植物生理学I 第5回講義

光合成色素と光の吸収(続き)

第5回の講義では、前回に続いて、光合成の反応の出発点である光の吸収について葉の構造や、ふ入りの原因などにも触れながら解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回私は斑入りの植物に興味がわいたのでそれについて考えたいと思う。講義の中で取り上げられていたユキノシタを調べてみると、観賞用としても用いられる植物であるとわかった。ユキノシタはもともと斑入りの植物である。調べていくと斑入りの植物は一部が白色に近い色であり、緑とのコントラストが美しいとされ斑入りの鑑賞植物がある。本来斑入りとは遺伝もあるが病気などによるダメージにより葉緑体がなくなり白くなっている。そのため光合成という点においては不利であり、成長は妨げられる。そうなると斑入りの植物は自然に淘汰され、死んでしまうのではないか?斑入りになりやすい植物は絶滅してしまうのではないか?そうなるとユキノシタなどの遺伝的であると考えられる斑入り植物はどのように生まれたのだろうか?こうした斑入り植物が生き延びていたのは、ずばり鑑賞用として用いられたためではないかと考える。本来は弱いはずの斑入り植物も人間に美しいと捉えられ、鉢や花壇で育てられれば外敵や競う相手もなく成長を続けられるはずである。ただし斑入りでも美しくないものは除外されてきたのではないだろうか?そうして斑入りの美しさが生まれたと考える。植物は自分のピンチでさえも美しさに換え生きながらえたのではないだろうか。余談ですが、斑入りの美しさは海外には通用するのだろうかと思いました。日本独自の儚い美しさをかもし出す斑入りは海外には通用しないかもなと思います。

A:今回は、ふ入りの話のレポートが非常に多かったのですが、このレポートは最後の日本と海外の違いに関する考察が面白かったので、取り上げました。ただ、園芸の分野ではふ入りが珍重されるのは確かではあるものの、野生植物にもふ入りはあるので、そこを全て一つのストーリーにまとめるのはやや無理があるかと思いました。


Q:葉の表の柵状組織では光は全反射で通過し、葉の裏の海綿状組織で乱反射することで、光を波長ごとに分け、赤色の波長と青色の波長の光はクロロフィルにぶつかり吸収されることを学びました。また吸収されなかった光がふたたび柵状組織を通って戻り、葉を緑色に見せていることも学びました。そこで実際に入ってきた光と戻ってきた光がどの程度なのか計算してみようと思いました。まず400nmから760nmの波長の光と葉緑体の色素の吸収スペクトルを調べると以下のようになりました。
表:各波長と光合成色素の吸収率
波長 光の吸収率 波長  光の吸収率
(nm)   (%)    (nm)    (%)
400     70     600     33
420     75     620     36
440     77     640     44
460     71     660     53
480     70     680     63
500     57     700     22
520     30     720     7
540     22     740     4
560     25     760     2
580     30
そこで各波長の光の量は同じだと仮定して計算すると、入ってくる光を100%とした時に全体で42%が吸収され、戻ってくる光は全体で58%あることが分かりました。吸収された光を100%とした時、青紫色光は29%、赤色光は7%を占めていました。また戻ってくる光を100%とした時の内訳は、青紫色光7%、赤色光3%、緑色光24%、その他(黄色、橙色と中間色など)66%でした。葉が緑色に見えるのは、青色や赤色の光も戻ってきますが、緑色光がかなり多く戻ってきているからだと考えられます。また緑色の光も吸収されていることから、青色の光を反応中心に集めるのにより長波長のよりエネルギーの低い緑色光が使われていると考えられます。
参考文献:ニューステージ新訂生物図表 浜島書店編集部 2002年浜島書店出版

A:これは、定量的な考え方をきちんとしているので取り上げました。少しわからないのは、「青色」「青紫色」「赤色」という色の定義です。色と波長の関係は必ずしも決まっていないと思いますので、どのように定義したのかを示さないと論文などでは困ります。ただ、レポートとしてはこれで充分でしょう。


