植物生理学I 第13回講義

光合成の効率と速度

第13回の講義では、光合成の効率と速度について解説しました。今回は、割合と自分の頭で考えた良いレポートがたくさんありました。


Q:今回の授業では光合成の効率と速度について学んだ。ここで、C3植物とC4植物について考えてみる。一般的にC4植物の方がC3植物よりも高い光合成速度を示す。これはC4植物では二酸化炭素濃縮機構があるために、C3植物よりも光呼吸を抑制することができるためであると考えられる。ただ、C3植物でもCO2濃度が高く、O2濃度が低い条件におけば光呼吸が抑制され光合成速度が上昇し、光合成速度のピーク時の温度は上がっていく傾向がみられる。一方、C4植物では気温が高く乾燥している環境ではC3植物よりも効率よく光合成ができるが、そのような環境以外では光合成の効率はC3植物よりも劣る。もしも、将来大気組成が今よりもCO2濃度が高く、O2濃度が低くなればあえてC4植物へと進化しなくてもC3植物のままでも今よりも効率よく光合成ができるようになると考えられる。(もちろん、必ずしもこのような環境になるとは限らないのであるが。)このことから、C3植物のほうがC4植物よりも環境への適応度が高いと考えられる。つまり、よっぽど都合のよい環境においてしかC4植物へと進化しないのだと思う。したがって、C3植物が広く世界に分布しているのに対し、C4植物は限られた地域にしか見られないのだと考えられる。

A:環境適応の仕方に注目して、生き物をspecialistとgeneralistに分類することがあります。このレポートで主張されていることは、C4植物はspecialistである、ということでしょうね。


Q:地球上で1年間で増加する森林のバイオマスによるエネルギーを計算する。森林・林業学習館のHP(http://www.shinrin-ringyou.com/forest_world/menseki_world.php)によると地球上の森林面積は約40億ha=約400000億m2である。…(藤)
また、第2回目の講義によると太陽の放射エネルギーは単位面積当たり1.4 kW/m2である。太陽放射スペクトル曲線より、太陽から届く放射エネルギーはほぼ可視光によるものであると考えられる。E=hc/λより波長によって光のエネルギーは変わるが、簡単のために450nm付近と700nm付近の波長が全体の半分のエネルギーを占めているとする。すると、植物は単位面積あたり0.7 kW/m2のエネルギーを利用できる。…(討)
(藤)(討)より、地球上の森林は約400000億m2×0.7 kW/m2=280000億kWの太陽エネルギーを利用できる。1年間は31536000 sであるが、夜は太陽が当たらないので15798000 sの間太陽エネルギーを浴びるとする。 すると280000億kW×15798000 s≒4.4×1020 kJを1年間に利用できる。今回の講義によると、植物は最大でも得られたエネルギーの5%しかバイオマス増加に利用できないと学んだので、4.4×1020 kJ×5/100=2.2×1019 kJがバイオマス増加分である。第2回目の講義によると人類が1年間に必要な総エネルギーは1.8×1017 w×3600 s=6.5×1020 J=6.5×1017 kJであると学んだ。したがって森林のバイオマスは人類の必要エネルギーに比べてとても大きいので、うまく利用できればエネルギー問題や食糧問題を解決できると確信を得た。しかし、森林のバイオマスの増加はこれが最大値であること、森林の伐採が続いてること、人類だけでなく他の動物も利用すること、人類が増加していることを考えると、植物や石油に頼らない新たなエネルギー源が必要であるという結論に至った。

A:僕は、このような計算が好きなので、ついホームページに載せるレポートとして選んでしまいます。このような計算で具体的なイメージを持つというのは、特に地球環境といった漠然としたテーマについて議論するときには非常に重要だと思います。


Q:今回の授業で陰性植物、陽性植物についての話があった。ここで疑問に思った事があり、一種の植物を陰性植物か陽性植物かに分類すると考えた時、一種の植物の中でも葉によっては光がよくあたる葉、あたらない葉があるのではないかと考えた。すなわち、一種の植物の中でも陽葉と陰葉が混ざっており、単に葉から陰性植物か陽性植物かに分類するのは難しいと考えられる。よって、陰性植物か陽性植物かに分類するには、一種の植物の全体の光合成速度を調べ判断することが大切だと考えられる。

