植物生理学I 第5回講義

光合成色素

第5回の講義では、先週に引き続いて光合成色素について解説したのち、紅葉や斑入りの葉について光合成の側面から考えてみました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義で紫キャベツのいつも食している部分が全く光合成をしていないという事実に大変驚いたので、今回は紫キャベツの光合成に関連した考察をしたいと思います。まず第一に私が思ったのは、普通のキャベツと紫キャベツは光合成で得ることができる産物が普通のキャベツのほうが多いという点で普通のキャベツのほうが生存が優位であることは容易に想像できる。ではなぜ紫キャベツは競争において不利であるはずなのに紫の部分が形質に現れるのであろうか。これだけ不利ならこの形質は絶滅してもおかしくないはずである。絶滅しない理由として私が考えるのは単においしいから人間がその技術力で紫の形質を残しているからである。この場合外の環境に対していくら紫キャベツが弱いとはいえその形質は人間の手によって残されることになる。形質の保存にはこのような戦略もあることに感心した。

A:栽培植物の形質については、人為的な選択が大きな影響を与えているのではないか、という考察はよいと思います。ただ、その他の可能性がないかどうかを少しでも考察できるとよいですね。


Q:今回の授業では光合成を行うのはクロロフィルが存在するところであり、クロロフィルが存在するところであるならば茎でも果実の部分でも光合成が行われることを学んだ。これはコリウスなどの葉の部分によって緑色であったり、紫色であったりする場所があっても一様に光合成を行っていることから推測できるが、紫キャベツに関しては、緑のキャベツと比べ明らかに光合成を行っている量が少ない。これは紫キャベツの中にクロロフィルが存在していないことを意味している。もちろん外部の開いた葉の部分にはクロロフィルがありそこで光合成を行っているが、なぜ中心の部分にはクロロフィルが存在していないのだろうか。もともとキャベツは栽培植物であるので、人間が食べやすいように内部に葉が密集するように成長している。もともと葉を通すことによって光を吸収するので何重にも葉を重ねても一番外層の葉で光を吸収し、内部に光のエネルギーは届かないことが考えられる、なので外層以外の葉にクロロフィルを含む必要性がなくなる。また、一番外層の葉について光の当たる部分は葉の裏側になってしまう。なのでその外層の葉を開き葉の表の部分に光をあて光合成させる方が効率が良いのではないか。なので紫キャベツの中心部(光に葉の裏の部分が向いている)にクロロフィルをもたないつくりになっているのだと思う。これはキャベツについても中心部のクロロフィル量を測定し、外部よりもすくなくなっていれば、この仮説が紫キャベツの中心部がクロロフィルをもたない一因として考えることもできるのではないかと思う。

A:よく考えていると思います。ただ、今度はその場合、キャベツでは結球した中心部分もクロロフィルを持っているのはなぜか、という疑問がわくように思います。


Q:今回の授業でふれたユキノシタは斑入りのものが観賞用として有名である。斑の部分には葉緑体が無く、光合成が出来ないため生存競争においては不利となり、実際ウイルス等の影響で葉に斑ができてしまうこともある。しかしこのユキノシタはその生存に不利な斑を遺伝的に受け継いで今日まで存在してきたという。以前、牧野記念庭園に観察に行った時ユキノシタ科のフイリガクアジサイというユキノシタ同様に斑入りの葉を持つ植物の写真を撮ったが、その写真を見返してみると確かに全ての葉にほとんど同じ模様で斑が入っていた。ウイルスであれば全ての葉が感染していたとしても同じ模様になる事はほぼありえないため、その斑が遺伝的なものであるという確証をつかめた。つまり、ユキノシタには斑入りの葉をつけなければならない理由があると考えられる。まず、斑入りであることにメリットを見出す場合だが、これは正直人間に保護してもらえるということ以外には思いつかないが、自然界に共存、共生というものがあるように人間とユキノシタは一種の相互共生の関係にあるのではないかと考えられる。次に、何らかの理由があって仕方なく斑入りである場合だが、この場合は染色体の問題であると考えるのが最も有力であると考えられる。例としては、ユキノシタには致死遺伝子が存在し、斑に関する遺伝子が染色体の位置関係上生存する個体には必ず発現してしまうというのがあげられる。しかし、ユキノシタは栄養状態等が悪くなると斑の無い通常の葉を出すのでこの考えは否定される。古くから観賞用として親しまれてきたということはその進化の過程に人間が関わり、時には品種改良等をしてきたはずである。以上のことからユキノシタに斑入りの葉が存在するのは人間と共生関係であると考えるのが妥当である。

