植物生理生化学特論 第6回講義

クロロフィル蛍光測定

第6回の講義では、植物の光合成に関する情報を、クロロフィル蛍光による非破壊的な測定により得る方法について解説しました。


Q:今回の講義を受け、葉すなわち葉緑体にエネルギー効率の向上としての利用ができるのではないかと考えた。というのも、吸収エネルギー=蛍光エネルギー+光合成エネルギー+熱放散という関係が成り立っている。「また、現代には光を閉じ込める研究も進んでいる」(文献①参考)。光を閉じ込めることができるとなれば、次に考えるべきは熱放散であるが、これは真空環境という、光は通すが熱は伝播させない条件を整えることによって対応可能ではないだろうか。当然ではあるが、真空に直接葉を入れることは出来ないため、膜もしくは真空に耐えうる、極力空気層を削ったものを用いる必要はある。この真空空間を先ほどのフォトニック結晶等による光を閉じ込める構造を利用すれば、与えた光をロスがなく、かつ貯蓄(電池)のような形で用いることも現実味を帯びてくるのではないかと考えた。そのうえ、環境がすでに真空である宇宙空間でのエネルギーとしての理由も、光さえあれば(例えば太陽光などのように)無限にエネルギーを生み出し、一定時間保存し、利用するという方法も可能になるのではないかと考えた。 文献①https://www.jst.go.jp/pr/info/info152/index.html 5/26

A:これは、エネルギー保存則がある以上、光や熱になる部分を抑えれば光合成の効率が上がるはずだ、ということですね。文面からは読み取れますが、レポートとしては、そのような形で明文化したほうがよいでしょう。熱に関しては、逃げないようにすることは可能かもしれませんが、その場合、一定温度であるという条件が破たんする可能性が強いでしょう。葉温が上がってしまったら、結局は光合成は維持できませんから、難しいですね。


Q:今回の授業ではパルス変調クロロフィル蛍光測定について学んだ。授業の最後に注意点として、本測定において得られるパラメーターは励起光強度に依存して変化するため複数の試料を比較する場合には励起光を統一して測定する必要があることが述べられていた。しかし、シアノバクテリアの生細胞の測定についてはそれ以外にも注意点はあると考えている。シアノバクテリアの場合、呼吸と光合成の電子伝達経路は一部を共有している。そのため、呼吸による電子流入を考慮して、Fmの測定を行う必要があると授業内では述べられていた。原核生物である、シアノバクテリアは様々な環境変化によって呼吸経路は制御を受けるとされている。このような背景を考慮すると、励起光のみを統一するだけではなく、細胞の生育ステージを統一することや、生育中に細胞外に放出された物質によって測定が影響を受けないように培養液をサスペンドし、フレッシュな培養液を必ず使うようにするという細心の注意も必要とされると考えられる。非破壊的でかつ、簡便に測定できるからこそ、一つの差異からもたらされる影響を測定する際には、このようにその他の影響をすべて排除できるようにその他の条件には細心の注意をもった測定が必要であると考えられる。

A:これは、その通りなのですが、この講義のレポートとしては、もう少し独自性が欲しいかな、と。多少奇抜でもよいので。


Q:今回はクロロフィル蛍光測定について学んだ。その中でもPAM測定を行うことによって光合成に関わるどの部分に異常が発生しているのかを推測することができることが分かったが、ではどの段階での異常が生物に深刻な影響を与えるか考えた。簡単のため生物はシアノバクテリアであると仮定する。まず、qPに異常がある場合、例えばqPが減少した場合は電子受容体が十分に供給されていないことが考えられる。これは光合成のみならず呼吸における酸化還元にも影響を与える可能性が考えられるため重篤であると考えられる。一方でNPQに問題があった場合は光化学系Ⅱの量子収率の低下が考えられる。すなわち吸収された光に対する収量を示しており、これが低下することは生育影響は出るが前者ほど重大ではないと考えられる。

