植物生理生化学特論 第11回講義

光化学系量比調節

第11回の講義では、光環境の変動に対するシアノバクテリアの順化応答の例として、光化学系の量比調節を取り上げ、具体的な実験例を紹介しながら、光合成の速度を向上させるような遺伝子の変異があり得るのか、について考えました。


Q:今回の講義を受け、植物は長い年月の中で、環境に適応・馴化してきているものと考えられる。つまりは、現在の植物のある姿こそが最適なものであると考えることが妥当であるものと考えられる。では、現在の植物の生育環境とはどのようなものであろうか?まず何より、植物の生育環境は一定でないことは明らかである。変動している点としては、光の強弱、光の色比(時間変化)、物理的刺激、天候等のように挙げたらきりがない。その中でも今回は、光の質について考えたい。近年LEDの技術は進歩し、非常に時間の短い間欠光を照射することも可能となってきている(①)。つまりは、光の色、時間変化は任意で変化させることができる。そこで、これを利用し、光の明暗・強弱を文献にあるPWMを複数組み合わせることで、様々なパターンの光環境を生み出し、植物はどれくらいのスピードで光環境に対して適応しているのか、それとも逆に予めある程度のパターンを用意しておいて環境に対応しているのかということを調べ、今後の植物生育に役立てることができるのではないかと考えた。
①https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-1-4471-2885-4_2

A:着目点は良いのですが、問題設定・実験系として提示されている「光環境に対して適応しているのか」「環境に対応しているのか」という部分がやや抽象的ですね。何をもって「適応」とし、何をもってそれを評価しようとしているのかを、もう少し具体的に記述できるとよいでしょう。


Q:今回の講義では、光化学系の量比の調節の仕組みについて学んだ。講義の中で、強光下で系Ⅱのアンテナの役割であるフィコビリソームが減少するというお話があった。そこで、フィコビリソームは窒素欠乏の時に減少するという現象を思い出し、窒素欠乏条件と強光条件でフィコビリソームの減少という同じ現象が見られるのはなぜだろうと考え、二つの条件の共通点を考察することにした(ただし二つの条件のシグナルが共通であるという仮定のもとであるが)。まず、窒素が欠乏すると酵素などのタンパク質の合成量が低下すると考えられ、植物体内で最も多い酵素であるルビスコ量への影響が大きいと考えらえる。ルビスコ量が減少すると、炭素固定などの反応速度が低下し、光合成電子伝達鎖は還元的になると考えられる。次に強光条件も、講義で説明があったように、強光下では電子伝達以降の炭酸同化などの代謝に比べ光合成電子伝達鎖は還元的になる。よって、窒素欠乏条件と強光条件では光合成電子伝達鎖のレドックスという共通のシグナルによってフィコビリソームの減少が起きているのではないかと考えた。

A:考え方は面白いと思います。シグナルが共通かどうかは、事実がどちらであってもよいのですが、できたら、共通にしておいた方が有利なのか、別にしておいた方が有利なのか、という議論があってもよいように思いました。


Q:今回の講義では光化学系の量比調節と実験室内で起こった小進化について学んだ。今回の講義で一番疑問と感じたのは、光混合栄養条件下でpmgA変異株は生育阻害が起こるという事である。その理由について講義内で示されていたデータをもとに考察をする。まずpmgA変異株は、強光下において系Ⅰを減らさず光合成効率は高いが、常に強光にさらされ続けられるような細胞の濁度を低い状態で植え継ぎ続けると生育阻害が起こるという事より、強光下で変異株には還元力の過剰により活性酸素が野生株より多く発生していることが考えられる。また、シアノバクテリアはグルコースを消費する呼吸によって還元力を生み出すことや、呼吸と光合成電子伝達鎖を共有していることから光混合栄養条件下では還元力は光独立栄養条件下より過剰となっていると考えられる。光合成の阻害剤を少量添加すると強光下で長期に培養しても変異株の生育阻害が起こらないことはこれをより裏付けていると思われる。つまり、光混合栄養条件下でpmgA変異株の生育阻害が起こる原因はグルコース添加による還元力の過剰と光化学系の量比を調節させないことによる還元力過剰両方による影響と考えられる。さらに、これらの話よりpmgAの役割はここで還元力と挙げてきたNADPHの酸化還元状態をモニターすることで光化学系の量比調節を制御している事ではないかとも考えられる。

