植物生理生化学特論 第13回講義

植物の光環境応答

第13回の講義では、植物の光環境応答について光受容体の働きを中心に解説しました。


Q:今回の講義では、植物の光環境応答について学んだ。植物にとって暗所に長期間置かれることも生育ストレスであり、老化が促進されることが説明されていたが、ここで疑問に感じたのは、こういった暗黒ストレスはどのように老化を促進させるのか、という点である。植物の老化には、プログラム細胞死や活性酸素種、エチレンが関与することが考えられているが、暗黒ストレスによる老化においてもこれらが複合的に作用している可能性があると考えられる。
参考:東京農工大学 植物育種学研究室, 2014, http://web.tuat.ac.jp/~pbiochem/jp/study.html、近畿大学 植物分子生理学研究室、http://plantmolphysiol.sakura.ne.jp/PMP_research/Shigeoka.html

A:考えられるというだけで、その理由を一切示さないのは科学的レポートとは言えませんね。自分がそう思うから、というだけでは宗教になってしまいます。


Q:講義において,光の強度に応じて葉緑体が運動する葉緑体定位運動について説明を受けたが,この運動はどのような機序によるものなのだろうか。私は当初,原形質流動の一種かと考えていたが,調べてみるとどうも違うらしい。葉緑体に特異的な短いアクチンフィラメントを持ち,これが光の強弱に合わせて消失・特定の向きへの偏在を起こすという。更にその向きに合わせて葉緑体が運動し,原形質流動に逆らうように細胞内で集合あるいは逃避を図るようだ。どうしても私は葉緑体の運動と聞くと運動性シアノバクテリアと比較して捉えがちなのだが,この時,Myxococcus xanthusやSynechocystis sp. PCC 6803で見られるPilBの局在という話が想起された[2]。残念ながら調べた限り葉緑体ゲノム中にはPilBホモログは存在しないようだが,明確な極を持たないSynechocystisがその表面に存在する繊毛で向きを規定しつつ運動するという現象は葉緑体の運動に通じるものを感じる。葉緑体が細菌に通じる運動機構を持つのかどうかは,細胞内共生説で原始の動物細胞は如何なる段階のシアノバクテリアを取り込んだのか—即ち運動性を獲得した後に取り込んだのかを考えれば程度検討はつけられるだろうか。
[1] 末次憲之・和田正三(2013)陸上植物の光応答戦略—陸上植物における葉緑体運動メカニズムの新機軸— 植物科学最前線4, 45-60.
[2] Schuergers N, Nurnberg DJ, Wallner T, Mullineaux CW, Wilde A. (2015) PilB localization correlates with the directrion of twitching motility in the cyanobacterium Synechocystis sp. PCC. Microbiology 161, 960-966

A:葉緑体の移動には細胞質の細胞骨格が関与しているわけですから、シアノバクテリアとは運動のメカニズム自体が違うことは明らかだと思います。とすると、考えなくてはいけないのは、葉緑体の運動の起源がどこにあるのか、という点でしょう。


Q:これまでの講義で光吸収の短期的調節・長期的調節の仕様を一通り教えていただきました。強光条件下においてはまず葉の向きを変える、あるいは葉緑体の光逃避運動といった短期的調節が行われ、短期的調節をもってしても制御できない条件下においてはアンテナ複合体の量の調節や、系Ⅰ・Ⅱ間でのステート遷移といった長期的調節が行われるとのことでした。先に挙げた調節機構の中でも葉緑体の逃避運動について調べてみると、葉緑体の移動というのは光だけではなく温度によっても操作されているということが報告されていました(葉緑体の寒冷定位運動)。20℃前後の条件下で栽培されているホウライシダやゼニゴケの葉緑体は細胞表面に均等に配置しているのに対し、0℃前後の低温条件下では葉緑体は強光条件下同様、細胞接着面付近に避難するそうです。また、このような条件下では葉緑体のみならず核やペルオキシソームも細胞接着面に張り付くように移動するとも報告されていました。これは0℃という温度下では細胞液の凍結が始まってしまうため、主要な組織を外へ外へと逃がす機構が働いているのではないでしょうか。もしそうであるならば、ホウレンソウの葉のような低温耐性植物においては葉緑体の寒冷定位運動といった現象は起こらないはずですよね(調べてみましたが研究がされていないのかヒットしませんでした)。
参考文献:http://c-bio.mine.utsunomiya-u.ac.jp/kodama/2016/05/30/%E8%91%89%E7%B7%91%E4%BD%93%E5%AE%9A%E4%BD%8D%E9%81%8B%E5%8B%95/、Kodama, Y., Tsuboi, H., Kagawa, T. & Wada, M. 2008, "Low temperature-induced chloroplast relocation mediated by a blue light receptor, phototropin 2, in fern gametophytes", Journal of Plant Research, vol. 121, no. 4, pp. 441-448.

