植物生理生化学特論 第8回講義

ステート遷移

第8回の講義では、光合成において吸収する光エネルギーのバランスを維持するメカニズムの一つであるステート遷移について解説しました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。


Q:アサクサノリの作用スペクトルがクロロフィルの吸収スペクトルと逆の動きをしている点に興味を持った。アサクサノリではフィコビリソームが集光アンテナとして働くため、光化学系Ⅱのクロロフィル量が少ないことが説明されていたが、400 nmや700 nm付近の波長で作用スペクトルが大きく減少していることから、光化学系Ⅱにクロロフィルを維持するメリットがないように感じる。ほとんど働けないクロロフィルを維持することに特に意味がないならば、光化学系Ⅱのクロロフィルを失っても吸収スペクトル・作用スペクトル・光合成速度などの値は変化しないはずである。例えば、光化学系Ⅱを構成するタンパク質にクロロフィルが結合できないような変異(結合部位を欠損させるなど)を導入し、光合成の評価をすることで、光化学系Ⅱのクロロフィルがどのような影響を与えているのか調べることが出来ると考える。

A:これは面白い考え方ですね。確かにフィコビリソームが光の捕集にはたらけるのであれば、クロロフィルを持つ意味はないと考えることもできそうです。実は、光化学系Iについては、有機溶媒によってクロロフィルを抽出していって、活性をもったままどこまで減らせるか、という実験が行われています。その結果、8分子程度まで減らしても(もともとは100分子程度結合しています)活性を維持した状態を保てましたが、それ以上減らすと活性がなくなりました。すくなくとも「反応中心」として機能するクロロフィルは必要なようです。


Q:ステート遷移における強光条件と弱光条件に関して、強光ではPsaK2の発現によりアンテナから系Iへとエネルギー伝達が生じていたのに対し、弱光ではPsaK2と別の経路でステート遷移が生じていた。強光と弱光によりこのような違いが生じることに関して考える。この違いはステート遷移の仮説から読み取れるのではないかと考えた。強光におけるステート遷移は、State2’の仮説が正しいと考えられる。フィコビリソームが光化学系IIのアンテナとして作用し、光化学系IはPsaK2が発現することで光化学系IIからエネルギーを受け取ることができるようになる。この説を用いると強光条件を再現できると考える。弱光におけるステート遷移は、State2の仮説が正しいと考えられる。フィコビリソームが光化学系Iのアンテナとして作用し、光化学系Iは光化学系IIを介さずにエネルギーを受け取ることができる。この説を用いると弱光条件を再現できると考える。フィコビリソームが光化学系Iと光化学系IIのどちらのアンテナがあるかが重要になってくるが、光化学系IIのアンテナである状態をベースにして考えると、光合成が影響しているのではないかと考える。強光下においては光合成により光化学系IIのアンテナであるが、弱光下においては光合成が活発ではないことで、光合成に用いられないエネルギーが光化学系IIから光化学系Iへのアンテナの移動に用いられているのではないかと考える。これを実験的に証明するには、フィコビリソームの変位と光合成に用いるエネルギーを連続的に測定し、強光下と弱光下の光合成に用いられるエネルギーの差がフィコビリソームの変位と明確な関係があることを示す必要があると考えられる。

A:これもアイデアは面白いですね。ただ、言葉遣いが光合成分野の場合と異なるので、やや意味がとりづらいところがあります。後半に「光合成」という言葉が出てきますが、これは、文脈から判断すると「電子伝達が活発に動いている状態」を指しているのでしょうか。あと、前半の2つの仮説の対応関係は理解できたのですが、なぜそのような対応が正しいと考えたのかが理解できませんでした。


