植物生理生化学特論 第2回講義

吸収測定の方法

第2回の講義では、吸収測定の原理を吸収・散乱・透過といった基本の部分から解説しました。


Q:懸濁試料の吸収測定における問題点として、散乱が今回の授業では取り上げられていました。一方で、細胞の色素の吸収スペクトルを測定する際にはそれ以外の問題も微弱ではありますが現れると考えられます。ある程度の大きさの粒子のあるサンプルをセルに入れて吸収を測定する際には、透過光の方向に対して粒子が他の粒子の陰に入ってしまうと考えられます。そこで今回は微小な差であってもサンプル内すべての粒子の正しい吸光度を測定するための工夫について考えたいと思います。まず簡単な方法としてサンプル濃度を薄くするという手法ですが、被る確率が低下しただけであり、今回の目的を達成できているとは言い切れないと考え棄却します。私の提案としてはサンプルを入れる容器の厚さを薄くする手法を考えております。具体的には、サンプルに含まれている粒子や細胞が透過光の進行方向に二つ並ばないような厚みの資料室のガラス管を作成し、その中にサンプルを入れて吸光度を測定するという手法です。薄すぎるセルは、実現が厳しそうであると考え、細長いガラス管を利用することを考えております。ガラス管の為、光が屈折してしまう事も考えられますが、その問題は積分球の設置によって屈折した光もサンプルに戻り解決できると考えられます。ただ、この手法自体を必要とする場面は私自身現在想像はできていない為、より正確に吸光度を測定する方法として提案をします。

A:思考実験として悪くないと思います。ただし、「粒子が他の粒子の陰に入ってしまうと」よくないことが仮定されていますが、実際に何がどのようによくないのかを説明できるでしょうか。確かに直感的には「よくない」のですが、できたら「このようになるので」よくないと、論理的に説明してほしいところです。


Q:今回の講義では分光学の基礎を扱い、吸光測定のしくみと試料による使い分け、応用について学んだ。この内容について1つ考えたことがある。例えば粘度の高い溶媒を使用している場合など、試料内に気泡が生じている場合はどうなるのか。試料内に気泡がある場合、光が散乱して出てくるので、扱い方は懸濁試料と同じように光電子増倍管をセルの近くに置けばよいと思える。しかし懸濁試料と気泡とでは違いが2つある。1つは、懸濁試料の場合は、光は細胞などの「つぶつぶ」に当たったときに吸収されると同時に散乱するが、光が気泡に当たった場合は散乱はしても(気泡内の空気中に)吸収はされる割合は圧倒的に低い。もう1つは、懸濁試料の場合調べたいのは光が細胞などの「つぶつぶ」に当たって吸収された割合であるが、気泡の場合は気泡以外の溶質に当たって吸収された割合である。ではセル内に気泡が生じていて、溶質による吸光度を調べたい場合はどうすればよいのか。結局気泡が対象セルにも同じように気泡を生じさせていれば十分比較できるので、光電子増倍管をセルの近くに置けばよい。

A:面白いところに注目していてよいと思います。論理展開の中で、気泡が生じた場合のスペクトルの予想される特徴(ベースラインが上がる)に一言言及すると、講義を聞いていなかった人にもわかりやすくなると思います。


