植物生理生化学特論 第3回講義

吸収測定の方法

第3回の講義では、さまざまな吸収測定の方法論について解説しました。


Q:植物において活性酸素は有害な物質であるが、活性酸素は一種類ではなく複数種類存在する。今回の講義においてNMRやCDのように、三次元の構造を把握する術があることを学んだ。さらに、活性酸素はラジカルな物質でもあることを用いれば、どの活性酸素がどの部分に作用し、その機能を阻害しているのかを把握できるのではないかと考えた。例えばO2-1O2で考えれば、前者は不対電子があることによって、後者は不対電子ではなく対電子が共有されず外側に浮遊していることから酸化力を持つように、その電子の局在は異なる。これに注目し、まずは植物体外で活性酸素除去のモニタリングを行い、その動向と消失を観察し、その後実際に植物体内で活性酸素をマッピングし、光合成流路を阻害するパターンを変えながら、その消失ポイントを三次元的に観測することができれば、各々の活性酸素の影響部分を特定することができるのではないかと考えた。

A:ラジカルは不対電子を持ちますから、今回紹介した測定方法の中では、電子スピン共鳴(ESR)で測定するのが一番簡単です。ただ、こちらは、空間分解能があるわけではありませんから、それをどのように使うか、というと難しいかもしれませんね。


Q:今回の講義では、分光学の基礎および吸収測定について学んだ。講義の終盤に、NMRの原理についてのお話があった。そこで、NMRを光合成の研究において有効に用いることはできないか考えた。NMRの、溶液中のタンパク質の立体構造を推定できるというメリットを利用して、例えば培養液中のシアノバクテリアにある条件変化を与えた時のタンパク質の立体構造変化などの有無を確認できるのではないだろうか。この場合、長期的な変化は、細胞の成長により、もし立体構造変化がおきていてもそれを変化として分析できなくなるので、短期的(具体的な期間はわからないが数分や数秒)な、細胞の成長による影響が無視できるほどの期間でおこるすばやい構造変化を検知できると考えた。詳細な立体構造が特定できなくても、control(条件変化を与えてないサンプル)の測定値と比較することで、何らかの変化が起きているかどうかを調べる、スクリーニングのように使えるかもしれないと考えた。

A:これは、細胞丸ごと測定するという話ですよね。乾草の山の中から針を探す、という言い回しがありますが、細胞の中のタンパク質の種類はシアノバクテリアでも千の単位になるでしょう。そのごっちゃなシグナルから、特定の変化をどのように取り出すか、という点についての考察が欲しいところです。


Q:赤外線を利用した分光測定では、水蒸気や二酸化炭素を構成する原子団C-OやH-Oの特有な分子振動と共鳴する光を吸収することを防ぐために、窒素ガスにより置換することを学んだ。分子振動を利用した近赤外分光に興味を持ち、この手法を用いた果実の糖濃度の解析における課題について考察した。果実に含まれる糖(ショ糖)はC-HやO-Hの原子団から成り立っているため、近赤外光を照射するとある特定の吸収に変化が見られる(文献)。果実を丸ごと計測する場合、同じ試料の大きさの果実でも含まれる水分量が近赤外スペクトルに影響を及ぼすと考える。そのため、水分量と吸収波長の関係性を調べる必要がある。更に、ショ糖濃度に依存した吸収スペクトルを測定することで、水分量とショ糖双方を分けて果実の近赤外スペクトルを解釈することでより正確な成分が分かるのではないかと考える。
文献 近赤外分光法による果実糖度の測定(分析科学部非破壊評価研究室 河野 澄夫)http://www.naro.affrc.go.jp/org/nfri/publications/pdf

A:赤外分光法では、特定の化学結合の振動や回転の準位に対応するピークを検出することによって解析をするのが普通ですから、例えば、C-HなりC-Oなりといった炭素を含む結合のピークを使えば、理論的には水の影響はなくなります。赤外線の吸収を単一波長で見ている時にはそうはいきませんが。


