植物生理学I 第14回講義

人工光合成

第14回の講義では、植物生理学とは少し離れますが、人工光合成にはどのようなものがあって、現時点でどのぐらいまで進んでいるのか、という点について紹介しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回は人工光合成のお話でしたが、それを聞いていて、ふと思ったことが、植物が生育できない環境のことでした。一般的に植物が生育できない環境となると考えられるのが、砂漠だと思います。もちろん、サボテンなどの植物もいますが、劣悪な環境となると、誰しも砂漠を考えるでしょう。砂漠の緑化計画については色々なことが考えられてきたと思います。地下に水道管を通して、水分を行き渡らせられるというのも考えられているはずです。自分の記憶の中で一番印象的なのは、納豆を使って水分保持しやすい物質を作るというものでした。調べてみると、納豆の糸、つまりグルタミン酸を利用して作られた納豆樹脂は、約5000倍もの水分を蓄えられるというものでした。このインパクトが自分の中で強かったので記憶に残っていたのだと思います。工業的にはオムツにも利用されているとのことなので、身近な物質だということも分かりました。自分がこの先研究していくのなら、そんな世のためになる物資の発見・研究をやりたいなと思いました。あと、根枯れなどの問題については、以前にも紹介したナノバブル水を利用すれば・・・と考えていますので、自分でトライできればと思います。

A:砂漠の緑化の話もしようかと思ったのですが、機会がありませんでした。砂漠の緑化について考えなくてはいけないのは、砂漠化の進行自体は人為的な要因が大きいので、いくら緑化の技術が進歩しても、一方で、砂漠を作り続けていれば意味がない、ということがあります。暴飲暴食をしながら胃腸薬を飲む毎日と、ちょっと似ています。


Q:今回の授業では、半導体を用いた色素増感型太陽電池は、効率が悪いとのことだったので、効率を上げるためにどんなことをすればいいか考えてみました。まず半導体を用いた色素増感型太陽電池では葉緑体の数を増やすために酸化チタン微粒子や電極の表面積を増やせばいいと考えましたが、増えた表面積のすべてに光を当てるのは難しく、重なってしまうと、結局効率が変わらないと考えました。次に植物体が強い光でストレスを受けるといった障害は半導体を用いた色素増感型太陽電池ではないので、強い光を当てることを考えました。しかし、今度は色素で吸収したエネルギーのすべては微粒子、電極に上手く届けられないと考えられます。表面積を増やしたうえで、すべての面に光を届けるには電極の面を回折格子のように切り込みをいれ、そこに酸化チタン微粒子や色素を結合することで、回折格子によって光が散乱され、増やした分の色素がエネルギーを変換でき、効率が上がると考えました。

A:光を扱う技術の問題点がきちんと認識されていますね。生物の力を利用する技術としては古くから発酵などがありますが、それらと違って光を使おうとすると、体積を増やせばよい、ということにならず、表面積が重要になってきます。半導体を使う太陽電池であれ、植物を使う農業であれ、人工光合成であれ、それが常に問題点として付きまとうことを頭に置く必要があります。


Q:光合成の効率に関しての話があった。まず何を持って効率というかという問題だが、まず光合成に関して最も重要なのは何であるか。二酸化炭素の削減という観点からいっても、バイオ燃料という観点からいっても、ある土地条件あたりの一定期間の有機物の生産量だろう。光のエネルギーは太陽光を測定し単位面積当たりで換算し、有機物のもつ化学エネルギーは乾燥したものを燃焼することによって得られる熱エネルギーを測定すれば光合成の効率を算出することが可能であると考えられる。また、植物の個体密度によっての差は、個体密度によら得られる有機物量は同じ(最終収量一定の法則)なので考えなくてよいだろう。

A:確かに、エネルギーの最終固定効率で比較するというのは、一番よい方法かもしれません。ただ、一方で、異なる植物の間をどのように比較するか、というのは問題として残ります。弱光で生育の良い植物と強光で生育の良い植物を比べるときに、同じ光で比べたらば問題でしょうし、かといって、光の強さが違うときには、どうやって比較するかという問題が生じます。それぞれの植物が一番力を発揮する条件で比べるというのがあり得ますが、そうすると強光・高温で生育の良い植物が有利になるのは当たり前なので、意味があるのかどうか考えてみないといけませんね。


