植物生理学I 第3回講義

光合成の研究

第3回の講義では今後の光合成研究の方向性について簡単に紹介しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。今回は、僕の意図が伝わったようで、きちんと考察をしたレポートがほとんどでした。


Q:今回の授業でパワポでもあるように食物連鎖をたどっていくと?という問いに興味を引かれた。普通に考えると植物なのであるが、よく考えると植物が無ければ人類はもちろん動物はこの世界で生きていくことができない。いくら人類が発展しても二酸化炭素と水を原料にして糖分をつくることはできない。また、授業で植物の老化について、動物の老化とは異なり、下部の光環境が悪くなるので、生産効率を上げるために老化するというのは理解した。では、葉が緑から黄色になるのは老化なのか?これは、葉が再利用可能な窒素を回収するとき、窒素を回収するとクロロフィルの色が無くなり、葉が緑色ではなくなるのである。黄色は回収しなかったカロテノイドの色である。紅くなるのは窒素の回収に先立って葉にアントシアニンが合成されるからである。ここで、疑問に思ったのは植物が完全に老化をして寿命を迎えるのはいつなのか?生産よりも消費のほうが多くなったときに衰退していくときだと私は考える。

A:いろいろ考えていて、レポートとして合格点だと思います。ただ、できたら、多くの点を考えるのではなく、1つの点について深く考察して欲しいところです。例えば、老化時の色の変化1つ取っても、なぜカロテノイドは回収をしないのか、という疑問が生じます。これには、カロテノイドは炭素は含むけれども窒素は含まないから、という答えが考えられますが、ではなぜ炭素も回収しないのでしょうか。そのあたり、考察を深めるポイントはたくさんあると思いますので。


Q:鉄を海にまくことで植物プランクトンを増加させることができる、このことに興味を持った。植物プランクトンを増加させ、光合成を行わせることで、地球環境問題を解決することができるかもしれない。非常にすばらしい考えだと感じた。しかし、実際にはこの方法を使って継続的に植物プランクトンを増加させることはできていないそうだ。海に鉄をまいたとしても、一時的には植物プランクトンを増加させることができるが、取り込まれた鉄が植物プランクトンの死滅とともに海底へ沈んでしまうため、継続的に増加させることができない。地球環境問題を解決する可能性を秘めたすばらしい発見であると感じたので、この発見を利用して地球環境問題を解決する方法を考察した。この発見を利用する方法として、私は、一時的な増加にしかならないかもしれないが、積極的に鉄をまくべきであると考えた。すべての船で、移動する際には鉄をまき続けるようにするといった方法が考えられる。たしかに、短い期間で見れば、植物プランクトンの一時的な増加のみの効果しかもたらさず、海底に沈んでしまう。だが、長い期間で考えると、海流などによって沈んだ鉄は海面に戻る可能性があり、もう一度植物プランクトンを増加させることができる。さらに長い期間でみれば、沈んだ鉄は最終的に鉄鉱石となり、もう一度、人が鉄を利用できるはずである。このとき鉄鉱石から精錬した鉄をもう一度海にまけばよい。こうして鉄のサイクルを作り出すことができると考えられる。地上で廃棄方法に困っているのならば、海にまいてしまう方がよいのではないだろうか。問題点も考えられる。ひとつは、鉄鉱石になるまで非常に長い時間が必要であること。もうひとつは、鉄鉱石から鉄に精錬する際に発する二酸化炭素量の方が、植物プランクトンが光合成により固定する二酸化炭素量より多かった場合、二酸化炭素を増加させることになってしまうことである。このような発見の積み重ねが、地球の環境をよくしていくのだろう。いつの日か地球環境問題が解決することを願っている。

A:このレポートもきちんと考えられていますし、自分の回答に対する問題点をさらにもう一段考えているところが特によいと思います。一つの回答を絶対視しない、というのは科学的な考え方の基礎だと思います。


