植物生理生化学特論 第1回講義

吸収測定

第1回の講義では、光の性質から始めて、分光測定の基礎について解説しました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。


Q:今回は吸光度測定に関する講義であったが、1つ疑問点があった。積分球で散乱光を測定する際、なぜ試料を積分球の端に置くのかということだ。光電子増倍管に入らない方向に散乱してしまった光を集めるのが目的であるので、試料を積分球の中央に置けば全方向の散乱光を集められるのではないか。実際に中央に試料を置くような積分球は存在する。試料を積分球の端に配置するのは、直進光を排除することが目的だと思われる。しかし、直進光は必ず入射光の反対側に当たるので、そこに入射光のスリットと同じ大きさの黒いシールを貼れば直進光を排除できるのではないか。黒いシールを貼った影響は、シールの面積と積分球の内壁の面積の比を考えればよい。

A:直進光を排除するかどうかは、測定の目的によるでしょう。講義で紹介したように、光の運命は、透過、散乱、吸収のいずれかになります。もし、吸収を測定したい場合には、それ以外の二つ(つまり透過と散乱)を合わせて測定する必要があるので、直進光(=透過光)を排除する必要はありません。一方で、散乱光だけを取り出して測定したい場合には、直進光を除外する必要があります。一般的には、前者の測定が一般的だと思います。試料を積分球のどこに置くかは、むしろ装置に必要な大きさの問題が大きいかもしれません。積分球の中に試料を置くタイプでは、当然積分球をかなり大きくする必要がありますから、装置を小さくしたい、コストを下げたい、と思えば、積分球に試料をくっつけて置くタイプを選択することになります。


Q:本授業を受け、積分球を用いた散乱光の測定において一つ疑問に思った点がある。積分球の内側は反射率の非常に高い酸化マグネシウムを用いて、反射を繰り返す間に光電子増倍管に入ったものを測定するが、この反射が起きるたびにわずかながら酸化マグネシウムの吸収するロスが発生していることが気になった。この積分球の構造上、散乱光が光電子増倍管に入るまでの反射数は少ないこともあれば、非常に多くなる可能性がある。そのため反射回数が多いほど、散乱光の吸収が起こり、オプションユニットによる見かけ上の吸収が大きくなってしまう。そこで、この積分球内の反射回数の低減のために、積分球の内側の形状が、パラボラアンテナのようにどのような角度から光が入射しても同じ一点に収束するようにし、収束地点に光電子増倍管を設置することで、反射回数を最小限に抑えることが可能と考えられる。例えばパラボラアンテナを二つ向かい合わせて作ったような積分球を使用しても、やはり測定光を照射する部分に戻ってくる光は測定できないが、本来何度も反射するうちに照射位置に戻ってきて測定できない光はなくなったため、総じて反射の連続による吸収と、照射位置に散乱光が戻ることによる測定不可な部分は減少したと考えられる。

A:反射率が100%でないことの影響を考えることは重要ですし、その悪影響を回避するためのアイデアも面白いと思います。ただ、パラボラアンテナの特徴について誤解があるようです。パラボラアンテナに平行光がまっすぐ入射した場合、どの位置に入射した光も同一点に収束します。しかし、異なる角度に入射した光は、同一点に収束するわけではありません(ちなみに、これがパラボラアンテナに指向性をもたらします)。散乱光は、ランダムな角度に射出されますから、それをパラボラアンテナで一点に収束させることはできません。


