を食した場合、実際に現代に骨が残っていなくても、タンパク質から取り込んだ炭素同位体の割合がコラーゲンとして残るため、それらの食物を食べていたと推測することができる、と考えられます。次に考えられるものとして、食していた植物のC3とC4の違いが分かるということから、当時の生活環境、湿度や光度、を推し量ることができる、ということです。C3植物とC4植物は環境によってその存在比を変化させており、乾燥・強光な気候ではC4植物が、湿潤・弱光な気候ではC3植物が多く生息します。このことから、古代人の生活域における環境を直接的な証拠に比べてより詳細に推測することができ、現代との相違から環境変化等の調査に役立つと考えられます。

A:きちんと考えていると思います。論理がやや常識的ではありますが、この場合、しょうがないかな。


Q:今回はC3とC4の違いや、砂漠や木の又で生息するのに適したCAM植物の話が中心であった。植物はそれぞれの環境に適応して巧みに生きているということがわかった。そこでふと疑問に思ったのが、水中に生息している植物、藻類などは何故独自の光合成系を持たないのかということだ。乾燥に適応する植物がいるのならば、水中に適応して陸上と同じ光合成系ではなくより効率よい光合成系をもっていてもいいのではないかと考えた。水中が陸上と異なるのは、光が届きにくいということと、気体を水中から取り込まなければならないということ、乾燥の心配はないということだ。以上をどう解決しているのかをそれぞれ調べ考えてみた。まず光が届きにくいというのは、色素を変えることで解決していると以前の授業で学んだ。次に、水中から二酸化炭素をどう取り込むかです。水中の重炭酸イオンや炭酸イオンを吸収して光合成に使える形にしているようです。最後に、乾燥の心配はないので、その点はC3植物と共通するところです。よって、水中の植物はC3植物として生きていくことができると考えられる。

A:面白いポイントだと思います。環境要因の違いを複数取りあげて議論している点が評価できます。水中植物の特殊性についての考察は、植物生理IIで取り上げる予定です。


Q:今回の授業で、置かれた状況によってC3植物型光合成とCAM植物型光合成を選択して行うアイスプラントに興味を持った。海水と同等の塩濃度の水に浸すと、塩を塩嚢細胞に溜め込み、光合成への影響を最小限に抑えることのできる植物として紹介されていたが、ひとつ疑問に思ったことがある。それは、CAM型光合成は夜に気孔を開き二酸化炭素を吸収するのに対し、C3型光合成は昼に気孔を開く。もし、アイスプラントの周りの環境を人工的に昼に強光・湿潤条件、夜に無光・乾燥条件にしたら、昼はC3型、夜はCAM型の光合成を行うために気孔は開きっぱなしになり、蒸散により枯れてしまうのだろうか。この条件通りに実験を行った場合の結果として、アイスプラントは枯れずに成長すると私は考えた。アイスプラントは常にC3型を保ち、CAM型の光合成をしなくなると推測できる。昼に充分な水分を補給できるなら、夜にわざわざ気孔を開く必要もないし、わざわざC3型・CAM型両方の光合成を行う必要もないと思ったからである。

A:面白い考察ですね。ただし、目的論とメカニズムの議論をわけて考える必要があると思います。「わざわざ行なう必要がない」というのは目的論ですが、では気孔の開閉は、どの環境要因によって左右されているのか、というメカニズムについても考える必要があるでしょう。


Q:胡蝶蘭という樹の上の水たまりに生える植物が授業で出てきた。胡蝶蘭と聞いて思い浮かぶのは結構値の張る花で祝事なんかの時に贈る花で、私が引越しした時にも父の知り合いが送ってきました。授業の時は熱帯の樹の上の植生植物と花屋で売られてるのは違う物で同じ名前だろうと思ってましたが、同じものでした。そこで、熱帯の樹上で育つ花を花屋でも育てられるのかと思い調べて見た。CAM植物なので、夜はしっかり暗くして温度もある程度あればいいだろう程度で確認のつもりで見たのだが、熱帯に生息する植物だが暑さに弱く、日本の7月の温度だともうだめだそうだ。CAM植物はサボテンなど砂漠のような気候でも大丈夫だと思っていたが、これはCAM植物ではなく多肉植物の特徴であるらしい。熱帯の胡蝶蘭は高い樹上かつ日陰のためにそこそこ低い気温を維持してると考えられる。

