植物生理生化学特論 第14回講義

植物の光吸収の調節

第14回の講義では、アンテナ系における光エネルギーの吸収の調節を中心に、光合成生物の光環境応答について解説しました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。


Q:講義では、光吸収の時短的調節機構として葉の向きを変える運動が挙げられていた。日中と朝夕で日光に対する向きを変えることから、葉の表面に対する日光の入射角を一定に保つことがが光合成効率を保つために重要であると考えた。同一強度の光を葉の表面に対する入射角を変えて照射し、光合成効率が変わるか検証することで、入射角の重要度を見ることが出来ると考える。また、日中と朝夕で葉の表面に対する日光の入射角が実際にどれほどの変化があるのか見てみたい。1日を通して日光の入射角に大きな変化が無く、また入射角が小さいほど強光阻害が低減されることが分かれば、入射角を一定に保つことで光合成効率を保っていることが確かめられると考える。

A:レポートのロジックが理解できませんでした。強光阻害というからには、光の強弱が重要なのですよね。そうであれば、入射角を一定に保つのではなく、入射角を変化させて光の量を一定に保つのが重要になるのだと思いますが...


Q:フィコビリソームの補色馴化について、赤色光下ではフィコシアニンのアンテナを持ち、緑色光下ではその先端がフィコエリスリンに置き換わるという話があった。これは光環境に合わせた適合であるが、強光下と弱光下による、緑色光下のフィコシアニンとフィコエリスリンのアンテナ長さの比の変化はあるのかという点に興味を持った。緑色光下のフィコシアニンとフィコエリスリンのアンテナ長さの比に関しては、直感的な予想として相対吸収値の比になっているのではないかと感じたが、明確な理論を立てることができないため、強光下と弱光下で各相対吸収値を測定し、測定値の比とアンテナ長さの比を比較することでこの直感的な予想が正しいかどうかを立証することができる。この予想が正しくない場合には、強光下と弱光下による違いがないのか、違いがある場合は何に依存するのか、について吟味する必要があると考える。

A:面白いポイントだと思います。同じ波長の光で比較した場合であれば、ロッドの長さは光の量と負の相関を持ちそうです。他方、確かに光の波長が違う場合にはどうなるかの予測は難しいように思いますが、その一つの原因は、異なる波長の光の場合、「強光」「弱光」をどのように定義するのかが自明ではない、という点にある気がします。光量の単位には光量子束密度などがありますが、光の波長が違う場合、同じ光量子束密度にしたとしても「光量が同じ」とは言えない気がします。


Q:講義内では光吸収の短期的調節について、日中葉の向きが変化することが示された。これについて、葉が光の向きを認知して葉の向きを変化させるのか興味を持った。前回の講義では弱光下で光の向きに葉の向きが変化することが紹介されたが、今回紹介された例のような強光下での葉の向きの変化は同様な機構によるものか調査する実験系を考える。最も簡単な手法は一度直上から光を当て、講義内で紹介されたような葉が上を向いた状態を作り、その後暗所にサンプルを入れ、地面と平行な方向に光が照射されるように光源を設置する。この時に葉の向きが光を避けるような方向に動くか否かを確認する。この条件で光を忌避した場合、植物は強光とその向きまで認識していることになる。また、弱光時の植物の傾倒に関連する遺伝子をノックダウンすることで、強光時の植物の葉の向きの変更が起こるかを調べることで共通した機構であるかどうかを遺伝的に確認することができる。

A:面白いと思います。ただ、光の向きを感知しているかどうか、という点だけが議論になっていて、それ以外の場合の仮説が提示されていないので、厳密には、それ以外の場合に実験結果がどうなるかと予想が立てにくいと思います。本当は、対立する仮説も立てて実験をデザインした方がよいかもしれません。


Q:光吸収への長期的な調節を観察する方法として、アンテナであるLHCIIを介したクロロフィルのa/b比によってアンテナの強度を定量化できる方法とともに、電子顕微鏡を用いたホウレンソウのチラコイド膜の観察も紹介されていた。光吸収が強い箇所では柵状組織となり、一方で光吸収の弱い箇所では海綿状組織となることで光吸収のバランスをとっていることに驚きを感じた。光吸収を増加させるような条件下に置いた時に、この層状複合体の形成過程として、①一層ごとに合成されていくのか、または②折り畳まれていくのかについて考えたい。これを確かめるために、蛍光タグをつけたLHCIIを葉緑体に導入する実験系を用意し、ライブイメージングによって長期的に観察することで解明できると考える。構造上、②のように光応答によって複合体が折り畳まれていくと予想する。この実験系の問題点としては葉緑体のライブイメージングが容易にできるかどうか、また長期的なライブイメージングが難しいことが挙げられる。