A:これも人間が選択しているからという論理ですね。他の可能性についても考慮した上で議論しているので非常によいと思います。


Q:植物というのは一見葉だけ光合成をしているように思われがちだがクロロフィルが存在するすべての器官で光合成を行っていることを今回の授業で学んだ。ではどのような植物が茎や実で光合成を行っているのか考えてみた。真っ先に思い浮かんだのはサボテンである。サボテンの葉は大半が退化している、もしくは棘となって残っており、光合成を行っている丸い部分は茎なのである。サボテンはその暑く、乾燥した環境下から水分の消費を抑えるためできるだけ表面積を少なくしている。そのため突出している部分(葉)を退化させ肥大化できる茎を中心とし光合成を行っている、また強光条件で生育しているため薄い葉での光合成は紫外線照射によるDNA損傷のリスクが高すぎるため厚く頑丈な茎で光合成を行っていると考えられる。このように植物はそのおかれる環境によって各器官に存在するクロロフィル量が異なり環境に適応していると考えられる。

A:よく考えているとは思いますが、現状の説明になってしまうと、その妥当性を判断することができません。例えば、DNA損傷のリスクが一つの要因として挙げられていますが、この部分などは他の要因によっても説明できるでしょう。できたら、何らかの形で、それ以外の可能性について考慮し、それと比較することによって結論を導くと完璧なレポートになります。


Q:今回の授業で紅葉と光合成について学んだので、家の庭にあるモミジについてレポートを書くことにする。私の家の庭にあるモミジは春にもかかわらず赤い葉をつけている。調べたところ、ノムラモミジという種であるようだ。過去の写真を用いてこの葉の色を観察したところ、暗赤色(春)→ 赤い色が薄れ、ほぼ緑色(夏)→ 鮮やかな赤色(秋)のように変化することが分かった。ノムラモミジが春に赤い葉(紅葉の際と同様に、この状態の葉にはアントシアニンが含まれていると考えられる。また、暗赤色であることから、クロロフィルも含まれていると考えられる。)をつけることは主に2つの意味があると考えられる。1つは害虫から身を守るためであり、赤い葉は葉を食べにくるガの幼虫などに対して栄養分(葉緑体)の無いように見せかけられると考えられる。もう1つは夏に十分光合成ができるよう、葉の環境が整うまで太陽光から葉を守るためであると考えられる。モミジは冬に落葉するため、春先は全ての葉が「若葉」である。若葉は太陽光によって葉内に生じる活性酸素の代謝系など、葉を守るのに必要なシステムが完全には確立されていないはずである。そのため、葉が成熟するまではアントシアニンを合成して太陽光のうち青~緑の光を吸収することで葉緑体に強光が当たるのを防いでいると考えられる。ノムラモミジの葉が夏に緑色になるのは、害虫の産卵シーズンが終了し、葉が成熟したため葉緑体に太陽光が積極的に当たるようにし、光合成を活発に行うためと考えれば、上記の2つの理由が裏付けられる。

A:これもきちんと考えられていてよいのですが、2つの意味が、2つとも重要なのか、それともどちらか1つの要因が主に効いているのか、といった部分が議論できると本当はよいですね。考えただけでは答えは出ないと思いますが、それを見分ける実験系を考えることは可能だと思います。


Q:捕食されないよう擬態するならばアントシアニンを多く持っていると見せかけたほうがいいのではないかと考えられる。アントシアニンが多い、つまりクロロフィル(栄養)が少ないと捕食者が考え、捕食しにくくなると考えられるからである。ただしアントシアニンとクロロフィルが共存しているものもあるので、クロロフィルを絶対に持っていないような色で芽吹き、葉が丈夫になったときに徐々にクロロフィルを増やせていかなければ捕食されてしまうと考えられる。生垣によく利用されている植物が新芽は赤く、徐々に緑になっていっている。この植物は椿などとは異なる、先に述べたような新芽防衛戦略をとっているのではないだろうか。芽吹いた直後、芽吹きより少し時間がたった葉、芽吹いてからかなり時間がたった葉を採取し(時間に関しては葉の色を考慮する)、クロロフィル量とアントシアニン量を比較する実験を行えば生垣に要される植物がどのような状態で芽吹き、どのような過程を辿っていくかがわかる。さらにその3枚の被食頻度を調べることで内容物の違いにどのような意味があるかがわかると考えられる。