A:「調べてみた」という時は、出典を書いてください。暑さに弱い、というのはやや疑問です。確かに直射日光には弱く、すぐに日焼けを引き起こしますが、気温が高いだけであれば、日本の暑さぐらいであれば耐えられると思います。


Q:授業でイネをC4植物にするという取り組みが紹介された。もし、これが実現されたとして、本当に米の収穫量が増えるのかどうかについて考えてみた。C3植物が弱光、湿潤な環境に適応しているのに対し、C4植物は強光、乾燥した乾燥に適している。このため、C4植物のイネが完成したとして、それが日本の気候に順応できるかが鍵になると思う。特に梅雨の時期には、降水が多く、光量が減るため、この時期の成長はC3植物のほうが優っていると考えられる。梅雨を経ても、C4植物のイネの収穫量がC3植物のものよりも多くなるのかが重要である。同じC4植物であるトウモロコシの名産地が梅雨がない北海道であったり、サトウキビの名産地が日差しがとても強い沖縄であることを考えると、C4植物のイネは、現在の米の収穫量がもっとも多い東北地方よりも、他の地域のほうが栽培に適している可能性は高い。そのため、C4植物のイネが完成したとしても、栽培時期や地域、栽培方法を検討していく必要があると考えられる。

A:光合成の速度は、環境要因と連動させて考えなくてはいけない、という点の議論ですね。よいと思います。


Q:クロロビウムなどの一部の嫌気条件下に生息する生き物の中には光合成による糖生産の回路がクエン酸回路をそのまま逆回転にしたような回路を使う物が存在する。しかしこのような回路を持つのは嫌気条件下の生物のみである。また、この回路の起源はルビスコより古いことも分かっている。何故この回路は好気条件下では退化してしまったのだろうか。まず考えられるのは酸素条件下ではクエン酸回路と同じ方向にも反応が進んでしまい二酸化炭素を固定できないということである。酵素のうち多くのものは逆反応も起こすためできないは言い過ぎでも二酸化炭素の固定効率が悪くなるということは十分考えられることであろう。また他の考えとしてはこの回路は嫌気条件下でも機能するがルビスコを用いた回路は嫌気条件下では機能しないというものがある。嫌気条件というものが大気条件で酸素を使わないということではなく大気と接触していないということを指すのであれば十分可能でいとしてはあり得るだろう。ではこれらを確かめるにはどのような実験系が考えられるだろうか。この回路を持つ生物を酸素暴露し回路に及び生産物に変化があるかどうかを確かめるという方法が考えられる。ただしこの方法は酸素暴露に耐えれる生物でないと試せないためあまり現実的ではないだろう。他の方法としてはこの回路に関係する酵素を取り出し酸素存在下と非存在下での働きの違いを調べるという方法が考えられる。またルビスコが嫌気条件下で働くか否かはそのような生物がいるかどうかを調査することによっても調べることができるだろう。