A:シダやコケはどちらかというと低温耐性があるので、どうでしょうね。むしろ、ホウレンソウでも寒冷定位運動は起こり、キュウリのように低温感受性植物では、温度低下にによって定位運動自体がうまく動かなくなるような気がしました。


Q:朝晩と日中とでは葉の向きが異なることを授業で聞いた。また、暗所・弱光下・強光下では葉の葉緑体の密度も異なるということを学習した。例えば、同じ植物でも日長が異なる地域のものでは葉の大きさや葉緑体の密度等が個体間で差があり、それが種の多様化につながるのではないかと思いました。

A:これも、「思いました」だけでは、科学的なレポートとは言えませんよ。


Q:今回の授業で、気孔の開閉にも青色光受容体が働いていて、余計な光は吸収しないように光吸収の短期的調節を行っていることを知った。最近核も光を避けるような動きをし、それがアクチンと関係していたり、また葉緑体の流れに引きずられておこるような記述の論文を読んだ。気孔が光から移動するのは、光を吸収しないようにまた強光で悪影響を受けないようにするためであると思うが核はどういった意味があるのか気になった。一つ考えたのは核は紫外線など遺伝子が損傷することを防ぐために動くことである。次に考えたのは、自らの損傷を防ぐためではなく、細胞小器官全体が一定以上の距離を開けることができず、くっついていくことである。植物は一人で動くことができないので、どのように工夫しているのか非常に興味を持った。

A:面白い考え方ですが、核は細胞に一つしかありません。葉緑体の場合は、一つの細胞に数多く存在する葉緑体がお互いに重なるように動くことで強光を避けられますが、核の場合は、動いたからといって紫外線を避けられるでしょうか。葉緑体の影に入ることができればよいわけですが、その場合は、葉緑体との近さだけではだめで、光の入射方向との兼ね合いも考えなくてはなりませんね。


Q:今回の講義では植物の光環境応答について学んだ。植物体に含まれる一物質に過ぎないと考えていた葉緑体が、光刺激に反応して、細胞内をまるで別の生き物のように動き回る映像は衝撃的だった。しかし、葉緑体が独自のDNAを持ち、元は真核生物に取り込まれた藍藻であるする説(共生説)が存在することを考えると、別の生き物のように動けるのも決して不可解というわけではないとも考えられる。また、葉緑体の移動する姿を見ていると、この動きを光に反応するバイオセンサーとして応用できる可能性もあるのではないかと思った。ほんの数十分のうちにこれほど分かりやすい動きを、マイクロ単位で行える物質というと限られてくるだろう。更に応用が利くようになれば、光の照射によって開閉の調節が可能な、マイクロサイズの調節弁として扱うこともできるかもしれない。いずれにせよ、葉緑体そのものに正の走光性と負の走光性の両方が存在するという事実には、新しい技術の可能性が眠っていると考えられる。

A:授業の感想として考えた場合は、きちんとした日本語で文章がつづられていてよいと思いますが、科学的なレポートに求められる論理性という観点から見ると、やや物足りないですね。


Q:今回の授業で松林の中の光と太陽光の光強度、葉を通した光と太陽光のスペクトルを比べていた。私の研究しているソラマメにおいても似た状況をしている。ここで面白い実験を考えた。通常の松林の太陽光を直に浴びている植物の葉と松林のなかの光を多く浴びれていない葉の光合成の違いとソラマメの鞘と種子の光合成の違いとどのように違うのか比べる実験だ。これにより種子の光合成の理解を深められるかもしれない。

A:確かに、緑色光と赤外光を長期間あてた葉の光合成に何か特徴的な違いが出るのか、という視点は面白いかもしれません。


Q:青色光受容体としてフォトトロピンとクリプトクロムが登場したが、ほぼ似たような吸収スペクトルを持つこれらについて、植物において何を基準に使い分けられているのか疑問に思った。フォトトロピンは葉緑体光定位、気孔開閉、光屈性などを誘導し、クリプトクロムは日周期リズム、光周性、胚軸成長阻害などに関わるというが、その違いはこれらの青色光受容体のどのような違いの結果なのだろうか。両者について、どちらも青色光を受けてリン酸化されることをシグナル伝達の第一段階とすることは知られているが、それ以降の伝達経路は詳細不確定である。また局在箇所としてはフォトトロピンは細胞膜に、クリプトクロムは核内に局在する。このことからクリプトクロムは核内遺伝子発現に直接関与しフォトトロピンは遺伝子発現というよりもタンパク質機能調節に関わるのではないかと考えた。つまり、クリプトクロムは核移行後のフィトクロムのように転写制御領域に作用し、その結果、日周期リズムや光周性(光による遺伝子発現制御)や(胚軸の)成長阻害(成長関連タンパク質の発現制御)などを誘導する。それに対し、フォトトロピンは、アクチンとミオシンによるATP加水分解活性依存的運動である葉緑体定位運動、細胞膜 H+-ATPaseの水素イオン能動輸送に始まりカリウムイオンチャネルからのイオン取り込みとその対イオン取り込みを経て孔辺細胞内に水が取り込まれる気孔開口などを誘導するのではないか。これを確かめるためには、例えばシロイヌナズナ(フォトトロピン1,2およびクリプトクロム1,2を持っておりその配列が明らか)を用いた実験が考えられる。クリプトクロムが転写領域に直接作用するかはゲルシフトアッセイによって調べられると考えられる。またフォトトロピンがタンパク質機能調節に関わるかは、フォトトロピン欠損体においてGFP標識ミオシンの運動活性を観察したり孔辺細胞内外プロトン濃度を測定したりすることで調べられると考えられる。

A:しっかりと考えていてよいと思います。ほぼ同じスペクトルを持つ青色光受容体が2種類存在するからには、確かに何かの意味があるのでしょう。