Q:今回の授業では葉の構造が光合成に適するように組織されているということを学んだ。柵状組織が葉表面に並び、隙間の多い海綿状組織が裏に配置しているが、葉の裏側に太陽光が当たるとむしろこの構造は光合成の効率が悪くなってしまうのではないだろうか。たとえばイネは葉があまり広がることなく上に直立し、少し日が傾き横から太陽光が当たった場合、太陽側から出ている葉は太陽に裏側を向けることになる。さらに葉鞘の部分は表を内側に、裏を太陽光に晒しながら茎に巻きついている。このようにイネは多くの割合で葉の裏側を太陽に向けているが、これは進化の方向的に見て矛盾しているのではないだろうか。イネの場合古くから人為的に交配させ品種改良が行われて来た。よって、これが原因でこのような形態となったのではないだろうかと考えられる。

A:これは、僕の説明が足りませんでした。実際には、柵状組織と海綿状組織の差がよくわかるのは厚めの木の葉っぱなどで、葉の立ったイネ科の植物などの場合は2つの組織は明確に分かれていません。ですから、説明に、「葉の表と裏がはっきりとわかる植物においては」という限定をつけるべきでした。なので、レポートの最後の部分の考察は事実とは異なりますが、きちんと理由を考えたという点では評価できます。


Q:ツバキなどの照葉樹では、葉の表面にクチクラ層が発達していて、葉に光沢があるが、光沢があるということは葉の表面で光を反射していることになり、これは光合成を行うには都合が悪いのではないかという疑問をもった。クチクラ層は乾燥や紫外線に対する防御器官で、乾燥地や海岸で生育する植物でよく発達している(1)。このことから、このような環境で生育する植物にとっては、多少光合成能が低下してもクチクラ層は必要不可欠な構造であったと考えられる。ツバキなどを考えると、クチクラ層の発達している植物は、葉が厚く、葉の色も濃い。今回の講義で学んだことには、葉の表面が裏面に比べて色が濃いのは、表面には柵状組織が存在し、光が葉の奥深くまで進入するためだということだった。つまり、葉の厚さを大きくするほど光が奥まで進入し、光合成能が高くなる。同時に葉の色も濃くなるということになる。このことから、ツバキなどの照葉樹は葉を厚くすることで光合成能を高め、クチクラ層で光を反射するデメリットを補っているのではないかと考えた。あるいは、クチクラ層の発達している植物の葉が厚いのは、葉を厚くすることによって葉の面積を小さくし、クチクラを形成するコストを抑えるためだというようにも考えられる。
参考:(1)http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/epidermis.html

A:最後のは、葉の面積を小さくする代わりに厚みを厚くする、ということですから、葉の光合成細胞あたりのクチクラの面積を少なくする、という論理ですね。面白い考え方だと思います。その場合に、もう一つ考えて欲しいのは、「光合成能」というのを何あたりで比べるのか、という点です。光合成能を葉の面積あたりで比べた場合、確かに葉を厚くした方が光合成は大きくなるでしょうけれども、光合成細胞あたりで比べた場合は、むしろ葉が厚いと弱い光しか届かなくなる細胞が出現するために、光合成は小さくなるでしょう。「何あたりでくらべるか」というのは、見逃しやすいのですが、案外重要なポイントです。


Q:前回、前々回と葉の色について考察したが、今回の授業で葉が黄葉する原因としてクロロフィル合成系の遺伝子に変異が入るということに、全く考えつかなかったので発見できてよかった。 また、生徒からの指摘で斑入りの原因について出たが、それについても興味が沸いた。斑入りについての原因を他にも調べてみた結果、ウイルス感染や遺伝的な要因の他に遺伝は遺伝でも細胞質遺伝による斑入りや周縁キメラによる斑入りといったものが存在することがわかった。この二つの原因について調べた。まず、細胞質遺伝による斑入りは、単純に遺伝の原因ではなくそのまま細胞質遺伝が原因というだけで、細胞核ではなく細胞質にある葉緑体の遺伝子が原因で、その葉緑体の合成能力が失われ、斑入りが生じるといったものであった。ただし、このときの斑入りは花粉からでなく胚珠から遺伝されるため、多くの場合不安定な斑入りであり、白葉や緑葉に分離してしまう場合がある。もう一つの周縁キメラによる斑入りとは、普通植物は3層構造であるが、このいずれかの層で葉緑素が失われることによる斑入りについてをいう。各層で斑入りのものと正常のものの2通り考えられるので全部で8通りある。また、覆輪・二重覆輪・中斑というものがあり、これらは不安定な普通の斑入りではなく美しい模様になる。しかし、いずれも種子を蒔いても斑入りは遺伝しない。
[参考文献] 斑入りのメカニズム http://www.poporo.ne.jp/~kondoh/fuiri/mecha.htm

