植物生理生化学特論 第2回講義

発光測定

第2回の講義では、生物発光のメカニズムと化学発光を利用した側手方法などについて解説しました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。


Q:今週の授業で、ほたるなどの生物発光は、発光原料としてATPが使われるが、大部分が酸化反応であり、ATPは酸化を後押ししているに過ぎないことを知った。私は自分の研究テーマで、土壌中の微生物量を測定する際、ATP法という土壌中ATP量を測定することで微生物量を測定できる手法を用いている。ATP法はルシフェラーゼ発光反応の発光強度によってATP量を測定できるものであるが、ルシフェラーゼ発光におけるATPはあくまで補因子であるにも関わらず、ATP量を測定できることに疑問が生じた。そこで調べてみると、近江谷克裕(2016)「ホタルの発光反応にはATPが必須であるため,ルシフェリン量,ルシフェラーゼ量が大過剰であれば,ATP量が発光量を決定する」とあった。このようにほたるの発光にはATPが必須であり、私が用いているATP法にもこの手法が用いられていると考えられる。しかし、生物界には様々なルシフェラーゼ発光の方法があり、例えばウミホタルの発光法では、ATPを必要とせず、ルシフェリンが酸化され、励起状態となったオキシルシフェリンが基底状態に戻ることで光を発するとあった。

A:調べものレポートとしてはこれでよいのですが、この講義のレポートとしては、自分なりの論理がもう少し欲しいところです。何か、自分なりのアイデアで、奇想天外でもよいので、新たなATP測定方法を提案するなどしてください。


Q: 今回の講義の中で、表皮細胞には葉緑体が存在しない一方で、孔辺細胞には葉緑体が存在するという話があった。では、なぜこのような違いが生じるのか。 表皮細胞は日光を直接受けるため、過剰な光エネルギーによって細胞構造が壊れる可能性がある。従って、葉緑体を作る(壊れても作り直す)コストが葉緑体によって得られるエネルギーを上回る場合、表皮細胞に葉緑体を作らない方が、全体としてメリットが大きいことになる(文献)。これを基に、孔辺細胞について考えると、孔辺細胞では、葉緑体を作った方が得られるエネルギーが大きい、あるいは葉緑体を作るコストを払うだけのメリットがあることが示唆される。孔辺細胞は、葉の裏側に多く存在するため、直射日光による損傷は表側よりも少ないことが推測される。さらに、気孔を開閉して空気を循環させるため、必要なエネルギーをその場(孔辺細胞)で合成できれば、ガス交換や蒸散を行い易くなる。 これを検討する方法として、孔辺細胞を開閉するスイッチをコードする遺伝子を破壊して、破壊株の表現型を解析することが挙げられる。孔辺細胞に存在する葉緑体が、気孔を開閉するためのエネルギーとして利用されると仮定すると、破壊株では合成したエネルギーが停滞するため、世代を重ねると葉緑体量が減少する可能性がある。ただし、世代を重ねることで、別の変異が入ったり、ホメオスタシスがはたらく可能性があることも考慮する必要がある。
【参考文献】日本植物生理学会,表皮に葉緑体がないのはなぜ?,2008.6.2,https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1636,(参照:2024.5.3)

A:前半の文献の部分については、内容の対応関係が悪いようです。レポートでは葉緑体を作るコストを議論していますが、挙げられた参考文献で議論しているのは、主に表皮が防御に特化した組織であるということです。いずれにしても後半の部分がこの講義に対するレポートとしては重要ですが、気孔の開閉のエネルギー源として葉緑体が必要であるという仮説を検証する実験としては、気孔が開閉しなくなった時にエネルギーが余る、というのは、裏口から攻めているようで、少し直接性に欠けるように思いました。


Q:ホタルの発光原理について、私は漠然とATPのエネルギーで光っていると思っていたが、ルシフェリンの酸素酸化による現象だと初めて知った。 一方、ウミホタルの発光は、ホタルの発光機構と比較して、ルシフェラーゼによって触媒されるルシフェリンの酸化反応という点では同じだが、ATPを必要としない。これはルシフェリンとルシフェラーゼとなる化学物質は生物によって異なるからで、ウミホタルのルシフェリン自体に酸素との反応性があるのだろう。では、ATPはホタルの発光において、どういった役割があるのか。 ルシフェリンはO2の存在下でも、それらが直接反応して発光することはない。つまり、ルシフェリンがATPと反応し、ルシフェリン-AMPとなることでO2との反応性をもち、ルシフェラーゼとMg2+によって触媒されて、明瞭な光が生じるのだと考えた。恐らくMg2+の非存在下では発光が小さくなるだろう。

