植物生理学I 第6回講義

光環境応答

第6回の講義では、環境が変化したときに植物がどのように応答するのか、という点に焦点を絞り、おもに植物の光環境応答について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:前回の授業でもっとも気になった点は「光合成の促進が作物の収穫量に関係ない」という点です。私は前に光合成と風の関係性を調べ、風を送り光合成を促進させることが作物の収穫に良いということを調べました。光合成の促進のために農家の人たちが、ビニールハウス内で火をたいたり、扇風機で風をおくっているという話も見つけました。実際どうなのかをまずもう一度今回調べてみました。そこでフィリピン・ラグナ州の国際稲研究所(IRRI)がC3型の光合成タイプである稲をC4型にし、光合成速度を1.5倍にし、収穫量も5割増しを目指すというニュースを見つけました。ただしこれはまだ実現はしていないこと、光合成と収穫量の関係はいまだ未知であることが書かれていました。私は前回の講義にて関係はないといわれていましたが、このニュースを読んで、関係はまだ解明されていないだけであると考えました。
 まずC4型の植物はトウモロコシが挙げられますが、雑草にも多いということです。繁殖力の高い雑草がC4型、つまり光合成速度が速いということは、関係があると思います。正確には稲1本あたりの収穫量は上がらずとも繁殖力は増し、結果として収穫量は上がるのではないかと考えました。(稲は間引いたりしてしまいますが・・・)もうひとつの理由(実はこれが一番大きな理由ですが)は上記したように農家が光合成を促進するように実践しているという点です。研究では未知なことが多いですが、昔の人たちが収穫量を上げるために行ってきたことに間違いはないと私は思います(科学的な根拠はなかったとしても)。生態学の授業だったかもしれませんが昔から”くるみの木の周りには作物は植えるな”という教えがあったようです。これは調べてみるとくるみの木の成分(?)が他の作物には良い影響を与えないということがわかりました。このことを昔の人は教わったりせずにも感じていたのでしょう。科学的な理由はありませんが昔からの知恵を大切にしていきたいです。

A:ちょっと誤解があるようです。僕が講義の中で言ったのは「光合成の促進が作物の収穫量に関係ない」ではなく、「光合成を促進するような遺伝子改変(育種)を行なって作物の収穫量が増大した例はない」ということです。ですから、環境を変えて、つまりたとえば風を送って光合成を促進すれば収量が増えても不思議はありません。葉が二酸化炭素を吸収する場合には、境界層抵抗という葉の表面での抵抗があるため、風速が低いほど二酸化炭素の取り込みは小さくなります。だからこそ、風を送ると光合成が上がるわけですが、その場合には植物を改変したわけではありませんよね。また、本来置かれている環境とは異なる環境に置かれた植物の場合には、光合成を改変して収量を上げることができるかもしれない、という話をしたと思います。C3植物とC4植物については、今後の講義で触れますが、そもそも、得意とする生育環境が両者の間で異なります。C3植物を、C4植物が好むような環境(高温・強光)で育てて、そのC3植物をC4化すれば、それは生育が良くなります。植物を考えるにあたって、環境と切り離して考えてはいけません。C3植物をC3植物が優先する環境で育てておいて、そのC3植物をC4化しても、かえって生育は悪くなるだけでしょう。逆にいえば、自然ではありえない環境(C4植物が得意とする環境にC3植物が育っているなど)にあるときにはじめて、遺伝子改変による人工的な育種が成功する、というのが、僕の前回の講義のメッセージです。


Q:11/10の講義では、遺伝子改変によって人間の為になるような作物は作れるが、その作物自身の為になるような変異は起こらないという話があった。生物は遺伝子の変異と淘汰を繰り返してより環境に適応した遺伝子型が残っていく進化を繰り返しているから、それは納得できる。しかし、自然に起こりうる範囲での変異では、現在の遺伝子型が最適かもしれないが現在の遺伝子操作技術によって外来遺伝子を導入することによって自然環境の中でもより生育しやすい植物(作物)を作ることは可能ではないか?例えばある作物のDNAに外来遺伝子を挿み込み、害虫に耐性がつくようにすることは可能であるように考えられる。挿み込む遺伝子のサイズによってはうまく転写されないなどの弊害が、また産生される物質と生体内物質が影響を及ぼしあう可能性もあるため試行錯誤が必要になることとは思うが、可能性はあると思う。

