植物生理学I 第11回講義

光合成の産物

第11回の講義では、CAM型光合成など、炭素同化で話していなかった部分について補足したのち、光合成の産物について、その種類や輸送方法などを中心に解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業で、固定した二酸化炭素をスクロースの形で移動させ、デンプンの形で貯蔵すると習った。植物はスクロースをデンプンにしたり、デンプンをスクロースにしたり、それぞれの特徴を活かすため切り替えをしているらしいが、なぜこの切り替えは起こるのだろうかと考えた。まず考えたのは、デンプンにはその重合の仕方によってアミロースとアミロペクチンになるが、デンプンの形で移動する場合、アミロペクチンの枝分かれの構造は移動上不利であるということである。また、グルコースは液中で還元性をしめす。この還元性によって、移動中出会うその他の分子の構造に変化を及ぼしてしまい、悪影響を与える可能性があるため、デンプンではなくスクロースの形で移動するのだと考えた。

A:グルコースの還元性についてはその通りです。デンプンについては、枝分かれ以前の問題として、そもそも水にはほとんど溶けません。水に溶けないものを輸送するのは大変です。


Q:CAM植物であるサボテンは、夜、気孔を開いて二酸化炭素をとりいれ、PEPカルボキシラーゼと反応させて、リンゴ酸として液胞にため込み、昼間になると、気孔を閉じ、リンゴ酸を脱炭酸し、カルビンベンソン回路によって二酸化炭素を固定する。これは、サボテンなど砂漠に生育しているものが多く、砂漠の乾燥、日較差に適応した機構であるといえる。サボテンなど砂漠に生息している植物はほかにも乾燥に対して対処しているか考えてみた。まず、サボテンは他の植物と違って、非常に特殊な形をしている。葉はとても厚く、茎の部分が見当たらない。これは、「葉の数や葉の表面積を最小限にし、表皮や気孔の構造まで特殊化し、水分貯蔵組織を発達させ、雨期に充分に吸水し蓄えた水を乾期に少しずつ消費して生きている」からである。茎の部分がないのも、外界とふれる表面積をできるだけ小さくし、水分を保持するためであると考えられる。そもそも植物に茎があるのはより多くの葉にまんべんなく太陽の光が当たるようにするためである。したがって、葉の数が少ないサボテンに茎というものはあまり必要がない。このようにサボテンは乾燥に耐えるために、自らの体の構造を特殊化し、あらゆる手段を使って、砂漠という植物にとって生息しにくい地に生息しているのである。

A:そうですね。特に茎の役割についてはその通りだと思います。


Q:これまでに様々な二酸化炭素の固定様式を学んできたが、すべて還元力が必要であることは共通している。植物と細菌でも回路の作りは全く同じではないが、二酸化炭素の固定という同じ目的のために、同じように還元力を用いているのは興味深いことである。また、光合成細菌の還元的カルボン酸回路がクエン酸回路に似ていることも驚いた。なぜ、このようなことがみられるのか。光合成は光エネルギーを使って炭素を還元し糖の形に固定する反応である。したがって、もし炭素を材料にして糖を固定するならば還元という手順を必ず踏まなければならないのでこの共通性がみられるのだと思う。では何か別のものを酸化して糖を酸化して得るという反応はないのかと考えたが、その酸化する物質をつくり出すためにはやはり何かを還元しなければならないので、生物はこのような無駄なことはしなかったのだと考える。そもそも光合成をし始めた時期の地球では大気中に二酸化炭素が多くふくまれたのでこれを利用しようとするのは不思議ではない。還元的カルボン酸回路とクエン酸回路の類似や光合成が糖の酸化的代謝の逆反応であること、植物も呼吸を行うことなどから光合成と呼吸とが密接な関係性があると考えられる。

A:2つの代謝系がよく似ている場合、もう一つの考え方は、2つは実は起源が同じで、そこから2つのわかれたという可能性だと思います。そのような考え方との対比があると、さらによいレポートになります。


Q:授業でスクロースに対する甘味の話があったので甘味について考察する。甘味を生む物質は主に高カロリーだといわれている。これはなぜだろう。まず、生物は生きていくためには高カロリーをもつ物質が必要である。そのために、高カロリー物質が甘味というおいしいと感じる味覚を生みだしたと考えられる。(特に成長するためにエネルギーが必要な幼児が甘いものを好きなのはこのためだと考えられる。)

