植物生理生化学特論 第12回講義

ステート遷移

第12回の講義では、光合成の調節機構の一つであるステート遷移について、シアノバクテリアにおける研究例を中心に解説しました。


Q:今回の講義はステート遷移についてであり、概ね理解できたように感じた。RpaC依存ものと未知の因子依存のステート遷移があることが講義の説明であった。前者はフィコビリン励起の際に、後者はクロロフィル励起の際に起こるという。そもそもこの2つは結合の仕方が異なるものであり、前者は共有結合、後者は配位結合である。つまり、乖離のしやすさ、電荷を帯びているかの違いなどが存在する。フィコビリンとクロロフィルでは最大吸光波長も異なる。フィコビリンに関してはステート遷移の際に依存する遺伝子がわかっているか、クロロフィルに関してはわかっていないと授業であった。そのため、2つの吸収のピーク別に培養した際のステート遷移の可否の確認、さらにそれに準拠した遺伝子の発現状態を確認することで、未知遺伝子の特定に寄与できるのではないかと考えた。nm単位で波長は変化させることが出来る時代であるため、付近の全ての波長に対して同じ操作をすることも可能であり、実現可能性は高いのではないかと考えた。

A:ステート遷移自体は、数分でおこる反応ですから、遺伝子の発現変化を伴いません。一方で、ステート遷移のメカニズムに必要なタンパク質をコードする遺伝子の発現が、環境条件に従って変化する可能性は考えられます。そのような変化は、特に強光への馴化の際にはあると考えられますが、光質の変化の場合にもあるかどうかはわかりませんね。


Q:今回の講義では、ステート遷移について学んだ。講義の中で、ステート遷移は三種類存在し、一つ目は強光条件でpsaK2により起こるステート遷移、二つ目は弱光条件でフィコビリソーム励起のときrpaCにより起こるステート遷移、三つめは弱光条件でクロロフィル励起のときに未知のタンパク質により起こるステート遷移であるというお話があった。ここで、弱光のステート遷移が励起する色素の違いによって分かれているが、ステート遷移の要因がPQプールのレドックスならば、もし、フィコビリンのみを励起する強光を当てた場合でもrpaCによるステート遷移が起き、また、クロロフィルのみを励起する強光を当てた場合でも、未知タンパクによるステート遷移が起こるのではないかと考えた。そうであるならば、rpaCや未知タンパクによるステート遷移は弱光への順化というよりは、複数色素の励起状態のバランスの変化への順化といえるだろうと考えた。また、水中で生活するシアノバクテリアの周りの光環境は、水深や、上層の光合成生物の存在などで大きく変化することを考慮すると納得がいく。

A:「弱光への順化というよりは、複数色素の励起状態のバランスの変化への順化といえる」とありますが、弱光・強光間の馴化の場合も、光量によってPQプールのレドックス状態が変わるわけですから、励起状態のバランスの変化への馴化と言えるのではないでしょうか。


Q:光環境が変動した時の2つの光化学系を協調させる調節機構として、長期的な応答である光化学系の量比調節と、本講義で学んだ遺伝子発現を伴わない短期的な光応答であるステート遷移がある。シアノバクテリアや陸上植物では短期的応答と長期的応答では異なる光合成の調節機構が働く。しかし、光環境が変動する自然界では強光や弱光に晒される時間は様々である。光変化が短期的或いは長期的に続くのか判断し、対応するためにどのようなメカニズムが働くのか強光に晒されたシアノバクテリアに注目して考察した。強光に晒された直後は、光化学系Ⅱに結合するフィコビリンの吸収したエネルギー分配による2つの光化学系間のエネルギーバランスの維持が初期調節として起こり、短期的な応答であればステート遷移で光合成活性を維持できる。一方、強光状態が30分、1時間と長期的に続くと遺伝子発現の制御へと切り替わると考える。つまり、自然界でシアノバクテリアは初期応答としてステート遷移による一時的な光ストレスからの光合成阻害の回避を行い、ある程度時間が経つと遺伝子発現制御のスイッチが切り替わり光化学系の量比調節に移行すると考える。よって、自然界では短期的や長期的な光変化に関係なく初期応答として、ステート遷移がシアノバクテリアでは必ず機能するのではないかと考える。

