植物生理生化学特論 第4回講義

発光測定の基礎

第4回の講義では、発光測定の原理を生物発光と蛍光を中心に解説しました。


Q:今回の講義で生物において、発光と蛍光の表すものは全く異なることを学んだ。発光を行うことの目的は容易に調べられたが、蛍光する目的はそもそもの生物体が多くはないため情報が少なかった。しかし、文献①のDavid Gruberによると、蛍光を発するウナギが存在し、その目的は、海洋は青色光以外を無くす作用があり、その環境に青以外の光を生み出すためであると考えられている。このように、蛍光にも然るべき理由があると考えられ(今回で言えば環境に存在しないものを自身で生み出すという目的がある)、目的がある機能であるということは、応用が利くということである。今回の講義において、蛍光は励起光の波長よりも蛍光波長の方が長いと説明があり、またホタルは互いの発光のパターンでやり取りを排他的に行っているとも説明があった。この二つを基に、他に邪魔をされない相互間の光信号のやり取りに使えるのではないだろうか。まず、発する波長を固定し、さらにストークス効果を制御し蛍光波長を固定する。その後、その蛍光波に続けて先に固定した波長の光を送り返す。固定された波長以外の波長は感受しないようにし、またその固定した波長と受信波長を連動させ時間で変化させればより妨害などを受けない機構が出来上がり、通信機器など、相互間のやり取りを必要とするものに役立つのではないかと考えた。
①Adaptive Evolutionof Eel Fluorescent Proteins from Fatty Acid Binding Proteins Produces Bright Fluorescence in the MarineEnvironment. PLoS ONE 10(11): e0140972. doi:10.1371/journal.pone.0140972

A:面白そうな話なのですが、光信号のやり取りの具体的な方法「その固定した波長と受信波長を連動させ時間で変化させ」の部分がよくわかりませんでした。変化させるのは固定した波長なのでしょうか。それとも波長は固定していて、信号の強さを変化させるのでしょうか。そのあたり、もう少し親切に説明してもらえればと思います。


Q:生物蛍光に興味を持ち、蛍光は発する生き物を調べたところカエルやウミガメ、ウナギなど最近の調査では世界中で次々と蛍光を有する生き物が発見されていることが分かった。こうした蛍光機能が生き物にとって、どのような意義や役割があるかは様々な見解があるが未だ明らかになっていない。蛍光や発光する生き物と色覚の関係について考察した。赤や緑など幾つかの蛍光や発光色があるが、海洋性生物は人間の可視領域に比べて、認識できる波長範囲が狭い。そのため、赤色を発する生き物は他の生物が認識できない波長の光を発することで他の生き物に気づかれずに周囲を探索できる。こうした自分の蛍光を認識できるよう蛍光発光を示す生物は同じ環境下での蛍光を発光しない生物よりも優れた色覚を持つように進化していると考える。つまり、蛍光発光する生き物は蛍光発光の獲得に伴い、色覚機能が発達していると考えられる。

A:「海洋性生物は人間の可視領域に比べて、認識できる波長範囲が狭い」というのは、ややまとめすぎかもしれません。海洋性生物といっても色々ありますが、例えば魚類は四色色覚ですから、三色色覚の人間よりもより細かく光を認識できるはずです。また、蛍光の場合、外から光が来ているときでないと役に立ちませんから、実際に役立つ場面を想像すると、案外限られるかもしれませんね。


Q:今回は、主に生物発光について学習した。生物発光を行う生物はホタルや深海魚、さらには発光バクテリアなどが存在するが、一方で、鳥類や爬虫類、両生類、そして哺乳類で生物発光するものは確認されていない。生物発光をするということは外敵や餌となる生き物に自分の存在を示してしまうリスクがあることが理由の一つであろう。では、仮に今後生物発光をする動物を現れるとしたらどんな種だろうか。一つ考えられるのは虫を主に食する鳥だろう。これはチョウチンアンコウなどと同じ理屈であるが、餌を生物発光によっておびき寄せる方法である。ハエなどの虫は光によって来る習性があることを利用したものである。

A:面白い考え方でよいと思います。ただ、前段で、「生物発光をするということは外敵や餌となる生き物に自分の存在を示してしまうリスクがあることが理由の一つであろう。」と述べた際に、なぜホタルや深海魚、発光バクテリアではリスクを上回るメリットがあるのかを説明してほしいところですね。また、公団の鳥の場合も、リスクとメリットのバランスで議論してほしいところです。