Q:色素の色と構造色について考える。色素分子は特定の光を吸収し、その他の光と区別をするために用いられる。複数の色素分子を光の進路上にうまく配置することができれば、どの光を含むのかを決定することができる。これを実現するには、光の進路上にピンポイントに色素分子を配置する技術が必要になる。そのため、予め光の進路を計測することにより1つ目の色素分子を配置し、さらにその状態で光の進路を計測することで2つ目の色素分子を配置し、その後の色素分子も同様の手段を踏むことが考えられる。この手順で正確に色素分子を配置することができると考えるが、コストや時間など総合的に考えると、予めシミュレーションで正確に光の区別を行える色素分子の配置を予測することで、この手順を簡易化することができると考える。また、配置を決定できたとしても、そこにピンポイントに色素分子を配置できる技術も必要である。顕微鏡を用いて人の手で配置していくことはずれを生じさせる要因となり得るので、コンピュータからの指示で自動に作動できるシステムを構築する必要があると考える。微細空間にセンサやモータなどたくさん配置することは難しいので、顕微鏡の画像を認識することで配置位置を座標で認識し、そこに自動で配置できるシステムが必要であると考える。
 構造色は凹凸のある構造に光を当てると、構造のくぼみで反射光の距離差により生じる距離における+同士で強め合う波や、+と−で打ち消し合う波を区別することができる。打ち消し合う波が消えるので、強め合う波のみが残る。これにより波長の違いから光を分析することができる。光の成分が比較的少ない場合は構造色の区別により完全に光を区別することができることも考えられるが、強め合う波や打ち消し合う波がそれぞれ複数存在する場合などでは、完全に区別することができないことが考えられる。そのような場合においては、構造色で光を区別した後に、前述した色素分子による光の区別を用いることが考えられる。構造色による区別で強め合う波のみを取り出すことができるので、強め合う波を色素分子で分析することが考えられる。分析する光の数が少なくなることから配置する色素分子の数も少なくなり、シミュレーションも行いやすくなると考えられる。一方で、打ち消し合う波の分析を行うことができないので、くぼみの高さを変化させて強め合うような高さで光を当てることで分析を行うことができる。そのため、くぼみの高さをを自由に変化できるように構造についても良く考えなければならない。
 以上のように、色素分子と構造色を併用することも考えられるが、どちらにしてもシミュレーションの迅速さと正確さが必要であると考える。

A:面白そうなレポートなのですが、もう少し具体的に記述しないとやや趣旨がわかりにくいかな、と思います。最初の方に「どの光を含むのかを決定する」ことが目的であるように書かれていますが、これは、分光器でスペクトルを測定するのと同じことなのでしょうか?もし、そうであれば、通常の分光器では、波長に応じて射出角度を変えるモノクロメーターを使う代わりに、角度を変えずに度の色素が励起されるのかを検出することにより同じ効果を求めるということでしょうか。その場合には、色素が光を吸収したかどうかを何らかの形で検出する必要がありますが、それをどのようにするのでしょうか。そのあたりを読み手に具体的にイメージさせるようにするとよいレポートになると思います。


Q:『吸収・透過・散乱』で紹介されていた高吸光度試料の測定のテクニックについて理解したい。まず、sample側を遮光板で覆うDark測定は、測定光が全く入射しない状態で検出器が検出する光、すなわち迷光の大きさがどれだけか調べる測定だと理解した。迷光の影響は透過光が小さくなるほど、つまり試料の吸光度が高いほど大きくなり、経験上吸光度3-4以上の試料では無視できないものとなる。この影響を排除するためには、Dark測定で得られた迷光の大きさを、試料測定やBlank測定でsample側の透過光の大きさから差し引いて補正するという操作が必要になると考えられる。続いて、Reference側を減光器で覆う操作は、Reference側のノイズの大きさを小さくするための操作であると理解した。初めに、Reference側のノイズの振幅の大きさによる影響は、試料側の透過光が小さくなるほど相対的に増大すると推測し、減光器によってReference側の透過光を減退させることにより、ノイズの振幅の絶対値も同じ倍率で小さくするのだと考えた。だが、吸光度は透過光の差(減算)ではなく割合(除算)で計算するため、ノイズの影響は絶対値を変化させても減退しないことになる。講義と同様の手法を紹介している以下のサイトでの説明では、光電子増倍管に入射する光量が減少すると感度が上昇するとあり、これは光電子増倍管の特性として光量が小さい方がノイズが相対的にも小さくなるということで理解した。これなら、ノイズを減退させるために減光器を使うことの説明になるが、今度はなぜ試料側の透過光量が減るとノイズが大きくなるのかが説明できない。Reference側で検出される光量が試料側に比べて大きすぎることが、吸光度に大きなノイズが発生する原因なのかもしれない。2つの検出器で検出する光が等量に近いほど、ノイズの影響も等しくなり、吸光度に与える影響が小さくなるのではないかと考える。
参考:JASCO日本分光 ホームページ 紫外可視分光光度計の基礎 https://www.jasco.co.jp/jpn/technique/internet-seminar/uv/uv5.html