A:考え方はよいと思います。その場合、初期応答の時間スケールをどの程度に設定したらよいのか、という問題はありますね。実際に陸上植物と藻類で比べると、ステート遷移が誘導されるまでに必要な時間は、藻類の方が短いようです。


Q:今回の授業では、光合成生物の光獲得にかかわる戦略としてステート遷移について学習をした。授業内の一部でも述べられていた、ステート遷移による調節は陸上植物よりも藻類において顕著であるということについてその理由を考察していきたいと思う。この授業全体において学んだこととして、光合成は光を浴びれば浴びるほど良いという事はなく、過剰な光のエネルギーは光合成の反応系自体にダメージをもたらすという事である。そのためにこのような光化学系の量比調節を行う際には、どのような量比調節が必要となるのか生育環境下から考えていく必要がある。藻類の多くは水中や、バイオフィルムの様な弱光な光環境に棲息していることなどから、陸上植物に比べて強光から光合成系を保護する機構が発達していない可能性が考えられる。また、水中を浮遊するような生態の場合、その光環境の変動は激しく、素早い量比調節の行えるステート遷移が顕著になっていったのではないだろうか。一方で、陸上植物の場合、水中やバイオフィルム内に比べてより強い光を常に受け続ける事になるためすでにその光に適応した細胞の構造や強光からの独自の防御機構を持っているはずである。そのため陸上植物は藻類に比べて素早い光化学系量比調節であるステート遷移は顕著ではないことが考えられる。また、藻類の一種である原核生物のシアノバクテリアが光化学系Ⅱにおいて、クロロフィルよりフィコビリソームという巨大な集光性アンテナを持っているという事もよりステート遷移が顕著となる理由であると考えられる。ステート遷移によりフィコビリソームを動かすことで光合成電子伝達のスタート部分である光化学系Ⅱの電子伝達速度がコントロールしやすくなる。その結果、呼吸などの他の代謝系と光合成は反応経路をシアノバクテリアは共有している為、他の代謝において問題が発生したとしても、ステート遷移により量比調節を行い電子伝達速度をコントロールすることで他の代謝からの影響を減らした効率的な光合成を行う事に繋がっているのではないだろうか。

A:これも、よく考えていてよいと思います。この講義のレポートとしては、もっと短くてもよいので、前半か後半かの、どちらかの論理に絞ったほうが、論旨はすっきりしたかもしれません。


Q:シアノバクテリアのステート遷移で光強度条件が異なると応答する遺伝子が異なり、強光条件下ではpsak2が、弱光条件下ではrpaCがそれぞれ強く発現するということであった。2つの条件下では応答する遺伝子が異なるにも関わらず、同様のステート遷移が引き起こされることに興味を持ったので今回レポートとして取り上げたいと思う。これらの条件下でステート遷移を引き起こしているのは、アンテナの役割を持つフィコビリソームであるが、これはシアノバクテリアに特有であるとのことであった。シアノバクテリアがフィコビリソームを持つことで吸収できる光の波長域を増やすことができると推測できるが、波長と光の強度の相関はないため、関係はないように考えられる。しかしながら、主に海中に生息しているシアノバクテリアにとって光の強度は天候によって左右され、光が強い時と弱い時に効率よく光合成を行うために、このように2つの遺伝子を使い分けて生存戦略を取っているようにも考えられる。また、光の強度がシアノバクテリアに与える影響は少なからずとも光合成以外の代謝にも効いており、それらを制御する系にpsak2やrpaCの発現量がそれぞれ関わっている可能性も考えられる。以上より、2つの遺伝子を使い分けて応答し、ステート遷移を引き起こして光合成を行っているのかもしれない。

A:考え方はよいと思うのですが、結局のところ、2つの遺伝子を使い分けるメリットが今一つわかりませんでした。もし、強光でも弱光でも、光化学系のバランスをプラストキノンのレドックスから感知できるのであれば、わざわざ別の制御機構を持つ意味はありませんよね。そのあたりを明確にしてほしいところです。