Q:今回の講義では蛍光について学んだ。中でも興味深かったのはストークスシフトである。ストークスシフトは、蛍光物質における励起波長と蛍光波長のピークの差を指す[1]。励起光の波長を吸収した蛍光物物質内の電子が励起状態から基底状態に戻る際に光エネルギーとして蛍光が放出されるが、一部は熱エネルギーなどによって損失するため、励起光よりも長波長側にスペクトルがシフトするために起こる現象である[1]。 生物試料を観察するにあたって、非侵襲かつ細胞内の現象をリアルタイムで確認できる利点もあるため、蛍光タンパク質の利用は欠かせないものとなってきている。先に述べたストークスシフトを考慮すると、その差が大きいもののほうが観察には適していると考えられる。しかしながら、長波長にのみ励起スペクトルを持つものの蛍光スペクトルを観察する場合はどうだろうか。ストークスシフトが小さくなると考えられ、励起光と蛍光との区別が付かず観察も困難である。エネルギー保存則からも短波長側に蛍光スペクトルをシフトさせるのも困難なのであろう。そこで、短波長側に励起スペクトルを持つ蛍光物資と組み合わせることでストークスシフトの差を大きくできないかと考えた。つまり、目的の蛍光物質の蛍光スペクトルを別の蛍光物質から発された蛍光を経由して測定できないかということである。この方法を利用すれば、経由する蛍光物質に照射した励起光で目的の蛍光物質の蛍光スペクトルを測定でき、間接的にストークスシフトを拡大できると考える。そのためには、目的の蛍光物質の励起スペクトルと経由する蛍光物質の蛍光スペクトルが同様の領域に存在していなければならない。また、蛍光を経由して利用するとその強度は弱くなることも確かである。温度を下げれば蛍光強度は増加するため、ある程度の補完はできるのかもしれないが、以上の点を考慮すると実現は難しいのでだろう。しかし、このように複数の蛍光物質を組み合わせることでストークスシフトを調節できそうである。
[1] ThremoFisher SCIENTIFIC 蛍光と波長の原理、https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/cell-analysis/cell-analysis-learning-center/molecular-probes-school-of-fluorescence/imaging-basics/fundamentals-of-fluorescence-microscopy/physical-properties-that-define-fluorescence.html

A:面白い考え方ですね。複数の蛍光物質を使ってエネルギーを伝達する例としては、次回紹介するFRETがあります。


Q:授業の中で、kaedeと名付けられた蛍光タンパク質が紹介された。kaedeは、10秒ほどの紫外光の照射によって、蛍光が緑から赤に変化するという性質を持つ。今回は、このkaedeをレポーター遺伝子として用いた場合の応用について考えた。一般的なレポーター遺伝子、例えばGFPを用いた発現解析の場合、レポーター遺伝子の生産速度と分解速度の両方を測定するのは困難である。なぜならば、測定によって得られる値は1つの蛍光値のみであり、1つの測定値から、生産速度と分解速度の2つの変数の値を決める事は出来ないからである。しかし、kaedeを用いることで、この問題は解決し得る。具体的な方法は以下の通りである。ある程度レポーターであるkaedeが発現し、発現細胞に緑の蛍光が観察されるようになった後で、紫外光を照射する。そして、紫外光照射以降の赤色の蛍光の減衰を測定することで分解速度を、緑色の蛍光の増大を測定することで生産速度を算出することができる。これは、プロモーターからの遺伝子産物の生産速度だけでなく、分解タグをレポーター遺伝子に付加した時の分解速度の測定にも応用できる。分解タグは、その配列に変異を入れれば、分解速度が変化することが知られている。このような分解タグの配列の差に対する分解速度の違いを、上記のkaedeを用いた方法であれば、簡易で効率的に測定することができる。(先行研究を調べたところ、例えば、[Lies, M., and Maurizi, M. R. (2008)]では、放射性標識されたメチオニンを一時的に培地に加える事で、特定のタグを付加したタンパク質の分解速度を測定している。それに比べ、kaedeを用いた方法は、実験操作が簡易で効率的である。)