Q:今回の講義ではステート遷移として、強光条件で働くPsaK2依存のステート遷移、弱光条件で働くRpaC依存のステート遷移、弱光条件でクロロフィル励起時に働くステート遷移が示された。ここで、植物が弱光、強光をどのようにして感知しているかという点について疑問を抱いた。強光順化過程ではPsaK2のみ発現が上昇することが紹介されたが、これには他の因子がより上流で発現を制御しているのではないかと考えた。発現上昇が確認されるのが環境を変えてから数時間後であることから、遺伝子による制御を受けている可能性を考えた。その場合、その上流に存在する遺伝子が光応答を示し、PsaK2やそれ以外の強光条件に適応するための遺伝子の転写を活性化する機構が存在すると考える。これを確かめる古典的な方法として、遺伝子ライブラリーを用いた遺伝学スクリーニングを考える。この時、変異を導入した細胞のうち温度感受性コロニーをピックアップし、その中で強光条件にしたときに光合成が正常に行われていないコロニーを探す。この時クロロフィル蛍光を確認することで、強光条件に応答するための遺伝子が破壊されている場合、エネルギーが光化学系Iにうまく分配されず、強いクロロフィル蛍光が確認されるものだと考えられる。変異が疑われるコロニーに対して遺伝子ライブラリー中のプラスミドを適応することで強光条件への非対応性を打ち消す遺伝子を探す。こうすることで強光に応答する遺伝子を判別することができ、ここで得られたか結果がPsaK2であれば上流の制御遺伝子は存在しない可能性があり、仮にそのほかの遺伝子が発見された場合はそれが制御因子である可能性があるため、これをノックアウトした株での変異から遺伝子の機能を特定できると考えた。

A:きちんと考えていてよいと思います。ちなみに、最初の光の感知については、光受容体を使う場合と、光合成電子伝達の酸化還元状態を使う例が知られています。後者の例は、いわばクロロフィルを光受容体として使っていると考えることもできます。


Q:陸上植物がフィコビリソームを持たない理由を考察する。シアノバクテリアは光化学系I、系IIの周辺集光装置としてフィコビリソームを持ち、クロロフィルの量は陸上植物と比べて少ないということだった。フィコビリソームを使うことのメリットを考えると、クロロフィルではあまり吸収しない450-650nmの幅広い波長の光を多く吸収して、光合成に利用できる点であると考えられる。反対に、陸上植物では、入射光を屈折させて光路長を長くする葉の構造のため、クロロフィルにより可視光の波長の光をほとんど吸収することができる。この場合、青色の短波長の光を利用できる分、フィコビリンをメインにして光を吸収する場合と比べて、より効率的に光を利用することができるのだと考えられる。

A:最後の所は、「光路長の延長効果を使わずに」「フィコビリンをメインにして」という意味でしょうか。それとも「光路長の延長効果を使った上に」という意味でしょうか。それによってだいぶ結論が異なるように思います。後者の場合だと、青色光を使うことが効率的になるとは限らないように思いますから、前者を仮定しているのだと思います。その場合、「光路長の延長効果を使ったうえに」フィコビリンを使うメリットがあるのかどうかが、重要になってくると思います。


Q:アオサとアサクサノリで、吸収スペクトルと作用スペクトルの挙動が異なることが講義で紹介されていた。またアサクサノリの作用スペクトルがクロロフィルが活性化する波長にて減少することから、光化学系IIに大きなフィコビリソームが結合しており光化学系II中心でのクロロフィルの影響が小さいことが予想されていた。このことを裏付けることのできる実験系を考察してみる。一つはアサクサノリ内でクロロフィルを過剰発現させ、アオサと同様の作用スペクトルを示すかを検証する方法である。もう一つはアオサ内でフィコビリソームを過剰発現させ、アサクサノリと同様の作用スペクトルを示すのかを検証する方法である。ただしクロロフィルとフィコビリソーム共に過剰発現時の影響を考慮していないため、実験時には詳細に調べる必要があるだろう。

A:アンテナ系は、どちらもタンパク質と色素(発色団)の複合体なので、過剰発現と言っても難しいですね。「クロロフィルを過剰発現」というのは、具体的にはクロロフィル合成酵素を過剰発現することになると思いますが、その受け皿となるタンパク質がなければ、分解されて終わってしまうと思います。フィコビリソームの方は、フィコビリタンパク質を過剰発現することができそうですが、何しろ元の量が多いので、差が見えるかどうかが難しいですね。


Q:実験では、光の強度を調節することによってステート遷移を誘導するなどしていたが、光学系Ⅰと光学系Ⅱでは吸収する光の波長も違う。光の強度の変化に応じてステート遷移が起こるのは、自然界における朝焼け、夕焼けに適応しようとしているのではないだろうか。弱光から強光に移る際、短い波長の光も吸収できる光学系Ⅰに移るのは、朝焼けの光環境から昼間の光環境に移ることに対応していると考えられる。そのように仮定すると、体内時計に制御されている可能性が考えられる。出来れば自然光のように光の強度と波長をゆっくりと時間をかけて変化させて12L12Dサイクルを何周かした後、Darkもしくは弱光のままにしておいた時、強光への移行なしにステート遷移が起こるかもしれない。