A:前半のDark測定は正しい理解だと思います。後半の減光器の方は、やや誤解があるかもしれません。実際には、これはダイナミックレンジの問題です。シグナルの検出の際に、小さなシグナルを精度よく検出しようとして感度を上げると、今度は大きなシグナルが入ってきたときには、シグナルが飽和してしまって測定できなくなります。つまり、測定レンジが0から1という場合でも、0付近を精度よく拡大しようとすると1付近は測定できなくなるので、実際には、たとえば0.01から1が測定可能範囲になります。この時、0.001まで測定しようとすると、今度は上限は0.1までした測定できない、ということが起こります。つまり、実際には測定可能範囲は、0から数えた絶対値で決まるのではなく、下限と上限の比率で決まることになります。これがダイナミックレンジです。試料がないReference側を通過する光の光量は多いので、大きなシグナルが得られますが、その場合はダイナミックレンジの制約で、小さいシグナルを検出することはできません。しかし、減光器を入れてReference側を通過する光の光量をぐっと減らせば、上限を小さくすることができ、ダイナミックレンジが同じであれば結果として下限のシグナルも小さくなってより小さなシグナルを検出可能です。参考として挙げられたサイトでは、これを指して「感度が上昇する」と言っているのです。したがって、「感度を上げてもReference側が振り切れなくなる」という言い方の方が理解しやすいかもしれません。


Q:講義では構造色の一例として鰹の切り身が紹介されましたが、正直鰹の切り身を見たことがなかったため、この現象には驚きました。魚の切り身が緑色?に変色していたら私であったら腐っていることを疑ってしまいそうです。というのも鰹以外のお刺身を食べたことはありますが、構造色を観察できた記憶がありません。鰹の切り身の構造色については恥ずかしながら本講義で初耳でした。ほかの魚の切り身についても同様に構造色が観察されるのか調べてみますと、どうやら鰹の切り身特異的な現象のようでした(または代表例)。この構造色の発生原因については、被膜干渉が挙げられていました。被膜とは包丁で鰹を切った際に溢れ出る脂の膜でしょうか?そうであるとしたら、その他よく脂の載っているトロなんかでは構造色が観察されないのはなぜなのでしょうか?被膜干渉にちょうどいい脂の量なのかなとも考えましたが答えは得られませんでした。

A:設定された問題点(なぜ鰹か)は面白いのですが、やはり最後に答えが得られないと物足りないですね。この講義のレポートでは、考えることが重要であって、それが正しいかどうかは全く問いません。「被膜干渉にちょうどいい脂の量なのかなとも考え」たのであれば、それを仮説として設定して、その仮説を裏付ける考え方(論理的に展開されていれば、眉唾でも全く構わない)なり、実験系なりを考えるなりしてくれると、高く評価できるレポートになります。