A:これは、申し訳ないのですが、レポートとしてダメな例として取り上げました。講義の最初に明確に説明したように、単に調べたことを書いたレポートは評価しません。ここで述べられていることは、参考文献に挙げられているサイトの説明の要約に過ぎません。しかも、その説明を完全に理解せずに要約しているように見えます。確かに、元のページに「普通植物は3層構造である」旨述べられていますが、この「層」なるものが何かわかるでしょうか?
 調べることはレポートの出発点としては大事ですが、レポートとして要求されているのは、調べたこと自体ではなく、そこから自分で考えた論理です。


Q:フィコビリソームについて調べ考察してみた。フィコビリソームは授業であげたシアノバクテリアのほかにも、紅藻に見られる集光アンテナである。その構造はフィコエリスリン、フィコシアニン、アロフィコシアニンによるdeep trap構造で出来ている。フィコビリソームを形成する色素はクロロフィルよりも短波長の光を吸収することができる。これにより、緑藻よりも深い水域で光合成をすることが可能である。ただし、フィコビリソームは形成するのに多くのエネルギーがかかるため、植物にとっては大きな負担でもある。
 実際にフィコビリソームが深い水深で優位に働くのか、確認する実験系について考えてみた。まず、シアノバクテリアと緑藻を準備する。それぞれを別々に、そして同じビーカーで培養する。そしてそれぞれのビーカーの光環境(波長や強さ)を変えながら時間経過とそれぞれの個体差を計測する。
 光環境のよい場合、両方培養しているビーカーでは緑藻のほうが個体数で上回るだろう。一方光環境が悪い、短波長の光で飼育した場合、シアノバクテリアのほうが優位に立つのではないだろうか。この関係を水深と個体差に置き換えれば、各藻類が優位に繁殖できるラインが分かるかもしれない。もし、住み分けるようなことがあったら興味深いと思った。
参考文献:北大http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/39159、植物生化学(Springer)

A:光環境がよい、悪いを変える実験を考えていて、評価できます。ただ、もう一つ重要なのは光の色です。緑藻が生育している場所を通り抜けた光は緑色になって、クロロフィルでは吸収しづらくなりますが、フィコビリンではまだ吸収できます。「深い水深」といったばあい、単に光が弱くなるだけではなく、光のスペクトルも変わるわけです。そこまで含めて議論できたらレポートとして完璧です。


Q:授業で葉の裏側の色が薄い理由が取り上げられていた。確かに、植物の葉はどれも表のほうが濃い色をしている。しかし、以前誰かと落ち葉を拾いながら、イチョウは表裏が余りわからないという話をしたことがある。なぜ、他の葉は色が違うのにイチョウは似ているのだろうか。紅葉(黄葉)とは葉柄に離層が形成されると葉や茎の間で水や養分の流れが止まってしまい、クロロフィルが分解される。すると、今までクロロフィルによって隠れていた色素の色が発色して、紅葉(黄葉)がおこる。そして、葉の裏側が薄い理由は葉の裏側に海綿状組織があり、間隙が多く、乱反射しやすいやめに色が薄く見える。濡らすと間隙が水で埋まり、色が濃く見える。これらのことから、イチョウの葉は濡らした時と反対の事が起きているのではないかと考えれる。黄葉しているときは葉の内部の水分が不足している。すると、柵状組織の水分も少なくなって組織間に間隙が生じ、裏側と同じように光が乱反射して、裏側と同じような色に見えると考えられる。

A:これは、自分の観察(観察も一種の実験です)に基づいて講義で取り上げられたトピックについて考察を加えている、という点で極めて高く評価できます。この場合、「イチョウは表裏がわからない」というよりも、「イチョウの(黄葉した)落ち葉は表裏がわからない」ということですね。黄葉に伴って水分が減少することが理由であれば、イチョウも、最初に緑の葉として木についている時は、表裏がわかる、という理屈になるはずです。本当にそうかな?