A:これは、還元的カルボン酸回路を持つ好気生物がなぜ見られないかという点に注目していて、そのメカニズムまで切りこんでいる点は評価できます。仮説もよいと思います。


Q:私は、今回の講義を受けて、C3植物をC4化する研究について考察しました。現在、C3植物であるイネの遺伝子組み換えによってC4植物と同様の光合成を行わせることで、光合成の効率を上げて収量を増やす試みがなされているということでした。しかしこれを実現するためには、イネの光合成回路の中にC4型光合成に必要な酵素の元になる遺伝子を複数組み込み、その全てを発現させることが必要とされています。ここで考えたいのは、酵素を全て発現させることができれば本当にC3植物はC4型光合成を行うのか?ということです。トウモロコシのようなC4植物は、C4型光合成を行う際、PEPによるCO2濃縮を葉肉細胞中、ルビスコによるカルビン・ベンソン回路を維管束鞘細胞で行います。つまり、PEPとルビスコは別の細胞に存在してそれぞれの回路を一通り回した後、最後の生成物をやり取りすることで反応を進めていると言えます。ここで、C3植物にC4型光合成を行うための酵素を全て発現させた組み換え体について考えると、CO2濃縮と、カルビン・ベンソン回路との生成物のやりとりを実現させるためには比較的近い細胞で酵素を発現させなければいけませんが、同じ細胞内にPEPとルビスコを存在させてしまうと、CO2親和性が高いPEPがCO2を独占し、カルビン・ベンソン回路が回らなくなることが予想されます。よって、C3植物のC4化には、酵素の発現だけではなく、CO2濃縮とカルビン・ベンソン回路を隔てる細胞壁を遺伝子組み換えなどの手法でつくる必要があると考えられます。

A:講義での説明がやや不足だったかもしれません。イネのC4化プロジェクトにおいては、維管束鞘細胞と葉肉細胞の空間的分化の代わりに、細胞質と葉緑体の空間的分化を使うところが味噌なのです。


Q:今回の講義ではC4植物について学んだ。C4細胞では葉肉細胞と維管束鞘細胞の二種類の細胞が分業を行っている。ここで同じ細胞内で異なる細胞小器官での分業はできないかについて、つまり細胞による分業ではなく細胞小器官による分業の可能性について考える。C4植物の細胞小器官は葉緑体であるが、この場合の細胞小器官とは、二酸化炭素とPEPの反応からオキサロ酢酸などを合成する回路をもつ細胞小器官とカルビンベンソン回路をもつ細胞小器官を仮定している。細胞による分業では葉肉細胞中の二酸化炭素濃度が低い状態であっても維管束鞘細胞中の二酸化炭素濃度をあげることで光合成をすることが可能であり、このことが耐乾性を強めている。しかし細胞小器官による分業の場合、同じ細胞内であるため二酸化炭素濃度を分離することが難しい。細胞小器官に脂質二重膜構造があったとしても二酸化炭素分子は通過してしまうため濃度差をつくることはできない。したがって耐乾性をもつ植物は、二酸化炭素濃度を分離するという点で、細胞小器官どうしの分業ではなく、C4植物のように細胞による分業がなされる必要がある。

A:これは、二酸化炭素の透過性から、C4植物化ができるかどうかを議論していて、面白いと思います。ただ、細胞膜も脂質二重膜ですから、オルガネラの膜と基本的な構造は同じです。二酸化炭素が、細胞膜なら通らずにオルガネラの膜なら通る、とする根拠がやや弱いように思います。


Q:乾燥強光の環境下ではC4植物、湿潤弱光の環境下ではC3植物、湿潤強光の環境下ではC4植物、乾燥弱光の環境下ではCAM植物が有利に育つことができると習った。CAM植物は夜に二酸化炭素を取り込んで、昼の間に夜の間に生産したリンゴ酸を使い光合成を行う。サボテンはCAM植物だと聞いたことがある。サボテンが生育している場所は砂漠、つまり乾燥強光環境下である。しかしCAM植物が主に生育しているのは乾燥弱光環境下である。つまり、CAM植物はそんなに光にあたる必要性がないのではないのかと考えられる。これは夜の間に蓄えることができるリンゴ酸の量が弱光分くらいしかないからではないだろうか。よって、砂漠に生息しているサボテンは強光下にあるがその光をすべては使えていないと考えられる。これを補うためにはリンゴ酸をより多く生産する必要があるため、内部組織が大きくなり、サボテンは太くなったと考えることができる。

