植物生理学I 第12回講義

光合成の効率と速度

第12回の講義では、様々な植物の光合成の効率と速度について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:移動能力と「広い面積」を両立させるのは非効率的なため、「光合成をする動物」は殆ど見られないと授業で扱った。ならば、恐らくは「数少ない」例外であるタコクラゲが渦鞭毛藻と共生可能なのは、この動物の体がほぼ透明であるからではないだろうか(そして、体も「渦鞭毛藻との共生で得られるエネルギーで維持可能」な程度の大きさであるから、と推測する)。殆どの「少し大きめの動物」の体は毛や鱗、羽毛などに覆われ不透明である。確かに、これでは体表にしか光が届かないため、光合成には不向きである。しかし、件のタコクラゲの体は透き通っている。このような体組織の動物ならば、光合成に使用可能な程度の光が内部にまで届くのではないか、と考察した。魚類などにも、透明度の高い体組織を持ち、内臓が透けて見える種が存在する。もし、その筋組織などに必要な器官や遺伝子を導入し、「光合成をさせる実験」が可能になれば、上記の考察をもう少し深めることが出来るだろう、と推測した。

A:体が透明であることと、光合成の可能性を結び付けて考えたのは面白いと思います。ただ、これは「光合成ができるかどうか」というよりも、「光合成をする場所が皮膚の表面に限られるか、それとも内部も使えるか」という問題なのかもしれません。


Q:今回の授業では、動物の光合成について、褐虫藻と共生するタコクラゲが光合成に依存して生きており、太陽を追いかけるということを学んだ。また、光合成をするためには葉っぱのような大きな光を集める器官が必要であることを聞いた。このことに関連して、光合成をおこなう動物がほとんどいないのはなぜか疑問に思った。細胞の中に葉緑体があり光合成をすれば、たとえ葉のような器官がなくても光が当たる範囲で光合成が行われ、生存に有益な光合成産物を体内で得ることができるように思える。また、植物の構造をみると、光合成をおこなうために必要な器官は葉緑体だけではなく、水分や栄養を得るための根、蒸散や二酸化炭素の吸収のための気孔など様々あるが、根や気孔を動物に置き換えると、口や腔門で対応できそうである。以上をまとめて、現存する植物と動物の融合体のような生き物が存在しないことはなぜなのであろうか。この疑問の答えとしては、現在光合成を行う動物がほとんど存在しないという自然界の進化の結果からつぎの答えが考えられる。まず、光合成能力を持った動物が進化するには、葉緑体を取り込んだ原始的な光合成生物が運動性をもつ方向に進化することが考えられる。葉緑体を取り込んだ光合成生物が進化するにあたって、運動性を与える筋肉を発達させ、日当たりの良いところへ移動する能力や有機物を食べて消化する器官を獲得するよりも、無性生殖により生息範囲を広げたり、子孫を残すためにもともと必要な胞子体を広く散布することの方が自然界への適応に有利であったのであろうと考えられた。また、光合成をおこなう器官と運動性をもつための器官の両方の方向性に発達しかけた生物が発生したとしても、どちらかに特化する方向で進化したものの方がその時代ごとに適応に勝ち、繁栄できずそれ以上進化できなかったのであろうと考えられる。したがって、植物と動物の融合体のような生物が存在しないのであると考えられた。

A:これも面白い視点だと思うのですが、やや論理構築がとびとびですね。例えば「どちらかに特化する方向で進化したものの方がその時代ごとに適応に勝ち、繁栄できずそれ以上進化できなかったのであろうと考えられる」という部分も、確かに結果としてはそうだったのだとは思いますが、その必然性が論理的に説明されていない気がします。そのあたりの厳密性が加われば満点です。