A:僕はいまだに甘いものが好きですが…


Q:デンプンはスクロースの貯蔵形態として適しているが、イネ科植物では、デンプンをつくらないものが多い。デンプンは水に難溶であるのに対し、スクロースは水に溶けるため、スクロースを貯蔵するイネ科植物では浸透圧に対し何らかの策を講ずる必要がある。それなのに何故、イネ科植物のいくつかはスクロースの形で貯蔵するのだろうか。調べてみたところ、植物種により何を貯蔵するかは、「それぞれ違った代謝調節機能が働いているから(今流に表現するなら遺伝子の働きがそのようにプログラムされているから)」(参考Webページより引用)としか今のところ説明されないという。では、何故「それぞれ違った代謝調節機能が働」くのか(イネ科植物のいくつかがスクロースを貯蔵するのは何故か)について考えた。まず考えた理由としては、『植物の構造が、高分子のデンプンを貯蔵するのに適していないのではないか』ということである。しかし、この考えは、双子葉植物でもスクロースを貯蔵するものがあるという事実で否定されるのではないだろうか。次に考えたのは、『その植物が生育する環境に合わせて、貯蔵形態が変わっているのではないか』ということである。しかし、貯蔵形態と環境との明瞭な関係性があり、かつその関係性が単純であれば、何故「それぞれ違った代謝調節機能が働」くのかは既に証明されているはずである。貯蔵形態と環境に関係性があったとしても、それは非常に複雑なものであると考えられる。
《参考Webページ》日本植物生理学会HP(http://www.jspp.org/), Home>みんなのひろば>質問コーナー>登録番号:0400(2010年6月27日閲覧)

A:このように、2つの「生き方」が併存しているとき、「デンプンよりもスクロースを貯蔵すると得になる環境要因は何か?」もしくは、「その逆が得になる環境要因は何か?」という点を考えてみると、案外、それらしい回答にぶつかるかもしれません。


Q:前回の講義で効率の悪い酵素として取り上げられたルビスコについて、ルビスコはO2が多く発生する以前からあった酵素なので、O2の存在条件下でのCO2固定の効率が悪いだけかもしれないと先生が今回の講義でおっしゃっていたことが気になったため、今回はそのことについて考えてみたい。現在の大気構成(特にO2量)がルビスコのCO2固定効率に適していないのかどうかを調べるためには、O2が多く発生する以前の大気構成の条件下にルビスコをおく場合と、現在の大気構成下におく場合とで、ルビスコのCO2固定効率がどのように異なるかということを調べればよいと考える。ここで、O2は主にストロマトライトによって30億年位前から合成され始め、約20億年前には大量に合成され始めたということであり、ルビスコはそれ以前に生まれたと考えられる。そこで、およそ30億年以上前の大気について調べたところ、詳しくはわかっていないようであったが、大気中にはかなり多くのCO2が充満しており、もちろんO2はほとんどなく、現在とはCO2とO2濃度が逆転していたようであった。したがって、CO2を多く充満させO2濃度を低くした所と現在の大気構成と同様の状態にした所とでルビスコのCO2固定効率を比較すれば、この疑問が明らかになると考えられる。
?参考文献?
http://www2b.biglobe.ne.jp/~cello/CosmicView/view_j.html#40to30
http://terra.sgu.ac.jp/earthessay/2Life/2_80.html

A:せっかくここまで考えたら、ルビスコの酵素的な性質を調べて、二酸化炭素の固定効率を実際に計算して欲しかったところですね。


Q:今回の授業でセルロースとバイオエタノールについて触れた。セルロースは地球上で一番多い有機物で、セルロースは分解しづらいため、細胞壁に利用されている。世界の植物の大半がセルロースからなるものなので、存在量も豊富である。21世紀に入ってから、地球温暖化がクローズアップされ、CO2排出を減らすための新エネルギーや代替エネルギーなどが活発に研究されている。バイオエタノールはその一種で、バイオマスエタノールに含まれる炭素は植物の光合成によって固定された大気中のCO2に由来することから、エタノールの燃焼によってCO2が大気中に放出されても地表に存在する炭素の総量は変化しなく、ただ単に炭素が循環するに過ぎないというカーボンニュートラルという考え方のもと研究されている。また植物から産出することから、再生可能エネルギーとされている。しかし、実際のところは生産過程でエネルギー源として化石燃料が使われ、化石燃料から合成される肥料や農薬が原料となる植物の栽培において使われる可能性があるため、生産過程まで含めると完全にカーボンニュートラルでない可能性が高い。ただし、現在の化石燃料を消費するエネルギー生産系に比べれば化石燃料の消費率が低い可能性も高いので利用価値は十分にある。ところが、現在のバイオエタノールは主にトウモロコシなどの食糧のグルコースを利用して作られているため、食糧問題とトレードオフ関係にある問題も指摘されている。それを解決すべく、食糧ではないセルロースを分解して作れれば食糧を減らさずにエネルギーを得ることができ、バイオエタノールを大規模に利用するにも、存在量の高いセルロースを使用することは避けられない状況と言える。すべてのバイオエタノールは主に酵素発酵によって作られている。そのため、セルロースからも同様に酵素や菌を用いて発酵させて作る研究がなされている。しかし、セルロースは世界の大半の植物の割合を占めるため、万一遺伝子組み換えなどの研究で開発したセルロースをエタノール化させる酵素や菌が野生化してしまえば、自然環境に破滅的な打撃を与えてしまう可能性もある。そのため、酵素によるエタノール発酵が一番効率的だと思うが、通常条件(常温・常圧など)で作用する酵素ではなく、比較的特殊な条件(高温・低温、酸性・塩基性、無酸素など)で作用するようなものを開発すれば、そのような危険性を回避できると考える。しかし、同時にあまりにも特殊な条件では、その条件にするために余計なエネルギーとコストがかかってしまうので、比較的安価で環境負担の低い条件を研究する必要がある。
参考文献:
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20080131/pr20080131.html
http://www.paj.gr.jp/eco/biogasoline/index.html
http://www.honda.co.jp/news/2006/c060914.html