A:これは、僕には思いつきませんでした。面白いアイデアですね。感心しました。


Q:今回の授業で生物発光に関する話題が出てきたので興味を持ち調べてみたところ、「発光生物は発光バクテリアから発光魚までで,両生類,爬虫類,鳥類,哺乳類にはいない」(1)ことと「光合成できる渦鞭毛藻に光る種はいるが厳密な意味での発光する植物はない」(1)という記述があった。つまり発光生物の存在は、脊椎動物は魚類のみで他は菌類や藻類、無脊椎動物等に限定されているということである。しかしルシフェリンは各発光生物が各自で獲得したものであり、他の脊椎動物が獲得する可能性もあったのだがそれが起こっていないということは理由があるはずである。今回はそのことを考察する。まず物理的な要因として、爬虫類と鳥類と哺乳類には乾燥に耐えうるように鱗や羽毛等の光が透過しにくい厚い組織に覆われているために体内で発光したとしても効果がないので、たとえ遺伝子を獲得したとしても種内に形質として残りにくいことが考えられる。両生類の場合はそのような厚い外皮はないにも関わらず発光する種がいないのは周囲の環境の影響であると考えられる。両生類は淡水、つまり川や湖のような比較的狭い、もしくは水が懸濁物等で濁っている環境に生息している。よって光っても濁りで吸収されて意味が薄くなり、生息範囲が狭くそもそも光る意義が薄い環境なので遺伝子が残りにくいと考えられる。魚類の場合は遮るものがなく、光が遠くまで届きやすい深海等の環境なので発光することが有用であり、遺伝子が引き継がれていったと考えられる。これらのことから脊椎動物で発光する種が魚類のみに限定された理由は、分厚い外皮を持つ必要がないので皮膚下から発光でき、かつ周囲が開けていて光が届きやすい環境に生息しているという形質的要因と環境的要因がそろっていた結果であると考えられる。
1.“発光生物の光る仕組みとその応用”、化学と教育 64 巻 (2016) 8 号 p. 372-375、近江谷克裕、https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/64/8/64_372/_pdf (2018年5月10日参照)

A:これは、個体の要因と環境の要因をきちんと考察していて評価できます。ただ、動物の発光は、発光バクテリアの共生による場合も多いので、そのあたりをきちんと区別して考える必要はあると思います。


Q:今回の講義では発光測定と蛍光について学んだがその中でも特に生物発光の例に着目する。講義ではホタルが例として取り上げられており、ルシフェリンという基質がルシフェラーゼという酵素によって酸化され発光が起こる。この発光の極大は500nm、つまり緑色付近である。この波長付近に極大を持つのはなぜか考えた。他の色でも良かったはずだが緑色の発光をするのには、最も大事な理由として「目立つ」ということが挙げられる。ホタルの生息場所は水辺に近い陸で、草本が多く生えているところである。さらに夜行性であることを考えると、緑色という色が最も植物に反射し目立つ色なのだと思う。このように同種の他個体に自分の存在をアピールすることで、ホタルが生き延びるための戦略になっていたと考える。このように発光する動物の例はホタルイカなどにもあてはまり、生息する環境で最も目立ちやすい光を発光している。目立つことで敵に見つかりやすいのもまた事実であるが、それよりも同種に目立つことのほうがメリットが大きく、特定の波長の発光をすることに生理学的な観点で意義があると思う。

A:面白い考え方でよいと思います。ただ、ホタルは飛んでいるときも発行していますから、あまり植物に反射することが必要なようにも思えないのですが、どうなのでしょうかね。


Q:物質が光を吸収して励起し、蛍光を発する際、ストークス効果により必ずエネルギーの小さい長波長の光になる。そして、その差のエネルギーは熱として放散されると考えられる。このストークス効果の大きさが物質によって決まっているならば、光を当てた際に発する熱は物質によって差があると考えられる。授業では、GFPはストークス効果の小さい蛍光物質として紹介されていた。生体にGFP遺伝子を導入してその蛍光を見る際、発生する熱にが少ないほど、生体への影響が少ないと考えられるため、GFPが優秀な蛍光物質である、ということができるだろう。

A:これはどうも、蛍光発光の収率が非常に高いことが前提になっているようですね。実際には、蛍光収率が低い場合、そもそもその分はすべて熱になるわけですから、ストークス効果による差は、非常に小さくなってしまいます。


Q:前回の授業で、ホタルをはじめとする発光動物は基質であるルシフェリンが酵素であるルシフェラーゼの働きで酸化する際に発光すると学んだ。この発光の極大はほとんど500 nmであるという。そこでなぜホタルは発光の極大が500 nmなのか考えた。昆虫の可視領域は360 nmをピークに300~780 nmであり、紫外線から橙あたりまで見えるという。さらにこの可視領域のピークである紫外線に集まる習性があるため、近年は紫外線を出さない街灯の開発が行われている(株式会社ECOP. 2005)。昆虫の可視領域のピークが紫外領域であるならば、ホタルの発光も紫外領域の方が仲間同士見分けやすいのではないであろうか。しかし実際は500 nmの緑色である。これは昆虫の可視領域の中の2つ目のピークに位置している。したがってホタルは仲間同士見えるが、他種の昆虫が寄ってこないように1番のピークである紫外線ではなく、2番目のピークである緑色で発光していると考えられる。
参考文献:株式会社ECOP. 紫外線と虫の関係. http://uvcut.ecop.jp/mushi.html(参照:2018. 05. 12).

A:これも独自の考え方で面白いですね。ただ、2番目のピークが他種の昆虫にもあったら、あまり意味がないような気もしますが・・・。