Q:C3植物は光の弱いところで,C4植物は光の強いところで生育に有利であるがC3植物であるヒマワリは例外的に強光を好むという話であった.この理由について考えてみたいと思う.まずC3植物は強光下で光呼吸が活発になり有機物が分解されるために光合成速度が低下しやすく,また強光下では温度も上昇しやすいと考えられさらに光呼吸を促進するため光の弱いところで生育に有利である.この欠点を補うためにヒマワリは蒸散量の増大によって解決を図っていると考えられる.植物は気孔から二酸化炭素を取り入れるが,乾燥状態では気孔を閉じるために二酸化炭素の収量が減少する.ヒマワリは背の高い植物であり,根から植物の頂点まで水を引き上げるためには高い圧力が必要となる.またヒマワリの頂点には多数の種子をつけた花が存在するため,ここに栄養を送らなければヒマワリが子孫を残すことはできず栄養を下方から持ち上げるために蒸散を活発に行っていると考えられる.蒸散が行われることでまず気孔が開き,二酸化炭素をより多く取り入れることでルビスコの光呼吸の栄養を抑えているだろう.そして蒸散は植物体の温度を減少させる.これは強光・高温下に置かれたときに温度を少しでも下げ,ルビスコの酵素反応速度を低下させることに役立っている.このようにしてヒマワリは強光下でも光合成速度を落とさないようにし,強光による光合成速度の増加の恩恵を受けていると思われる.

A:「栄養」という言葉は案外あいまいで、植物においては窒素などの無機イオンを指す場合と、光合成産物を指す場合があります。前者は導管を通して輸送されるので蒸散流が大事ですが、後者は篩管を通して運ばれるので、蒸散流とは直接関係しません。その部分を分けて考えた方がよいでしょうね。


Q:今回の授業で水分中の酸素濃度を測定する方法の1つとして酸素電極を用いる方法を教わった。この方法についてもう少し調べると、2つの正と負の電極を飽和塩化カリウム水溶液中において近づけた状態で電気を流すことで、酸素は水に還元され、塩素は陽極の銀と反応し塩化銀に酸化される。この反応を介して、酸素の含有量に比例して電気を通しやすくなるという性質を利用して測定をしているということであった(*1)。さらに詳しく調べようと、同様の方法で他の気体の濃度を測定する機器を調べたところ、うまく見つけることができなかった。そこでこの理由を考える。まず酸素が還元されるということは、酸化力をもつことが必要である。これを満たす気体には塩素やフッ素、などが挙げられる。しかしこれら酸化力を持つ気体は水に溶けても反応性の高い物質のままであり、機材を傷めてしまう恐れがある。またその状態で無理やり電気を通したところで生成する物質もまた反応性が高い。酸素の水に溶けたり還元されたりしても反応性の高い物質にならないという特徴が、この方法の有用性のカギであると考えられる。
*1 光合成の森「酸素電極の原理」の項より http://www.photosynthesis.jp/proto/O2evolve.html

A:酸素が還元されやすいという性質から、電極による測定が酸素に限られるという議論を展開したレポートは始めてみました。非常にユニークで素晴らしいと思います。


Q:今回の授業では、木本植物の光合成速度が一般に草本植物の光合成速度よりも遅いという内容が扱われた。木本植物は外敵から葉を守るために、葉の構造を丈夫にすることにコストをかけている。その丈夫な構造のために二酸化炭素の吸収効率は低下してしまい、光合成速度は遅くなっている。すなわち、光合成速度を速めるためにあまりコストをかけていないという内容であった。本レポートの目的は木本植物の光合成速度が遅い理由を、木本植物の「葉1枚あたりに当たる光量は少ない」という観点から考察することである。木本植物では、多数の葉が各々の枝に備わっている。葉の量が多いために、日差しの強い日でも木の根元は薄暗く過ごしやすい。森の中などでは日中でも暗闇のようになる程に光が葉によってさえぎられる場合もしばしばある。木の下が暗くなっているということは、太陽の光の多くを葉が吸収しているということである。すなわち、木本植物1個体の葉全体としては、降り注ぐ光を高い割合で吸収できているのであろう。では、木本植物1個体全体において吸収された光量は、単純に葉の1枚1枚が同程度の量だけ吸収した光量を総和なのであろうか。木本植物1個体中の葉においても、その葉に当たる光量は葉の存在する位置によって差があると推測される。以下その推測の理由を述べる。1個体の木本植物においても、光が当たりやすい位置と当たりにくい位置が必ず存在する。植物体の上部、外部に位置する葉には、他の葉が陰になって光が遮られるという障害が少ないために、大きな光量が当たる。逆に植物体の下部、内部に位置する葉には、他の葉が光を遮ってしまうために小さな光量しか当たらない。よって、1個体の木本植物中においても、位置によって葉に当たる光量には差が存在するであろう。以上が理由である。木本植物においては、葉の位置によって得られる光量に差が出てしまう。ということは、葉1枚1枚に最大光合成速度が速い仕組みが備えられていたとしても、多くの葉は最大光合成速度を出すのに必要な光エネルギーを得られないという「無駄」が生じることになる。したがって、木本植物においては葉の光合成速度を速くする意味はあまりない。たいした意味もなく光合成速度を速めるよりは、授業中に説明されたように、外敵からの防御機構の構築にコストをかける方が生存に有益であるのであろう。ゆえに、木本植物の光合成速度は一般に遅いのであろう。