Q:講義では、シアノバクテリアのステート遷移について扱った。その中で、シアノバクテリアや陸上植物の光合成では、光化学系1と2が協調して働くことが重要である事を、改めて理解した。しかしながら、以前、野菜の栽培に赤色光と青色光を交互に照射することで、成長が促進されるというような話を聞いたことがあったことを思い出した。詳しく調べてみると、確かにサニーレタスに対し、12時間ずつ青色光と赤色光を照射させることで、成長が促進されるという報告があった。これはSHIGYO法と呼ばれているらしい。赤色光と青色光の片方のみしかない環境では、光化学系は1か2の片方のみが優位に働いてしまい、植物にとって不都合であると考えられるため、この現象に疑問を持った。まず、私は、この現象が特定の植物種、例えばサニーレタスの中でもクロロフィル以外の色素を多く持つ品種等、に限られている現象ではないか、と考えた。もしくは、植物の成長を測る尺度の設定に問題がある(例えば、暗所で植物を生育した場合、背丈は高くなるが、植物の成長が促進されたとは言えない)のではないかと疑った。元の論文(Shimokawa, Akihiro, et al. "Effect of alternating red and blue light irradiation generated by light emitting diodes on the growth of leaf lettuce." bioRxiv (2014): 003103.) を調べると、実験は、サニーレタスの複数の品種に対し行われており、また論文中にデータは示されていないが(これは問題であると思うが)水菜に対する実験でも成長促進が見られたとの記述がある、また。植物の成長は、乾燥重量や葉の大きさ等の複数の尺度を基に測られていた。しかしながら、What is occurring in the plant during the red/blue alternating irradiation remains unclear.と記述があり、光合成速度を測った実験などもない。また、この論文は2014年のものであるが、その後の報告も見当たらない。この現象について論じるには、私は、光合成速度の詳しい測定すべきだと考える。また、考察の章ではあまり触れられていなかったが、赤色光と青色光の交互照射は、葉の枚数を低下させており、頂芽優勢や側芽形成に影響を与えている事は明確である。葉芽の形成が阻害され、その分のエネルギーが成長に回され、植物体全体の重量増加に繋がったのかもしれない。

A:基本的にクロロフィルに吸収されると、赤い光でも青い光でも同じ励起効果しか持ちませんから、クロロフィルに関しては交互照射しても意味がありません。一方で、青色光受容体やフィトクロムなどの光受容体に対しては、大きな影響を与えるでしょう。いずれにせよ、レポートで述べられているように「差がありましたが、なぜだか全くわかりません」ということだと、なんとなく夏休みの自由研究のようですね。


Q:今回の講義の最後にアサクサノリの吸収スペクトルはクロロフィルの範囲にも示しているが作用スペクトルには示されない話があった。これは系Ⅱのクロロフィルが少ないため光は吸収するものの系Ⅰとのバランスが悪くて機能しないためであることが分かったが、そうであれば系Ⅱのクロロフィル量も上昇させればいかなる状況下でも作用スペクトルが高く保てるのではないかと考えたが、そうはなっていないところから何か理由があると推測される。その理由としては水中において青色光は浅いところですぐに拡散してしまうので深いところではクロロフィルが励起されないことと系Ⅱは光合成の起点となるものなのでどのような環境でも光を吸収しやすいものとしてフィコビリンがちょうどよかったことが相まって、系Ⅱの不要なクロロフィルが削減されていき量が少なくなったと考えられる。では系Ⅰのクロロフィルがフィコビリンに置き換わらずに依然として量が多い理由は系Ⅱから系Ⅰへのステート遷移が可能であるからだと考える。つまり系Ⅱで吸収したエネルギーを系Ⅰに渡せるので系Ⅰの吸収機構の削減が可能であり、フィコビリンがなくても成り立てるからと考えられ、クロロフィルはそれをサポートする役目として除去せずに残しておいてあると考えられる。

A:もう少し日本語をかっちりさせると、わかりやすいレポートになると思います。あと、最初に考えるべきことは、図に示されていたデータは、おそらく白色光で培養した試料に、特定の色の光を当てて測定して得たものだという点です。つまり、実際の培養条件と測定条件が異なっているために不都合が生じていると解釈できます。