Q:今回の講義を視聴して、菌体のOD測定に関して抱いていた1つの疑問が解消した。菌体のOD測定では同一試料を測定した場合でも、使用した測定器が異なるとOD値も異なってしまうことが多い。この測定器間の差があるため、1つの実験で複数の分光光度計を使用する必要があった時に、OD値の妥当性が問題になった。また研究室に新しい測定器を導入する場合に、従来の測定器とのOD値の差について検討する必要が生じた。このOD値の差が何故生じるのか疑問に思ってきたが、測定器による試料と光検出器の間の距離の差が原因の1つであることが、今回の講義から推測できた。Thermo Fisherのテクニカルノートによれば、測定器間の測定値の差を生じさせる原因には、試料と光検出器の距離の他にも「使用する集光レンズのサイズおよび焦点距離」や「検出器の面積および感度」が挙げられるようだ(Matlock, 2021)。測定器間のOD値の差は先述の問題の他、論文の再現実験を行う場合にも少なからず問題となる。合成生物学などのプロトコルの標準化が重要な学問や、その知見を用いた工業化においては、その問題はより顕著になるだろう。
 そこでOD値に関係するプロトコルの標準化が必要な学問においては、測定器間のOD値の差を生み出す原因について規格化された分光光度計を導入すると利便性が上がるのではないかと考えた。あるいは測定されたOD値を補正する方法が必要なのではないかと考えた。例えば大腸菌を使用する場合は、OD600を測定することで定量できる何らかの粒子を、決まった量だけ水に懸濁し、それを段階希釈した時の測定値を補足情報として論文に追記するなどすれば、プロトコルの標準化がしやすくなるかもしれない。
参考文献:Matlock, B. C., 紫外可視分光光度計を用いた細菌の光学密度測定における分光器光学系による違い, Thermo Fisher Scientific, (2021). url:https://assets.thermofisher.com/TFS-Assets/MSD/Application-Notes/an-035-uv-bacterial-optical-density-an035.pdf, (2022年4月13日閲覧).

A:これは面白いアイデアですね。確かにODの場合は、何らかの基準があると便利かもしれません。これに関して、中学・高校などで、分光器の設備がない場所で、たとえば大腸菌の生育を調べる際に、比色法を使うことがあります。例えば、水酸化バリウムと希硫酸を混ぜると、硫酸バリウムの沈殿ができますが、沈殿しないようによく振れば懸濁液になります。その場合、元の試薬の量をきちんと測っておけば、いつでも、どこでも同じ濃度の懸濁液を得ることができます。そこで、一度、段階的に濃度の異なる懸濁液のODを分光器で測定しておけば、大腸菌の培養液の見た目の濁りと、硫酸バリウムの懸濁液の濁りを目で比較することにより、培養液のODを推定できる、というものです。もちろんそれほどの正確性は期待できませんが、一応、どの程度のODかが分光器を持っていない学校ででも見積もることができます。


Q:CDの裏面が虹色に見えることや、ガソリンなどの油が流れた水面が虹色に見える原理を確かな知識として知ることができたので面白かったです。高吸光度試料の測定の際、Referenceを取る際に、試料と同等程度の吸光度を持つものを使用してReferenceを取ると正確に測定することができるのかどうかと考えました。また、吸光度が高いのなら、その分光を強く当ててあげるとどうなるのかとも考えました。

A:導入としてはこれでよいのですが、レポートとしては、この後に考えた結果を書いてください。この形では、このレポートは評価の対象になりません。アナウンスをしているように、この講義のレポートでは、著者の論理を評価します。


Q:今回は分光光度計の測定方法の違いやそのメカニズムについて学んだ。自分が研究室で使用している生物も液体培地内で均一に生育することがないため、吸光度の測定の際にはよくボルテックスをかけるなどして見た目上は均一に分布しているように懸濁してから測定を行うようにしていた。しかし大量のサンプルを同時に測定するとなると、ボルテックスを行ってから経過した時間が平等でなく、その結果サンプルが底に溜まってしまうなどの際が生じる。その結果サンプルたちの差異が正しく出ているのか、それともこの経過時間の差異によるものなのかといった懸念が生じてしまう。そのため吸光度を測定する直前までゆるいボルテックスをかける機能や、光を一方向からのみ照射するのではなく、上や下方向から照射し、その結果と通常方向からの光を加味することである程度正しい吸光度が得られるのではないかと検討する。また、高濃度のサンプルを測定する際の手法も学んだが、高濃度のものは通常段階希釈をして測定すると考えていたため、高濃度の状態で測定しなければならない状況とはどのようなものかが気になった。

