植物生理学I 第7回講義

光の吸収(続き)

第7回の講義では、先週に引き続き、植物が光のエネルギーを吸収する過程と光合成色素について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義で気になった点が1つあります。それは「若葉はなぜ目に眩しいか」です。草は使い捨て、木は1~2年程使うため投資をして頑丈な葉を作ると講義で伺いましたが、それだけではないと考えております。春、樹木が若葉を咲かす頃、植物を囲む環境は昨年とは多少なりとも変化しています。植物は毎年成長していくために最も日光の当たる空間を探す必要があります。そのためには多くの若葉を咲かし、調査を行います。また多量の若葉を咲かせるため、葉1枚当たりにおける葉緑体数は少なくし、日光の当たらない葉は自然選択的に落葉していかなければなりません。以上の工程の中で生き残った葉は確実に日光の当たる空間に存在しているため、植物は日照時間の長い夏に向けて葉緑体を増やしていくのだと思います。これも答えの一つとなりうるでしょうか。

A:なるほど。これは面白い視点ですね。しかも、これなら実験で実証可能です。夏にかけて若い木の葉が、一部は色が濃くなり、一部は枯れていくようだったら予想したようなことが起こっているのでしょう。一方で、すべての葉の色が濃くなっていく場合には、「調査」説は分が悪いかもしれません。


Q:ユキノシタのふ入り:通常、ふ入りは葉緑体が存在しないことによっておこるが、ユキノシタのふ入りは表皮と柵状組織の間に空気の層を作ることによっておこる。しかし、植物にとって葉緑体を作るのはたくさんのエネルギーを必要とするので、光合成に使われない葉緑体を作ることは生存するうえで不利な条件である。ではなぜユキノシタはこのようなふ入り様式をとるのだろうか。
仮説1:食害の有無:ユキノシタは通常はふ入りのない葉のみを生産するが、一つの葉に食害が生じた場合、他の葉の表皮と柵状組織の間に空気を入れることでふ入りを作る。この考え方だと、ユキノシタは食害の有無に応じて最も光合成量の高い状態を保てる。この仮説の前提はユキノシタにふ入りの生じていない状態が存在することである。この仮説を証明するためには条件を同じにしたふ入り無しのユキノシタを何株か用意し、食害の葉の有無、また枚数とふ入りの頻度を調べる。これらに有意な相関関係が見られれば、仮説は証明される。
仮説2:栄養状態:ユキノシタは通常ふ入りが生じているが、栄養状態が悪くなると表皮と柵状組織の間の空気を抜き、もっとも光合成量が多い状態にする。この仮説を証明するには、栄養状態に異なるユキノシタを何株か用意し、その個体ごとのふ入り面積の変化の割合を測定する。栄養状態と変化率に有意な相関関係が見られれば仮説は証明される。

A:なるほど、どちらも、あとから斑入りをぱっと作る、もしくは斑入りをなくす、という動的な変化をしようとするということですね。面白いと思います。ユキノシタの斑入りは確かになくなることもあるようですが、一枚の葉で変化するかどうかまでは知りません。


Q:樹木は、葉の構造の充実に於いて時間差をつけている。授業では食害の被害の軽減、古い葉にも光が行くようになどの理由が上げられたが、ここで葉は季節により葉緑体の数を調整していると仮定する。例えば、春になると冬に比べ日光の照射時間が増える。そのため植物は養分を光合成によって得るために新しい葉を作る。ところが、春の早い時期はそれほど気温は高くないので、夏に比べて光合成活性は低い。葉は気温や日光の照射時間の増加に合わせて葉緑体を充実させていく。そして落葉樹であれば秋に葉緑体などを葉から茎に移動させた上で落葉する。つまり夏に合わせて光合成能力を最大にしている。私は、葉緑体の元々の意義である光合成を考えると、葉の構造の時間差について食害の軽減も重要な理由ではあるが、こちらの理由の方がプライオリティが高く、その結果として食害が軽減できていると推測する。

A:


Q:今回の授業では葉の色が緑だけでない植物について紹介があった。その中でも、葉が赤色に見えるアカカタバミなどに含まれるアントシアニンの存在が気になった。アントシアニンは私たちにとっては目にいいとか、ガン予防になる抗酸化作用があるとかの効能があることで知っていたが、植物にとってはどんな利点があるのだろうか。光合成の面から考えると、葉の表皮の柵状組織の上にアントシアニンがあることは、光合成に必要な光を妨げる要因となり、不利に働くのではないかと考えられるが、もしかすると、強光による光合成阻害を回避しているのかもしれないと考えた。クローバーに似た形態をしたアカカタバミなので、同じように日当たりのよい所に生息しているとすればその効果があるかもしれない。また、野生の生物の一部は赤を危険物と判断すると聞いたことがあるので、赤い色をすることによって害虫から食べられるのを防ぐ意味もあるのかもしれないと思った。