A:「柵状組織」「海綿状組織」となっていますが、それぞれ「柵状組織型の葉緑体」「海綿状組織型の葉緑体」ということでしょうか。なお、植物の葉で蛍光タグを使うのは案外大変です。葉には山ほど含まれているクロロフィル自体が蛍光色素なので、その妨害を除く必要がありますので。


Q:グラナスタックはチラコイド膜のLHCII同士が相互作用して分厚く重なることであり、葉の裏など弱光の場所で見られる。LHCIIが発達したということだが、それで本当に光合成の効率が高いだろうか?セルフシェーディングが起きている筈である。重なっているチラコイド膜の上の方でしか光合成できていないのではないか?逆に、たくさん重ねることでやっと適度な光量になり、底の方のチラコイド膜で最もよく効率よく光合成ができるというのだろうか?思うに、その両方ではないだろうか。刻々と変化する光量に対し、必ずチラコイド膜のどこかの層でちょうどよい光量になるように、受け取れる光量の範囲を広く取っているということかもしれない。植物のLHCIIを、機能を失わず相互作用のみできないようにして、様々な光環境で育ててみたら、ある光量の時のみ野生株よりも効率よく生長して、それ以外の光条件では野生株の方がよく生長するという結果が得られるのではないだろうか。

A:面白いと思います。特に「LHCIIを、機能を失わず相互作用のみできない」という部分は魅力的ですが、どうもLHCIIの相互作用は特異的なアミノ酸残基を介したものではなさそうなので、実際にやろうと思うと難しいかもしれません。


Q:今回の講義を視聴して、水草のうち抽水植物・浮葉植物・浮遊植物が水面から葉を出している理由について、光合成色素の観点から納得できた。一方で沈水植物が葉を水中に沈めている理由については疑問を持った。野生下で水草と競争関係にあるのは、他種の水草を除くと藻類になると考えられる。表皮の乾燥への保護機構(藻類は備えていない)を活かして水面に葉を出す形態は、藻類よりも高い位置で光を吸収できるという意味で、光合成のために有利である。逆に、水中に葉を沈めてしまうと藻類と同条件で光を獲得するための競争をする必要性が生じる。この場合、光を獲得するという面に限っては、フィコビリンを備えており緑・黄・橙の光も吸収できる藻類が有利になると考えられる。なぜなら水草はフィコビリンを備えておらず、そのクロロフィルは空気中では緑色光を吸収できても、水中では緑色光を吸収することができなくなるためである。ゆえに水中での光合成効率の観点から水草と藻類を比較すると、水中でも赤・青のみではなく緑・黄・橙の光を光合成に利用できる藻類は、植物よりも光合成効率が高いだろうと考えられる。よって抽水植物や浮葉植物、浮遊植物が葉を空気中に出す形態を取っているのは、自分の備えている光合成色素で藻類との競争に勝つためではないかと考えた。
 一方で沈水植物は水中に植物体全てを沈めて生活している。この生態は前述の理由から藻類や、他のタイプの水草に対して、光合成の観点では不利になると考えられる。一方で乾燥への保護機構を形成するコストを省ける点、空気中の温度変化に影響されにくい点、強風や水流に影響されにくい点では他のタイプの水草に対しては有利である。また十分に強い光が安定して得られる環境では、フィコビリンを合成するコストを省けるという点で藻類に対して有利になるのかもしれない。沈水植物は、そうした光を効率的に獲得する戦略以外の点で、競争する他種に対して有利になっているのかもしれないと考えた。例えば、乾燥が激しく、温度変化が大きく、安定して光を得られる環境では沈水植物は他種に対して有利になるかもしれない。
参考文献 Usui. N. 神戸の水生植物. 神戸の自然シリーズ. (2005).、http://www2.kobe-c.ed.jp/shizen/wtplant/wtplant/14006.html. (2022年7月17日閲覧).

A:しっかりしたレポートですね。論理構成もきちんとしていますが、一点だけ、第一段落で沈水植物の競争相手が藻類であることが述べられている一方、第二段落では藻類以外の植物との競争について議論しているのがやや気になりました。おそらく藻類と植物では、栄養塩の吸収や水流の有無などに対する応答が大きく違うので、そのあたりを議論できるとよいかもしれません。