A:その通りですね。しかも、一枚の葉っぱの中でも、葉の表面と葉の内部では光の強さが全く異なります。ですから、陰葉緑体と陽葉緑体というのもあるのです。


Q:弱光下では、陰葉の光合成速度(相対値)は陽葉をこえる。しかし、強光下で生育した陽葉でも、例えば天候が曇りの時など、弱光下に置かれることはあるはずである。弱光下においても陰葉と同等の光合成速度を持った方が、生存に有利なのではないだろうか。しかし、実際には弱光下での光合成速度は陽葉よりも陰葉の方が速いことから、陽葉は強光下での速い光合成速度と引き換えに何かを犠牲にし、逆に陰葉は、弱光下での光合成速度向上のために、強光下での光合成速度を犠牲にしていると考えられる。調べてみたところ、「弱光下での光合成速度を増すためにはクロロフィル含有量を増すことが必要」であり、また、「最大光合成速度を増すためには、電子伝達系のタンパク質、ATP合成酵素、カルビンサイクルの酵素を増やすことが必要」なのだという(鉤括弧内は、最後に記載したWebページより引用)。葉が有することのできるクロロフィル量、タンパク質量は限られているため、陽葉と陰葉は、置かれた環境に合わせて一方を増やし、もう一方を減らしているのだろう。では、陽葉はその体積を増やすことでクロロフィル含有量を増やし、弱光下での光合成速度を増すことはできないのだろうかと考えた。しかし、仮に葉の体積を増やしてクロロフィル含有量を増やしたとしても、光合成系タンパク質の含有量がそのままであれば、光合成速度は増さないのではないだろうか。よって、弱光下で、陽葉が陰葉と同等の光合成速度を有することは不可能であると考えられる。
≪参考・引用Webページ≫:東北大学大学院生命科学研究科・彦坂幸毅『光順化』http://hostgk3.biology.tohoku.ac.jp/hikosaka/sun-shade-acclimation.html(2010年7月11日閲覧)

A:光順化の問題は案外複雑です。弱い光領域においては、呼吸の違いの寄与もかなり大きく効いてきます。


Q:太陽電池では、実用品だと効率が30%程のものも出ているということであったが、風車を用いて電気を作るという方法を家庭で取り入れると、自宅で電気を作ることが出来て十年程度で元が取れ、さらに環境に対してもよいということを聞いたことがあったため、今回は風車を用いた場合と太陽電池を用いた場合でどちらが効率よく電気を作ることが出来るのかということについて考える。参考文献(1)によると、風車を用いた場合の効率は次のように計算できる。
  P(W) = Cp×(ρAV^3)÷2
    [P(W):取得エネルギー(W))、Cp:風車効率、ρ:空気密度(kg/m^3)、A:受風面積(m^3)、V:風速(m/s)]
  ただし、風車効率は、風車の形によって異なり、プロペラ型が45%と最も効率がよい。これによって計算すると、風車の最大理論効率は59.3%であるようだ。この値から実際は摩擦の分なども差し引き、40%弱程度の効率であるということであった。だが、講義でもあったように、太陽電池でも製造コストの分を電気への変換効率から差し引く必要があるため、風車を用いた場合でもその分をさらに差し引く必要があり、実際の効率はもっと低いと考えられる。また、風の力を受けて電気を作るため、十分な力の風が常に吹いている場所に設置しなければならない。常に強い風が一定方向から吹くオランダでは風車は効率よく電気を作ることが出来るようだが、日本のように風があまり強くなく、風向きも変化しやすい場所では風車の向きをその都度変える必要があると以前聞いたことがあり、このことから日本では風車の効率は悪いと考えられる。これらのことから、その地域の環境に適した人工電池を用いる必要があると言えると考えられ、十分に日光の当たる日本では太陽電池の方が風車よりも効率がよいと考えられる。
—参考文献—
(1) http://www.michaelbroadcast.net/sophia/kindofwt/kindofwt2.htm (2010/07/09参照)
(2) http://www.rmkoubou.mce.uec.ac.jp/contents/Report/windcar/column-2.html (2010/07/09参照)

A:風車の効率はあまり考えたことがなかったのですが、確かに最近、あちこちで見かけるようになりましたね。おそらく風車の場合でも、太陽電池の場合でも、理論効率よりも、実際に設置してみた結果としての効率の方が重要なのだろうな、という気がします。


Q:植物は光強度が低いと、光合成量よりも呼吸量のほうが多くなってしまう。光強度が低い状態でも、光合成速度を高めるためにはどうすればよいか考える。これを可能にするためには、2つのアプローチのしかたがあると思われる。
1.当たる光をより多く取り込む。
2.光エネルギーを光合成に使う際の効率を上げる。
まず1を行なうには、クロロフィルをより多くすることが必要であるだろう。またクロロフィルに吸収されるまで、光を阻害しない葉を持つことが必要である。つぎに2は、吸収した光エネルギーを効率よく光合成に使えれば、同じ光強度でもより多くの光合成が可能ではないかと考えた。今回の講義で、光エネルギーの80%がクロロフィルによって吸収され、最終的には27%が光合成に利用されるということを学んだ。効率を下げる要因として以下のことが挙げられる。
(1)弱い光強度では、光化学系IIでクロロフィルに吸収された光エネルギーの約8割が光化学反応に使われ、残りは熱や光になる。
(2)光呼吸によって二酸化炭素が失われることによって、炭素同化ができずに光エネルギーが無駄になる。
(2)の解決策としては、二酸化炭素の濃度を上げる、光呼吸がおきづらい低温にするなどが考え付いた。(1)で熱や光になってしまうエネルギーを無駄にしないためには、どうすればいいかは考え付かなかった。