A:「短い波長の光も吸収できる光学系Ⅰ」というのが、どの波長のことを言っているのかがわかりませんでした。クロロフィルだけを考える場合は、光化学系Iの方が長い波長の光を吸収できます。あるいは、フィコビリンによっては吸収できない青い光を吸収できる、という意味でしょうか。いずれにしても、シアノバクテリアのステート遷移は数分で完了するプロセスなので、体内時計を調節に利用した場合に、どのようなメリットがあるのかがやや難しいかもしれません。とはいっても、CAM植物の場合、体内時計が光合成の制御にはたらいている可能性があるようです。


Q:今回の講義を視聴して、弱光条件下のΔrpaC株のステート遷移の有無について疑問をもった。講義中に提示されたEmlyn-Jones et al. (1999)に由来する図からは、ΔrpaC株は弱光条件でのステート遷移能を失っていると解釈できる。一方でΔpsaK2ΔrpaC株のステート遷移を調べた結果は、弱光条件でのステート遷移能がrpaCを破壊しても残っていると解釈される。このレポートではこの違いについて考察をする。一番分かり易い仮説は前者のデータと後者のデータで使用したシアノバクテリアの種が異なることである。仮に使用された生物種が異なるのであればrpaCに依らないステート遷移のメカニズムを、前者の論文で使われたSynechocystis sp. PCC 6803は備えておらず、後者のデータで使われた種はそれを備えていると解釈できる。仮に生物種が異なるのであれば、両者の光化学系に関連する遺伝子の差異を調べることにより第三のステート遷移のメカニズムの解明に近づくことができると考えられる。次に両者のデータで使用された生物種が同一であると仮定する。この場合、考えやすい仮説は前者のデータで使用された株のゲノムと、後者のデータで使用された株のゲノムの間にある何らかの差異が、弱光条件でのステート遷移能の有無を分けるという説である。この場合は生物種が異なる仮定をした時と同様に、両者の光化学系に関連する遺伝子の差異を調べることで第三のステート遷移のメカニズムの解明に近づくことができると考えられる。次に考えられる仮説はpsaKとrpaCが同時に破壊されることで機能するステート遷移のメカニズムがあるという説である。ただし適応価に顕著に影響しそうな2つの遺伝子が同時に欠損した時にのみ機能するメカニズムが獲得されることは考えにくく、この仮説の蓋然性は低い。おそらくは後者の研究で行われたΔrpaC株のデータから、この仮説は否定されていると考えられる。3番目に特定の光条件(波長、照度)でのみはたらくステート遷移のメカニズムがあるという説である。この仮説が正しい場合、前者のデータで使用された光条件でははたらかないが、後者のデータで使用された光条件でははたらくステート遷移のメカニズムがあることを意味する。光条件を前者条件/後者の条件に揃えた実験をそれぞれ行うことで仮説を検証することができると考えられる。
参考文献:(1) Emlyn‐Jones, Daniel, Mark K. Ashby, and Conrad W. Mullineaux. A gene required for the regulation of photosynthetic light harvesting in the cyanobacterium Synechocystis 6803. Molecular microbiology (1999).

A:非常にきちんと考えていてよいと思います。おそらくステート遷移のような環境応答は、特定の環境でのみ誘導される複数のシステムがある場合は十分に考えられるように思います。


Q:今回はステート遷移とその事例について学んだ。強光条件下ではPsaK2に依存したステート遷移が起こり、弱光条件下ではRpaCによるステート遷移が起こる。シアノバクテリアにはkaiABCが存在し、これら時計遺伝子が概日時計を形成している。概日時計を制御する因子の中に、環境応答性因子であるRpaBがある。RpaBは強光条件下におけるストレス応答因子として知られており、強光条件下になると高い活性を示し、一部の遺伝子の活性を高める。RpaBはDNAに結合することによってシアノバクテリアに作用し、また概日時計とも連動した動きを見せる。このことがRpaCにも言えるのではないかと考えた。RpaCもDNAに結合することでステート遷移に影響を及ぼしていると仮定した場合、弱光条件下で元々ステート遷移を起こす未知の遺伝子のプロモーター領域にRpaCが結合し活性化させることで遺伝子発現を増大させ、ステート遷移をより強力にするのではないかと考えた。そのためΔrpaCでは発現の増大こそ起こらないものの、未知の遺伝子の発現は残っているためステート遷移が発生しているのではないかと考察する。また、もしrpaC-ox株などで遷移が低下した場合などは、DNAに結合していないRpaCがステート遷移を阻害するのではないかといった仮説が立てられると考えた。