A:野生の動物が赤を危険信号と判断するからというのは斬新なアイデアですね。ただ、講義の中で紹介したように、きれいな赤になるのはクロロフィルがなくなって光合成をしなくなった葉で、光合成をする葉は、アントシアンを作っても濁った汚い色になります。


Q:植物に含まれる光合成色素について、標高の差による色素の変化についてみていく。植物を落葉広葉樹をみていく。低地に生えるコナラやクヌギと高地に生えるミズナラやシラカバなどは葉の色の具合は似ているがその生える環境は全くと言ってことなる。そこで、気になったのだが、高地で低地に比べ気圧が低く紫外線も受けやすい。このような過酷な環境の中で、高地の広葉樹と低地の広葉樹では葉に含まれる光合成色素量はどの程度異なるだのだろうか。厳しい環境下では、効率的に光合成をしなくてはならないが、二酸化炭素濃度が低く、また紫外線も受けやすいために色素が破壊されやすく多く必要とされ、低地に比べ光合成色素の量の生産が多いのではないかと考えられる。これを確かめるためには、近縁の植物で高山と低山に生息している植物の葉同士で一定面積辺りの光合成色素数と、年間をとおして葉の光合成色素数がどのように変化するか調べることでわかってくるのではないかと考えられる。

A:標高の差によって紫外線の強度などが違うだろうという点に目をつけたのはなかなか良いのではないかと思います。実験系も考えられているので合格点ですが、せっかく、コナラ、クヌギ、ミズナラなどといった具体的な植物名を挙げているのですから、そのあたりと絡めてもう少し議論を展開できると完璧でしたね。


Q:講義の中でキャベツの普段食べている部分では光合成を行っているが、紫キャベツの同じ部分では光合成を行っていないということを学んだ。そこで単純に考えると、キャベツと紫キャベツの光合成量はキャベツの方が明らかに大きくなることが考えられる。しかし当たり前であるが紫キャベツも普通のキャベツ同様、生命活動を維持している。そこで紫キャベツはどのようにして普通のキャベツ同様の代謝量を得ているのかについて考察する。まずひとつに考えられることとして、キャベツの普段食べている部分の光合成量が少ないため、そこの光合成が無くなったとしても大きな差が生じないということが考えられる。普段食べる部分は実際には葉が何重にも重なり合い、球形を取っている。これは葉の表面積に対して圧倒的に不利な光合成効率を示すことが考えられる。そのため実際に葉から光合成として得ている代謝量はキャベツの方が若干上回る程度であり、紫キャベツの生存には影響を与えないことが考えられる。またキャベツと紫キャベツの形態を調べることで問題が明らかになることも考えられる。しかしキャベツと紫キャベツの形態差に関して有用な情報が得られなかったため、ここでは実験系を提案するにとどめる。光合成をまかなう下の葉の表面積に対するそれぞれのキャベツの全体の大きさ(体積など)の比を算出する。もし2つが同じ程度の比を示すようであれば、それはそれぞれにとって自身に必要な代謝量をまかなえていると考えられ、紫キャベツの方が生存に不利であるということは考えられにくくなると言える。

A:前者のキャベツ自体があまり効率的に光合成をしていない、という考え方の方がありそうですね。その際に、考えてほしいのは、なぜそもそもキャベツはそのような形をしているのか、という点です。「栽培植物」としての性質は野生植物とは当然違ってもよい点に注目してほしいところです。


Q:授業にてムラサキキャベツが光合成を行うのは外郭の緑葉のみであり、内部の紫色葉は光合成を行わない、という点から目に見える色彩と光合成の関連に興味を持った。植物体において色彩豊かな部位というと果実が思い出される。調べてみると、緑色果実のキウイやメロンには葉緑体が存在し緑色はクロロヒィルによるものであることがわかった。そこで、緑色果実に含まれる色素の光合成能を考える。ピーマン表皮や植物の茎存在のものが光合成能を持つことから、「葉」以外に存在する葉緑体が光合成能を持つことは充分あると考える。しかし果皮に包まれ厚い果肉中に存在する葉緑体に光が届くとは考え辛い。他果実の色素は紫外線から種子を守るはたらきを持つと考えられていることから、緑色色素も光合成作用とは関連なく色素としてのはたらきが有利に機能した種に遺伝子が残されたのではないかと考えられる。また、キュウリやピーマンといった緑色果皮を持つものがその内側に向かって白くなるのと対照的に、緑色果肉は色が均一であることから葉緑体の分布が光に左右されないと考えられる。このことからも光合成の作用とは関連なく葉緑体が存在していることが読み取れる。

A:よく考えていると思います。ただ、クロロフィルは光を吸収すると励起状態になり、そのエネルギーが光合成に使われない場合は、生体に害を与える可能性があります。その点が、アントシアンやフラボノイドなどとは異なる点です。遊離のクロロフィルは植物にとっても毒なので、クロロフィルの合成は厳密に制御されています。そのうえで、クロロフィルを使うには、やはりもう少し積極的な意味があるような気がします。