A:このような場合、もし、解決策があるのならば、なぜ植物が進化の過程でその解決策を取らなかったのか、という観点からの考察もあるとよいでしょう。たとえば、「二酸化炭素の濃度」と「低温」というのは、いずれも環境条件ですから、植物の側が左右できることではありません。そのような部分を人間が変えれば確かに効果があるかもしれません。ただ、その場合でも、低温では光呼吸以外の反応の速度も遅くなると考えられますから、その点についても考察する必要があるでしょう。


Q:最大光合成速度にこれほどの差があるのは驚きでした。注意してみると確かにこの時期は畑のトウモロコシなどを見ているとぐんぐん大きくなっているのが見て分かるほどですし、雑草は雨が降ったら刈ったそばからすぐに伸びてきます、それに比べると家にあるサボテンの成長速度は非常に遅いのが分かります。ちょっと気にするだけで植物によって生長の早さに差があるのは明らかです。それは生活の仕方の違いによるものであるということでしたが、これほど成長速度に違いがあるのであれば人工でC4植物にしたスーパー植物などは本当に成長が促進するだけで済むのかと思いました。仮に木本の植物にC4サイクルの遺伝子を発現させたら、もともと遅い成長に合わせて設計されている他の部分が追いついてゆかずいろいろと不都合があるのではないかと思いました、光呼吸はわざと無駄なことをしていて体を守っているという仮説もあるほどですし。しかしそう考えるとC3植物がC4サイクルの遺伝子を持っている理由が分からなくなってしまいます。発現させていないだけであれば複製するだけ無駄であるので失われてしまってもおかしくないはずなので失われていないのには理由があるはずです。まず最初に考えられるのが環境の変化に対応するためということ。この場合もし万が一環境が変化してC4サイクルを使うことになった場合それを使いこなせるだけの機構が保存されているのが前提です。この場合であればスーパー植物は簡単に作ることが出来そうです。しかしC4サイクルを使うことを目的としていないのに残している場合、C4サイクルの遺伝子が実際にはどの程度残されているのか、部分的にでも発現しているのかどうかは知りませんが、たとえばC4サイクルの遺伝子が部分的に有用なので残されている場合、この場合不必要な部分は失われてしまうでしょうが、この場合はC4サイクルに耐えうるだけの機構が残っていないと考えられるのでスーパー植物を作るのは困難です。

A:生物の進化を考える場合、何か新しい機能を獲得する場合にも、すでにある遺伝子を「使いまわす」例が非常に多いようです。ですから、C4光合成に使われている遺伝子も、それぞれ別の目的でC3光合成やその他の代謝に必要なのである、というのが一番素直な解釈なのではないかと思います。


Q:今回の授業で光合成速度について学んだが、その中で、最大光合成速度はC4植物が一番高いが光が弱い状態だとC3植物に劣るということを聞いた。今回はなぜそのようになるのかを考察したい。一般的に単位時間当たりの酸素の排出量あるいは二酸化炭素の消費量の変化を光合成速度としているが、実際の光合成速度は見かけの光合成速度、つまり植物は光合成と同時に呼吸と光呼吸も行っているので、呼吸の分を差し引いた正味の光合成量を対象とする。この場合、C3植物は光合成、呼吸、光呼吸をするが、C4植物は光合成と呼吸しかしない。つまり、もし環境に影響されなく光合成速度が決まるのであれば、C3植物、C4植物は光合成の総量から見て、C4植物の方の光合成速度が速くなる。しかし、実際では光が弱い条件下ではC3植物が光合成速度は速い。まず、通常自然界では光が強くなれば、気温も上昇する。C4植物は光合成時に光エネルギーを使うために、光条件が強いところでは光合成が促進され、また温度が上昇することでルビスコの活性の最適温度になる。またC3植物は光が強いところでは、光呼吸をするので、余分な光エネルギーを使い、二酸化炭素を産生する。このことから、C3植物とC4植物の二酸化炭素消費量に差が出て、正味の光合成量ではC4植物方がC3植物よりも大きい。しかし、逆に光が弱いときは、まずC3植物が光呼吸をしなくなるので、二酸化炭素の生産量が低くなり、呼吸のみの産生となる。またC4植物は光合成時に光エネルギーを使うため、光が弱いところでは光合成が抑制されてしまう。したがって、C3植物は通常通り、光合成を行い、光呼吸もしなく、C4食物は光合成が抑制されてしまうので、結果的にC3食物の光合成速度が速くなると考えた。