Q:今回は自分の研究に関係のありそうな電子スピン共鳴(ESR)について論じる。私の研究はシアノバクテリアの時計と明暗での生長の関係性を調べることであるが、時計関連遺伝子の変異によって還元反応に異常が発生し、生長が阻害されていると考えられている。生体内での活性酸素量を測定することによって異常の有無を確かめられることができるため、先行研究では蛍光マーカーを用いて測定を行っているが、ESR装置を用いても同様に活性酸素量を測定できると考えられる。ESR装置を用いることのメリットとしては試料の形状に影響されることなく、非破壊で測定できることであるため、生体の形質に左右されない正確な測定を行えることが期待される。この方法で時計遺伝子変異株の活性酸素量を測定することで、時計の変異と還元反応の異常との関連性を強固に示すことができると考えられる。
[1]Diamond(2017) Redox crisis underlies conditional light-dark lethality in cyanobacterial mutants that lack the circadian regulator, RpaA
[2]独立行政法人放射線医学総合研究所,小澤俊彦,電子スピン共鳴(ESR)で生体を探る(2002), http://ri-center.w3.kanazawa-u.ac.jp/hokurikuRI_HP/pdf/kouen02-1.pdf

A:これはその通りなのですが、できたらレポートとしては一ひねり欲しいところですね。ESRで活性酸素を検出する研究はたくさんありますから、それを自分の系に応用する際に、何らかの工夫ができるとよいと思います。


Q:第1回に引き続き、吸収測定の方法や原理について学んだ。今回の講義ではその他の分光法が取り挙げられ、その中でも私は特に核磁気共鳴(NMR)について興味を持った。日本分析機器工業会(JAIMA)のホームページによると、核磁気共鳴装置は「強い磁場の中に試料を置き、核スピンの向きを揃えた分子にパルス状のラジオ波を照射し、核磁気共鳴させた後、分子が元の安定状態に戻る際に発生する信号を検知して、分子構造などを解析する装置」[1]である。タンパク質の高次構造を測定できたり、生体内のプロトンを測定できるため、核磁気共鳴装置を利用した技術は様々な場面で応用がなされていると言っても間違いないだろう。
 医療の現場で使用されているMRIも同様の技術が利用されていて、生体内のプロトン原子が元の安定状態に戻る時に発される信号を受信することで生体内部を画像化できる仕組みとなっている。生体内のプロトンは主に水と脂肪に存在するため、この技術を利用すれば生体の齢や性別を推定できるのではないかと考えた。ヒトを例にすると、体水分量は加齢と共に減少する傾向が報告されている[2]。仮にSF作品に登場するようなコールドスリープ処理されたヒトのサンプルが存在するとした時、このサンプルを核磁気共鳴装置に通してプロトンの測定を行い、既存のデータ(ヒトの齢ごとのMRIスキャン画像など)と比較することでサンプルの齢や性別の推定ができるのではないかと考えた。しかしながら、凍結処理されることで生体内の水分は膨張し、細胞を破壊してしまうことを考えると測定は困難かもしれない。近年ではミイラの齢特定などをCTスキャンを用いて行われている事例も多々耳にするが、生体の齢特定を行うとなると放射線を使用せず、また非侵襲的に測定ができるMRIでの測定の方が生体への影響も少ないと考える。
[1] 日本分析機器工業会(JAIMA)ホームページ 核磁気共鳴装置の原理と応用 より引用、https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/magneticresonance/nmr/
[2] タニタの健康応援ネットからだカルテ を参照、https://www.karadakarute.jp/tanita/column/columndetail.do?columnId=172

A:途中のロジックがちょっと不明確ですが、NMRは凍結しないと測定できないが、MRIは凍結しなくても測定可能、という前提での議論でしょうか。そのあたり、もう少し論理を丁寧に説明したほうがよいでしょう。講義では省略してしまいましたが、NMRはESRよりもさらに小さい準位間の吸収を測定しますから、簡単に熱によって上の準位に励起されるために、準位間の差がなくなり、結果として吸収は小さくなります。それが低温において測定する場合が多いことの理由です。


