植物生理生化学特論 第10回講義

光化学系Iの光阻害

第10回の講義では、植物の低温感受性の原因の一つである光化学系Ⅰの光阻害のメカニズムについて、主にin vitroの系による解析を中心に解説しました。


Q:今回の講義は、in vitroでの系Ⅰ光阻害の解析と、それをもとに低温感受性との関係を考察するという内容であった。ここで、自分なりに低温耐性植物において光阻害から系Ⅰを保護する機構について少し考えたことを述べる。講義にあったように、低温にさらされた低温感受性植物の光合成を阻害する可能性のある現象は、主に○生体膜に生じる脂質相分離に伴う生体膜機能の低下、○H+ATPaseのCF1部分の遊離、○活性酸素消去系を担う酵素群の活性の低下の3つである。しかし、これらの現象自体は低温耐性植物についてもみられると考えられ、そのうえでなぜ、低温耐性植物は阻害を受けずに光合成を行うことができるのか?という点について考えた。脂質相分離については、ホスファチジルグリセロール(PG)の飽和分子種の割合が低温感受性植物よりも低温耐性植物の方が低い傾向にあり、それにより低温感受性植物の生体膜について脂質相分離がより起きにくい状態にある、という違いがある。しかし、H+ATPのCF1部の遊離、活性酸素消去系の酵素活性の低下は同じく起きると考えられ、どこに決定的な差があるのか、低温耐性植物がもつ系Ⅰ光阻害の保護機構としてもっとも大きな割合を占めている要素は何であるのか、というのを明らかにしていきたいと考えている。
(参考:【特許技術】麒麟麦酒株式会社, 低温耐性植物およびその作製法, 1994年公開)

A:これは、どこの部分を考えたのかがわかりませんでした。どちらかというと、わかっている事実を列挙しただけのように思えますが。


Q:低温ストレス(chilling stress)を引き起こすメカニズムとして、まず光化学系Iの下流が詰まり、鉄硫黄クラスターが還元型に保たれ、それが過酸化水素と反応することで、反応性が極めて高いヒドロキシラジカル(・OH)が生じ、これが系Iを破壊するということであった。つまり低温耐性植物の低温耐性とは、1)光化学系Iの下流で詰まりが起こらない、または、2)ヒドロキシラジカルが発生しない、もしくは効率良く消去されていることの、2つが考えられる。よって低温耐性を植物に付与させるには、1)に関しては、カルビンベンソン回路を含む、細胞内の全体の代謝等が係わってくるため、解決は難しいことが想定されるが、2)については、例えば過酸化水素を分解するカタラーゼ、ペルオキシダーゼを過剰発現させれば、低温耐性を獲得出来るのではないかと考えられる。
 また話は変わるが、キュウリの葉で、低温ストレスを加え、室温に戻すと積極的にクロロフィル量を低下させるということであったが、キュウリの実も同じなのだろうか。さらに特に同じウリ科のカボチャの実はどうであろうか。どちらも表面は緑色であり、光合成を行なっていると考えられる。カボチャはキュウリと同様に夏野菜でありながら、果実は夏~秋に収穫して、冬場まで冷蔵や、常温で保存が可能であることが知られている。キュウリの葉と同様にクロロフィル量は低下するのか、つまり果実の低温に対する応答、もしくは耐性は、葉と同じなのかは気になるところである。

A:前半部分については、アイデアを一つ出していますが、あまり考察にはなっていませんね。後半部分については、結局疑問が出されただけで終わってしまっています。


Q:今回の講義ではキュウリの葉(低温感受性植物)を用いてin vitroの系で光化学系Iの光阻害を見ると、温度に依存せず光存在下で光化学系Iの機能が阻害されること、そしてほうれん草の葉のような低温耐性植物においても同様の現象が確認されることを教えていただきました。そしてin vivoの系では低温耐性植物はchilling stressの影響を受けないが、低温感受性の植物ではchilling stressが系Iの活性を下げることも学びました。これらの実験結果より低温耐性植物においては低温下で系Iへの光阻害の影響を緩和するような防御機構が備わっていることが推測できます。低温感受性植物には備わっていないこの未知の防御機構ですが、低温ショックプロテインタンパク質の違いに答えがあるような気がします。低温感受性植物にランダムな変異を導入し、in vivoの系において低温下で光阻害を受ける変異体をピックアップし、変異箇所の同定まで行って欲しいです(おそらくどこかの研究室でされていると思いますが)。

A:植物体で表現型のスクリーニングを行うとすると、かなりの時間、お金、労力が必要になると予想されますから、「気がします」だけで研究を開始するのは、やや度胸がいりますね。もう少し「ここが原因だ」というところを論理的あるいは実験的にあらかじめ絞り込みたいところです。


Q:授業では、低温感受性植物や低温耐性植物における光化学系Ⅰの光阻害とその保護機構の違いについて学んだ。光化学系Ⅱと比べて光化学系Ⅰは壊れにくいが、非可逆的反応である分植物に与える影響は大きい。光化学系Ⅰでは活性が低下すると積極的にクロロフィルの分解が行われる。ここで、光化学系Ⅰの阻害と低温感受性植物との関係について、光化学系Ⅰの保護機構から考察したい。葉での実験で、低温耐性植物では影響がないが低温感受性植物では光化学系Ⅰの光阻害が起こる。これは光化学系Ⅰの保護機構の違いが原因だと考えられるが、どのような違いがあるのか。光化学系Ⅰの光阻害はDCMUなどの電子伝達阻害剤を添加すると防ぐことが可能であるから、保護機構が働くには光化学系Ⅱからの電子伝達が行われなければいいと考えられる。低温感受性植物は光化学系Ⅱからの電子伝達がスムーズに行われてしまうために光化学系Ⅰの光阻害が起こりやすく、逆に低温耐性植物は光化学系Ⅱから電子伝達が行われる際に過剰な電子伝達を防ぐ機能が働くために阻害が起きにくいと考えられる。また、光化学系Ⅱが光化学系Ⅰよりも壊れやすいことも、光化学系Ⅱからの電子伝達を防ぐことで、光化学系Ⅰが壊れて植物が致命的なダメージを受けないための1つの策であると考えられる。