A:まさに、ここで述べられた通りの考察をして、還元力過剰仮説を唱えていたのですが、それを裏付けようとして、培地に通気する二酸化炭素濃度を上げて(=還元力消費量を上げて)培養してみたところ、生育が良くなるどころか、逆に生育抑制が強くなってしまいました。結果として、なぜグルコース感受性が見られるのかは、いまだに謎です。


Q:酸素発生型の光合成には、2つの光化学系が協調し、全体の効率を一定に保つことが重要である。しかし、太陽光の色は一日を通して変化する。朝は赤く、南中するまで青みが増し、夕方にかけて再び赤くなる。よって、光化学系Ⅰ/Ⅱ比は朝と夕に低くなり、昼に高くなるはずである。晴天が続くとすれば、一日の太陽光の色が上述のように変化することは分かっているので、系Ⅰ/Ⅱ比の変動は概日時計に支配されていても不思議ではない。これを検証するためには、人工気象器内で上述の光波長変化を再現し、この条件に植物を1週間慣らしてから、突然連続暗期に置いたときの一日の光化学系Ⅰ/Ⅱ比の変動を見ればよい。今回の検証は「晴天が続くとすれば」という前提のもとに進めているが、実際の自然環境では晴天ばかりが何日も続くとは限らず、何日もくもりや雨の天気が続くこともある。したがって、光化学系Ⅰ/Ⅱ比は概日時計の影響も受けている可能性はあるが、やはりその時々の光環境からの影響の方が強いと考えられる。

A:目の付け所は面白いですね。ただ、「よって、光化学系Ⅰ/Ⅱ比は朝と夕に低くなり」という部分は、例えばシアノバクテリアの場合のように青色光が系Ⅰ光だとすると、逆になりそうですが、どのようなロジックなのでしょうか。


Q:今回の授業では、研究室内での自然変異の挿入によって発生した形質の異なる株を調査することで、新たに光合成の調節機能に関する知見を得ることができるという過去の実験に関して学んだ。そこで、変異が新たに挿入された株を調査することによって新たな知見が得られるのならば、変異が挿入しやすい株を作製すればいいのではないか。例えばDNAミスマッチを修復する働きをするタンパク質MutSをコードするmutSを欠損させた株は、塩基配列のミスマッチが多くなるため新たな変異が発生しやすくなるので、mutS変異株を継代培養し、野生株と比較することで新たな形質の違いが見られ、生理学的に重要な機能の発見に繋がるのではないかと考えられる。

A:より一般的には、変異原処理によって変異を誘導することなども考えられますね。昔からある手法ですが、微生物なら、今はゲノムを丸ごと決めるのもそれほど大変ではないので、昔と違って、変異部位の同定が楽ですから、このような方向性の手法は増えるかもしれません。


Q:単純な質問で大変申し訳ないのですが、今回の講義で紹介していたような変異というのは良く起こる現象なのでしょうか?。自身の研究においても、以前似たような現象が起こって、コロニーの形態が異なるシアノバクテリアの株を取得したことがありました。その時は全ゲノムシークエンスができたので、変異の箇所もすぐに特定できて、分裂に関与する遺伝子に変異が挿入されていたことから形態が変化したことにも納得がつきました。しかし、目で識別判断できないような表現型に関与する遺伝子に変異が起きた場合、変異が挿入されたことを特定するのは物凄く困難だなと感じました。このような場合、対象としている代謝(今回だと光合成環境応答)に影響が出ない場合は無視できるが、影響を及ぼす場合は、その代謝に関連するネットワークを遮断したり、回復させることで変異がどこに蓄積しているかをある程度予想できると思いました。また、講義でも紹介されてましたが、変異蓄積を見落とさないためにもグリセロールストックの存在が欠かせないと感じました。