Q:フーリエ変換赤外分光光度計の事を知り、フーリエ変換方式は、分散方式と比べ、・SN比が高い、・波数精度が良い、・1度に多波長のスペクトルが測定できる、という利点があることを学んだ。このような点から、現在では、赤外分光光度計は、フーリエ変換方式が主流となっている(https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/spectroscopy/ftir/)。しかしながら、フーリエ変換方式は分散方式に比べ多数の利点を持つにも関わらず、可視スペクトル又はUVスペクトルの測定においては、フーリエ変換方式を採用した測定装置を見つけることはできなかった。この点に興味を持ち、①もしフーリエ変換方式を採用した可視/UVスペクトル装置があったとすれば、分散方式と比べどのような測定が可能になるか、②分散方式と比べ、フーリエ変換方式に欠点はないのか、を考えてみた。
 まず、①についてフーリエ変換方式では、「1度に多波長のスペクトルが測定できる」ため、短いタイムスパンでスペクトルの時間変化を追随するような測定が可能になると考える。例えば、調整したサンプル又は組織の試料片に複数の色素や蛍光物質が含まれており、それらの量が分解などによって時間変化する場合に有効である、と考えられる。次に、②についてであるが、フーリエ変換方式と分散方式の相違点の内、フーリエ変換方式では、「移動鏡の走査が必要」であることに着目した。フーリエ変換方式では、「1度に多波長のスペクトルが測定できる」とされているが、移動鏡の走査が必要であるため、実際には1度の測定に一定の時間幅が必要である。これは、分散方式でも同じであり、多波長スペクトルを測定しようとした場合、・分散方式では、回折格子の回転、・フーリエ変換方式では、移動鏡の走査、が必要になる、という違いがあるのみである。どちらも、回折格子の回転や移動鏡の走査の速度を上げれば測定時間は短縮されるが、波数精度は低下する、と考えられる。すなわち、フーリエ変換方式を用いたからといって、多波長スペクトル測定における問題の、根本的な解決にはならないと考える。さらに、フーリエ返還方式における移動鏡の走査は、赤外分光をする場合よりも、可視/UVなどの短波長領域の分光をする場合のほうが、精密な精度が必要になると考える。なぜならば、より小さな移動鏡の移動距離で、干渉の効果が大きく変化するようになるためである。よって、より精密な移動鏡の操作が必要になるのではないか。以上の事から、フーリエ変換方式は、可視/UVスペクトルの測定にあまり用いられないのではないかと考えた。

A:これは、よい点に目を付けた面白い考察だと思います。自然科学の研究においては「おや、なぜだろう」と疑問に思った点をきちんと考えてみる、というのは非常に大事なことです。


Q:前回のレポートで動物の染色後の組織を用いた吸光測定の利用方法に関して考察をした。その際に染色した組織を切り出して細かく分散させる方法を提示したが、その方法において重大な欠陥があることのその後気が付いた。それは分散させるだけでは水には溶解せず、ただの懸濁液になるので散乱光のことも視野に入れなければいけないことを失念していたことである。この問題に関しては積分球等を使用し、散乱光を逃さないようにすればある程度は解決する問題である。またその際の問題点として細胞の濃度による吸収波長が変化する可能性があるので、希釈した場合でも吸光測定を行う必要があると考えられる。しかし散乱光が生じるとどうしてもロスが生まれてしまうことにもつながるので、そもそも生じさせないことも考えておきたい。方法としては主に余分なタンパク質の除去、およびタンパク質の透明化を利用することが考えられる。しかしタンパク質の除去に関しては免疫染色がタンパク質を対象としていることで染色されていないタンパク質もろとも除去される可能性が高く、測定のための精製としては向いていない。透明化に関して、本来は「脳組織を破壊せずに透明化して3Dイメージングする新たな手法」(1)として用いられているものである。この手法を用いることができれば吸光測定時にタンパク質に妨害されることが少なくなり、色素のみの吸光度が測定しやすくなり、散乱光を誘導する方法よりも精度が増すと考えられる。また濃度による影響も少なくなり、相乗的に精度の上昇につながると考えられる。この透明化を用いた方法が自分が今まで考えてきた方法の中で最も現実的に実現が可能な方法であると思われる。
1. “脳を丸ごと透明化して細胞の一つ一つを観察する”、新潟大学脳研究所、 田井中一、 (2018年4月27日参照)、http://www.bri.niigata-u.ac.jp/column/000963.html 