Q:今回は光エネルギーの吸収と利用、補色順化などについて学んだ。シアノバクテリアの補色順化をするものにおいて、バクテリアルマットは内部と外部の光環境が異なるために順化を起こして適応するという話が挙げられていたが、バクテリアルマットを形成するが補色順化は起こさない他のシアノバクテリアの種ではどのような変化が起こっているかが気になった。実際にLeptolyngbya boryanaという種では補色順化は起こさないが照度条件によって形成するバクテリアルマットがやや変化する(これが照度条件に依存しているかは未解明)。そのためもしこの種を他の光(赤色光や青色光)などで育成した際にバクテリアルマットの変化が起こった場合、この種は補色順化という形でフェノタイプには現れずとも、マットの形状変化によって得る光の調整などを行うで実質的に補色順化と同じような役割を持っている可能性がある。またバクテリアルマットを作る種においても、株の寸断化などを行い細胞長を短くすることでバクテリアルマットを形成しづらくした場合の補色順化を見ることによってどの程度の密度になった場合に補色順化をするか、という境界線の見極めを行うことができるのではないかとも考えた。

A:Leptolyngbya boryanaは、名古屋大の藤田さんのグループの研究の話でしょうかね。研究例を紹介するときには必ず出典をつけてください。自然界のバクテリアルマットの場合、深さによって複数の種から構成される例が多いと思いますので、そのあたりをどう解釈するのかが重要になるでしょう。


Q:今回のキーワードである光合成におけるトレードオフに関して、身近な植物で考えた。それは、落葉樹と常緑樹である。落葉樹は冬の間は日中時間の短さや太陽からの光エネルギーの弱化により、葉を維持するためのエネルギーを補うことができなくなることから葉を落とすという考えがある。しかし、日差しの強くなり始める春にはまた葉を作るということから再び葉を作るという常緑樹では費やす必要のないエネルギーを必要とするという関係にある。また、常緑樹は冬の間は落葉樹が葉を落とすことにより夏季よりも効率よく太陽光のエネルギーを回収することができるという利点もある。

A:別に悪いレポートだとは思いませんが、大学院の講義のレポートとしては、もう一息踏み込みが欲しいかな、と思いました。


Q:色素のトレードオフに関して、陸生植物と海生植物におけるクロロフィルとフィコビリンの使い分けの話があった。この使い分けを確かめるために、渓流植物を用いた実験を考えた。渓流植物は増水時に水中に沈むため、同種であっても増水頻度が高い環境では相対的にフィコビリンが使われる割合が高まると期待される。また増水時に濁度が高い渓流では、フィコビリンであっても光合成を十分行うことができず、増水頻度に対してフィコビリンが使われる割合は高まらないと考えられる。以上から増水頻度とその時の濁度を変数とすることで、同種の渓流植物におけるクロロフィルとフィコビリンの割合にクラインが見られると期待される。さらにこの傾向は潮間帯に生育する植物にも見られる可能性もあると考えられる。

A:目の付け所は面白いと思います。ただ、フィコビリンを持つことがメリットとしてはたらくほど増水の頻度が高い場所というのは、恐ろしく限られそうな気がします。その意味では、潮間帯の方がありそうな気がしますが、こちらは別の要素が大きく効きそうな気がしますから、やはり難しいかもしれませんね。


Q:シアノバクテリアにおいて、フィコビリンが光環境に適応してアンテナ系を変えることで補色馴化を行うことを学習した。そこで自分は、緑色光で培養した際に緑色を吸収するフィコエリスリンにアンテナを変えるのはわかるが、赤色光ではクロロフィルによる吸収もあるのに、なぜフィコシアニンにアンテナを変える必要があるのか疑問を抱いた。自然環境において、より多く波長の光を吸収したい場合、フィコビリンのアンテナをフィコエリスリンに固定することで、フィコエリスリンによる緑色の吸収とクロロフィルによる赤色の吸収の両方が行えると考えたからである。講義で紹介されていたのは、赤色光のみと緑色光のみでの培養条件での実験結果であったため、シアノバクテリアが補色馴化能を有していることは分かったが、自然光下でどのようなアンテナであるかは不明であった。そのため、実際の自然光ではどのような比率でフィコビリンのアンテナが存在するのか気になった。

A:これは重要なポイントですね。補色馴化のメカニズムとしては、フィトクロムに似たシアノバクテリオクロムが緑色光と赤色光の間で相互変換して、その情報が遺伝子の発現変化をもたらします。したがって、赤色光ではフィコエリスリンが減少しますが、自然光のスペクトルの範囲でどこまで色素変化が起こるかは、考えてみる必要があると思います。