A:これも、もう少し深く考察してみると面白い話題です。植物にとって害虫に食べられない、ということは極めて重要なはずです。そして、進化の過程で特定の物質の合成系を発達させることは、それほど「難しい」ことではありません。それが、外来遺伝子の助けを借りないとできない理由はなんでしょう?おそらく、第1の理由は、害虫の側も進化する、という点です。植物が時間をかけて殺虫成分を作れば、同じ時間をかければ、その殺虫成分を分解する酵素を作り出せる可能性は十分にあります。この場合、外来遺伝子を人間が導入して植物に殺虫成分を作らせても、しばらくするとそれを無効にする昆虫が現れることが予測されます。ただ、抗生物質耐性菌の場合と異なり、昆虫の場合は進化速度がそれほど速くありませんから、実用的には問題ないかもしれません。第2の理由は、そもそも特定の害虫が大きな問題となるのは、作物を一種類だけ大きな面積に植えているせいだ、ということです。イネの害虫は、人間が稲を大規模に栽培するようになる前にはこれほど繁栄はしていませんでした。つまり、特定の害虫が大発生する、という環境自体が、自然環境とはことなるのです。その場合、講義の中で述べたように、人間が改変する余地が生まれることになります。


Q:低温状態で光が当たると植物の光合成活性が急激に低下するとのことであった。であるならば、寒冷地などの低温環境に適応している種がこの現象にたいする防御機能を備えているはずである。考えられる防御機構は、1)物理的、形態的なもの。すなわち、授業の最後に出てきたような、膨圧コントロールによる葉の向きの変化や葉緑体の移動である。 2)分子生理学的なもの。すなわち、植物細胞が過剰に吸収してしまった光エネルギーをコントロールし活性酸素の発生などを防ぐ機構、などが考えられる。1)にはその適応範囲に限界があると考えられ、寒冷地に適応した種に特有な2)が存在するのであろう。その機構は、過剰に吸収してしまった光エネルギーをタンパク質などの別の物質に吸収させ、エネルギーの変換をし、化学エネルギーとして保存するかあるいは熱エネルギーとして放出する機構が考えられる。

A:きちんと考えていることが読み取れます。もうちょっと奔放な発想があってもいいけど。


Q:品種改良の話の中でイネが取り上げられていたが、ジャガイモの品種改良はどうなのか疑問に思ったので考えてみた。イネの場合、環境条件を変化させることで収穫量を増やしたとあったが、この場合の環境条件の変化は、個々にあたる光の照射量を増やすためにイネの背丈を低くするという改良であった。では地中で育つジャガイモはどうか、スーパーなどで目にする品種改良したジャガイモは、比較的小さい気がする。このことから考えるに、小さくなったことで地中から摂取する栄養、水分はジャガイモ全体に行き届き、どの細胞も十分な栄養を保持できるため味がよくなるのだろう。また小さくしたことで限られたスぺースでも以前のジャガイモより多くの実をつけることができる。さらに、多くの実がついたので全体の表面積があがる。地中から摂取する栄養や水分は供給すればいいだけなので数が増えてもひとつひとつのジャガイモはおいしくなる。では、小さくすることは可能なのか、これはジャガイモに成長抑制遺伝子を注入すればいい。小さくすることは可能であるのでこれが品種改良のジャガイモの収穫量の増加と利点になるのだろう。ならば、すごく小さくすればもっと収穫量は上がると考えられるが、あまりに小さくしすぎるとジャガイモ本来の特徴から離れてしまい、ジャガイモと呼べなくなるので、ある程度までしか小さくしないのだろう。