A:このレポートは、内容はそれほど悪くないのですが、この講義で求めているのは著者の論理なので、この場合であれば、問題設定を「急速に沈殿するような試料のODをどのように測定すればよいか」として、仮説を「上下方向から光を照射して測定するとよい」とし、実際にそのような状況で即手する試料が沈殿していった場合に、測定される散乱の大きさはどのように変化するかを考えて、結果として仮説が成り立つのか成り立たないのかを結論する、という流れにすると、きちんとしたレポートになります。なお、レポートの最後の「気になった」点ですが、講義では、酵母の濃厚溶液の吸収スペクトルによりシトクロムの吸収を検出する場合を紹介したと思います。この場合、希釈してしまえば、シトクロムの濃度も低くなってしまいますから吸収の検出は不可能になります。そのような場合は、高濃度測定が有効に働きます。


Q:光の分光には一般的にはハロゲンランプと重水素ランプを併用して適しているものに自動で切り替えている。透過率は試料を通った後の光をとおる前の光で割ったものである。しかし、光の検知部位は試料の後にしかないため、測定前にブランクとして、何もないもしくは水、Bufferなどで「試料を通る前の光」を先に測定する必要がある。ダブルビーム測定では光路を2本に分けてブランクをとることと測定を同時に行うことができる。ダブルビーム測定はセクター鏡を採用して光路を2本に分けている。ダブルビームはシングルビーム測定と比較してベースラインが安定しているというメリットがある。光を検知する方法には光電子増倍管、フォトダイオード、フォトダイオードアレイの3種類が主に知られている。光電子増倍管は最も感度がよいが、値段が高く壊れやすいというメリットがある。光を分光する方法は主にプリズム、回折格子が知られている。プリズムは分散を利用したものであり、透過する波長に使用が限られる、波長分解能が限定的、角度と波長の関係が直線にならないという理由から分光器のための分光には使用されないという観点から回折格子を採用している。吸収は濃度に比例することから使用されることがある。濃度の濃い試料を測定する際、透過率が低すぎることから、正確なデータを取ることができない。そのため、Dark測定をすることがある。Dark測定を行うことで、試料とは関係ない光が4入ってくるのを防ぎ、Referenceにも減光器を置くことで光の強度を下げてSampleとの光の強度の差を小さくすることで制度を上げることができる。他の方法としては分光器をダブルモノクロメーターにするという案がある。2重に分光することで、目的は超以外の光が少なくなるため高吸光度の測定が可能となっている。濃度が薄い際の検出限界は、吸光度のばらつきの3.3倍以上あれば検出することができる。懸濁試料の吸収測定をする際には試料セルの位置を光電子増倍管に近づけることで精度を上げることができる。昔はオパールグラス法を採用していた。現在は積分球を利用することが多い。散乱を測定したい際は試料セルは逆に光電子増倍管から離しておくとよい。蛍光性の物質の吸収測定も同様に試料セルと光電子増倍管を離す必要がある。

A:これは、講義内容をきちんとまとめていますが、講義のお知らせの所に明示しているように、この講義のレポートとして求めているのは、書き手の論理的な思考です。講義を理解したかどうかの確認のためにレポートを課しているのではありません。このような内容の講義を聞いて、自分が何を考えたのかを論理的に記述したレポートを提出してください。


Q:懸濁試料の吸収測定について、園池先生が講義内で扱われていた粒という表現をお借りすると、光源から出た光が粒にあたり散乱光となり、その散乱光のうち直進した光が粒にぶつかってまた散乱光になり、そのうちの直進光が次の粒にぶつかって散乱光になる。これを繰り返すことは十分考えられるため、最終的に光電子倍増管に到達した光が散乱光以外とは言えないと考えた。そのため試料を光電子倍増管に近づけたところで、散乱光がいくらか抑えられたとして、実際の吸収光とは異なると考えた。しかし積分球を用いた場合、こういったロスが解消されるためデータの信頼度が上がると感じた。
 また、吸収測定による濃度測定といえば、自分は普段DNA濃度のナノドロップによる測定を行なっているのだが、タッピングおよびピペッティングを施したにもかかわらず、同じサンプルでも1度目と2度目では測定結果である濃度に大きな差があることが多々確認される。複数サンプルを用いて濃度測定を行い、平均を取るのがより良い濃度測定であるとは考えられるが、大元の溶液量が微量なプラスミド溶液においては大きな損出になってしまい、後の実験に影響が出てしまうことが考えられる。しかし、溶液内で溶質や溶媒が完璧に均一に分散されていない限り正確な吸収測定は行えず、試行回数によって差が出てしまうのは避けようのないことなので吸光測定による濃度測定の差はある程度許容するしかないと感じた。

