植物生理学I 第3回講義

光合成と生命(続き)

第3回の講義では、最初の生命のエネルギー獲得形式や、地球環境と光合成の関わりなど、幅広く解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:生物のエネルギー獲得様式について、授業では従属栄養、独立栄養光合成、独立栄養化学合成の3つが挙げられた。どの様式が最初に生まれたかという確証はない。そこで、考察してみる。まず、従属栄養である。原始的な生命が生まれる瞬間を考えたとき、その生物が従属栄養生物であったとは考えにくい。生まれたその場に栄養となる他の生物が存在しているとは限らないし、共食いするという線も薄い。よって、どちらの独立栄養生物かという議論になる。ところで、生物は海底火山付近で誕生したとされている。水と有機物と、それらを反応させる熱エネルギーが豊富であったからである。その説をとるならば、最初に誕生した生物は化学合成生物であったと考えられる。化学合成生物は炭素源として二酸化炭素を利用するという点では光合成生物と変わらないが、エネルギーとしては光ではなく硫化水素やアンモニア、2価鉄イオンを利用する。まさに適した環境である。仮に光合成生物が生まれたとすると、彼らは光をエネルギーとして利用する。ただそこにある無機物を利用するより、光エネルギーを自身の利用するエネルギーの形に変換することは、より高度なタンパク質構造をもつと考えられる。高次なタンパク質構造が生まれた後に低次なタンパク質構造が生まれるとは考えにくい。よって、私は独立栄養化学生物が最初に出現したと考える。ただし、海底火山付近が生物の最初に生まれた場所だという仮説成り立たなければ、事実が違ってくる可能性も考えられる。
【参考文献】『キャンベル生物学』Neil A.campbell Jane B.Reece著 小林興監訳 丸善株式会社

A:最初に従属栄養生物が除外されていますが、有機物自体は、長い年月の間には放電などによって無機的にも作られると考えられています。講義でも触れましたが、無機物からエネルギーを取り出す仕組みがあれば、無機物から有機物が作れますが、それでもその仕組み自体は有機物からなっているので、最初に何らかの有機物が必要であることは独立栄養生物でも変わりません。


Q:今回は考察として、光合成で空気中の酸素濃度が増えた原因が、糖がサイクルからはずれた事以外に可能性は無いのかを探ってみる。というのもこれは個人的な考えであるが、上述したのは酸素濃度が増えた原因であり、二酸化炭素濃度が減った理由にはなっていないと思ったからである。一つ考えられるのが、酸素が海中の鉄イオンと反応し鉄鉱石となったように、二酸化炭素も海中で反応し違う物となったということである。そのような反応物として、まず真っ先に思いつくものは炭酸カルシウムである。水中でも不溶の炭酸カルシウムは二酸化炭素がサイクルから消えて行く理由を説明出来る。更に二酸化酸素は酸素と違い、水中では炭酸イオンとなり塩基性イオンと非常に反応しやすい。酸素が鉄鉱石の一部となるよりも、圧倒的に海中物質の一部となりやすいと考えられる。このような事象も、結果として大気中の酸素濃度の向上に貢献した形になった可能性は十分にあると言えよう。

A:地球の歴史に関しては、時間があったら話しますが、確かに海洋が生じたことは大気中の二酸化炭素濃度の減少に大きく寄与したようです。


Q:今回の講義ではさまざまな先生のお話に好奇心を抱きましたが、今回のレポートでは生命の起源・生物のエネルギー獲得様式について述べたいと思います。 個人的な見解では、地球上に誕生した初の生物は独立栄養化学合成を行う生物だと考えます。なぜならば原始地球では二酸化炭素や硫化化合物、水素、アンモニアなどの無機物から構成されており、大気中には厚い雲が覆っていて光エネルギーを出来る環境下ではなかったと推測するためです。しかし、生命の起源に関して生物の定義次第で地球上に誕生した初の生物は異なると私は考えます。外界から隔離する膜を持ち、外界からエネルギーを代謝する経路を持つものを生物と定義するのであれば、オパーリンの提唱したコアセルベートが外界からのエネルギーを利用できるようになったものが地球初の生物だと思いますが、自己複製を行うものという定義からすると、RNAワールドといった概念が生じ、これらを踏まえた現在の生物の定義を満たす初の生物は、外界からのエネルギーを利用できるコアセルベートが長い年月をかけて偶発的にRNAを取り込み、自己複製を行うシステムを獲得したものであると考えます。

A:これは、最初の生命を考える際に、エネルギー代謝の面から考える以外に、自己複製の様式から考える見方もある、ということでしょうね。


Q:今まで知識として光合成細菌やシアノバクテリアの存在を知ってはいましたが、それらがどのような進化を経て来たのか考えたことはありませんでした。ですが改めて話を聞くと、光合成細菌→シアノバクテリア→植物という進化の過程はかなり劇的な変化であるように思います。実際にシアノバクテリアが誕生してから植物が生まれるまでには17億年かかっていますし(真核生物の誕生後から考えても約6億年)、シアノバクテリアが当時の地球でどれだけの適応的に有意義な能力があったのかを考えるとこれはかなり長い期間のように感じます。「共生進化」という現象を高校時代初めて聞いたときは本当にそんなことが起こりうるのかという疑問を感じたものですが、そこに至るまでの進化の過程や現在の地球上での植物の繁栄を考えると、そのように進化することに適応的な意義が非常に大きい場合は常識では考えづらいような進化の道筋を辿るものなのだなと思いました。光合成を考えることは「進化」という事象自体を考えるときにも大きなヒントを与えてくれそうです。