A:これもよく考えていますね。環境応答遺伝子は、案外とその正体がわかっていないものが多いので、これからも解析を続けていく必要がありそうです。


Q:今回の講義ではステート遷移について学んだ。その中で、ステート遷移が生じる際のエネルギー伝達はフィコビリソームが光化学系Ⅱから光化学系Ⅰへの移動により起こるのか、光化学系Ⅱを通って光化学系Ⅰにエネルギーが伝播するのか考えた。光化学系パルス変調蛍光法によるエネルギー分配の測定のスライドにおける図を見ると、強光培養の実験は弱光培養の実験と比較するとエラーバーがどの株を見ても明らかに大きくなっている。この現象もステート遷移によるものだと推測すると、フィコビリソームが光化学系Ⅱから光化学系Ⅰへのエネルギーの遷移はフィコビリソーム自体が光化学系ⅡからⅠに移動することにより生じているのではないかと考えた。まず、光化学系Ⅱから光化学系Ⅰにエネルギーが伝播する場合はおそらくエネルギーが全方位に均等に伝播していき、PsaK2の存在がエネルギーを吸収する要因となり、光化学系Ⅰにエネルギーが伝達されると思われる。しかし、この説ではエラーバーが大きくなっている説明にはならない。そこで私はフィコビリソーム自体が移動する説が有力だと考えている。これは、フィコビリソームが強光になる際に光化学系Ⅰに移動するが、光化学系Ⅰへ全てのフィコビリソームが移動できるわけではなく、確率的に光化学系Ⅰに移動できなかったものも存在するのではないかと考える。このランダム性によりエラーバーが大きくなっているのではないかと思われる。また、この場合PsaK2遺伝子は、フィコビリソームを引き寄せる役割を持っているもしくは、一度光化学系Ⅰの上を通ったフィコビリソームを捕らえるという役割を持っていると考察することができる。

A:これは素晴らしい。このようにデータをよく見てその意味を考える能力は、研究にとって非常に重要です。多くの人は、エラーバーの大きさを、単に結果が有意であるかどうかの指標としか見ませんが、案外と実験についての重要な情報を与えてくれることがあります。考え方も論理的でよいと思います。


Q:PsaK2の役割について、ステート遷移後のフィコビリソーム状態を元に戻す役割を仮説として考えた。これを確かめるために、Fujimoriら(2005)の実験について弱光と強光を交互に行った上で生育結果の差を見るのが有効と考える。仮説が正しい場合、PsaK2の破壊株はPsaK1破壊株よりも生育が悪くなることが期待される。

A:やはり、仮説というからには、それを示唆する何らかの結果がないと、唐突に感じられます。もう少し論理的な流れのあるレポートをお願いします。


Q:アサクサノリの吸収スペクトルと作用スペクトルについて、アサクサノリはフィコビリンが大きいため、全波長を吸収しステート遷移によって、陸上生物などの光合成と異なる光合成パターンを示したことについて記述を行う。単純に考えると、全波長を光合成に利用する光合成様式の場合、それが弱光時の光合成では最適となるが、葉が黒い陸上植物はほとんど見かけないため、陸上では適していないことが考えられる。その理由としては、アサクサノリは海藻であり水中に生息するため、水中では陸上よりも感受される光の波長が絞られるため、より多くの波長を吸収することが必要であるが、陸上植物に関しては、強光条件になった時に全波長を過剰に吸収してしまうことが考えられる。

A:考えの出発点としてはよいと思うのですが、陸上では光が強すぎることがあるのだったら、全波長を吸収したまま、色素の量を少なくすれば、タンパク質などの節約にもなってよい、ということはありませんか。そのあたり、もう一段階考えられるといいですね。