A:一般論としてその通りだと思います。よく考えています。


Q:今回の授業では、前回の続きとして系Ⅰの阻害など実験にかかるプロセスを含めて学んだ。観測データが出た時に、どのように考え実験を組んでいくかといったことも学ぶことができた。考えるためには、思考力だけでなく背景知識を豊富に持っているべきであると感じ、今研究分野における背景知識が多いとは言えず、より勉強しなければならないと思った。背景知識が拙いが系Ⅰは低温処理後に分解され可視障害がおこることについて考察する。私が気になったのは系Ⅰが分解され可視障害が起きた後に食物としての味は変わるのか気になった。阻害されると硫黄クラスターやP700が破壊される。その分光合成能力が低くなる分甘みが減るようなことが考えられる。

A:これは「考える」というよりはかなり「あてる」に近いですね。もう少しロジックが欲しいところです。


Q:今回の講義では光阻害について学んだ。光化学系Ⅰの光阻害からの回復は不可逆的だが、光化学系Ⅱの光阻害からの回復は可逆的であるという話だったが、調べてみると光化学系Ⅱには、加えて非常に光阻害で壊れやすいという性質があるということを知った。ここで思い出したのが、活性を失った光化学系Ⅰがエネルギーを受け取ることは植物体にとって非常に危険だという話である。恐らく光化学系Ⅱが壊れやすいのは、単純に光合成の構造上の弱点というわけではなく、光阻害が起こりそうな環境でe-の流れを早めに遮断することによって、光化学系Ⅰに電子のエネルギーが溜まっていくような状況になるのを防ぐ役割があるのではないかと考えられる。

A:これは、最低限のロジックが整っている感じですね。よいと思います。


Q:今日の授業では、植物の系Ⅰの光保護機構が低温では失活することを学んだ。失活すると、酸素の還元によりハイドロキシルラジカルが生成され、系Ⅰの光阻害が起こる。系Ⅰおよびクロロフィルの分解が起こらないようにするには、低温処理下でも系Ⅰが正常にはたらけばよい。しかし、未だ系Ⅰの阻害と低温感受性の関係は明らかになってない。そこで、系Ⅰ経路でハイドロキシルラジカルを生成しない方法を考えてみる。ひとつは、活性酸素を過酸化水素にさせるSODを植物細胞内で発現抑制させる。SODを抑制するような遺伝子を持つ発現株を作製し生育することで、低温処理下でも系Ⅰが分解されない植物体が生成できるのではないだろうか。ただ、SODは植物および動物で必要不可欠なので、致死になる可能性が高い。SODの働きを弱めるような発現株作製が系Ⅰ光阻害解析に必要だと思う。

A:失活と、活性の低下は別物です。例えば、温度を下げるとたいていの反応の速度は低下しますが、それを失活とは呼びません。温度を上げると、反応速度(活性)は元に戻ります。その意味では、系Ⅰの保護機構が低温で失活するのか、それとも、単に低温で活性が低下するのかは現時点ではわかっていません。保護機構が失活ではなく、単に一時的に活性が低下しただけでも、その間に光化学系が失活してしまえば、温度が上がっても、光合成の活性は元に戻らないわけです。SODの働きを弱めるアイデアについていえば、なぜ多くの生物でSODの欠損が致死になるかを考える必要があるでしょうね。


Q:今回の講義で、系Iの光阻害の原理として、酸素が還元されてスーパーオキサイドになり、不均化反応で過酸化水素となり、フェントン反応でできたヒドロキシラジカルが鉄硫黄センターを破壊するということを学んだ。私は、では酸素を利用せずに光合成電子伝達を行う硫黄細菌には系I光阻害はないのかと引っかかり調べてみた。緑色硫黄細菌はI型反応中心を持つようであった(※1)が、それが光阻害を受けるという報告は見つけられなかった。絶対嫌気性の緑色硫黄細菌は光合成に酸素が関わらないので低温感受性植物のような光阻害は起こりにくいということは有り得ると考えられる。また講義では低温感受性植物は低温下では系Iを光から守るシステムが失活するために系I光阻害が起きてしまうという話だった。だがここで、なぜ低温感受性植物は低温への脆弱性に繋がり得る酸素利用型電子伝達鎖を持っていながらも絶滅の危機に瀕してすらいないのか疑問に思った。理由としては、確かに低温下では光による阻害を受けるという欠点はあるがそれでも他の点も含めたトータルで見れば酸素利用型電子伝達鎖はメリットが大きかった可能性がひとつ考えられた。
(参考)※1 大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻大岡研HP(http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/~ohoka/research/research02.html)

A:よく考えていると思います。ただ、見落としているように思われるのは、「絶対嫌気性の緑色硫黄細菌は光合成に酸素が関わらないので低温感受性植物のような光阻害は起こりにくい」という部分の論理が逆である可能性です。つまり、緑色硫黄細菌の光合成は、低温のみならずどんな温度でも酸素に弱く、それがむしろ絶対嫌気性の原因である、という可能性です。その場合、どの温度でも弱い緑色硫黄細菌、低温で弱い低温感受性植物、どの温度でも耐性を獲得した普通の植物という区分になると思います。