Q:講義の中で「マーチンの鉄仮説」についての話題がありました。私は最初、クロロフィルが持つ金属イオンが鉄だから鉄を撒くのか、と思っていたのですが、自分の記憶をたどってみてもそのような覚えがなかったので、調べてみました。クロロフィルにはa b c dがあり、それぞれが保有する金属イオンはすべてマグネシウムでした。鉄は撒くのにマグネシウムは撒かないのか、と素朴に疑問に思いましたが、最近流行の海洋深層水のうたい文句がマグネシウムだったと思いつき、海水の組成を調べてみました。するとマグネシウムイオンは塩化物イオン(55.07%)、ナトリウムイオン(30.62%)、硫化物イオン(7.72%)についで4番目に多く、3.68%でした。(『地球の水圏』)マグネシウムは撒くまでもないということがわかりました。そして鉄について調べていくうちに、「植物の鉄欠乏によるストレス」というトピックにあたりました。そして「そもそも鉄は植物にとって葉緑素の合成に不可欠な元素である」ということにたどり着き、当初の疑問が解けました。また蛇足になりますが、調べ物の最中鉄仮説とは別にシリコン仮説にも触れました。こちらは実践には至っていませんが、珪素は地殻の主要構成成分なので、鉄よりも断然撒きやすそうだと思いました。

A:このレポートは、考察を量的な事実に基づいて行なっているところが評価できますね。考えて、調べて、また考えてみる、というサイクルは、よいレポートを書くコツです。


Q:光合成研究にとって重要なエネルギーの流れは、結晶構造からは分からない、この事実に興味をもったので考察したいと思います。前回の授業でも習ったように、生物は秩序を維持するために絶えず物質の交換をしています。一言で言えば動的平衡です。要するに、そのような物質の流れがあって初めて生物は”生きている”わけであって、流れていなければそれはただのモノでしかありません。その意味でいえば、よく実習などで行う標本の観察では、あくまでも標本というモノを見ているだけであって生きている生物を見ているとは厳密には言えません。ルドルフ・シェーンハイマーは、重水素をトレーサーとしてネズミに与えてやる実験で、結果として「身体構成成分の動的な状態」という新たな生命観を生みだしました。しかし、彼は実際に物質が分子レベルで入れ替わっている様子を見たわけではありません。ネズミを分析した結果から、そのような一連の流れを導き出したのです。技術の発達により、より細かい次元の観察が可能になっています。しかしながら、それら部分部分をいくらつなぎ合わせて流れを見出そうとしても、本当の意味での流れの観察にはならないと思います。現実として可能かどうかは別として、様々な流れをリアルタイムで観察することができれば、新たな発見もしくは通説をひっくり返すような結果も得られるかもしれません。
参考文献:「生物と無生物のあいだ」「世界は分けてもわからない」 どちらも福岡伸一 講談社現代新書

A:これは、内容は悪くないのですが、そのアイデアを人に頼りすぎています。事実関係を本なりホームページなりで調べて、それに基づいて考察するのならよいのですが、考察の方向性自体を参考文献に頼ってはいけません。もし、動的平衡に興味を持ったのであれば、それについての自分なりの考えの発展を付け加えなくては自分のレポートになりませんからね。このレポートはいわば本当のレポートの導入です。例えば、「様々な流れをリアルタイムで観察することができれば」という部分、ここから、実際に自分の頭で考えて、どのような条件が満たされればそのような観察が可能になるのだろうか、というような考察が入って初めて完璧なレポートになります。


Q:今回の講義で一番印象に残ったことは、森などで木が倒れたときに、またそこに木が生えてきて、光合成をするということです。光のエネルギーを無駄にしないようにしているということが感じられます。光のエネルギーは弱いと聞きましたが、一体どれほどなのでしょうか?試しに携帯電話を光エネルギーで充電してみました。コンセントから普通に充電した場合は10秒ほどで1パーセント分充電できました。ここでの1パーセントというのは2分間通話ができる電気エネルギーの量です。結果としては、蛍光灯などの人工的な光や多少でも曇っているときには充電できず、快晴の中、太陽にソーラーパネルを向けても5分間で1パーセント程度でした。やはり植物は上手くできていて、少ないエネルギーを無駄にしないようにしていることを確認できました。今回の講義のパワーポイントはコースナビにアップしてもらえないのでしょうか?