A:実験も考慮されていてよいと思います。できたら、自分が考えている通りだったら、どのような実験結果になるはずだ、という点を明確にすると、考察の部分と実験の部分の結びつきが明確になるでしょう。


Q:アカカタバミの写真を見て、光合成=葉という認識を覆され、仮茎や実でも光合成を行っている事に関心を持った。葉の場合は光合成をしやすい環境を作るため光を吸収しやすくする構造を持つ。では、仮茎や実が光合成色素を持つ意味とは何なのかを考察する。考えられるのは、光が当たりにくい環境下で生育しながらも葉が小さい植物が、少しでも多く光を吸収するために仮茎や実など、光合成に特化した構造を持っていない部分にも光合成色素を持つようになったということである。葉の部分で十分にグルコースなどの栄養分を作ることが出来ないため、他の部分で補う措置をとったと推測される。仮茎や実は、葉と異なり表/裏の区別を付ける構造を持たない。仮茎の場合は外側の細胞構造を、葉の柵状組織のようにすることで光を吸収しやすくすることが可能である。一方で、問題は実である。実とは敢えて外部の動物たちに食べられることで種子を遠くに運んでもらい、生活範囲を広げていくという植物にとっては外部に切り取られていくことを目的とする部分である。わざわざ切り取られるであろう部分に光合成色素を用意し、光合成を行う理由は何なのだろうか。カタバミは大きな葉も丈夫な構造も持たず、一見するとすぐに枯れてしまいそうな植物である。しかし実際には次々と繁殖していき、多少の悪環境下でも生活していく事が可能な植物でもある。このことから、わざと実にも光合成色素を置き、虫たちが餌として認識し近寄るように仕向けているのではないかと推測される。ツバキなどの寿命が長い植物と対比的に、繁殖していくことを重点化した結果、仮茎や実にも光合成色素が分布するようになった可能性が考えられる。

A:よく考えられています。ただ、全ての実が動物に食べられることを前提としているわけではありません。また、食べられることを前提とした実の場合も、熟して食べやすくなるころには色が緑から赤などに変化する例はよく見られます。トマトなど典型的ですよね。そのあたりについても考えるとよいと思います。


Q:5/15の講義で斑入りの葉について学習した。私はこの斑入りの葉について考察してみた。斑入りの葉を持つ植物は私自身も、日常生活で見かけたことがあるが、斑が模様の様になっている植物が多いということと、その模様が周りが斑で中心部が緑色の葉が多いということに気付いた。斑は光合成能を持っていない。ということは、植物にとっては光合成のできる面積を減らしていることであり、デメリットである。しかし、斑入りの葉が模様の様になっているということは、遺伝であり、何らかのメリットがあると考えられる。これは、昆虫(アオムシなど)によって葉が食べられる時、昆虫は葉を周りから食べる。周りが光合成能を持たない斑であれば食べられた後に、食べられる前と同じ面積で光合成をすることが出来る可能性が高くなる。虫食いという言葉通り、葉全てが食べられる場合は極めて少ない。ゆえに、葉の周りを斑にするということは昆虫に食べられても光合成量を変わらなくするためだと考察した。

A:これはユニークな発想ですね。要は傷がついてもよい車のバンパーのような感じでしょうか。葉の周囲が白くなっている場合が多いのは確かで、これには発生的な理由もあるようです。しかし、人にはない独自な発想は研究にとって非常に重要です。


Q:通常のキャベツは葉緑体を持つが、紫キャベツの紫の葉には葉緑体が無いということが紹介された。このことについて考えられることを記す。我々がよく目にするキャベツは結球の状態である。春になると、結球が開き、茎が伸びて花を咲かせ種子を残す。この時、通常の緑のキャベツで考えられる利点は、葉緑体が葉の全体にあるため、効率的に光合成を行い種子作りを行うことができることである。この点、紫キャベツは結球が開いたあとは葉に葉緑体が無いため、葉緑体を作りつつ種子作りを行うことになる。生殖に集中出来ない分生き残りには不利である。逆に有利な点としては、成長過程でタンパク質である葉緑体を作成するエネルギーを要しないことと、昆虫の食害を受ける確率が低いことがある。どちらにしろ、現在食用にするキャベツは人間による品種改良の結果生まれたものであり、自然淘汰による結果生まれてきたものでは無い。キャベツの結球というのはあきらかに生存に不利な形態で、紫キャベツと通常のキャベツも自然界では生存していくことは難しいであろう。