A:このレポートの論理は「陰葉では最大光合成速度がなぜ遅いのか」という議論と同じですね。いわば「木本植物=陰生植物」論です。木本について、陰葉陽葉の議論を適用してみたのは面白いアイデアだと思います。


Q:今回の講義では、比較的高等な動物で光合成をするものがいない事について、移動能力の観点から説明されていたが、このことは以前から自分も疑問に思っていたので一つの解答が得られたので、ここでこの生物のエネルギー獲得手段と移動コストについて自分なりに考察してみた。多くの動物は積極的に動き回ることが出来るが、それには当然エネルギーが必要である。ここで注目したいのは、植物がその一生のうちで自らが炭素を固定することで得たエネルギーは自身の体を形作ることで蓄えられる一方、動物は摂食行動を通じて一生のうちに自分の体重の何百~何千倍ものエネルギーを外部から得ていることである。このように、植物と動物では生涯に得るエネルギーの総量に大きな差があると考えられるが、これは移動に用いるエネルギーのコストが関わっているのではないか。一般に体が大きな動物ほど移動にはコストがかかるため移動には積極的な捕食行動で外部からエネルギーを得ることが必須であり、そのような場合には光合成をしても得られるエネルギーは相対的に小さく意味をなさない。また、仮に全てのエネルギーを光合成で賄うには巨大な受容器官が必要になり、そうなれば結局動けなくなってしまうので、光合成はエネルギーコストが大きい移動する生物のエネルギー獲得手段としては適しておらず、従って比較的大型の高等動物では光合成をおこなう種がいないと考えられる。

A:面白い論理だと思います。欲を言えば、大型の動物ほど移動のコストが大きくなる、という点を自明に考えていますが、その部分をきちんと論証できると完全ですね。


Q:今回の講義で僕が印象に残ったのはさまざまな植物の光合成速度についてでした。これはC4>C3>木本>CAMでした。そしてこの木本植物の光合成速度の低い理由は、寿命が長いので、風など外部の環境に負けないよう頑丈に育つことにエネルギーを使うので、光合成器官だけにエネルギーを使ってられない、というのが理由でした。そこで僕は木本植物でも、さらに落葉樹、常緑樹で、これに差がないかを調べてみました。結果からいうと差はありませんでした。しかし、全体の光合成量としては落葉樹>常緑樹でした。一見、ある時期に葉が落ちてしまう落葉樹のほうが低くなるのではないか、と考えられがちですがそうではなく、葉を落とすことで冬に葉が凍るのを防ぐなど、長くなるので割愛しますがさまざまな要因で葉を落とすことに利点があり、結果落葉樹のほうが光合成量は多いということがわかりました。しかし結局速度は同じなので、ちょっと興味を持って調べた身としては残念でした。

A:僕の講義のレポートは「調べたこと、わかったこと」の報告ではないので、「論理」の部分を割愛してしまうと評価が低くなってしまいます。また、できれば調べたことの論理ではなく、自分なりに考えた論理をきちんと書くと高く評価されます。