A:文章としてよくまとまっています。論旨もしっかりしています。レポートとしてはもう少し「評論家風」でない方がよいかもしれません。


Q:前回はエネルギー、今回は生物の起源としてエネルギーの獲得様式から考え光合成から光合成細菌などについて学んだ。光合成細菌の作用として・酸素を出さない・クロロフィルの代わりにバクテリオクロロフィルを持つ・光化学系を1種類だけといったことを学んだが、さらに考察してみる。光合成細菌について調べたら面白いことがわかった。普段アレルギーがない人なら必ず口にしたことがある卵。これを作るとき、親となるにわとりに光合成細菌をあたえるとメリットがあることを知った。
・まず産卵量が増える。体内の代謝能力を高めるから。鶏の病気予防?マレック病1に効果がある。病気予防のために投薬等しなくてすむ。光合成菌がにわとりの体内で硝酸ガスを分解し鶏ふんも臭わなくなり、生育する環境もよくなるから。またその鶏ふんが良質の堆肥として利用できる。
・卵の品質も向上する。黄身が美しくなる?光合成菌にはカロチン系色素2が多いため。ビタミンA、B12、B1や各種ミネラルを多く含み滋養豊富である。特にビタミンAは20%も増加する。ウラシル、プロリンなどのアミノ酸を多量に含む。悪い菌の繁殖を抑え、玉子が日持ちするようになる。といった利点があることを知った。

A:「考察してみる」となっていますが、「知った」だけでは考察にはなりません。宣伝文句をうのみにするのは科学に携わる者として失格です。専門知識がなくてもいろいろと考えてみることはできると思います。光合成細菌に特有の現象なのか、それとも大腸菌などを与えても同じことが起こるのか?光合成細菌は鶏の腸内で生きていられるのか?なぜ病気の予防効果があるのか?すべてについて考えることは難しいと思いますが、なぜそうなるのか、ということをきちんと考えれば、レポートになります。似たようなレポートが他にもあったので、代表して。あと、このような場合は出典を明記する習慣をつけましょう。


Q:授業の中で、光合成が人類の文明を支えている例として、光合成によって増えた酸素によって鉄が還元状態から酸化状態へ変化し(Fe2+→Fe3+)、その結果として人類が利用しやすい鉄鉱石という状態になったことが紹介されていましたが、これはあくまでヒトの文明にとって有益かどうかという観点で光合成の出現を評価したときの意見だと思います。実際に酸素の増加によって、鉄などの金属を含む海中の環境は大きく変化したと考えられますが、この変化が生物に対して必ずしもよい影響を与えたとはいえないと思います。例えば、前述の鉄の変化について考えると、海中の可溶性のFe2+が減ると、生物は生命活動に必要な鉄を容易に取り込むことができなくなり、その活動に影響がでるのではないかと考えられます。酸化状態の鉄が多い状況は、酸素の増加以来現在までずっと続いてきたと考えられます。このような状況で、生物が鉄を利用するには、Fe3+に可溶性をもたせ取り込みやすい状態にするシステムを作り出す必要があり、無駄な手間がかかってしまいます。事実として生物がこのようなシステムを本当に持っていることには感心しますが、その獲得にはきっと長い時間がかかったのだと思います。酸素の増加は、生物にとって有益な側面も多数持ち合わせていますが、良い面だけに着目するのではなく、色々な視点でみてみると、面白そうだなと思いました。
参考文献:微生物管理機構 用語辞典 シデロフォア http://www.microbes.jp/dic/Content/si018.html

A:その通りです。実は、それを考えるとFeの利用形態などは些細な話で、酸素濃度の増大そのものが生物の大量絶滅を招いただろうと考えられています。人は酸素呼吸をするのでイメージをしづらいかもしれませんが、酸素は生物にとって毒です。活性酸素などが生じないような仕組みが発達しているので、人間も酸素が存在する中ではじめて生きられるのです。


Q:葉緑体の起源の話をした際に、生命の起源について触れた。そこで非常に興味をもった。無機的環境から有機物が生成したことよりも特に光合成細菌に関する話について考えたい。つまり光合成細菌から酸素を放出する光合成生物(シアノバクテリア)への変化がどのように起こったかである。授業では光化学系ⅠおよびⅡという2つ光化学系がなぜ存在しているのかいまだ不明であるということと、色素であるバクテリオクロロフィルからクロロフィルに変化していること、酸素の放出がない状態からある状態へ変わったことについて触れていた。私の考えを以下に示したいと思う。
 酸素を放出するすべての光合成細胞は光化学系ⅠおよびⅡを両方含んでいるが、光合成細菌は片方ずつしか含んでいない。ここで緑色硫黄細菌(光化学系Ⅰをもつ)が遅れて光化学系Ⅱを獲得してシアノバクテリアに進化したと考えられる。なぜなら水を還元剤として用い、酸素を放出する植物の能力は光化学系Ⅱによって与えられるものであるからだ。緑色硫黄細菌が光化学系Ⅱを獲得したとき2つの光化学系により律速段階が急激に上にシフトし光合成効率がよくなったことで繁殖が有利になったのだ。紅色硫黄細菌が光化学系Ⅱをもつのとは無関係で平行進化の関係にあると考えた。その根拠を示す方法として、シトクロムcや16SrRNAを用いた遺伝子解析による分子系統樹作成が有効である。