Q:太陽エネルギーを利用した人工光合成機構を確立することの目的としては、温暖化防止のための炭酸ガスの固定と化石燃料に代わる燃料としての水素の生産の二つの目的が挙げられる。このうち、現状では炭酸ガスの固定は植物に比べるとほとんど実用性がないと考えると、人工光合成を行う主な目的は水素の生産だと言える。これに対し、緑藻を用いた水素生産の話を以前聞いたことがあるので、人工光合成によって水素を生産する方法と、緑藻に水素を生産させる方法を比較した。 緑藻「クラミドモナス」を硫黄の無い条件下に置くと、一定時間継続して水素を生成することが分かっており、これを利用して緑藻を繁殖させ、水素を製造する方法が研究されている(1)。実験で得られた水素の量が理論に満たないなどの課題があるが(2)、半導体と光触媒を利用した人工光合成と比較してこの方法の利点として、手順が単純で必要な材料が少ないことが大きいと考えられる。水素の大規模な生産を目的とした時、この差は水素を利用する時の課題となる(3)コストに大きく影響するのではないかと考えられる。この点だけ考えると、人工光合成で水素を生産するよりも、緑藻を用いた方が効率的なのではないかと感じた。
参考:(1)(2)(3)http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/958/958-04.pdf
http://www.waseda.jp/prj-risf/H2-3.html
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jsssj/24/1/19/_pdf/-char/ja/

A:実用化を考える場合には、発生した水素をどのように回収・貯蔵・輸送するか、といった全く別の面からのコスト計算が必要になります。また、実際にそのようなシステムをどこに作るのか、という問題もあります。エネルギー変換効率が0.1%などと言っている間は、効率を上げることが重要ですが、これが、10%を超えてくると、むしろそれ以外のコスト問題の方が重要になるように思います。


Q:人工光合成についての授業でした。授業で様々な話を聞いている中で、人間が光合成するものを無理に作る必要はないと考えました。二酸化炭素から、デンプンをつくりだしたいのならば、むしろ、植物の光合成器官を人工的に増やすことのほうが容易に達成できるのではないかと考えました。以前の授業で、現在、生き残っている植物の遺伝子組み換えによる改良はできないとの話がありましたが、光合成だけに特化した植物をつくりだすことは可能ではないでしょうか。見た目や、味、育てやすさなど、全ての能力を捨て、光合成のみに特化した植物のことです。成長していく段階で、その植物にとって不利になる条件を人間が取り除くことで、人工光合成植物ができると私は考えます。このような植物をつくりだすことができれば、地球温暖化の問題で指摘されている大気中の二酸化炭素濃度を減少させることができると考えられます。

A:これは重要なポイントです。植物よりも効率のよい光合成装置を作るのは難しいでしょうし、進化の過程で生き残ってきた生物をさらに改良するのも難しいでしょう。結局、改良のためには何かを捨てなくてはいけないと思います。その時に、何を捨てるのか、という点をよく考える必要があると思います。


Q:人工光合成の研究についてのお話がありました。開発が行われているものの、その効率は植物に比べてはるかに悪いということでした。ならなぜ人工光合成の研究を行うのでしょうか?一番の目的としては、環境破壊や地球温暖化への効果を期待することだと思います。でも、それにしては効率が悪すぎるし、たとえ効率の良いシステムが完成したとしても、そのシステムを作るために必要なコストを考えると効果はあまり期待できないと考えられます。私が考えるのは、やはりここまで研究が続けられてきたのは、研究者の夢があったというのも理由として大きかったに違いない、ということです。ヒトをはじめ、従属栄養生物である動物が、独立栄養生物への依存から脱することができたら・・と考えると、非常に興味が湧くところであります。光触媒のように他の目的で実用化されることがあったように、ただ単に光合成そのものの実用化を目的とするだけでなく、人工光合成の研究にはさまざまな可能性が眠っているのではないか、と思います。

A:その通りだと思います。もちろん、最終的にエネルギー問題、環境問題の解決などにつながるのであれば、素晴らしいですが、一方で、研究を進めるにあたっては夢がなくてはいけないと思います。自然が行なっていることを自分でもやってみたい、というのは損得を抜きにした夢であって、その夢に向けて研究が進むことを僕も期待しています。


Q:今回の授業の中では半導体を用いた色素増感型太陽電池などを学んだ。これは半導体に色素を付けるなどをして工夫することによって効率を上げるというものである。また、授業で扱ったものの中では可視光応答性を持つ光触媒を使った一段光励起反応がある。これはニッケルをドーピングした半導体インジウムタンタレートが可視光を吸収して分解するということであった。また、可視光応答性を持つ光触媒を使った二段励起反応もあった。これは光合成のZスキームをまねたものであった。しかしこれらの共通点としてすべて効率がとても悪いということがあった。そしてこれらは発電の高効率化するよりも水の分解によって発生する水素、酸素による除菌、殺菌効果に生かしていくという実用化の流れがある。私はこれらの流れはとてもいい流れであると考える。たとえ生物学的、物理学的にアプローチして第一の目的が失敗したとしても新たな利用価値があればそれを生かしていくことがとてもいいと考えるためです。

A:生物学演習の講義の方でやったと思いますが、論文でイントロの部分を書くのは、リザルトやディスカッションを書いた後です。これと同じで、目的と言うのは結果から生まれるものだと言えるでしょうね。