植物生理生化学特論 第10回講義

光化学系Ⅰの光阻害

第10回の講義では、低温感受性植物の低温障害の原因となる光化学系Ⅰの光阻害のメカニズム解明の研究について解説しました。


Q:今回の講義では、植物の低温環境下での光阻害について学んだ。講義では、低温下で光が当たると、電子伝達による還元力が活性酸素を発生させ、それにより光化学系Ⅰが阻害されるというお話だったが、これでは系Ⅰと低温感受性の関係が説明しきれないとのことだったので、系Ⅰの活性低下と低温の関係を考察してみた。講義では、系Ⅰの活性は閾温度をもつということから、活性酸素消去系の酵素活性が低温下で下がるというような化学反応が原因としては考えにくく、物理的な現象が原因と考えられるとのことだった。そこで、細胞内の生理活動を正常に保つために重要(参照1)な膜脂質の低温による状態変化が原因ではないかと考えた。低温により、通常、流動的な膜脂質が固相化し、膜結合型の活性酸素消去系のタンパク質(モノアスコルビン酸レダクターゼなど(参照2))が、系Ⅰ周辺での働くことができなくなっているのではないかと考えた。また、低温耐性を持つ植物は、この生体膜の流動性を、生体膜を形成する脂肪酸を不飽和脂肪酸に変えることで固相化しにくくしているのではないかと考えた。
参考文献 1、一般社団法人 日本植物生理学会みんなの広場 植物の耐寒性の機構、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1164&key=&target=number 2018/6/30閲覧
2、光合成辞典 日本光合成学会 活性酸素種消去系 http://photosyn.jp/pwiki/index.php?%E6%B4%BB%E6%80%A7%E9%85%B8%E7%B4%A0%E7%A8%AE%E6%B6%88%E5%8E%BB%E7%B3%BB 2018/6/30閲覧

A:レポートとしてよく書けていると思います。欲を言うと、あまりにも「まっとう」なので、もう少しその人でなければ書けないアイデアのようなものが感じられるとよいでしょう。


Q:今回の講義では、低温耐性植物の光化学系Ⅰもin vitroにおいては光処理を行うと阻害が起こり、つまりは光化学系Ⅰ以外の部分に系Ⅰの光阻害を保護する機構を持っていることを学んだ。しかし、いまだ系Ⅰを保護するメカニズムは明らかになっていないという事で今回はどのような部分に含まれているのかというあたりをつけるための実験を考えてみたいと思う。低温感受性植物と低温耐性植物で差が現れる、つまりは低温に耐えられるか耐えられないかという点であったことからまずは細胞内の酵素による系Ⅰの保護という面で考えていく。まず、低温感受性植物と低温耐性植物の細胞をすりつぶし、遠心分離による細胞分画法でそれぞれの層に分離する。一般的な細胞分画法は低温条件下で行うため、低温感受性植物に含まれる低温で失活をする系Ⅰの保護機構となる酵素はこの段階で失活をしてしまうと考えられる。一方で低温耐性植物の保護機構となる酵素は失活をしないと考えられる。この前提条件の下で、分画した各層と葉緑体を混和しそれらに光処理を行う。そして、低温耐性植物から得た層の中で光阻害が起こらなかった層があったとすれば、その層に含まれていた酵素に系Ⅰを保護するような酵素が含まれているとあたりを付ける事ができるのではないだろうか。ただし、この実験の行う前に、細胞を破砕して分画をした後にすべての層を再度混ぜた溶液を作り、光処理+低温処理によりたんぱく質分解酵素等が失活した条件下で低温耐性植物の系Ⅰ活性がin vivoの同じ低温下と変わらないかという事を確かめる必要がある。もし、変わってしまった場合には細胞内におけるイオン勾配などの構造による保護機構の考えられてくる。

A:このような再構成系の実験は、生化学の王道ですね。きちんと考えていてよいと思います。この実験系の場合、保護機構が低温だけで阻害されるのか、それとも、保護機構の阻害にも光が必要なのか、によって、手順を変える必要があると思います。実は、この点もあまりはっきりとはしていません。