A:講義では「CAM植物が主に生育しているのは乾燥弱光環境下である」とは言っていないと思いますが。これはどこからの知識でしょうか。サボテンが代表例とすると、弱光環境に生育、とする根拠がよくわかりませんでした。


Q:環境問題に砂漠化がある。CAM植物は光合成におけるCO2の取り込みの時間的な分化により砂漠での環境に適応してきた。授業ではイネのC4化を紹介していたが、砂漠化を食い止め、砂漠下での食料の調達に遺伝子改良による多種の植物のCAM化はできないだろうかと私は考えた。砂漠での植物の増加は温度の上昇を抑える働きもあるので良いのではないだろうか。昼に蒸散を抑えて夜にCO2の取り込みを行うので植物体内の水分量の維持には有意であるし、砂漠なので強光条件でもある。イネのC4化の遺伝子などは判明しているようなのでCAM化の遺伝子を特定することも時間はかからないだろう。問題点としては、倫理的な側面から遺伝子組換え植物をいくら砂漠下といえども植樹してしまっても良いのかという意見も出てきてしまうかもしれない。他の植物との生存競争に有利になりすぎると害にもなり得る。難しいことではあるが環境問題を取り扱う上で人間の遺伝子技術を用いる事は大きい利点を生むと考えられる。

A:これは、そもそも「多種の植物のCAM化」がなぜ必要なのか、という点が明確でありません。今あるCAM植物、例えばある種のサボテンが砂漠を覆い尽くせば、砂漠は砂漠でなくなるのであれば、何も遺伝子組み換えに頼る必要はありません。それではうまくいかない理由をきちんと考えないと実際上の解決策につながらないでしょう。


Q:C3とC4を行き来する植物、Eleocharis viviparaについて興味を持ったので、これについて考えみたい。水面下にある細胞はC3に、水面上にある細胞はC4となるが、これは何を契機として変化するのだろうか。まず考えられるのが乾燥を察知する方法である。C4になると乾燥に強くなることから、もともと水面下にあった細胞が水面上に出たときに、自身が乾燥しつつあることを察知してC3からC4へ細胞内を整えるのだ。しかし乾燥を少しでも防ぎたい植物にとって、乾燥そのものをシグナルにするよりは、乾燥し始めるより前にC3からC4に変わるほうが良いだろう。ならば次に考えられる機構として、吸収する光の波長が変わることによってC3からC4へ変化する可能性が挙げられる。水面下では水により吸収されて植物が利用できない波長の光も水面上に出れば植物は吸収できるようになる。この波長の変化を察知することで自身が水面上に出たことを認知し、細胞をC3からC4へ変化させるのだ。

A:これは、代謝系の切り替えのシグナルを考察していてユニークだと思います。このあたりの話は、植物生理学IIでやる予定です。


Q:今回の授業にてサボテンがCAM植物として有利な点としては乾燥気候に植生しているために砂漠の日較差を利用し、熱い日中は気孔を閉じることで水の蒸散を防ぎ、涼しい夜間に炭素固定を行なうことで蒸散を最低限にするというものであり非常に合理的であるなと納得できました。しかし胡蝶蘭がCAM植物である理由は樹上に生えるため乾燥しやすくなるからということですが、生息地が熱帯地域であると聞いてどこか授業中は納得ができませんでした。それは僕がたまたま地理が好きでケッペンの植生による気候区分が好きだったからだと思いますが、熱帯気候は降水量も多く日較差は気候の中でも特に小さい特徴があり、木が生い茂るジャングルの中ではさらに気温変化が小さくなることからサボテンのケースとは原因が異なるのではないかと疑問を持ちました。まず乾燥についてです。そもそも本気で乾燥に耐えたいならサボテンの如く葉を針にしたりと特殊な形状を持つべきでありますが、胡蝶蘭は特徴的なほうではありますがサボテンほどの乾燥に強そうなインパクトのある形状をしていません。そして樹上といえど熱帯気候のジャングルではスコールなどで湿度が100%近くになることが多く、あまり乾燥した環境ではないのではないかと思ったのです。そこで考えられるものとしては、熱帯気候は熱帯雨林気候、熱帯モンスーン気候、サバナ気候に分かれますが、後者の2つは雨季と乾季が存在するので乾季が存在し、これに備えるためであることが考えられました。次に日較差の小ささですが、日較差がおおきくなるケースは思いつきませんでしたが、恐らく夜間は多くの木々が呼吸を行い二酸化炭素を放出してるので、少しでも周りの空気の二酸化炭素濃度が高いときに炭素同化を行なうほうが効率が良くなるからではないかと思いました。または他の植物と異なる蒸散のタイミングによって虫が寄り付いたり付かなかったりするといった効果が期待できるのではないかと考えられました。