A:これは、内容は悪くないのですが、2つのテーマについて触れている点(これ自体は本来必ずしも悪くないことですが、一般的には1つのテーマあたりの考察が浅くなりがちです)と、どちらも最後が「感じた」で終えられている点が気になります。サイエンスは、感覚ではなく、論理が重要です。何らかの論理によって導き出した結論であれば、それが完璧であるとは限らない場合でも、「感じた」ではなく、せめて「考える」にしてください。一方で、論理ではなく本当に感覚だけで議論しているのであれば、そのような方向はやめて、論理的に議論を進めるようにしてください。


Q:試料の濃度や特定の波長の光を得ることや、精度の高い測定結果を得るために装置を複雑化していくことで光量が減ってしまうことと、その対抗策として積分球や光電子増倍管による光量の確保についての手法が紹介されていたのを受けたことで、光源側に対し直接的に安定的で明度の高い光を得ることのできる改良やランプの追加等のなされた装置の発展は今までになかったのかと疑問に思った。またその際に光源となるランプや分光器の発熱やそれに伴うもやの発生等での測定結果への影響が危惧されたことなどを原因に発展してこなかったのであれば、現在ではCPUなどを対象とした大型の冷却装置や恒温器もあり、それらを内包した装置の導入によって解決できるのではないかとも考えられる中で、なぜそういったものが既に主流になっていることや望まれる声が聞かれるといったことになっていないのかとも疑問に思わされた。

A:「疑問に思った」、「疑問に思わされた」とありますが、本講義のレポートは、アナウンスをしているように「疑問点を挙げただけのレポートはほとんど評価しない」ことになっています。疑問点は、レポートの出発点としては重要ですが、その後に自分なりの論理を書くようにしてください。