A:これも、その通りだと思います。そして、これも、もうひと声、と言いたくなります。


Q:今回の講義ではパルス変調を用いたクロロフィル蛍光測定について学んだ。この測定法の特徴は、測定と同様の周波数の蛍光のみを測定する為に、従来の連続的な励起光によって生じた蛍光を無視できるという点である。蛍光収率を定量化するために光化学消光や非光化学消光をパラメータとすることで、系全体の電子伝達系の電子を見積もることが可能ということであったが、講義の最後で系Ⅱを含まない細胞の情報は得られないということでシアノバクテリアのヘテロシストやトウモロコシの維管束鞘細胞などが挙げられた。多細胞性のヘテロシストを持つシアノバクテリアを蛍光イメージングするとヘテロシストの部分のみ蛍光を発さず、ヘテロシストの部分を特定できるのは面白いと感じた。では、反対にヘテロシストのみを蛍光イメージングする実験系はないのか気になった。つまり、ヘテロシストは光化学系Ⅰのみを含む[1]ので光化学系Ⅰの蛍光を測定する方法についてであるが、クロロフィル蛍光測定において系Ⅰの蛍光強度は非常に弱いため、評価は困難であると考えられる。そのため蛍光強度を大きくすることが可能であれば測定可能だと思われる。これまでの講義でも触れられたが、測定条件の温度を下げることで強度は増加する。つまり、室温から徐々に温度を下げていき、また熱拡散などによって蛍光以外の余分なエネルギーが発生しない条件を探索することで系Ⅰでも蛍光測定の評価が可能だと推測する。しかしながら、生物試料を限りなく低温環境下で観察することになるため、そもそも測定ができないのではないかという問題も生じると考えられる。
[1] アナベナ 光合成事典 http://photosyn.jp/pwiki/index.php?アナベナ

A:測定自体は、低温にしてもできますが、室温での測定とは違って、生理的な条件とは言えませんし、条件を変えたときの応答を見るということもできなくなります。そのあたりが難しいところですね。


Q:講義において、光化学的消光と非光化学的消光を学んだ。ここで疑問に思ったのは、「もし、その植物にとって非常にストレスとなるほどの高温条件に置いた場合、非光化学消光はどの程度起こるのか?」ということである。植物が高温ストレスにさらされている場合、非光化学消光によって余った光エネルギーを熱に変えることは、植物体自身の温度を上げることにつながり、都合が悪いと推察される。よって、私の予想では、高温ストレス環境下では、非光化学消光はあまり起らないように調節されるのではないか、と考える。仮にそうだとすれば、余った光エネルギーを植物はどのように処理しているか。この場合、まずは、余った光エネルギーを蛍光として外部に放出(光化学的消光が低下)するだろう。それでも光エネルギーがさばききれなかった場合、光合成の明反応は進んでしまい、光呼吸などによってエネルギーを消費するのではないだろか。

A:これは、面白い考え方ですね。ただし、熱力学的に考えると、エネルギーを熱に変換するのは簡単ですが、光に変換するのは案外難しくなります。


Q:今回の授業で生物種における非光化学的消光の要因の違いに関する話題が出た。その中でキサントフィルサイクルによる熱放散は陸上植物、ステート遷移による非光化学的消光はシアノバクテリアや藻類が大半であると知った。この違いは光の当たる強さの違いで生まれたものであると考えた。講義内で気になったのはステート遷移において消光が見かけ上大きくなるという書き方をしていたのと、それがもっぱら水中にいる種類が多く使用している方法であることである。そのことから、ステート遷移はエネルギー変換の効率が低く、水により吸収された後くらいの光エネルギーであれば対応できるが陸上のようなエネルギーの減衰が少ない環境では対応しきれないので、陸上に進出する付近で余剰エネルギーを熱として放散する方法に切り変えたことで現在のような違いが生まれたと考えられる。