A:これは、面白いですね。日較差が小さい点など、僕が考えていなかった点まで丁寧に考察されています。もしかしたら、実際にそうなのかもしれません。


Q:CAM植物が生息する地域には高気温・乾燥という条件が必要であるということは講義で話された。これらのうちいずれかの条件が成立する時、日照時間がもう一つの条件として加わっているのではないだろうかと考えている。日照時間が必要以上に長い場合、周囲が乾燥する時間も長くなるために気孔を開けてCO2を取り込む時間が短くなる。そうして十分なCO2を取り込めない結果、長い日照時間を他の植物ほど有効に利用できない場合が出てくるはずである。逆に日照時間が必要以上に短い場合は、余分にCO2を取り込んでリンゴ酸に変換するためにエネルギーを浪費してしまう。つまり、昼または夜が極端に長い環境ではCAM型の光合成は不利になる可能性がある。日照時間は降水量、(黄砂といった)大気の汚れ、局所的な地形、緯度によって決まるが、CAM植物の生息域を考える上で緯度は地球規模の大きな要因となる。このように考えた結果、CAM植物は一定以上の高緯度地域には進化しづらいのではと考えた。

A:これも、日照時間とCAM植物という面白いテーマを考察していて独創的だと思います。ただ、ある程度の日照時間の変化には、例えば液胞の大きさを調節することによって対処できるかもしれませんね。


Q:本レポートではCAM植物が液胞にリンゴ酸を貯蔵する理由を考える。 細胞質基質から液胞へのリンゴ酸の移動は能動輸送によると考えられる。細胞質基質のほうがpHが高いので,リンゴ酸の溶解度は液胞よりも細胞質基質のほうが大きく,その差に逆らってリンゴ酸を運ばなければならない。では,エネルギーを使ってまで液胞にリンゴ酸を貯蔵する理由とは何だろうか。いま,細胞質基質にリンゴ酸を貯めた場合を考える。夜が明け光が当たるようになり光合成を再開すると,リンゴ酸は急速に消費され,すぐに枯渇してしまうと考えられる。そうなると気孔を開きCO2を吸収しなければならなくなるが,同時に水を失うことになる。一方,リンゴ酸を液胞など区切られた場所に一度貯蔵しておけば,光合成を再開するときにリンゴ酸の消費速度を調節する機構を介在させることができる。しかしここで,区切られた場所として,液胞ではなくともミトコンドリアや葉緑体を選んでもよいのではないかという疑問が生じる。リンゴ酸の輸送に関して液胞,ミトコンドリアおよび葉緑体,この両者の違いとして脂質の膜の数の違いがある。前者は一重,後者は二重であり,後者のほうが輸送距離が長く,より大きなエネルギーが必要となる。加えて,ミトコンドリアではリンゴ酸はクエン酸回路に含まれるので,呼吸で消費され貯蔵することができない。そして何より,液胞は細胞内に占める体積が大きいので輸送距離を小さくすることができる。以上の理由から,CAM植物はリンゴ酸を液胞に貯蔵するのだと推定される。

A:これも、面白い点に着目していて、しかも独創的です。あと、液胞は、普通の植物においてもpHが低いという点もあるように思います。葉緑体やミトコンドリアが酸性化すると、ちょっと厄介でしょう。