A:セルロースとデンプンはどちらもグルコースの重合体です。その化学的性質の違いを利用して、植物は、分解しづらいセルロースを細胞壁に、分解しやすいデンプンを貯蔵物質として使っているわけですから、そもそもセルロースを分解して使う、ということ自体がハードルが高い目的となるのは明らかでしょう。研究は進める必要があると思いますが、このレポートで指摘されたような問題点は確かに存在しますから、なかなか大変でしょうね。


Q:私は今回講義内で紹介されたOsmondによる1978年のCAM植物の気孔伝達度とCO2固定、リンゴ酸の関係のグラフにおいて暗期から明期に変化する時に突然の少しの気孔伝達度の上昇があることが気になった。夜間に気孔を開きCO2を吸収しているCAM植物は明期に近付くに従って徐々に気孔を閉じているグラフを示しているにも関わらず、一度大きな開孔が見られるのはなぜだろう、と考えた時、まず浮かんだのは明け方特有の朝露と関係しているのではないか、という事であった。葉に朝露がつく時間帯には空気中に多く水蒸気が存在していると考え、その時間帯に一時的に気孔を開き、気孔から水分も吸収しているのではないかと考えた。蒸散の多い昼間に気孔を閉じる乾燥耐性を示している植物であるし、そこまでして水分を得ようとするのもつじつまがあう。これを証明する実験系を考えたがむずかしい。マークした原子を用いた水蒸気を含んだ空気で取り囲んだ環境を人工的に作り、暗期から明期への転換を行った後に葉の中にその水が取り込まれているかを確認したとしても、夜間のCO2吸収時にもそれを同時に吸収するはずであり、水蒸気のためだけに気孔を開いたかどうかの差異は見いだせない。また、調べてみたところ、そのような事実の報告は見つからなかった。この暗期・明期の切り替えの時期はphase2と言われるらしい。一時的な開孔と同時にCO2吸収が高まる。農林水産技術会議事務局発行の「光合成機構の多様性」(http://rms1.agsearch.agropedia.affrc.go.jp/contents/JASI/greenenergy/pdf/seika15.pdf)によると、この経過は光の強度、葉温などによって支配され、強光・高温である程早く進行するという。光の強度が強いほど地面の水分が地表に蒸発するとは考えられるが、葉温が高い事が関わって来る理由は私の考えた理論ではつながりが見いだせない。CAM植物はリンゴ酸を使いきると昼間にも光合成のために気孔を開くし、私の考えのようにしてまで水分を吸収しなければならないほどには水に困っていないということも考えられるため、私の考えは間違っている可能性が高いだろう。そうなると、気孔の一時的開孔によって高まるCO2吸収が以降の光合成になんらかのはたらきをしているという点で研究しなければならない。

A:これはよく考えていますね。最終的には考えた推論に対して否定的ですが、このように自分で理由を考えることが非常に重要です。


Q:C4植物とCAM植物の違いを作り出しているのはなにか、これはどうやらデンプンのようです。CAM植物では、リンゴ酸から生じたピルビン酸は糖新生でデンプンに再生されます。このデンプンという貯蔵形態が時間のGAPを生んでいるようです。CAMもC4もどちらも乾燥している地域では有利だと思われますが、なぜサボテンなどの砂漠気候で生育する多肉植物はCAM型なのでしょうか。これは砂漠気候の温度の日較差の大きさが影響していると思われます。つまり、ただ乾燥しているだけならばどちらの光合成でもよいのでしょうが、砂漠地帯では日中と夜間での差が特徴的であり、この差を利用するのに適しているのは時間的なGAPをつくれるCAM型です。C4はいくらCO2濃縮が可能であって、その点では乾燥に強くても、C4回路はデンプンという時間的GAPをつくる要因を介さないので日較差を利用できないと考えられます。ここで、これを確かめるための実験を考えると、土壌水分環境を砂漠程度にしたとき、温度を一定にした場合と日較差をつけた場合とで、アイスプラントを育ててみるのはどうでしょうか。もし、上記の考えが正しければアイスプラントは前者の条件ではC3型光合成を、後者ではCAM型光合成を行うのではないかと考えます。

A:日較差に注目したのが素晴らしいと思います。自分の頭で考えるという姿勢がいいですね。