Q:今回の授業では、系1の光阻害により、鉄硫黄クラスターに活性酸素が悪影響を及ぼす可能性があり、系1が分解されるということを習った。ただ、この系1を分解するというのは肉を切らせて骨を断つ骨を断つような方法であるが、系1の活性がない場合危険があることは分かるが、そこまでして、系1を分解してまで系2を守る必要があるのだろうか、それを検証するには系2のみを持っている生物と系2のみを持っている生物を比較しているどちらがストレスに強いのかを検証する必要があると考えられる。比較すると、系1のみ持っている紅色光合成生物は電子伝達タンパクから電子を得るのに対して、光化学系2のみを持っている生物は水から電子を得ることが知られている。光阻害で電子伝達系に異常がある場合は前者で電子を得ることはできないため、水で十分な後者、つまり光化学系2のみあれば電子の受容、つまり還元が行うことができるので、光化学系2の方が重要であると考えられる。

A:これは斬新なアイデアですね。光合成細菌を比較する提案は初めてだと思います。実際には、系1型の反応中心を持っているのが緑色硫黄細菌で、系2型の反応中心を持っているのが紅色光合成細菌です。そして、緑色硫黄細菌の多くは、酸素の存在下では生存できないことが知られています。


Q:今回の講義で光化学系Ⅰの阻害についてin vitroでの評価を中心に学んだ。系Ⅰの阻害はヒドロキシラジカルが鉄硫黄クラスターを破壊して引き起こされることがin vitroの結果から分かった。活性酸素が蓄積すると光阻害が発生し、それが蓄積しないように操作すると(例えば今回で言うとnプロピルガレートやMVを加えると)、その阻害が抑制され、光阻害が回復している。ヒドロキシラジカルと聞いて、以前水素がヒドロキシラジカルを除去し、脳梗塞マウスの回復が促進したと言う論文が紹介されていたのを思い出した。この論文によると試験管内の実験において水素ガスを加えると、選択的にヒドロキシラジカルを除去するという結果が得られているとのことだ[1]。今回の実験系でも水素ガスを加えれば系Ⅰの阻害を回復することができるのではないかと感じた。水素は生体膜も拡散するし、in vivoでも効果は十分だと考えられる。
[1]Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals, Nature Medicine volume 13,pages 688?694 (2007)

A:今回の場合、酸素を除くだけでも阻害を抑制することができますから、阻害の効果を見るのでしたら、酸素がある条件で見る必要があります。でも、酸素の存在下で水素を入れると、危なそうですが・・・。


Q:今回は植物の低温感受性の話題であった。原因としては系Ⅰの阻害が原因であり、低温に耐性を持つ種は系Ⅰを保護するメカニズムが違うことが述べられていたが、ではなぜその保護機構が熱帯地域原産の植物にはないのかが気になった。単純に考えればいらない、不要なコストが増える等で受け入れなかったと考えられるが、もとからあったのを捨てたのか寒冷地の植物が新たに獲得したのかははっきりと説明できない。であれば地球の歴史から読み解く。初めの陸上植物はシダ植物やコケといった胞子で繁殖するものであり、4億年ほど前に誕生した(1)がその際は温暖であった。しかしその後は氷河期と温暖期が繰り返され、人類誕生後にも大きな氷河期があり(2)、現在も気温が下がったものの氷河は残っている。このことから植物の低温保護機構は氷河期になった際に獲得した種が現れた、つまり進化的には割と後のほうに獲得したとの仮説が立てられる。また同時にどのような種が獲得したのかの見当がつけられる。それはおそらく成長が他と比べて遅い、成長しても低いといった光合成の競争の負けた種が植物の少ない寒冷地に追いやられた結果獲得したと考えられる。結論として保護機構は植物誕生してしばらく後に獲得され、生存競争に不利な種が追いやられた寒冷地で生き延びようとして獲得されたものであると考えられる。
1 “第3部 生物の多様性と進化 第3章 生物の分類と系統 第4節 植物の分類と系統” 、生物Ⅱ(改訂版)、啓林館(2018年6月15日参照)http://www.keirinkan.com/kori/kori_biology/kori_biology_2_kaitei/contents/bi-2/3-bu/3-3-4.htm
2 “過去の気候変動”、東京大学 大気海洋研究所 気候システム研究系(2018年6月15日参照)http://ccsr.aori.u-tokyo.ac.jp/old/paleo/