Q:講義では分光学の基礎と吸収測定について学んだ。特に生物試料の細胞数や生育速度を求めたい場合は吸収の他に散乱の情報を使用することでおおよその値を推定できると言う点に興味を持った。自身の研究にも細胞の成長や分裂頻度の測定が絡んでいるため、今回のレポートでは分光器を用いた生物試料の細胞数・生育速度を求めることについて考察をしたい。
 簡便に細胞濃度を測定する方法の1つに濁度法と呼ばれるものがある[1]。測定したい生物試料を専用のキュベットに入れ、キュベットを透過する光の割合から試料内の細胞濃度を測定する方法である[1]。自身の研究ではシアノバクテリアの生育速度を測定するためにOD(光学濃度)730で細胞濃度を測定したが、この時のOD値について少々疑問に感じる点が生じた。いくつかのサンプル(変異体)について同時にOD値測定を行ったのだが、試料の濃いサンプル(サンプルA、とする)と色がサンプルAよりもやや薄いサンプル(サンプルB、とする)のOD値がほぼ等しい結果となった。OD値は透過光の割合が少ないほど高くなるため、生物試料の濃度が高く、散乱光の割合が高いほど数値も高くなるはずである。サンプルBの試料は色が薄かったにも関わらず、サンプルAとほぼ同様のOD値を示したことから、細胞長と散乱光の割合が関連しているのではないかと考えた。細胞長が大きくなると、細胞への入射光の当たる確率も高くなり、散乱光の割合も高くなる。後ほど顕微鏡で1細胞を確認したところ、サンプルBの細胞は細胞自体が糸状化するような変異体であったため、必ずしもOD値が等しくても細胞数が同じにはならないのであろうと考えた。
 以上より、濁度法は簡便に細胞数や生育速度を推定できる点もあるが、扱う細胞(特に他細胞、細胞長の大きいもの)によっては正しく推定できない場合もあると考える。また試料中の死滅細胞なども測定してしまうデメリットもあるのではないかと考え、生物試料の測定に用いる際には測定法の吟味が必要であると感じた。
[1] 生物工学第93巻 153ページ バイオよもやま話 https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9303/9303_yomoyama.pdf

A:この点を講義の中で説明するのを忘れていました。濁度によって細胞数を見積もることができるのは、細胞の大きさや形状が同じ時です。きちんと足りない点をレポートにしてもらって助かりました。


Q:今回の授業は吸光測定に関する話題であったが、その中でいくつかの吸光測定に関する方法に関して触れていた。その時は例として酵母やクロレラ、葉の分光測定を出していたが、動物の組織に関しては触れていなかった。調べてみても「動物(イヌ、ネコ)の被毛及び鳥の羽毛の落射、透過照明による光学顕微鏡観察や分光光度計を用いた光遮蔽能分析」(1)や「被毛や羽毛の反射光から、これら固形材料に含まれる色素を、破砕抽出することなく、直接感度よく検出できる簡易吸光度分析法」(1)などといった動物の色素を含む組織を用いた例はあったが、臓器のような色素を多く含まない組織の例は見かけなかった。そこで今回は多少無理やりでも臓器の測定に対して吸光測定を用いることができないか自分が行っている実験手法を基に考察する。
 私が行っている実験手法は主に免疫染色とin situ hybridizationであるが、これはそれぞれ組織において特定のタンパク、mRNAが発現しているエリアを染色できる。これによりそれぞれの発現領域が判別できるとともに、着色後の色の濃淡によりある程度の発現量が把握できる。しかし現状は発現領域の把握にのみ利用されており、色の濃淡は簡易的な量の把握にとどまっている。そこで吸光測定を利用し、着色後の色素濃度を吸光測定により求めることができれば発現量が数値的に表現できるのではと考えた。しかし問題点として組織は分厚いことが多く、そのままでは光が透過しないがかといって切片にすると色素濃度が切片にした位置によりばらつきが大きくなることが考えられる。よって理想の方法は、染色した組織から測定したい部分を切り出し、細かく粉砕して液に分散させることで光の透過と濃度の均一化が両立できるといえる。これにより発現領域ごとの濃淡の差が数値として表せ、発現量が具体的に示せるようになると考えられるが、吸光測定までの工程と得られる結果が割に合わない可能性が高く、実用的な案ではないと思われる。
1、“紫外可視分光光度計を用いた動物被毛、羽毛の簡易吸光度分析”、岡 登志夫、福山 貴昭、石野 淳嗣、堀井 隆行、川添 敏弘(2018年4月19日参照) http://j-jabs.umin.jp/38/38.139.pdf 