A:実際には、かなりの頻度でおこるようです。そして、まさにここに述べられているように、代謝の変化などは見た目にぱっとわかりませんから、なかなか大変です。毎年1月2日に、シアノバクテリア初めをして、フリーズストックから株を起こす研究室があるのもうなづけます。


Q:今回の講義で適者生存や品種改良の話があったが、その中で品種改良は植物には損で人間には特になる形質のものは成功しやすく、シアノバクテリアの大型コロニー形成株やイネの低身長による収量の増大などの例がある事実を知った。では低温耐性といった植物にも利益になりそうな形質への品種改良の場合にこの条件が適応されている場合、どのように影響しているのかをイネの場合について考えてみる。
 イネの冷害は主に花粉形成や受粉に影響をきたす障害型冷害と成長速度が遅くなり収量が減少する遅延型冷害があり、遅延型冷害は早生種ほど安全性が高い(1)。また花粉の発育が良好な冷害に強い品種は花粉発育過程の葯における低温時の発現が常温時と比較して変化しない(2)。これらから冷害に強い品種のデメリットを考察する。まず早生種は収穫時期が早いことが人間側のメリットであるが、デメリットは鹿児島県では7月に収穫される(3)ように夏季に種子が実るため、動物が活発であり種子が捕食される危険性が高まることと気温が高いことで種子の発芽能力に障害をきたすことが考えられる。一方の低温時に葯の発現が変化しない品種に関しては、おそらくは花粉発育時の管理機構が一部壊れていると思われる。つまりイネには異常な花粉が形成されたときに発現を変化させて花粉の生育を停止させて次世代に引き継がせないようにするシステムが備わっており、通常時は低温下の花粉は異常な発育となるのでそのシステムが作動するが冷害耐性の品種はそのシステムが壊れているために異常な花粉であっても生産し続けるようになっていると考えられる。
1“イネ冷害の機構と栽培的対策”、佐 竹 徹 夫、農業気象(J. Agr. Met.) 35(4): 251-261, 1980(2018年7月6日参照)、https://www.jstage.jst.go.jp/article/agrmet1943/35/4/35_4_251/_pdf
2 "Low temperature-responsive changes in the anther transcriptome's repeat sequences are indicative of stress sensitivity and pollen sterility in rice strains"、Plant Physiology、石黒聖也 小笠原慧 藤野介延 佐藤裕 貴島祐治、2014 Feb; 164(2): 671?682.、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3912097/
3 株式会社 九州糧販、(2018年7月6日参照)、http://www.k-ryohan.co.jp/news/223.html

A:後半の、品質管理機構の考え方が面白いですね。以前は、タンパク質なども、作られたら必ず働くものだと考えられていましたが、今は、一定の割合で不良品が出て、それによる悪影響を防ぐメカニズムがあるというのが常識になってきました。このような考え方は重要だと思います。


Q:今回、光合成の能力は30憶年間かけて最適化しているとあった。最適化されているのは自分も間違いないと感じたが、最適化にかかった年月はどれくらいなのだろうか。個人的な感想ではあるが、どの植物も基本的な光合成のメカニズムは同じ最適化されているのを使っているように思える。進化で分岐してから光合成の最適化が別々に起こったと考えるよりは、シアノバクテリアが誕生してから初めの数億年で最適化が完了して大量発生して、高等植物などへの進化へつながったと考えるほうが妥当なように思える。光合成のように、ある有用なメカニズムを進化により獲得・最適化するのにかかる年月というのは気になるものなので、シアノバクテリア誕生当時の遺伝子の変遷をみることができれば面白いだろうな、と想像する。