A:ここまで考えたら、あと、藻類について考えてみるのも面白いかもしれません。水の中の環境を考えると、陸上とはだいぶ異なる考え方が必要になるとは思いますが。


Q:講義では低温感受性植物や低温耐性植物における光化学系Ⅰの光阻害とその保護機構について学んだ。In vitroの実験で試薬を変えて実験することでそのメカニズムを明らかにしていく論理も学ぶことができた。その中で、MVのような電子を受け取るような物質を添加することで、ヒドロキシラジカルが除去され、光化学系Ⅰが保護されるとのことだった。私は、このIn vitroの実験系によって明らかになったことが、実際にIn vivoではどのように起こっているのか疑問に思った。すなはち、葉での実験で低温耐性植物では光阻害の影響を受けなかったが、低温感受性植物は光化学系Ⅰの阻害が起こった。これは低温耐性植物ではIn vivoの実験でヒドロキシラジカルおよび電子を除去するような機構が存在していると考えられる。一つは低温耐性植物ではカタラーゼのようなヒドロキシラジカルを除去する物質がより多くストロマに存在していることが考えられる。また、電子が系ⅡからⅠへと移りづらい事も考えられる。これらは物質の量の測定や、光合成速度の測定によって確かめられるのではないかと考えた。個人的には葉緑体の量を積極的に減らすような機構も存在することから、後者なのではないかと考えた。

A:後半の、系Ⅱから系Ⅰへの電子の流入を抑える機構は、おそらく実際に存在するようです。よく考えつきました。


Q:ホウレンソウなど、低温阻害が起こるのを防ぐ保護機構の解明手法について考える。まず、もっとも理想的なのは、ある条件では低温耐性があり、ある条件では低温耐性がなくなるような植物を発見することだ。2つの条件での遺伝子の発現を比較すれば、低温耐性に関わりのある遺伝子を発見できる可能性が高い。しかし、そのような植物が簡単に見つかるとは思えない。次に、候補となる原因を絞りつつ、帰納法的に調べていく方法を考える。例えば、保護機構の正体は活性酸素除去系だと特定できたとする。ホウレンソウに発現している活性酸素除去酵素の遺伝子を欠損させ、低温耐性が失われたかどうかを実験する。次に、この遺伝子を低温耐性の無いキュウリなどで発現させ、低温耐性を得られるかを実験し、効果が得られれば、この遺伝子が低温保護に寄与しているということはできるだろう。しかし、光化学系Iの保護機構は一つではなく複数が複合して働いているように見え、その全体数は未知数だ。1人の力では、帰納法的手法の限界があるように感じる。少なくとも、ある程度あたりをつけるための実験や、論理的推測により解明への足がかりにするべきだ。例を挙げれば、低温に置いたホウレンソウを、葉緑体膜を破壊せずにチラコイド膜を脱共役させるなどである(実際に可能かというと少し厳しいが)。

A:全体として、研究の方向性をよく考えていると思います。実際の研究においても、このように、時々全体像を考えてみることが大切です。


Q:今回の講義では、系Ⅰは元々光阻害を受けやすいが光阻害を防止する機構があり、その機構が低温では失活するため低温耐性のない植物は低温下で光阻害を受けるということを学んだ。これはMVを増加させたり、ヒドロキシラジカルを除去することによるのではないなという実験結果が出ている。しかしそのような大切な機構がなぜ低温下では失活するようになっているのであろうか。これはこのような生物体内の化学反応には酵素が関わっていることが多いからではないかと考えられる。酵素は低温になるほど働きが鈍くなる。よって光阻害を防止する機構が光阻害に追い付けず阻害するのではないであろうか。このような欠点のある機構がとられているといるということは、光阻害を受ける低温になる頻度が少なく、それよりは酵素使った効率的な光阻害防止機構をとった方が植物にとってプラスであったというのことなのではないであろうか。

A:「あろうか」と言わずに、もう少し自信を持って書いてもよいと思います。この講義のレポートで求めているのは、自分なりのアイデアであって、実際の細かい事実ではありませんから。