A:これも面白い考え方だと思います。スペクトルは、何も吸収スペクトルだけでなく、反射スペクトルをとることもできます。多くの場合、色素の吸収が大きくなれば反射率は低下しますから、非破壊的に反射スペクトルを測定して、そこから吸収に換算して量の定量にもっていく方が、まだしも実用に近いかもしれません。


Q:今回は分光学的測定法の基礎について学習した。そこで、自身の研究にどのように生かすことができるか考察した。まず、根の分解についてだが昨年度は一度掘り起こした根を埋設し、3ヶ月ごとに回収・重量の測定を行った。これを簡易化するために、根を破砕した溶液の吸光度を測定することで、根の分解率を測定できるのではないかと考えた。しかし、埋設した根は太さが均一ではないため、精度の高い測定は困難であると考えられる。

A:ちょっとこれだけだと物足りませんね。困難があったときに、それをどのように回避するかを考えるのも科学の重要な手続きの一つです。この講義のレポートの場合、その回避方法の実現可能性は問いませんので、なるべく大胆な発想をお願いします。


Q:懸濁試料の吸収測定は、散乱光のために測定することが難しいことを聞き、たとえば牛乳などに含まれる脂肪を分解できれば測定できるのではないかと考えた。脂肪を分解し細かくすることで散乱光を抑えることが可能になると考えたからである。しかし分解して脂肪1つ1つの大きさは小さくなるが、その粒子の数は増加する可能性があり、溶液中の粒子の密度が大きくなると散乱光が抑えられるというよりむしろ散乱光が増加するのではないかという問題もある。

A:これも、上のレポートと同じですね。「問題」というのは、科学においては出発点です。ここからどのように論理を展開するのかが腕の見せ所です。


Q:分光光度計において、試料が溶液なら、吸収による減衰のみであるが、懸濁試料の場合、散乱による減衰がある。透過光と散乱光を別々に測定することができれば、懸濁試料のうち、散乱が起こる固形分と、透過のみの溶媒に溶けている分それぞれの濃度を計測することができるのではないか。この可能性について検討する。まず、装置について。散乱光を集める積分球のかわりに、フォトダイオードアレイをドーム状に並べたものを試料の周りに設置すれば、散乱光のみを取り出すことができるだろう。しかし、フォトダイオードアレイは感度が低い。散乱光という弱い光を検知できるかが問題となるだろう。強い光での測定に限定されると考えられる。また、懸濁試料の種類についても考えなければならない。溶液に金属粉を懸濁したような試料であれば、粒子に当たった光はすべて散乱光と考えられ、溶液と金属粉それぞれの濃度が測定できるであろう。しかし、色素を細胞内に含む細胞懸濁液を考えた場合、細胞膜に当たって散乱する光と、細胞を透過し細胞内色素の吸収による減衰を受ける光、細胞にあたらずにそのまま透過する光に分けられる。後者2つを区別することができないため、細胞内色素濃度により測定に差が生じ、正しく測定できないのではないか、という予測ができる。

A:散乱光は必ずしも弱いとは限りませんから、実際にフォトダイオードアレイでも測定できるかもしれません。「後者2つを区別することができない」とありますが、細胞にぶつかった透過光は角度が変わることが予想されます。とすれば、細胞と光検知部位の間の距離にたいする依存性は異なるはずです。キュベットと光検知部位の間の距離を変えて測定して、その依存性から、2つを区別することは、理論的には可能であるように思います。