A:これも、面白い点に目を付けていますが、そもそも、ここで言うところの「透明化」が何によってもたらされているのか、という点をきちんと議論すべきでしょうね。例えば、もし、この透明化が色素の除去によって達成されているのであれば、当然ながら色素の吸収を測定したい、という目的には使えないことが明らかですから。


Q:私は本講義のなかで、赤外分光計が、様々な官能基が赤外に吸収を持つことを利用して、試料に含まれる化合物を判別することができることを学んだ。これを自身の研究に生かす方法を考える。まず、研究の目的としては、炭を森林に散布した場合の土壌成分の変化を明らかにすることとする。この土壌と、散布していない土壌を採取し、それぞれ別の手法によって無機体窒素の量を求め、無機体窒素の吸収波長における吸収と無機体窒素量で検量線をひく。炭の散布の有無によって当然土壌成分も変わってくるので、それぞれに検量線を作成する必要がある。この検量線によって簡便に調査地における土壌成分を測定できるのではないかと考えた。

A:これだと、講義の内容が全くレポートに生かされていませんね。ある物質を測定するときに、一番大事なのは、その物質を測定するために一番適した方法を選択することです。まず、考えなければいけないのは、測定したい「無機体窒素」が測定にかかり、かつ、それ以外の物質が測定にかからない方法は何かと考えることから始めなければいけません。検量線の引き方だけだったら中学でも習いますよ。


Q:今回、低温におくことで吸収スペクトルのピークがシャープになることを学んだ。しかし、低温時になぜこのようなことが起きるのか、考えてみた。物体が特定の波長の光を吸収するのは、物質が基底状態から励起状態になるときのエネルギー差に相当する光のみを吸収するからであり、原子の場合は不連続な線スペクトル、化合物の時は山のような吸収帯になる、とある(参考web:http://www.st.hirosaki-u.ac.jp/~jun/mhp0603/mhp0603_33.html )。低温時には、原子の状態に近くなる、ということができるかもしれない。低温時と室温で何が異なるか考えたとき、やはり分子の熱運動だろう。この範囲の知識に詳しくないため素人の想像になってしまうが、分子運動が小さいほど光の当たり方が一定になり、吸光物質のみに光があたるようになるのでは、と考えた。もしくは、温度が高いほど持っているエネルギーが大きく、励起状態になりやすいという理由の可能性もあると考えた。

A:この点に関しては、簡単に説明したつもりでしたが足りなかったようですね。次回、蛍光の話をするときに、この点についてはもう一度触れることになります。


Q:今回の授業でストップド・フロー分光法というものを学んだ。ストップド・フロー法とは2種類の溶液を混合した直後から吸光度を測定するという方法である。このストップド・フロー法を使って赤血球の酸素との結合及び解離速度について測定できないかと考えた。血液は動脈血と静脈血に分かれており、酸素を多く含む動脈血ほど鮮やかな赤であるという。吸光光度計で赤色域の波長を当てて吸光度を測定することによって、色の違いを赤血球への酸素の結合量の指標とすることができないであろうか。赤血球は個体成分であるため、先週の授業で学んだ積分球を利用することなどによって散乱光を拾う必要がある。ストップド・フロー法で測定することによってただどの程度結合しているかのみならず、結合速度も測定することができるのではないかと考えた。混合する酸素濃度や二酸化炭素濃度を変えることによって、濃度によっての赤血球と酸素、二酸化炭素の関係を調べることができるではないかと考えられる。

A:これは、その通りだと思います。むしろ、単に結合した時に吸収変化だけでなく、ストップド・フローでなければ測定できない、反応速度をなぜ求める必要があるのか、という点を考察する必要があるでしょう。求める必要がなければ、なにも、ストップド・フローでなくても、普通の分光器で済むわけですから。