A:上の方に載せたレポートでも紫キャベツについての考察がありましたが、これは、花をつけるところまでの時間経過まで考察しているところが評価できます。生き物は常に成長・変化しているので、ある一定時点における形質だけで議論してしまうと間違えてしまうことがよくありますから、なるべくこのレポートのように生育ステージにわたって考える習慣をつけるとよいでしょう。


Q:今回の授業では、緑色ではない葉を持つ植物も光合成色素を含んでいて、光合成を行っていることを学んだ。例として挙げられた植物の中で、ビヨウヤナギの色素について興味を持ったので考察した。紅葉する植物の葉には光合成色素と赤い色素が含まれており、夏ごろまでは緑色に見えるが、紅葉の時期になるとクロロフィルが分解されるために、葉は残った色素の色に見える。つまり、光合成色素は途中で分解するが、赤い色素であるアントシアニンは持ったままという事になる。これの理由をいくつか考えた。一つめは、アントシアニンが生命活動維持などに重要な色素だった、という可能性が挙げられる。つまり、大切で分解されない物質がたまたま赤い色素だった、という可能性である。二つめには、花のように赤い色で動物を引き付けるために、積極的に赤い色素を合成している、ということが考えられる。三つめには、クロロフィルとは違ってアントシアニンを分解するメリットがないために、合成された色素を分解しないということも考えられる。では、これら三つのうちどれが正しいかを考える。まず、秋頃に紅葉するので、繁殖期とは被っておらず、木が動物を引き寄せるメリットは無いであろう。そこで二つめの考えは却下する。一つめと三つめのどちらの仮説が正しいか判断するには、葉のアントシアニンの生成速度を調べると良いと考えられる。もしアントシアニンが積極的に合成されていた場合は、重要な物質が赤い色素であったという一つめの仮説がより強く支持できる。反対にアントシアニンがそれほど積極的に合成されていなかった場合、生成された色素を分解してエネルギーを使うメリットよりも、残してエネルギーを温存しておくメリットの方が大きかったために分解されなかった、という三つめの仮説の方が強く支持できる。

A:論理構成はよいと思います。ただ、講義で述べたように、紅葉の際には一般的に葉がまず緑から濁ったような赤になり、それからきれいな赤になります。これは、緑色の色素の上に赤い色素が新規に合成され、そのあとに緑色の色素が分解されていることを示唆しています。したがって、もともと赤い色素が含まれている、というのは誤解です。カロテノイドは緑の葉にもたくさん含まれていますから、黄葉の場合は、もともと黄色い色素が含まれているのは確かです。


Q:今回の講義では様々な植物の色と光合成の関連について学習した。その中でも特に興味深かったのはキャベツと紫キャベツでは光合成をしている部分が少し異なるということである。キャベツは店頭に売られている食べる部分の葉は緑色でクロロフィルを持っているため光合成を行っている。しかし紫キャベツの場合は食べる部分は緑色ではなく、持っている色素はアントシアニンであるため光合成をしていない。ではなぜ、このような違いが生まれたのだろうか。そもそもなぜキャベツはわざわざ結球して光合成に不利な形態をしているのかということから考えてみた。キャベツは結球するまではタンポポのようにロゼットの形態をとって茎が成長しない状態で葉全体を太陽に向けて光合成を行っている。複数の葉がある程度成長してきたところで、よく見る球形の形になっていく。球形になれば内側に入り込んでしまった葉は光合成をしづらくなるだろう。それでもキャベツが成長していけるのは、ロゼットの形態をとっていた時に得た光合成産物を蓄える機構があって、それを使うことで減少した光合成量をまかなっているからだと考えた。また、結球することで外界にさらされる葉が少なくるので、昆虫などに食べられるリスクも減らすことができる。ここで、紫キャベツは普通のキャベツよりも光合成量が少ないはずであるが、先に示したような光合成産物を蓄える機構がキャベツよりも発達しているために生育を可能にしていると考えられる。結球した普通のキャベツと紫キャベツの様々な組織の断片に存在する光合成産物量を定量すれば、この仮説が正しいかどうか判断することができる。
参考文献 http://cabbage-field.com/ryutu/sodateru.html キャベツ畑 キャベツの育て方 2012/5/18 アクセス

A:これも生育ステージをおって考えているところが評価できます。キャベツの結球部位は、栄養貯蔵器官としての意味があるという結論なのでしょうね。非常に面白いと思います。ただ、キャベツと紫キャベツが異なる戦略を取らなくてはならない理由がもう一息わかりませんでした。