Q:今回の授業において、懸濁液の吸光度を測定する際には積分球を使用することが有効であると学んだ。しかし積分球を使用したところで、懸濁液中の粒子にぶつかってできた散乱光が積分球で反射し、再び懸濁液中の粒子にぶつかり今度は吸収されるということも考えられる。また場合によっては散乱光が積分球で反射し、入射光が入ってくる穴から出ていくことも考えられる。これらのことから積分球を使用した場合でも吸光度は過大評価されていると考えられる。そこでこれらの問題点を解決するには、ぶつかった光を電気信号として吸収してしまい、その情報を一か所に集めてトータルの通過光並びに散乱光として計測できるような光感知器でサンプルを覆うことはできないであろうか。生物の目の網膜のような光感知器があればよいと考えられる。このようなものを使えば、懸濁液中の粒子にぶつかってできた散乱光が直接入射光が入ってくる穴より出ていっていしまうこと以外に、吸光度の過大評価の原因はなくなるのではないかと考えられる。

A:これは、上のレポートのフォトダイオードアレイと似たような発想ですね。きちんと問題点を定義して、その解決策としてその発想を使っているので、非常に良いと思います。


Q:今回の講義を受け、分光光度計の測定において、細胞が光線と平行に重複し吸光度に影響が出ると考え、その誤差の補正値(重複頻度)について考えたい。まず、幻想ではあるが特定の細胞の厚みに相当する厚さのセル(N)を用意する。N=1,2から考え、それぞれの吸光度x1,x2、2つを重ねた時の吸光度Xを求める。ここで各数値を文字に置き換える(セルの厚さα、面積β、濃度c、吸光度A=ε×L×c、重複個数M)。濃度がcから2cになると、cを2回通したことと同義であることを用い、Aの式を変形させると、M = (|X-x1-x2|/ε*L)*α*β で求めることができる。これをN=L/αのセルにて考えると、この2枚分の空間の組み合わせはL/αC2であり、これにMを掛け合わせると2カ所での重複個数が求まる。これを求まった結果から引いてやればよい。しかし、N=1,3,23で重複するように複数の距離地点で重複することが考慮されていない。N=L/α個のセルで、a枚重複ならその頻度MaをL/αからa枚選ぶ方法(組み合わせ計算)とかけ合わせる(L/αCa×Ma)ことで求めることができる。流石に400字程度でそれを含む完全なコメントは難しいため、今後の課題としたい。

A:考え方は面白いのですが、やはり結論にたどり着かないと、もやもや感が残りますね。すべてを考慮する必要はないので、可能な近似の範囲内での結果を、半定量的に考察した方がすっきりしたレポートになるでしょう。


Q:今回の講義では、分光学の基礎や、分光器による測定の原理について学んだ。講義の中で、懸濁試料の吸収測定では、散乱によって色の情報が失われるというお話があった。その散乱による波長依存性の低下を防ぐ方法が、さまざまな測定でなされており、その1例に積分球があげられた。そこで、積分球の吸収測定の波長依存性をさらに高める方法はないか、考えてみた。積分球は、試料を覆った球によって光電子増倍管に入る散乱光の量を多くして、試料の吸収の測定の波長依存性を高めているとのことであった。しかし、積分球の中の試料にあたって散乱した光は、入射光の入り口と光電子増倍管につながる出口のどちらかから出ていくので、散乱光が光電子増倍管へ行きつく確率は1/2である。そこで、積分球の、複数箇所に光電子増倍管を設置してやることで、散乱光が光電子増倍管に行き着く確率は、設置した数ぶん大きくなり、色の情報を持った散乱光をより取り逃がすことなく測定できると考えた。式でいうと、吸収A=log(I0/(Is+pId))の確率pが大きくなり、波長依存性が高くなるということだ。さらに、そうした場合、入射光の直線上にある光電子増倍管以外の増倍管には、散乱光しか入ってこないことになり、また、入射光と直線上の増倍管のみを試料から離し、散乱光が入りにくくすることで直線上の増倍管では、直進光(Is)、それ以外の増倍管では散乱光(Id)というふうに別々に測定ができるのではないかと考えた。そうであるならば、例えば大腸菌やシアノバクテリアの生育速度の測定を図りつつ、吸収の測定も同時に行えるようになるのではないかと考えた。

A:これは、上の方のレポート二つのテーマを組み合わせて考察していますね。よく考えていてよいと思います。