A:考察の方向性は悪くないと思います。ただ、なぜ、ATPとMg2+を別に考えるのかがよくわかりませんでした。Mg-ATPの形でATPが働く例は生化学でよく出てくると思います。スライドでもそのように表記してあったと思います。


Q:生物発光は、生物体内で起こる化学発光だと学んだ。化学発光ということは、化学反応であるために温度による反応速度の違いが見られるのではないかと考えた。高校の授業の記憶だと、10℃変わると速度は2~3倍速くなると習った。そうすると、温度依存的な遺伝子発現の変化などを調べたいときに、化学反応の速度が温度によって変化しているのか、遺伝子発現自体が温度によって変化しているのかが分からないのではないかと思った。そこで蛍光を併用する方法を考えていたが、授業の後半で蛍光にも温度依存的な強度変化があることを学んだ。そこで、qPCRを用いたmRNA量の定量やウェスタンブロットを用いたタンパク量の定量で発現量が温度で変わらない遺伝子を見つけることを考えた。次にそのプロモーターを用いて生物発光を測定し、温度と発光強度にどの程度の相関があるかを調べる。そうすることで、温度による強度の上昇を差し引いて遺伝子の温度による発現量変化を見られると考えた。qPCRやウェスタンブロットは生物発光に比べると手間がかかるので、一度定量をしたあとは生物発光を用いることができるなら有用だと考えた。

A:考えていてよいと思います。ただ、日本語に少し省略があるので、あまり読みやすくはありません。例えば、「温度依存的な遺伝子発現の変化などを調べたい」の部分は、「温度依存的な遺伝子発現の変化などを化学発光を用いて調べたい」のように補うと、読みやすくなると思います。


Q:xploring the Spectrum: Fluorescence and Its Practical Applications
My exploration into the fundamental points of fluorescence through the lecture offers me an opportunity to learn more about its role in modern science. Fluorescence, the emission of light by a substance that has absorbed light or other radiation, is a widely applied concept in many research fields. Among these fields, one aspect that attracts me is the application of fluorescence in microscopy and medical imaging. The use of fluorophores to stain specific cells or tissues, illuminating biological pathways and structures, is a widely used technique nowadays in hospitals. But this is the first time that I get to know the mechanism of it, and this make me realize that this approach not only enhances our understanding of cellular functions but also help develop practical medical engineering.
The Glow of Life: Chemiluminescence in Biological Systems
Just like my opinion in the section above, the lecture on chemiluminescence also provides me with a brand-new vision of biological systems. Chemiluminescence needs no external light sources, is going to be a powerful and towering tool for real world application. While I still have not come up with research fields that can take advantage of it, the lecture introduces ECL, which is really inspiring for me. This method allows for the detection of tiny amounts of protein, showcasing the sensitivity of chemiluminescence in biochemical research. In addition, what struck me the most is natural occurrence of this phenomenon in bioluminescence found in marine and terrestrial organisms, including fireflies. From my perspective, understanding bioluminescence could lead to innovative approaches to sustainable lighting and bio-signal applications.

A:This is a kind of science essay. It is not bad in itself, but not satisfactory for the report of my lecture. First put your assumption or hypothesis, and clarify the logical connection leading to your conclusion based on any kind of facts. Please look at the report of other participants and my comments on them.


Q:今回の第三回の講義では生物発光や蛍光について学んだ。生物発光はルシフェリン(基質)がルシフェラーゼ(酵素)によって分解されることで発光が起き、生物発光を測定する際はVibrio harveyiのルシフェラーゼであるバクテリアルシフェラーゼやホタルルシフェラーゼを用いて測定される。私が研究対象にしているLabAというSynechococcus elongatus PCC 7942の時計因子は、アミノ酸配列を欠損させると、バクテリアルシフェラーゼでの測定では野生株と比べて極めて高い発光値を示すが、ホタルルシフェラーゼでの測定では発光値の変化が少ない。これはバクテリアルシフェラーゼの酵素であるFMNH2の発現量がlabAを欠損させることで発現レベルが上がったことが原因であり、labAはFMNH2を抑制することが示唆されている。FMNH2は生物発光するための酵素という役割以外にも酸化還元以外に、光合成の酵素反応に関与することが知られており、labAは代謝にも影響している可能性がある。今回、発現調節因子のスクリーニングについて学び、labA欠損株が野生株よりも生物発光が高くなる性質を生かして表現型に直結する配列の探索に使えるのではないかと考えた。具体的には、エラーPCRで意図的に変異が入ったlabA断片を作製し、元あったlabA欠損株のlabAの部分に形質転換することで、表現型に直結した配列に変異が入っているかどうかスクリーニングすることができる。