Q:一枚の葉の内部での光勾配への適応として、グラナスタックの発達に違いがあることを学んだ。ホウレンソウの場合直接光が照射する柵状組織ではグラナスタックが未発達だが、海綿状組織では発達している。グラナスタックの発達は光化学系2の比率が上がることに由来しているが、なぜ弱光下でグラナスタックを発達させる必要があるのか。そもそも葉の柵状組織は細胞がびっしり敷き詰められているが、海綿状組織では細胞がまばらに配置されており、隙間(空気)が存在する。この空気によって光がランダムに反射、屈折する。よって柵状組織と海綿状組織の光環境の違いには光量に加えて、入射角度のランダム性があると考えた。ここで光化学系2を層状に積み上げることは、一旦入射した光を無駄なく利用するために行われていると考えた。系2を積み上げれば、電子を次々と隣のチラコイド膜にパスしていけるので弱光を最大限り活用できるのではないか。であるならばグラナスタックは細胞内での葉緑体の配置と相互作用することでより効果を上げると考えた。海綿状組織において葉緑体を細胞膜に沿って配置させれば入射角度がランダムであっても、グラナスタックを細胞膜側に集積すれば入射角度のランダム性に対応することができる。よって対応すべきは弱光だけなので、薄いグラナスタックを葉緑体内にまばらに配置するより、積み上げて一箇所にまとめた方が光を活用できる。これが柵状組織で行われないのは強光条件でグラナスタックを発達させると電子供給過多で阻害が生じてしまうことで説明できる。

A:これは、面白そうなのですが、文章からだけでは具体的なイメージを得ることができませんでした。例えば「系2を積み上げれば、電子を次々と隣のチラコイド膜に」という部分などは、積みあがるのは系2というよりグラナスタックとなるチラコイド膜ですよね。その際、「隣の」チラコイド膜というのが、どちら方向のものを指すのかもよくわかりません。積みあがるという語感からは、上下方向の隣を意味しているのでしょうか。そのあたり、もう少し丁寧な説明が必要かもしれません。


Q:映像において光吸収の短期的調節の一例として、フジの複葉の向きの変化による投影面積の縮小が挙げられていたことを受け、オジギソウにおける刺激による葉の向きの変化について、光環境応答の面で考える。オジギソウは名前の由来になっているように、葉に直接触れられると対になった複葉の互いの表側を合わせるように閉じ、葉柄ごと垂れ下がる。また、この反応は接触だけでなく、強光や振動、低温といった刺激に対しても示し、強光に関してはフジの葉の光環境応答と同様の効果をもたらすことが考えられる。しかしながら一方でこの反応は高温に対しても生じることが知られており、その際には葉全体の表面積が減ることや葉と葉の間で熱を空気と共にため込んでしまうことにより、過剰なエネルギーの放出手段である放熱能力が下がってしまうことが考えられ、単なる高温に対してだけでなく、強光且つ高温となる夏季における強光による過剰なエネルギーへの対策としての説明にも矛盾が生じると考えられる。また、この関係を明らかにする方法として、葉を閉じている期間の光合成の低下の影響や葉緑体の保護効果の定量的な比較や、葉が垂れ下がった形態で風を受けた際のシミュレーション等による放熱効率への物理的影響の検証が必要であると考える。

A:きちんとしていますが、説明に矛盾が生じるとしているだけで、それに代わる仮説がないのが残念です。提案されている実験系はやや漠然としていますが、仮説がしっかりしていればおそらくもう少し焦点を絞った実験系を提案できると思います。


Q:本講義では植物が光合成をする上で光を受け取るアンテナ系について学んだ。その中で、シアノバクテリアにおいて照射される光の波長に差異によってアンテナ色素を変化させる補色馴化を起こすというものがあった。これはシアノバクテリアでしか報告されていないが、このような補色馴化の機能を持つに至ったか考える。陸上植物はもちろん同様のフィコビリソームを持つ紅藻類でもこの機能は見られない。そのためこの機能を持つシアノバクテリアであるFremyella diplosiphonの住む環境について考える。植物に照射される太陽光は白色光であり、これは変化しない。これが変化するような環境下で適応的であると考えるのが自然である。これが変化する理由として考えられるのは、Fremyella diplosiphonが水中で生活しており、同環境においてFremyella diplosiphonより水面に近い水深に別種の植物が繁茂するため、その下で生活するFremyella diplosiphonの利用できる光の波長が限定される。またこの上部で繁茂する植物が季節によって変化か、植物がいなくなるため、利用できる光の波長が時間により変化する。この変化に適応的である補色馴化の機能を持つFremyella diplosiphonが種として確立したと考えられる。これはFremyella diplosiphonの自然界で存在する環境において同所的に生育する植物とその光合成色素の種類を比較し、その植物体を透過する光の波長をFremyella diplosiphonが補色馴化により利用できれば、本仮説を立証できる。

A:上にも書きましたが、他の研究を参考にするときには必ず参考文献をつけるようにしてください。あと、やや日本語が読みにくいですね。例えば「これが変化する理由として考えられるのは、Fremyella diplosiphonが水中で生活しており、同環境においてFremyella diplosiphonより水面に近い水深に別種の植物が繁茂するため、その下で生活するFremyella diplosiphonの利用できる光の波長が限定される。」は、出だしと最後が首尾一貫していません。レポートを書いたら一度読み返してみるとよいと思います。