Q:ステート遷移は光合成を効率的に行うためのメカニズムで、Psak2依存、RpaC依存、未知の因子依存の三種類があることを学んだ。ステート遷移が光環境に応じて光合成を調整するためのメカニズムであるならば、単一遺伝子発現の強弱の調節でも対応できるのではないかと考えた。しかし実際には弱光の場合はRpaC依存、強光の場合はPsak2依存と異なる遺伝子発現が関わっている。であるならば、これら遺伝子がステート遷移以外の光環境に応じた反応の制御にかかっている可能性は否定できない。このことから第三のステート遷移の存在意義は光応答だけではなく、弱光時に対応しなければいけない事項への応答に関わっているのではないかと考えた(光応答が主目的であればRpac依存の系が存在するため)。 その事項を検討するため、ステート遷移による調節が植物に比べ、藻類で顕著に見られることに基づいて、藻類の生育環境について考えた。藻類は水中で生育するが水は温まりにくく、冷めにくいため光の入射量の減少によって即時ストレスになるほどの低温になるとは考えづらい。その他高温ストレス、乾燥ストレス、栄養塩ストレス等一般的なストレス応答も検討したがいずれも光の強さに関わっているとは考えにくい。このことからストレス応答に関わっている可能性は低いと考えた。次に弱光環境が続くことへのリスクヘッジ的な反応(光合成能が低下するので合成反応を最低限に留める等)をしている可能性を考えたが、実際に弱光が続くのであれば光順化がそれを担うはずである。これ以上のアイディアが浮かばなかったので、アイディアを得るためにまずはRpaCによるステート遷移発生時に同時に誘導される反応の有無、存在した場合はその反応の意義を突き止め、それを第三因子ステート遷移と比較する必要があると考えた。

A:よく考えていてよいと思います。考えられている中で、実は栄養塩、特に窒素は光合成と密接にかかわります。光合成は二酸化炭素から有機炭素化合物をつくりますが、生態の多くの物質はタンパク質、核酸のように、有機窒素化合物なので、光合成の産物にアミノ基を付加していく必要があります。つまり、光があってもアミノ基源(硝酸イオンやアンモニウムイオン)が環境中に存在しないと光合成産物を有効に使うことができず、光が過剰になってしまうことがあります。ただし、栄養塩濃度の変化速度も温度と同様に遅いはずですから、これがステート遷移の大きな要因になっている可能性は少ないように思います。


Q:ステート遷移のメカニズムの例において吸収スペクトルに対する作用スペクトルのアオサとアサクサノリの差について触れられていたため、その差異の原因について考えた。これらの二種の養殖において、アオサは20℃を超えるような高い海水温が適しているため、北海道などでは生産時期が限られてしまうことで知られている一方、アサクサノリは浅草での栽培が有名であるがために命名されているものの北方原産であり尚且つ、11月~翌年3月くらいまで1)でなくては食用利用可能な植物体を採取することができないことが知られている。つまりこの二種には本来適応してきた環境の差が存在し、更にそこには海水温の違いだけでなく経度の違いが存在する。これを踏まえるとアサクサノリは日照時間の季節変化も大きい為によりステート遷移による強光弱光への対応の柔軟性を求められる環境に適応的な進化を遂げてきたことが考えられる。またその一方でアオサにはステート遷移に重要な因子の機能が活発である必要性が比較的低く、温暖な環境において吸収した光を純粋に最大限活用し繁殖する進化を遂げた方が生存に有利であったことが考えられる。またこれらのことから、ステート遷移についての発現する遺伝子の比較や特定をする際には、気温や水温が許す限り極圏に近い種に対象を絞って研究することが重要と考えられる。
1) 『絶滅危惧種アサクサノリの生育状況』https://www.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/kenkyu/kikuchi-asakusanori/kikuchi-asakusanori.htm

A:面白い考え方でよいと思います。思考の過程は評価できる一方、ステート遷移は数分で進む反応ですから、季節変化と一緒に考えるのは、少し無理筋かもしれません。


Q:本講義では二つの光化学系の協調方法として二つ目、比較的短い時間で行われる光応答のステート遷移について学んだ。このステート遷移は現状わかっている中で三種類存在し、強光培養下ではPsaK2依存、弱光培養下ではRpaCと未知の因子依存のものである。仮にこの三つの因子のみでステート遷移を行っているのであれば、いずれかの因子に変異が生じ使用できなくなった場合、弱光環境下の方が、ステート遷移を行えなくなるリスクが低い。このような弱光環境下で働く因子が多いことが環境適応的であるのは、その植物が比較的弱光環境下で生育するものであるという仮説が立てられる。因子が二つという二重の保険ともいうべき機構を持つことが、弱光環境に適応的であるといえる。シアノバクテリアに関しては、水中で生育すること、そして水中では光の減衰が大気より激しいことを考えると、強光より弱光での適応が進んでいることの説明となる。

A:これは、論理展開自体は比較的一般的ですが、弱光環境下での環境応答の重要性という最初の考え方は、案外気が付きにくいところで、よいのではないかと思います。