A:視点は斬新ですね。スーパーで見かけるジャガイモが小さい、ということですが、原種のジャガイモと比べるとどうなのでしょうね。僕も見たことはありませんが、原種はすごく小さかったりしませんかね?あと、ジャガイモを「実」と呼ぶのはちょっと…


Q:温暖地方の植物は低温に弱いが、それは低温によって光合成の機能が低下し、そこへ光が吸収されることによって過剰な光エネルギーが生じ、葉にダメージを与えるということだった。これに対して、低温に耐性を持っている植物は、ある程度の低温環境でもダメージを受けない。これは、低温になっても光合成の機能を低下させないための防御機構があるためだと考えられる。よって、低温の環境においてこの二つの植物を比較した場合、後者の方が生存に有利ということになる。低温ストレスが光と相乗効果を示し、暗黒下での低温が植物にあまり影響しないと考えると、温暖地方の植物を低温環境で育てる場合、低温になる時間帯に植物を光から遮断すれば、保温装置を用いなくてもある程度生育させることが可能と考えられる。具体的には、一日で最も低温になる夜間から朝方にかけて光を遮断し、気温が上がってから光に当てれば良いと考えられる。しかし、実際に農業で行われている手法を調べてみると、温度を調節する手法が圧倒的であり、あまり現実的な方法ではないと考えられる。

A:温度をコントロールするのと光をコントロールするのは、実は根本的に違う点が一つあります。つまり、温度は生育の阻害(たとえば枯れる)の原因であるとともに、生育速度の低下(ゆっくりしか成長しない)の原因にもなります。光を本当の低温のときに遮断すると、確かに枯れなくはなりますが、昼間も温度が低めであれば生育に時間がかかってしまいます。その点、温度を上げてやれば、枯れないだけでなく、生育速度も上がるわけです。実際に農業の現場で温度を調節する方法を採用している理由は、そのあたりにあるのではないかと思います。


Q:講義で「遺伝子の改変は、『通常』生存率の低下などを引き起こす」ということがありました。たとえば、遺伝子組み換え作物を作った場合、本来は人間が管理している環境の中でしか生活できないはずです。しかし、遺伝子組み換え作物について詳しく調べてみると、遺伝子組み換え作物の野生化、さらには抗生物質耐性遺伝子などが家畜や人間の腸内細菌に移っていくなどの遺伝子汚染などが問題になっていることがわかりました。では、遺伝子改変によって作られた生物が人間の管理から離れた場所で生き残る、ということがなぜ起こり得るのでしょうか?そもそも遺伝子組換えの利点の一つとして挙げられるのは、従来の品種改良(突然変異の発生を待つやり方)よりもより早いサイクルで新しい生物を生み出せることです。つまり、進化に必要な「突然変異→自然選択」のパターンのうち、「突然変異」を自然界よりはるかに早いスピードで生じさせることになります。そこで、遺伝子組換え作物が野生化しうる理由として、その生物が進化の過程で生じることのなかった新しい突然変異が生じた可能性が考えられます。あるいは、過去に淘汰されたはずの形質が、本来の生育環境と違う環境では適したものだったために選択される可能性もあります。さまざまな事例を調べていくうちに、冒頭の「遺伝子の改変は、『通常』生存率の低下などを引き起こす」という言葉のうち、「通常」でない場合の恐ろしさを感じました。
参考HP URL:http://www2.odn.ne.jp/~cdu37690/index.htm

A:ちょっと誤解があるようです。まず、生存率の低下がみられたとしても、「人間が管理している環境の中でしか生活できない」ことにはなりません。あくまで、長い時間スケールの中でみると、いずれ生存率の低い種は絶滅していく、という話ですから、何らかの理由で自然環境下に置かれれば、遺伝子組み換え植物であっても別に即座に死滅するわけではありません。また、遺伝子組み換えを、従来の品種改良とまったく異なる方法のように考えているようですが、放射線照射などによる育種でも、自然環境下での突然変異よりも何百倍何千倍変異を加速していることには変わりありません。また、遺伝子の水平伝播自体も、自然界で見られることです。遺伝子組み換え作物については、反対・推進両方の立場から様々な意見が出ています。ところが、生物多様性に対する影響などについては特にですが、遺伝子を組み替えていない作物に対しても同様に当てはまる影響について、あたかも遺伝子組み換えによる影響であるかの様に説明した議論も少なくありません。そのあたりは、何かを参考にするにしても、常に複数のソースに当たる必要があると思います。