Q:10月27日の授業では、フィコビリソームの構造に興味を持った。アロフィコシアニンの周りにフィコシアニンの層があり、その次にフィコエリスリンの層があるといった構造である。全体としてはおにぎりのような形をしているそうだ。吸収波長は、アロフィコシアニン>フィコシアニン>フィコエリスリンの順に大きい。また、光の波長が大きいほどエネルギーは小さい。私はこの説明を受け、フィコビリソームの構造は漏斗の構造に似ていると考えた。大きいな入り口から、小さな入口へ変化していく構造が似ている。そこで、疑問に思ったことがある。フィコビリソームはなぜ入り口のアロフィコシアニンと出口のフィコエリスリンの間にフィコシアニンをいれたのだろうか。漏斗の場合では、漏斗の斜面部分が長いほど壁面につく溶液が多くなりロスが増える。フィコビリソームの場合でも、通過するものが多いほどエネルギーのロスが多くなると考えられる。このような構造をフィコビリソームがとった理由として、私は、光の入り口を広げるためだと考えた。中心のアロフィコシアニンに達するまでの距離が長ければ長いほど、フィコビリソーム全体の大きさは大きくなる。その結果光に触れる可能性が高くなるのだと考えられる。エネルギーの受け渡しによるロスと、吸収の効率.を考えた結果の大きさなのではないだろうか。植物体内のクロロフィル量が少なく、ひとつひとつのクロロフィルに効率よく光エネルギーを集めるために、アンテナであるフィコビリソームを大きくする必要があるのだと考えた。私たちが利用しているアンテナも、大きいほど電波を受けやすくなるのと同じである。

A:これも、自分の独自の考えを述べているという面では評価できます。漏斗との比較というのは面白い観点だと思いますが、漏斗とフィコビリソームは大きく違う点も一つあります。それは、漏斗は一番上からしか入らないのに対して、フィコビリソームは途中からも光を吸収することができる、という点です。ですから、フィコビリソームの場合、別に「入り口」はフィコエリスリンに限りません。フィコシアニンも光を直接吸収しますし、しかも、フィコシアニンの吸収する光のスペクトルは、フィコエリスリンやアロフィコシアニン、クロロフィルとは異なるわけですから、他の色素が「苦手とする」領域の光を吸収できる、という意味でも存在意義があることになります。


Q:今回の講義で最も興味を持ったことは、孝謙天皇の和歌が、植物ウイルスに関する記録であるということである。これに関して調べたところ、2003年にNatureに掲載された「The earliest recorded plant virus disease」という論文がこの情報の元であった。この論文を読んでみたところ論文の内容は、葉が黄色くなったヒヨドリバナのDNAにはウイルスのDNAが入っており、そのウイルスDNAを正常な個体に導入すると葉が黄色になる、というものであった。ここで強く感じたことはこの論文において、「The earliest recorted plant virus disease」というタイトルは果たして適切だったのであろうか。この論文で孝謙天皇の和歌については最初の段落でしか述べられていない。しかも、この和歌が植物ウイルスに関する最古の記録であることについては議論されておらず、参考文献の「Inouye, T. & Osaki, T. Ann. Phytopath. Soc. Jpn 46,49?50 (1980).」の論文を読まなければならない。Natureがこのような論文を採用したことに疑問を感じ調べたところ、これは「brief communications」という種類の論文で、幅広い読者に興味を持ってもらうためのものであることが分かった。我々学生が論文を調べる際には、論文の種類にも注意して調査する必要があるだろう。
参考文献:Title: The earliest recorded plant virus disease
Author(s): Saunders K, Bedford ID, Yahara T, et al.
Source: NATURE Volume: 422 Issue: 6934 Pages: 831-831 Published: APR 24 2003

A:まさにその通りですね。Natureの論文のタイトルは僕も不適切だと思います。講義で紹介する際に、初めはせっかくなのでNatureの当該論文の写真を見せようと思ったのですが、どうも、論文として腑に落ちないので、やめました。確かに「brief communications」というカテゴリであるのはそうなのですが、それでもちょっと。論文をきちんと読んで、しかも批判的に議論できるというのはレポートとしてすばらしいと思います。なお、Natureから引用されている論文は植物病理学会の日本語誌(英文要旨つき)で、国立情報学研究所のCiNii(早稲田も契約している)からPDFを手に入れることができます。