A:簡単なものとはいえ、実験をしてみるところが偉いですね。すみません、講義資料の件、忙しくて忘れていました。先ほどアップしました。


Q:「進化の実験的な裏付けは誰にもできない。微生物では、実験的に再現できるようになった。」という説明を受けて、ではなぜ、微生物ではできてもほかの生物ではできないのか、また実験の結果が進化の再現といえるのか、これらについて考えてみる。微生物で行えるのはなぜか、それは微生物は生活環が短いため観察しやすいと考えられる。微生物の進化の実験はほんとに裏づけとなりえるのか、これは長期間の観察、および外的要因などの変化を再現できるのであれば、完璧ではないが裏づけといえるのではないだろうか。現に、大腸菌を用いて、2万世代にわたってどのように環境に適応するのかをレンスキーという学者が探求している。この研究によると、初めの数百世代で早い適応度の増加(増殖スピードの増加)が観察されることや、特定の炭素源に適応すると、ほかの炭素源に対する適応度が下がることなどが見つかっている。また、変異率や集団サイズの効果などの集団遺伝学上の問題にも実験的検証がなされている。すなわち、微生物で実験的進化が再現できる理由は、世代交代の早さ、実験のスペースを取らないというメリットがあり、ほかの生物では、世代交代が遅い、スペースをとるなどのデメリットがあるから、ほかの生物を用いて実験を行ったとしても、観察する世代が短いと変化も起こりにくく、これまでの進化を振り返る上で参考になりにくいのである。しかし、まったく行われていないわけではなく、形質変化を比較的観察しやすいというメリットもあるため、ショウジョウバエを用いてミューラーにより実験が行われていた。これにより多細胞生物でも実験的に検証が可能であることを示した。つまり、ほかの生物で行えないわけではなく、世代交代が遅いため観察するのに適していないのである。また、実験結果はある理論や因果律の裏づけにはなりえるが、それを自然界に適用することはできない。なぜならば、複雑な要因が絡んでくるからだ。つまり進化の再現というのは、あくまである理論の中だけで成立するものである。

A:レポートとしては合格点だと思いますが、書いたあとに論理のつながりをもう一度考えてみた方がよいかも知れません。レンスキーの結果を紹介して、そのあと「すなわち」と論理を展開しているのですが、メリットデメリットの議論は、本来微生物の実験だけからできるものではなく、他の生物との比較においてのみ成り立つものですよね。そのあたり、うまく記述するともっとよいレポートになります。


Q:今回の講義では光合成研究のアプローチ方法がメインテーマだったと思うが、私が興味を持ったのは分子生物の視点から植物を考える方法だった。確かにどの遺伝子がどのシグナル伝達に関係しているのかを調べれば、植物に限らず動物も含めたすべての生物のことがすべてわかるということになりそうだけど、実際問題そうはならない。自分が植物をテーマに研究をするとしたら、今世間で注目されているiPS細胞の研究を植物に応用する研究をしたい。種子植物ももとをたどれば卵細胞と精細胞からできているから、動物と同じようにiPS細胞を作り、さらに遺伝子組換え技術を組み合わせれば、品種改良する必要もなくなるし、世界の食料問題も解決すると思う。

A:これは基本的な事実誤認があるので・・・。iPS細胞は、いろいろな細胞に分化できる細胞ですよね。逆にいえば、普通の動物細胞はいったん分化したら他の細胞に分化できないからこそiPS細胞のありがたみがあるのです。ところが、植物の場合は、枝を切って土に挿しておくと挿し木といって根が出てちゃんとした植物体になります。つまり、ちょっと考えてみるとわかるでしょうけれども、植物はいったん枝に分化した細胞でも、また根になったりすることが可能なのです。つまり、ほとんどの細胞が自然の状態で万能細胞なのです。植物と動物が大きく違う重要なポイントの一つです。


Q:今回の授業で扱った内容の中に光が海に届くということに関して、海水の上部では光がよく到達し栄養はあまりない、また反対に海水の深い部分では光はあまり到達せず栄養分は多くあるという話題があった。そしてそこから生命の進化との関連で光合成をして且つ移動をできるという適応進化したタコクラゲという生物も扱った。私自身タコクラゲという生物の新鮮さにとても興味を持った。そこでなぜタコクラゲのような生物がとても多く繁殖することなくこの世界が成り立っているのかを考えると、まずタコクラゲのような生物は類まれな進化を経てそのような性質になっていると考える。またそのような生物は光合成をするために毎度移動をしないといけないので生物としての生活が安定しない、そしてそのような進化は自分のみを守るためでもある捕食能力が発達しずらく逆に捕食される機会が増え、種として繁殖しずらいのではないかと考えられる。

A:確かに、食虫植物というのがあるにせよ、基本的に光合成をする生物は補食能力がないですからね。面白い考察だと思います。