A:系統解析はいろいろな形で行われているのですが、なかなかはっきりした結論には至らないようですね。


Q:「熱の移動による秩序の形成」について 海の中の水は中・低緯度地域で温められ、高緯度地域で冷却されることによって酸素の密度が大きくなり沈降し、うまく循環することでバランスをとっている。しかし、温暖化が進むと冷却されなくなるため酸素が沈降されず貧酸素水塊が増大するおそれが出てくる。これもエネルギーの流れを軸としたものであり、エネルギーサイクルの一部に組み込まれていることなのではないかと思った。酸素の量と物質循環について調べてみると、緑色植物の光合成によって、CO2+H2O→CH2O+O2 のようにして酸素が生成される。だが、生物の呼吸作用や生物体がその死後に酸化分解されることによって、CH2O+O2→CO2+H2O という反応が起こって酸素が消費される。これにより光合成がいくら活発に行なわれても、それだけでは大気中に酸素は蓄積されないと化学式から考えられる。だが、授業でもやったように植物が埋没することによりこのサイクルが崩れるため酸素が大気中に放出されると考えられる。また、海洋における黄鉄鉱の生成には硫酸還元バクテリアが関与していると考えらており、化学式から考えると有機炭素が埋没する代わりに黄鉄鉱が埋没することによって酸素が正味で放出されている。調べていくと、酸素をとりまく環境がたくさんあり、それらが複雑にからみあって大気中の環境のバランスが保たれていることが分かった。
参考文献:岩波講座 地球惑星科学 13 地球進化論

A:せっかく面白い題材について考えているのですから、1つのポイントに絞ってもう少し深く議論するとよいレポートになるでしょう。


Q:この講義では主に、光合成-人類文明の関係と葉緑体の起源について学びました。今回僕が疑問に思ったのは、「緑色硫黄細菌と紅色光合成細菌ではどちらが効率的に光合成を行うことが可能なのか?」という点です。葉緑体の起源として、酸素を出さずに光化学系を1種類のみ持つ光合成細菌について、緑色硫黄細菌(光化学系Ⅰのみ持つ)と紅色光合成細菌(光化学系Ⅱのみ持つ)の二つの光合成生物を教わりました。 その上で、どちらの細菌が、少ない太陽光で多くの有機物・酸素を生産できるのか。言いかえれば光化学系Ⅰ単体を持つ生物と光化学系Ⅱ単体を持つ生物では、どちらが効率良く光合成を行えるのかを知りたいと思いました。文献によると、「緑色硫黄細菌は、緑色植物に類似して循環型であり、バクテリオクロロフィルによってNADHの生産を行うことでATPを合成する。また、紅色光合成細菌光化学系は非循環型であり、バクテリオクロロフィル二量体によってNADHの生産を行わずにATPの合成を行う。」という記述があります。このことから、緑色硫黄細菌の方が単量体のバクテリオクロロフィルによって行う事が可能で、かつNADHを生産して循環型でATPを生産できることが分かります。よって、緑色硫黄細菌の方がより少ない太陽光で生体内の物質を再利用(循環)させることが出来る、と考えます。
 また、上記の理論を証明するために以下の実験を考えました。同じ気候条件(太陽光・気温・湿度・培養皿)で緑色硫黄細菌・紅色硫黄細菌ををシャーレで培養し、数日間後の二酸化炭素量を測定します(これらの細菌は酸素を放出しないので二酸化炭素のみで測定します)。ここで、同じ太陽光において放出された二酸化炭素量が多い方が効率の良い光合成を行える、と考えられます。僕は、この実験で緑色硫黄細菌の方が放出される二酸化炭素量が多いと考察します。しかし、今回の実験では緑色硫黄細菌と紅色硫黄細菌という代表的な2種類のみを取り扱ったので、光化学系Ⅰ又はⅡのみを持つ他の種類の生物の場合では結果が変わると考えられます。されど、他の種類の生物でも上記と同様の実験を行えば光合成の効率の良さは測定が可能なので、必要に応じて測定を行えば良い、と考えられます。

A:面白いレポートだと思います。ただ、光合成の効率がよい、悪い、という場合、実は、条件を決めないと意味がないのです。もし、全ての条件で小売うがよい生物がいたら、世界中はその生物で占められてしまうでしょう。そうならないのは、ある条件ではある生物の、別の条件では別の生物の光合成が効率よく動くからなのです。おそらく、実際に実験をやると、その実験条件によってどちらの種が優勢になるか異なるでしょうね。