Q:積分球の内部には測定光を反射、散乱させるために反射率の高い物質が塗布されており、その物質として酸化マグネシウムが多用されているとあった。ここで酸化マグネシウムが反射材として最も適している材料であるのかが気になったため他の物質を検討してみることにした。そもそも酸化マグネシウムに反射材としての欠点がなければ他物質検討の意義がないため、欠点が存在しうるのか調べたところ、酸化マグネシウムは近赤外領域で反射率が低くなり1500 nm および 2000 nm 付近に吸収ピークが存在する[i]ことがわかった。これは酸化マグネシウムに含まれる水分に起因するものである。よって他物質検討の意義があると判断した。酸化バリウムも塗布材として多用されるが、酸化マグネシウムと同様の理由で近赤外領域で反射率が低くなっていた。ここで他候補として太陽熱高反射率塗料、酸化チタン、酸化亜鉛を思いついた。高反射率塗料はすでに実用化されており通常屋根など広範囲に塗られているため積分球の反射材として利用してもコストがあまりかからず、なおかつ屋根に利用するなどの特性上ある程度機能が長持ちするのではないかと考え検討することとした。酸化チタン、酸化亜鉛は日焼け止めにおいて反射材として用いられていることそして日焼け止めを塗布した際に肌が白っぽく見えるため検討した。太陽熱高反射率塗料について大林組のサンバリア(白色)という製品は可視光線領域における反射率が100-90%と高かったが、赤外線領域では右肩下がりで反射率が落ちていった[ii]ので(波長750 nmから2100 nmで反射率が90%から40%まで推移した)反射材として不適であった。そもそも製品の特性上赤外線を選択的に反射することが求められているので、紫外線領域には有効でなかった。サンバリアは高耐久性低汚染型ふっ素樹脂に、赤外線を選択的に反射する無機系特殊顔料を添加した製品との説明があったため、このフッ素樹脂について調べてみた。結果酸化マグネシウムより高価であるものの、水分による影響が酸化マグネシウムと比較して少なく、より優れた反射材としてすでに積分球において利用されていることがわかった[iii]。酸化チタンについて反射率のデータを見つけることはできなかったため比較できなかったが、粒径の大きな酸化チタンを用いれば回折が防げ、ある程度反射率を担保できるのではないかと考えた。酸化亜鉛についても同様にデータは見つからなかったが、紫外線を照射した際、実験環境によっては酸化還元反応によって酸化亜鉛の色が変化する[iv]リスクがあるのではないかと考えた。結論として値段を加味しないのであれば今回検討した物質中ではフッ素樹脂が最適であった。
[i] 島津製作所、Application News A639「積分球を使用した反射測定—標準白色板によるスペクトルの違い—」、2020年10月発行
[ii] 大林組、「太陽熱高反射率塗料「サンバリア」」環境に優しい次世代型省エネ塗料https://www.obayashi.co.jp/chronicle/database/t40-2.html、2022/4/17閲覧
[iii] 島津製作所、Application News A639「積分球を使用した反射測定—標準白色板によるスペクトルの違い—」、2020年10月発行
[iv] 宇都宮大学大学院工学研究科物質化学環境専攻 粉体・界面工学研究室、「金属酸化物の表面改質」、http://www.chem.utsunomiya-u.ac.jp/lab/funtai/fun.html、2022/4/17閲覧

A:調べただけのレポートは評価の対象ではありませんが、複数の選択肢を比較して、その特徴から必要な要求を満たすものを見つけ出す過程は評価の対象になりますので、このレポートは十分に評価できます。サンバリアに関しては、フッ素樹脂の部分は、屋外で屋根材などとして用いる際に汚れの付着によって反射率が低下することを防ぐことが主目的で、おそらくそこに含まれる「無機系特殊顔料」なるものが重要なのだと思います。積分球はきちんと使っていれば汚れませんから、この特殊顔料を単独で使った方が性能がよいかもしれませんね。


Q:本講義では懸濁試料の吸光測定について、Isを相対的に減らすためオパールグラス法や試料濃度の増加が紹介された。ここでは、別の方法でIsを相対的に減らす方法を考察する。Isは直進光であるため、試料セルの直後に直進光を遮光する偏向板を設置すると、Isは遮光され、一方散乱光は通過する。よって、波長依存性は保たれつつ、p*IDの重みを相対的に大きくすることができると考える。本方法のメリットとしては、試料の稀少性や物性によっては試料の濃縮が困難であるため、低濃度試料でも測定できる点が考えられる。デメリットとしては、試料通過後の光が長波長寄りの場合は相対的に散乱されにくく偏向板に遮光されやすいため、見かけの吸光度が高くなってしまう点が考えられる。また短波長と長波長の2箇所以上に吸収ピークがある試料や短波長寄りの吸収スペクトルをもつ試料では、従来の方法と比較して色の情報が失われやすい。したがって、長波長寄りの吸収スペクトルをもつ試料に適していると考える。

A:アイデアは面白そうに感じました。ただ、偏向板というのは、偏光板の間違えではないのでしょうか。風の向きや電圧によって電子線の方向を変える偏向板は知っていますが、それでは光は影響を受けないように思います。一方で偏光板であれば、元の測定光が偏光していなければ遮光することはできないように思いますが。