A:よいと思います。ただ、例えば「表現型に直結する配列の探索」というのは、それだけではやや曖昧です。例えばFMNH2の発現なのであれば、そのようになるべく具体的に書く方がわかりやすい文章になります。


Q:蛍光強度を増加させるためには試料を低温で観察すると良い一方で、通常30度前後の環境で培養している細胞などを生きたまま観察しようとすると、下げられる温度に限度が出てくる。また蛍光観察では光毒性と言うように励起光によって細胞に少なからずダメージを与え、観察する波長や光量により見えやすさにダメージの大きさが伴うことで、細胞が傷ついたり死んでしまうことがある。最も細胞を傷つけずに観察するには、インキュベーター内を細胞に適切な温湿度環境で保ち、励起光の強度を可能な限り下げ、当てる時間も最低限に短くすることだと考えられるが、これでは観察の精度に支障をきたすと想定される。そこでさらに必要になることとしては、観察するカメラに感度の高いものを選んだり、無駄な操作をなくし手短に観察を行う、といったことが求められると考えた。

A:これは、考えているとは思いますが、おそらく、誰もが同じことをまずは考えますよね。そこから、他の人と少しでも違う、自分なりの考えを展開できるかどうかがサイエンスの世界では重要です。


Q:蛍光をより多く検出する方法を考える。励起光は直進するものが多く、蛍光は四方に放射することから、出射角を垂直にしている。また、散乱した励起光についてはストークスの原理より半波長を分光器でカットしている。ここで考えたのは四方に散乱する蛍光を漏れなく拾うように心がければ蛍光の収率は上がるのではないかと考えた。四方に散乱する蛍光を漏れなく拾うために2つの方法が考えられる。1つ目は既存の蛍光測定を直進以外の全方向について行うことである。直進部分を除いた積分球などを用いて蛍光と散乱光を一方光に集めた後、分光すれば多くの蛍光を集められると考えた。2つ目は試料の直後に分光器を置き、短波長のフィルターを精度良くすることである。このようにしたときに、直進成分も波長でフィルタリングすることができれば、四方に放射する蛍光も全て拾えるため、蛍光の収率が上がると考えた。このとき、励起光に長波長が含まれないように、短波長の励起光から徐々に長波長にしていくことなどが考えられる。

A:後者の分光器を置くシステムの場合は、吸収測定の講義の時に説明したように、分光の精度を上げるためには入射スリットが狭い必要がある、という点を考慮する必要があります。四方に散乱する光を単に分光器に入れても、細いビームになっていなければ分光されません。あと「半波長」の意味が分かりませんでした。


Q:今回の授業の中で、蛍光測定についてのお話があった。その中でも、DNAマイクロアレイについて興味があり、自分の研究と結び付けて考えることが出来そうだと考えたため、レポートに示す。 私が一番興味があったポイントとしては、「比較的簡単で、解析にあまり時間を要さないDNAマイクロアレイが、なぜ使われなくなったのか」「反対に、どのような技術だったら、需要が高いのか」という部分だ。それを考えるために、DNAマイクロアレイの原理から考えられるデメリットについて考えた。以下にそのデメリットについて示す。
DNAマイクロアレイのデメリット
・未知のmRNAについて調べることが出来ない(「目的の遺伝子や配列に対するDNAプローブを設計」という手順があるから(参考文献1))、・mRNAの発現量が少ない場合、検出感度が低くなる可能性がある(ハイブリダイゼーションを使用することから(参考文献1))
 上記のことを解消するために、次世代シーケンサという技術が開発・利用されている(参考文献2)が、反対にDNAマイクロアレイの良い点を失っている部分もある。現在は、その用途によって使い分けがなされているようだ。私は、このどちらの性質も持ち合わせる技術を開発することが出来れば、需要の高い技術を生み出すことが出来るのではないかと考えた。そこで、どちらの性質も持ち合わせる技術を開発する方法の考え方の一つとして、「測定法の手順ごとにメリットデメリットを考え、メリットの手順のみを残す」ということを考えた。上記の例で単純に示すと、DNAマイクロアレイは、実験の部分にデメリットを持ち、解析の部分にメリットを持つ。反対に、次世代シーケンサは実験部分にはメリットを、解析部分にデメリットを持つ。つまり、次世代シーケンサの解析方法を簡単にすることが出来れば、より需要の高い技術を生み出すことが出来ると考えられる。解析方法を簡単にするとは、「専門の解析ソフトウェアがなくても解析出来る=エクセルデータなどでも解析できるようにする」「得られた膨大なデータ量のうち、必要なデータを取り出すようにsる(AIなどを活用)」などが考えられる。このように、現在利用できるさまざまな技術を応用して、より良い技術を作っていくことが求められると考えられる。
参考文献:1.アズサイエンス株式会社,「マイクロアレイ技術の基礎から応用まで解説」,https://azscience.jp/column/category/top08-sub13/,参照2024年5月3日、2.Thermo Fisher Scientific,「マイクロアレイはまだまだ現役!次世代シーケンサとの使い分け」,https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/microarray-analysis/microarray-education/microarray-overview.html#sample,参照2024年5月3日