Q:今回の講義では藻類が光環境の変化に対して、ステート遷移と呼ばれる、光化学系に伝わるエネルギーの量のバランスを調節しているということを学んだ。そのなかで、光化学系Ⅰのサブユニットの発現を変えるということがあったが、弱光をどのように感知しているか疑問に思った。

A:疑問に思っただけではレポートにはなりませんよ。


Q:ステート遷移は現在3種類があり、発現する遺伝子が異なるとのことだった。強光培養条件で働くものがPsaK2.弱光培養条件で働くものがRpaCと未知の因子とのことだったが、なぜ強光条件で働くものが1種類しかないのか疑問に思った。他の植物の場合も同じような遺伝子が働いているのだろうか。今回の因子はシアノバクテリアから特定されたということで、強光で働く因子が1つしかないことについてその要因を考えてみると、生活環境が水中であることが挙げられると思った。水中にいるため常に強光であるということも考えられにくく、むしろ弱光条件にさらされることが多いのではないかと思った。そう考えると弱光条件で働く因子が多いほうが環境の変化に対応できるのではないか。水中の植物や藻類がすべてこの応答を示すのかはわからないが、それぞれの生物が最適な適応手段を獲得していると考えられる。

A:着想はよいと思うのですが、ロジックがややふわっとしていますね。自分なりの論理で構わないので、もう少し「因子が多いほうが環境の変化に対応できる」といった点について、なぜそのように考えるのか説明して欲しいと思います。確かに、なんとなく因子が多いと変化に対応しやすいかな、という雰囲気はわかりますが、雰囲気と論理はまた別の問題です。


Q:アサクサノリは系Ⅱにフィコビリソームアンテナがついていて、系Ⅰの反応中心が大きい。そのためクロロフィルを励起する光をあてたとき、系Ⅱからの電子供与が足りず、吸収に対し光合成の効率が悪い。ここで、系Ⅰにフィコビリソームアンテナがついており反応中心が小さく、系Ⅱは反応中心が大きく直接光を吸収する仕組みだった場合を考える。クロロフィルを励起する光を当てた時、系Ⅱは励起するが系Ⅰは励起しないため、系Ⅱに還元力が蓄積し光阻害を起こすのではないか。つまり、系Ⅱにフィコビリソームアンテナがついている形式は、光阻害を防ぐ効果があるといえる。

A:短いですが、一応、最低限の論理を整えていてよいと思います。


Q:今回の講義ではステート遷移について学んだ。ステート遷移は光化学系Ⅱから光化学系Ⅰへエネルギーが移る現象である。光化学系Ⅱではフィコビリン、光化学系Ⅰではクロロフィルとアンテナを使い分けているシアノバクテリアや紅藻はクロロフィルが吸収できない波長領域でも光化学系Ⅱのフィコビリンが吸収してステート遷移によって光合成が可能となる。一方でフィコビリンが吸収できない波長領域では多くのクロロフィルを持つ光化学系Ⅰばかり働き、光化学系Ⅱはほとんど働かないため光合成量も少なくなる。しかし光を吸収しても使えないのでは無駄であるように考えられる。しかしこれは光合成を効率的に行うためにステート遷移があるという考えに基づいたものであって、もしステート遷移が光化学系Ⅱの強光阻害の防止の役割を担っていると考えるとエネルギーが光化学系Ⅱから光化学系Ⅰへしか移動しない理由を説明できると考えられる。光化学系Ⅱでは水の分解によって酸素が発生するが、光エネルギーが余ってしまうとこの酸素を活性酸素に変える反応が起こり、植物体に対して毒として働く。そのため光エネルギーが余らないよう、熱にして放出したりと、強光阻害を防ぐ機構が存在する。ステート遷移もその1つあり、余分な光エネルギーを光化学系Ⅰに流して有効活用していると考えられる。そのようにステート遷移を捉えると、強光阻害がない光化学系Ⅰには必要がないと考えることができる。

A:系Ⅰの場合、強光阻害はなくても、低温光阻害はありますよね。なぜ光阻害が起こらないかについて一言欲しいところです。