植物生理生化学特論 第14回講義

植物の光環境応答

第14回の講義では、植物の光環境応答について、まず光を感知するための光受容体について説明したのち、葉緑体の定位運動や、キサントフィルサイクル、サイクリック電子伝達など、光環境の変動に対する植物の応答について解説しました。


Q:今回の講義において、植物の葉が日中に立つという話があった。しかし、個人的には葉を重ねる方が、葉を動かすのに必要なエネルギーを毎度使うよりも効率がいいのではないかと感じた。頭頂部は成長部分であるため、必要なのは成長の度合いに応じた形質の変化である。生え始めは光合成能力が必要ではなく、遮光効果に適した構造を取ればよい。自身よりも上に葉ができ始めたら、葉緑体を本格的に生成し植物体の成長に貢献できる構造に変化すればよい。さらに、100%のエネルギーを有した光線よりも、遮光した50%、25%の光線の変化に対応する方が、その対応する幅は小さくてすむことは明らかである。仮に、遮光した光が小さかったとしても、文献①にあるように、光のエンハンスメントに貢献する構造は存在する。植物の阻害に直接関わる強光を軽減しつつ、弱光に対応することで、植物の生育範囲拡大や、環境条件の緩和につながるのではと考えた。
①Photonic multilayer structure of Begonia chloroplasts enhances photosynthetic efficiency, Matthew Jacobs, Martin Lopez-Garcia, O.-Phart Phrathep, Tracy Lawson, Ruth Oulton & Heather M. Whitney, Nature Plants volume 2, Article number: 16162 (2016)

A:面白い考え方で非常に良いと思うのですが、葉の向きを変えるのは、強光に変化したときの応答であって、ずっと強光に置かれた時の応答ではありませんよね。上部に遮蔽物を置いた時には、朝晩の弱光時にどのように応答するのかという問題が生じると思います。真上に遮蔽物を置けば、真昼だけ遮光されるという考え方はあると思いますが、季節の進行とともに光の射し込む角度が大きく変わる中緯度以上の地域では、なかなか難しいように思えます。


Q:本日の講義では、植物の光環境変化に対する様々な応答について学んだ。その中で、強光への応答としてキサントフィルサイクルのお話があった。講義ではキサントフィルサイクルはチラコイド膜内外のpH勾配の変化を引き金に起こる応答であるということだった。そこで、もし外部から過剰なプロトンが細胞内に侵入しチラコイド膜内外のpH勾配がなくなった場合は、キサントフィルサイクルによる熱放散はどうなるのだろうかと考えた。まず、pH勾配がなくなると当然キサントフィルサイクルによる熱放散は低下する方向へ反応が進むと考えられる。すると、光エネルギーの内、光合成に使うエネルギーは増加すると考えられる。しかし、実際は、電子伝達活性の低下によりpH勾配がなくなったわけではなく、外部からプロトンを加えたことで、pH勾配がなくなっているだけなので、電子伝達は正常に行われているため、光合成(特に電子伝達)は過剰に稼働すると考えられる。そうであるならば、過剰な還元力が生成され、活性酸素種などによる阻害が起きそうだと考えた。

A:考え方の論理はよいと思います。ただ、これだけだと簡単なパズルの答えのようですよね。生物学としては、例えば実際の植物で、そのような現象が起こる環境条件なり、突発事故なりを想定して、その点を議論したいところです。


Q:植物の葉を透過した光には700 nm以上の長波長域のスペクトルが大きいことが分かった。近赤外領域は、アンテナクロロフィルでは吸収されないがPSIの反応中心であるP700では吸収を示す。自然界において、上層の葉を透過した近赤外光が下層の葉に当たるとP700が特異的に励起される状態になるのではないかと考える。過去にFar-redを照射したriceの切葉では、クロロフィル含量の低下に伴う老化が進行することが報告されている(Okada et al., 1992)。しかし、そのメカニズムは明らかになっていない。このような長波長域に限定された光の照射が長期的に続くことで、葉の電子伝達にはどのような影響があるか考察した(同個体における被陰ではなく、別の植物体の透過で考察)。
 近赤外光ではアンテナクロロフィルが光を吸収できず、PSIIの反応中心もほとんど励起されず、プラストキノンプールが酸化状態になることで、電子伝達の不活性化が起こると考える。そして、近赤外光を吸収するP700はエネルギーを光合成ではなく熱や蛍光に変換し、光合成に利用できないエネルギーが過剰な状態が長期的に続くと、活性酸素を生じるなど植物にとって悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、P700のみが励起される条件下が長期的に続くと還元力が生成されず、近赤外領域で吸収を示さないクロロフィルの分解に伴い老化の進行に繋がると考える。長波長域の光捕集に関して、陸上植物や淡水性の緑藻のPSIがP700よりも長波長(720-750nm)の蛍光を出すクロロフィル(red forms)を持つことが報告されている(Croce et al.1996, Croce, R. and van Amerongen,H.2013)。仮に近赤外光下でPSIで吸収したエネルギーをPSIIへ分配できれば、他の葉を透過した光を有効利用して電子伝達を維持できると考える。