A:きちんと考えていると思います。論理展開としては、「よい点を失っている」といった漠然とした記述のみで、最初に提示されている前提に解析部分について具体的に触れられていないのが気になります。ここを具体的に記述すると、それがそのまま結論の部分と同じになってしまうとすると、あまり深い考察ではない、ということになるでしょう。


Q:生物発光の例としてホタルがあげられていたが、他にどのような生物が生物発光しているのか気になったため調べた。発光する生物はバクテリアや魚類、昆虫にしかおらず、そのうちの大半が海域に生息していることが明らかとなっている。とくに深海生物は8割以上が発光するとあり、海面から光が届かない場所では自らが発光することで自身に有利な効果をもたらしていることが考えられる。GFPを代表として発光生物の研究は進められており、将来的に体内のがん細胞を発光させて遷移の様子を観察できるようにするなど医療面での活用が期待されている。通常では見分けのつかない細胞を、特定のものだけ遺伝子配列を操作することで可視化できるようにするというのは、画期的な技術だと思った。

A:これは、基本的に、調べたこととそれに対する感想ですから、この講義へのレポートとしては物足りません。


Q:今回の授業からルシフェリンとルシフェラーゼはそれぞれの生物で物質が異なり、異なる生物種のルシフェリンとルシフェラーゼは反応しないということを学んだ。そこでその理由について考える。 この理由として挙げられるのは発光をそれぞれの生物種が分化した後で手に入れたからであると考えられる。生物がコミュニケーションや防御や狩りなどその環境おいての生存戦略として獲得したと予想できる。その環境で取り込むことできる分子や栄養に合わせてルシフェリンの分子が異なっていると考えられる。二つ目は発光の色である。環境によって必要な色が異なるということだ。極端な例で言えば深海だ。深海では赤色の光は届かない。だから深海魚は赤い発光で保護色をまとう。このように発光の色の違いがルシフェリン分子の違いに繋がると考える。

A:これは、考えていることはわかるのでよいと思います。ただ、化学発光の酵素と基質はいろいろでも、その発光の色は黄緑色であることが多く、案外多様性がありません。そのあたりは、化学反応としての制約がかかっているのかもしれないので、そのあたりの議論が少しほしいところです。


Q:生物発光にもちいられるルシフェリンとルシフェラーゼは種ごとで異なるため、異なる起源から進化して得られたものであることを学んだ。つまり、何かしらの共通の利点があるために異なる道筋から進化してきたということであると思われる。いったいどのような利点があったのかを考察する。陸上にも蛍のように発光するものもいるが、水中にも多くいる。水中と陸上では意味合いが異なると思われるので、今回は水中の方について考えることとする。水中の生物が発光をする理由としては、身を守るためかコミュニケーションのためであるだろう。身を守るために発光する場合は、光で捕食者を惑わすか影をなくすためということが考えられるであろう。しかし、捕食者が発光の色を捉えられるかがわからないことと深海や夜間であっても発光をすることから身を守るために利用しているわけではないのではないだろうか。一方、コミュニケーションのためであれば、生物種ごとに発光する光の色を感知できるようになっていればコミュニケーションをとれる。このことから、コミュニケーションに用いているのではないかと考える。

A:これは、問題設定と考察がきちんとしているので、この講義のレポートとしての条件を満たしています。