A:よいポイントに目をつけているのですが、最後の一文が、ふわっと感覚的になって、やや腰砕けな感じです。ここで、カチッと論理的に話をまとめることができるとだいぶ印象が違うと思います。


Q:今回の講義で植物の光合成能力は最大の状態で作られており、そこから機能を弱めることによって環境に順化していると学んだ。そのため農業などで収量を増やすために光合成能力を増加させるということは難しいとのことであった。そこで収量増加のためには光合成機能を増加させようとするのではなく、光合成産物を増加させるような環境下で生育させることが効果的であると考えられる。阻害が起こらないような気温、水分量、光環境で育てることによってその作物が持っている光合成能力を無駄なく使うことができる。しかし光合成産物を増加させたからといって、すべてが収量増加に使われるとは限らない。例えばホウレンソウなどの葉物野菜では、増加した光合成産物がすべて葉量の増加に結びつくとは限らない。草本は光合成産物の増加を地下バイオマスの増加に使うという研究例もある(Niinemets et al. , 1999)。このような場合に品種改良の必要性が出てくる。このような理由から、品種改良というと分配率を変化させるような方向で考えられているのではないかと考えられる。
参考文献 U. Niinemers, J. D. Tenhunen, N. R. Canta, M. M. Chaves, T. Faria, J. S. Pereira and J. F. Reynolds Interactive effects of nitrogen and phosphorus on the acclimation potential of foliage photosynthetic properties of cork oak, Quercus suber, to elevated atmospheric CO2 coucentrations. Global Change Biology(1999)5, 455-470

A:分配率の変更というのは重要ですね。大きな実をつける品種の作成なども、その一つとして考えることができるでしょう。あと、実際には、光合成産物が葉に蓄積すると、一種のフィードバック阻害が起こって、光合成関連員遺伝子の発現抑制が起こることがあります。これは、シンクリミットと言いますが、それは、例えばイモのように地下部に大きなシンクがある植物では避けることができます。そのあたりも考える必要があるでしょう。


Q:本講義で、pmgA変異株の光合成解析から光合成活性を強光下で抑えることが自然条件では重要であり、働き過ぎは体に悪いということを学んだ。一方、私たち人間の立場からすると、植物の持つ本来の光合成活性を最大限に引き出すことで農作物の生産性を向上させたいと思い、現在様々な種で品種改良が行われている。しかし、長い進化の過程で獲得した光合成機能を最適条件で更なる効率化を試みることは困難である。一方、自然条件で植物のシンクとソースのエネルギーバランスによって光合成が抑制される点注目した作物の生産性を向上させる試みに興味を持った。植物はシンクとソースのエネルギーバランスによって光合成活性を調節していることから、光合成産物の輸送先であるシンク器官の増加や増大によって、ソース器官である葉の光合成活性は高まると考えられる。実際にイネやトマト、インゲンでは多収性の品種改良が進んでいる(J. Grad. Sch. Biosp. Sci,2008)。こうした、シンク・ソースのバランスを人工的に操作することで植物にどういった不利益があるか考察した。まず、個体あたりの穂の数を多くしたイネでは植物体の大きさが小さく、他の植物と共存する自然界で光を浴びるには不利な形態になる。また、シンク能を大きくすることで必要なエネルギー量が増えるため、植物体の下部に位置する遮光された葉(本来老化が進行される葉)でも光合成活性は最大化されると考えられる。しかし、シンク能が大きい個体では常にソース器官はエネルギーを生成するために葉の展開が速まるのでないかと考える。そのため、葉の展開後の光合成活性は高い状態である一方、シンク器官が発達することで老化が進行すると考える。よって、植物にとってシンク能の増大は、従来の種に比べて短命になる可能性があり、いき急ぎも体に悪い。

A:最後の部分、「シンク器官が発達することで老化が進行する」と考えた理由がわかりませんでした。その前の、「葉の展開が速まる」という部分も、もう少し説明が必要でしょう。文と文の間の論理展開を、行間を読ませずに、きちんと説明することは重要です。