A:よく考えているとは思うのですが、今回は、サイクリック電子伝達の話もちらっとしましたよね。PSIだけが動けば、電子はPSIの周りを環状に動きますから、過剰な還元力は生成しません。その条件でもプロトン濃度勾配はできますから、たしかにエネルギーは過剰になるかもしれませんが。あと、途中のred formクロロフィルの話が、全体のロジックの中でどのような意味を持っているのかわかりませんでした。


Q:今回の授業では植物における光環境応答を学んだ。その中で、青色光受容体であるフォトトロピンや赤色光受容体のフィトクロムが紹介されていた。これら気孔開閉や光遺伝子発現制御に関与しているという事も述べられていた。そこで疑問と感じたのは植物の透過率の高い緑色光の受容体の存在である。光合成に活発に活用される、青色光や赤色光の受容体を持つことは重要な事であると思うが、それと同時に他の植物や葉に光をさえぎられているという陰りのシグナルとして緑色光の受容体も持っているのではないかと考えた。働き方の仮説としては赤色光受容体や青色光受容体が働いている時には抑制され、これらが光を受容しなくなると緑色受容体の優先度が上がり緑色光を受容して、陰りに適応するような環境応答を引き起こすと考えた。この仮説を検証するには、緑色光条件下で生育させ、オーム解析を行うという事がコストと時間はかかるがすぐに思いついた。しかし、青色光、赤色光もない環境では植物は暗所と勘違いするのではないかという懸念もある。可能であれば、緑色光受容体を活発化させた状態を見るのではなく、過剰なエネルギーなどにより選択的に緑色光受容体を破壊し、その状態と白色光で生育させた葉の状態を比較し、失われたタンパクを同定する方が仮定された受容体は見つけやすいのではないかと思われる。

A:考え方は面白いと思いますが、講義で紹介したように、フィトクロムは赤外光と近赤外光の比率を感知してシグナルを伝達します。従って、まさに、被陰と暗所を区別できるシステムになっているわけです。つまり、緑色の光の代わりに、同様にクロロフィルの吸収が小さい近赤外光を使っていることになります。


Q:今回の講義では光強度に応じた葉緑体の移動に関する内容に触れた。強光反応は光傷害を避けるために細胞壁面に移動することが知られている。葉緑体機能の損傷は植物にとってエネルギー源の獲得に深刻な影響を与えるため、植物は強光以外のストレスでも葉緑体を守る手段を持っているのではないだろうか。低温ストレスに対しては、葉緑体の寒冷定位運動という現象が知られており、葉緑体がおしくら饅頭のように凝集し、低温ストレスに応答していることが知られている(J Plant Res, 2008)。では、乾燥ストレスに対してはどうだろうか。乾燥ストレスによる葉緑体への影響は詳しく分からないが、乾燥により気孔を通じて水分が奪われることから、葉緑体は気孔から離れて位置に移動するのではないだろうか。さらに、乾燥に対して葉緑体が外に触れる表面積(?)を減らすために凝集することなども考えられる。いずれにせよ、環境ストレスに対する葉緑体の応答を調べることは、植物のストレス応答を理解するうえで重要であると考えられる。

A:光以外の環境要因による葉緑体の定位運動は面白いですね。ただ、光と違って、移動した結果、ストレス条件下でどのように有利になるかを明確にするのは、非常に難しいように思います。人間なら、おしくら饅頭をすれば暖かくなりますが、葉緑体はどうでしょうか。


Q:植物の光環境応答として、様々な光受容体が講義で紹介された。これは植物が強光ストレスを回避するのに役立っていて、例えばフォトトロピンは光屈性や葉緑体の集合・逃避運動に関わっていることが分かっているとのことであった。そこで、フォトトロピンが光強度をどれくらい感知しているかを定量化する方法を考えてみる。フォトトロピンの構造を考えた時、タンパク質のC末端側がセリン・スレオニンキナーゼ構造となっていて、青色光を吸収すると自己リン酸化が起こると講義で学んだ。従って、このリン酸化システムをうまく活用すれば定量できると考える。具体的には、異なる強度の青色光を当て、サンプル毎にフォトトロピンを抽出してどれほど自己リン酸化が起こっているかを調べる。リン酸化されたフォトトロピンが多ければ多いほど、効果は高く、良く光を感知していると考えられる。この系で光強度感知の閾値などを調べることができれば、フォトトロピンと細胞膜との相互作用なども分かるのではないかと思った(フォトトロピンは細胞膜と結合しているとのことだったので)。

A:フォトトロピンが自己リン酸化をするって、講義で言いましたっけ?C末端ののキナーゼドメインの本当の役割は、まだ確定的ではありません。見るからにシグナル伝達をしています、という構造ではあるのですが・・・