Q:今回の授業で気になったのは、陰葉と陽葉についてです。陰葉と陽葉で光合成活性に違いがあることを学びました。そこで、疑問に思ったのは、いつ陰葉と陽葉が決定するのかです。その葉が影になるのかどうかは、光環境によるので、遺伝的に決定することはないと考えられます。以前の授業で若葉の緑がまぶしいのは、葉緑体などの“中身”がまだつまっていないからと習いました。このことから、それぞれの葉の葉緑体の含量を決めるならば、葉が成熟するまでの間ではないかと思います。また、この時期に、光環境を認識して葉緑体の構造が変化するのではないかと思いましたが、さらに成長して自らの葉が光を遮ることも考えられます。よって、葉緑体の構造の違いはある程度成熟した段階で起きると思います。

A:「中身」の詰め方は確かに詰めている最中に変えられると思いますが、実際には策状組織の細胞が何段になっているか、などは葉が展開する前に決まってしまいます。これについては研究例があって、前の年の光環境を反映するという報告があります。ただ、植物の種類によっても異なるかもしれませんね。


Q:今回は光合成の速度について勉強しました。授業中に見た表や図で、C4植物より光合成速度が高いC3植物が、C4植物でも光合成速度が低い植物があり、光合成経路が同じでも種によって光合成速度は大きく異なることがわかった。この図や表を見て、光合成速度を上手く使って緑化や植林などの地球温暖化対策を効率的に行えないかということを考え、C3、C4、CAM植物といった分類以外の植物分類方法があったら便利だなと思ったので新たな分類方法を提唱してみる。ここで上げる分類方法は種毎に分類し、合成速度が最大になる条件に基づいている。この条件は気温・二酸化炭素濃度・日照量を軸とし、この3つの要因をそれぞれ多段階にわける。さらにその植物が繁殖できる降水量も調べる。調べ方としては実験的に正確に測定するのが望ましい。全ての植物種について調べるのはおそらく無理なので、植林や緑化に使われている植物種に絞ってこの調査を行うのが現実的だと考えられる。以上のことを調べ、ある種のデータベースのように分類したものを公開すれば効率的に緑化等の地球温暖化対策を進められると考えられる。

A:なるほど。僕になじみのある理学的な発想ではありませんが、農学・工学的な、役に立つ情報を得る、という意味では重要なことだと思います。僕にとっては斬新な発想でした。


Q:この授業では、光合成に関して様々な要素で比較した測定結果とその考察について学びました。その中で、二酸化炭素濃度と温度の違いによるC3/C4植物の光合成速度のグラフを見ました。ここから僕は、“地球温暖化の影響でC3/C4植物の光合成速度にどの様な変化があり、C3/C4植物の個体数の比はどう変化するのか”を考察しようと思います。まず、地球温暖化では温室効果により二酸化炭素濃度が上昇し、温度が上昇します。授業では、二酸化炭素濃度が高ければC3植物の方が光合成速度は速いこと、温度が高ければC4植物の方が光合成速度は高いことを教わりました。この情報のみではどちらが地球温暖化において有利か分かりません。僕の考察としては、C4植物は二酸化炭素濃度が高い時は頭打ちの光合成速度のグラフである一方で、C3植物は気温が高い程光合成速度が低くなることから、C4植物の方が長い視点で見ると生存に有利と考えられます。また、視点を変えて光合成速度の最大値・最小値を見てみると、C4植物の方が明らかに高いことが分かります。ここから、C4植物の方が環境の変化に対応して光合成速度を合わせることが可能と考えられます。よって、地球温暖化に対してC4植物の方が光合成速度は高く上昇し、個体数比も増える、と考えられます。この考察の正確性を証明する為には次の様な実験が考えられます。まず数種のC3植物・C4植物を用意し、これらの光合成速度を高温・高二酸化炭素の環境下で計測します。この結果によりC4植物の光合成速度の方がC3植物よりも速ければ、この考察は正しいことが言えます。

A:他にも、このポイントについて考察したレポートがいくつかありましたので、ユニークな発想というわけではありませんが、きちんと論理を展開しているので、評価できます。