Q:今回の講義の中で、植物の中にはフジなどのように朝・晩と日中で葉の向きを変えるという一見無駄な事をすることで光合成量を調節している物がいる、という説明を受けた。この説明を受けて私は、フジがなぜこのような仕組みを持っているのだろうと考えた。まず私は、生物は適者生存の法則を受けるため、この仕組みを持つことでフジは何かしらのメリットがあるのだろうと考え、そのメリットのある環境とはどんな環境だろうかということを考えた。フジの葉は光合成量を調節するために葉を閉じるのであるのだから、フジが自生するような環境というのは光がよく当たる、当たりすぎるような環境なのだろうとまず考えられるが、なおかつ今回の授業で受けた説明の中にあったように強光以外のストレス要因が掛かりやすいような環境なのではないか、とも考えられる。そこで、フジの自生場所について調べた所、日本におけるフジ属は二種類あり、そのどちらの種も光合成量を調節する仕組みを持っているかは調べる事ができなかったが、 このどちらの種類も山野に自生するということを調べられた(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%A4)。 山では平地に比べて気温が低くなりやすいため、低温によるストレスによって葉の光合成効率が低下しやすいと考えられ、もしも山中で光が強く当るような場所に植物が居ればその植物は平地にいる場合よりも過剰なエネルギーによって傷つく可能性が高いと考えられる。よってフジの葉っぱは山のような光以外のストレス要因が掛かる環境で強い光を受けた時にでも、エネルギー吸収量を落とすことで、傷つく事を避けるためにこのような仕組みを持っているのだと考えられる。

A:これは面白い視点のレポートですね。これで、よく似た2つの種類で片方は葉の向きを変えるけれども片方が変えず、しかもそれぞれ異なる環境で生育していたら、非常に面白い考察ができたでしょう。でも、十分に独自性のあるレポートだと思います。


Q:キュウリの低温障害について、光合成という観点からはキュウリは低温下でと光阻害との相乗効果により、ストレスを受ける。では、光阻害が起きないように上手く品種改良をすれば、キュウリは低温下でも生育できるのだろうか。答えは生育できないと考えられる。低温下においては蒸散が抑えられるため、養分が根から吸い上げにくくなる。また土壌細菌の活動も低下するので硝酸などが不足する。また暖かいところに生育するキュウリは、低温下で病害に弱くなるとも考えられる。キュウリは様々な面で低温に弱く、他のウリ科の植物の多くも低温に弱く品種改良で低温に強いキュウリを作るのは困難で、冬季にキュウリを栽培するには、ハウスで加温することが必要になってくる。エネルギー問題と食糧問題が重要視されている現代において、ハウス内で加温してキュウリを生産するのは極めて非効率である。そこで、以下の2つの対策が考えられる。
(1)冬場は温暖な地域でしかキュウリを栽培しない。この場合は当然、冬場のキュウリ出荷量は減り高価になるが、エネルギー問題や食糧問題のためには我慢も必要である。
(2)遺伝子組み換えにより、冬に強いキュウリを作る。ウリ科の植物は全般的に低温に弱いが、遺伝子組み換えにより、低温に強いキュウリを作ることができる可能性も考えられる。
ここで最も現実的と考えられるのは、遺伝子組み換え植物を研究・開発しつつも、安全性等が確認されるまでは、季節に合った植物を食料に利用することであろう。

A:確かに、キュウリ・トマト・ナスなどは昔は夏野菜といっていましたが、今は年中見られますからね。季節にあった作物を栽培する、という簡単な原則に立ち戻ることも選択肢の一つとして考えるべき時代が来たのかもしれません。