Q:今回の講義は植物の光環境応答についてであり、葉緑体の光に対する逃避運動や集合運動、アンテナの削減や熱放散などがあった。これらはシアノバクテリアしかり陸上植物しかり、大きく動けない生物がいかにして光に適応していくのかの結果得られたものであるが、褐虫藻のような自力で動ける生物はこのような機構を有しているのかを考える。これを解明するのによい手がかりとなるのはサンゴの白骨化現象である。これはサンゴ共生している褐虫藻が水温や光量の変化で褐虫藻が離れていくことによりサンゴが死亡して骨格のみになる現象のことである。この現象より褐虫藻は自身に都合の良い環境に移動する性質があることが分かる。これにより移動できる以上は葉緑体にあれこれ手を加えるよりも保有している機能を利用したほうが無駄な労力をかけずに済むので葉緑体が移動や変化するような光環境応答は持っていないと考えられる。一方で運動には多大なエネルギーが必要になるので動かずに応答したほうが結果的にエネルギー収支は良くなるとも言える。しかし褐虫藻は体が小さいため陸上植物のような一部に光が当たることはなく、体全体に当たるか否かという状況であり、かつ良い環境に移動が可能であるので光応答は意味をなさずに消滅したことが原因として考えられる。

A:移動の能力と、環境応答の能力の間には、確かに何らかのリンクがあるはずですね。面白い考え方だと思います。細かいことですが、「白骨化する現象」ならばよいけど、名詞として使うのであれば「白化現象」です。あと、サンゴから放出された褐虫藻が、どれだけ遊離状態で生き続けられるのかどうかはよくわかっていないのではないかと思います。


Q:フォトトロピンとクリプトクロムは似たような吸収スペクトルを示しどちらも青色光受容体であるが、なぜ似たような青色光受容体を2種類も持つ必要があるのか疑問に思った。フォトトロピンとクリプトクロムはそれぞれ異なる作用を植物体にもたらすが、2種類存在しているからには何かしらの使い分けがあると考えた。フォトトロピンは細胞膜上に、クリプトクロムは核内に局在しているということから作用の仕方が異なるのではないかと考えた。フォトトロピンはATPの分解やチャネル・ポンプによる物質の移動などの細胞膜上のタンパク質の機能調節に関わっており、その結果光屈性、気候開閉、葉緑体の移動をもたらす。クリプトクロムはタンパク質の機能調節というより遺伝子の発現調節に関わり、日周期リズム、胚軸伸長阻害、光周性をもたらすということだろうか。どちらか1種類の青色光受容体が細胞内外に関わらず自由に移動できれば青色光受容体を2種類持つ必要はないが、今の状態に落ち着いているということは2種類を使い分ける方法が植物にとって最適であったのだろう。

A:よく考えていてよいと思います。しいて言うと、植物での役割を動物での役割と対比させて考えると、もう少し別の側面も見えてくるかもしれませんね。


Q:今回、熱放散系による余分なエネルギーの放出について学んだ。低温時の弱光条件の際に、この熱放散系が働いていれば、系Ⅰの光阻害は起こらないのではないか。ここで、キサントフィルサイクルについて考える。強光条件ではゼアキサンチンとなり熱放散を行うが、弱光条件ではビオラキサンチンとなり逆に集光アンテナとして働く。つまり、低温弱光条件では、キサントフィルサイクルはむしろ阻害を起こりやすくする要因として働くのではないか。(ただし、キサントフィルサイクルを制御するのはpHなどほかの要因もあるため一概には言えない。)また、低温につよい植物の系Ⅰ保護機構として、低温弱光でゼアキサンチンとして保つというものが存在する可能性がある。これらは、系Ⅰの低温弱光条件おいて熱放散をキュウリとホウレンソウで比較できれば、測定できると考えられる。系Ⅱであれば熱放散をPAMで容易に測定できるため、系Ⅰでの熱放散の測定ができるか知りたい。

A:着目した点はよいと思います。キサントフィルサイクルが、脱エポキシ化酵素の活性などで(ある意味での自動)制御されるという話はしたので、もう少し具体的に、その酵素活性がどのような温度依存性を持っていたら温度に関して自動制御がなされるか、と考えてみると面白いかもしれません。


Q:今回の講義で、βーカロテンは励起したクロロフィルからエネルギーを受け取って熱として放出することで、光合成の過剰なエネルギーを消費していると学んだ。カロテンというとニンジンの食べている部分である根にオレンジをつくりだしている色素であるという印象が強かった。しかし光合成に関与しながらなぜニンジンの根に多く含まれているのか疑問に思ったので、これについて考察した。ニンジンは茎の部分が短く、根と葉の距離が近い。そのため葉で受けた過剰エネルギーを根で熱にして放出しているのではないであろうか。光合成ができない根に反応中心のクロロフィルが多くあっても無駄である。そこで直接光合成をするわけではないカロテンを配置する。一方光合成の場である葉にクロロフィルを多く配置することで多く光合成ができる。このように根と葉で色素を変えることによって分業し、効率よく光合成ができるようにしているのではないであろうか。

A:これは、アイデアはすごく面白いと思うのですが、葉から根に、どのように過剰なエネルギーを送るのか、という問題が生じますね。その問題に対する仮説を提案できれば素晴らしいのですが。