A:そうですね。だいたいよいと思います。このように、単に調べるのではなく、自分の頭でまず考えてみることが重要ですね。


Q:今回の授業ではC3植物とC4植物の最大光合成速度について興味を持ちました。C4植物にはCO2を固定する働きがあり、効率よくCO2を吸収し、必要なときに備えて蓄えておく理由からC4植物の方がC3植物よりも最大光合成速度が高いと授業ではありました。しかし、グラフから、C3植物の光合成速度がCO2濃度を上げるとともに上昇していたので、最もCO2を吸収できるという意味ではC3植物のもつ最大光合成速度の方がC4植物よりも高いのではないかと疑問に思いました。また、C4植物はCO2を固定する働きをもつと前に書きましたが、新しくCO2を吸収しても、前に吸収して蓄えていたCO2が残っているので、あまりCO2は吸収できないのではないかと考えます。どのような概念で最大光合成速度を決めているのでしょうか?また、研究室での光合成速度の測定で、葉半法、酸素電極法、赤外線ガス分析計、クロロフィル蛍光測定装置が挙げられていましたが、実際にどの方法が一番光合成速度の測定をするのに効率がいいのしょうか?先生は使う植物によって使い分けているのでしょうか?

A:僕のところには、よく「一番光合成をする植物は何ですか?」という質問が寄せられます。今回の講義を聞くと、おそらく、一口に光合成速度といっても色々な考え方、測定条件があって、それらを無視して、一番光合成をする植物を決めることなどできないことが分かったと思います。自分が何を知りたいのかを考えて、例えば自然条件下で一番光合成速度が高いことが重要なのか、それとも、人工的にCO2濃度を上げて高い光合成が得られるのであればその値が重要なのか、という点は自分で決めなくてはならないのです。測定方法についても同じで、それぞれの測定方法にはそれぞれのメリットデメリットがあります。どのような情報がほしいのか、という点が決まって初めて測定方法も決まることになります。その中には、レポートの最後にあるように、対象とする植物種というのも重要な要因となります。


Q:今回は光合成速度について様々なことを学びました。ここで興味深いと思ったのは葉半法です。これは簡便な操作が長所である半面、転流の問題や、師管を殺しても有機物合成速度が抑制されるという弱点があるということも知りました。この弱点は克服できると思ったので述べてみようと思います。まず、茎を熱して師管を殺します。その後、葉から同じ大きさの円形を一定の時間ごとに一つずつ切り出すようにします。そしてそれらの重量変化を追っていけば、どのタイミングで光合成の抑制が行われているか分かるはずです。この作業を何枚かの葉で行ってその平均をとれば、十分信頼できるデータがとれるはずです(これをコントロールとする)。あとは信頼できる時間内で葉半法を行えばいいのです。この問題は、コントロールの環境条件と測定に使う環境条件に差異があってはいけないということです。対策としては、コントロールと同じタイミングで葉を切り出し、信頼できる範囲内で測定するというものですが、これだと少々手間がかかります。もう一つの対策として別の葉を使うことがありますが、これだと使う葉が違うため差異がある恐れがあります。これはサンプルの量を増やすことによって回避はできます。どちらの方法でも手間がかかることに変わりはないですが、測定結果にに信頼が持てるのなら行う価値はあると思います。

A:これもよいレポートですね。自分の得た情報から自分の頭で考える姿勢が感じられます。


Q:今回の授業では、光合成速度と効率、これらはその植物自体の「光合成装置」の特性に加え、環境条件が大きく影響されることを改めて確認しました。生態学では単独で生育させたときと混植したときでは生長の最適条件が変化することなどを習いました。すると、ある目的に対して最適な植物を決めるためには単独で生育させた場合の光合成速度だけでは選考基準にならないでしょう。例えば、CO2濃度の高いところでは光呼吸により光合成速度が落ちてしまうC3植物も、C4植物と混植したらどうなるでしょうか。もちろん、同一地点の自然条件ではどちらかが有利な条件でどちらかが生存競争に勝って片方になってしまうでしょうが、人工的な建設物においては共存も可能になることも有り得るのではないでしょうか。例えば水路や屋根(あるいは木本植物の陰)を工夫することで一定の区画を効率よくC3植物とC4植物で「住み分け」可能な条件があるかもしれませんので、そういった実験や研究があっても面白いと思いました。

A:これはよいところに気がつきましたね。単独での生育と、周囲の生物の中での生育が大きく異なる例は、細菌などでは簡単に実験できるためよく調べられていますが、高等植物では、案外難しいこともあり、それほど色々わかっているわけではありません。これからの研究として面白い点だと思います。