Q:第1回講義では光の分光、吸収、透過、散乱について講義があった。この中で、植物葉においてクロロフィルII、チラコイド膜、細胞レベルでも光合成に用いられる緑色の光の吸収が50%程度と低いことが示された。その一方、葉レベルだと吸光度が80%以上であることも示された。本レポートでは、植物葉における構造による光の吸収の効率化について議論する。
 葉は光の獲得のため、特殊化した光の経路を有する。光を直接受容する表皮細胞では光を下層に透過するため、葉緑体が存在しない。柵状組織では葉緑体が一部に集合して存在することで、光が葉緑体色素などに捕集されずその下の海綿状組織に透過するようになっている。海綿状組織では光が散乱することで効率的に光合成を行えるようにしている[1]。前述の葉レベルにおける緑色光の吸収が分子や組織レベル以上に高い原因の1つはこうした構造による効率的な光の活用があると考える。
 この構造では下層の海綿状組織における光の散乱による光合成の効率化について述べたが、通常空気である海綿状組織中の気体を他の気体に変えた際に光の吸収が変化するかについて疑問を持った。この疑問を解決するための実験をデザインする。最も簡便な方法としてインフィルトレーション法が挙げられる(図1、[2]より引用、園池注:図に関しては、レポートでは引用が許されても、それをサイトに公開することは許されていないため省略します)。この手法では葉表面と細胞間の空間との間に発生する圧力差を用いて、強制的に物質を浸透させる手法である。圧力差の生成のためにサンプルを真空状態し、それが常圧に戻った際に圧力勾配によって外部の溶液を細胞間の空間に浸透させることができる[2]。この手法で細胞間のスペースに光に対して異なる屈折率を持つ溶液を導入し、それぞれ光の吸光度がどのように変化するかを確認することで、空気による光の散乱によって葉における光合成が高効率化されているかを確認することが可能である。ただし、この際細胞間の空間を埋める物質を換えた結果、その物質によって植物サンプルそのものに対して何らかの影響があることを考えなければならない。また、インフィルトレーション法による過度な圧力の変化による葉構造の変化についても考慮したうえで考察する必要がある。
参考文献:[1]三村徹郎、深城英弘、鶴見誠二, 植物生理学[第2版], 化学同人, 2019.、[2] Izabela Anna Chincinska, “Leaf infiltration in plant science: old methd, new possibilities,” Plant Methods, 2021.

A:このあたり、よく勉強していますね。実は、うちの研究室では、まさに卒研生が一人、ここで提案されたような屈折率の異なる溶液をインフィルトレーションして、葉の透過率を測るという実験を過去にしていました。そして、細胞内の屈折率と似た屈折率の溶液をインフィルトレーションした時に葉の透過率が一番上がることが示されました。一方で、やはりこのレポートで指摘されているように、インフィルトレーションによる副作用もありました。溶液にはスクロース溶液を使ったのですが、浸透圧の効果によってインフィルトレーション後の葉の面積が変化してしまい、定量的な解析が難しいという結果が得られていました。このレポートでは、そのあたりを実験をせずに予測している点が素晴らしいと思います。


Q:今回の講義では、分光器の基礎知識と試料の種類による測定方法を学んだ。細胞数の計測などで分光測定を利用する際に、高濃度測定を行うメリットが少ないと考える。理由として、セル中の粒子の重なりによって、複数回の散乱が起き粒子の通過回数が増えることで検出光が微弱になること、重なった細胞には光が届かず光源から遠い細胞の評価ができないことなどが挙げられる。これらの改善方法として光路長(セルの幅)が小さいものを用いることが考えられるが、散乱光と共に直進光も増えるため、高濃度で測定するメリットが失われ、希釈して測定する方法と大差ないように思う。また、初めから試料が希薄懸濁液である場合は積分球などを用いて散乱光を集める工夫が必要になるが、高濃度溶液の場合は適当な濃度に調製可能であるため、段階希釈により正確な評価ができる濃度を検証し、吸光度に影響を及ぼしうるオプションを加えることなく測定するのが良いのではないか。

A:これは論旨がよくわかりませんでした。細胞数の計測が目的だとすると、散乱光が光検出部位に入ることはむしろ避けなければならない一方、「積分球などを用いて散乱光を集める工夫が必要になる」といった記述があり、何を何のためにどのように測定するかが理解できませんでした。