A:きちんと考えていてよいと思います。実際に陸上進出にあたって、光合成の調節システムはかなり変化していますが、その本当の原因については、必ずしもコンセンサスが得られているわけではありません。


Q:今回は複雑な蛍光挙動の時間変化をみるものとしてコーツキー効果を習った。使われるパラメーターとして光化学系Ⅱの量子収率であるFv/Fmがある。このパラメーターについて少し疑問を抱いた。自分の研究室でコナラの実生の室内実験を行っており、異なる条件下での成長量を比較するときにこのパラメーターを活かせないかと思った。光合成収率が大きいということは光合成産物が多くなり、成長量に差が生じるのではないだろうか。実際成長量が大きい個体は光合成も高いが、ただこれは単純に葉面積が大きくなったため光合成も高くなっている可能性がある。Fv/Fmのパラメーターを用いて光合成と成長量を関連させて議論できれば面白いな思った。

A:Fv/Fmは簡便に測定できるので、広く使われていますが、最大の量子収率なので、実際の生育との相関はそれほど高くありません。それに対して、φIIというパラメーターは、光合成の電子伝達速度と正の相関がありますから、生育速度ともよい相関を示すと思います。使うとしたら、こちらでしょうか。


Q:PAM蛍光測定において、qPがオープンな光化学系Ⅱの割合を表しており、プラストキノンプールが還元されると、QAも還元してクローズになり、qPが減少することを学んだ。そして、プラストキノンプールが還元される理由として、系Ⅱより下流の電子伝達がある場合と、サイクリック電子伝達による還元があると学んだ。サイクリック電子伝達が起こるのは異常とはいえないため、本当に異常が起こっているのか区別できなければ、qPが減少する理由を適切に判断できない。これを判別する方法を考える。まず、サイクリック電子伝達を選択的に阻害する試薬があれば、容易に判断できる。サイクリック電子伝達を阻害してもqPが減少したままならば、系Ⅱの下流に異常があるといってよい。PAM以外の測定をしてよいならば、系Ⅰ測定やb6/f複合体の異常を調べる実験に移行するのが妥当だろう。しかし、酸素電極などを用いる場合、PAMの利点である非破壊的な測定はできないというデメリットもある。

A:これもよく考えていてよいと思います。実際に、サイクリック電子伝達を阻害する阻害剤も存在しますし、また、サイクリックだけをクロロフィル蛍光測定により見積もる方法も存在しています。


Q:今回の授業ではクロロフィル蛍光の測定による光合成の測定について学んだ。クロロフィル蛍光を測定するには葉に光を照射し、出てきた蛍光を測るだけであるため簡便であり、また近年は自然光下でも測定できるようになっているとのことであった。そのように簡単に光合成速度を調べることができる方法であるにも関わらず、私が専門としている植物生態学の分野ではあまり使われている研究をみない。これは生態学という分野が、生物と環境の関わりを研究するからであると考えられる。植物と環境の関わりというとやはり炭素循環というのが重要になってくる。その中で光合成というと植物の有機物生産のその中で光合成というと炭素固定の場であるということに注目がおかれる。そうした場合、ただ光合成の速度を知りたいというよりどれほど二酸化炭素を吸収しているのかということが重要になってくるのであろう。そのためクロロフィル蛍光を測定するよりも、チャンバー内の二酸化炭素の変化量を測るほうがよいのだと考えられる。今後クロロフィル蛍光の強度から二酸化炭素放出量に変換できる式などができれば、生態学でもクロロフィル蛍光による光合成の測定がしやすくなると考えられる。

A:実際に、クロロフィル蛍光から電子伝達速度を見積もることは可能ですし、そこから炭素同化の速度を見積もることもされています。むしろ、個葉レベルでの測定は、二酸化炭素の吸収「によっても」測定できるので、従来の方法が使われやすい、という面が強いでしょう。例えば、地球規模での光合成の見積もりなどにおいては、リモートセンシングによるクロロフィル蛍光測定も使われます。